図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 3
美術・地理歴史
描いて伝える力、色を選ぶ力、土地と歴史を読む力。建築学の設計製図・建築史・都市計画では、高校の美術と、地理総合・歴史総合などで身につける見方が、そのまま設計の手がかりになります。

ひとことで言うと
旅行は、地図と歴史を調べると楽しくなる
旅行先の地形や名物の由来を知っていると、同じ町でも見える景色が変わります。建築の設計も同じです。その土地の気候や地形、町の歴史を調べたうえで、形と色を描いて人に伝えます。

01
美術: 描いて、つくって、人に伝える
建築の設計は、頭の中の空間を、まだ見たことのない人に伝える仕事です。そのため建築学科では、スケッチ・デッサン・模型で考えを形にします。日本学術会議の参照基準も、建築を学ぶ人に「空間の把握と表現に関する力」を求めています。
高校の美術 I では、形や色彩の特徴をとらえて、絵や彫刻、デザインに表します。光と陰を見て立体を描く練習は、建物に日が差したときの姿を想像する力になります。模型づくりは、手で形を確かめながら、部屋の広さや光の入り方を考える方法です。
美術系の大学の建築学科には、描く力を入試で確かめるところがあります。東京藝術大学の建築科の「空間構成」は、文章と図で示された立体を、印象ではなく正確にとらえて描く試験です。2025 年度は、平面の上を転がる立体の軌跡を描く問題が出ました。
一方、工学部・理工学部の建築学科の多くは、数学・理科・英語などの試験で入学できます。デッサンや製図は、入学してから基礎を学びます。
美術で身につく観察と表現の力は、設計の考えを人に伝える力になります。
図解描く・つくる 3 つの方法
スケッチ
- 見たものを手早く描く
- 形と比率をつかむ
- 敷地や旅先で使う
デッサン
- 光と陰をよく見る
- 立体を正確に描く
- 美術系の入試にも出る
模型
- 手で形を確かめる
- 光の入り方を試す
- 講評会で案を伝える

02
色彩: 外壁の色は数字で決める
中学の美術では、色を色味・明るさ・鮮やかさの 3 つでとらえることを学びます。建築や景観の仕事では、この 3 つを数字で表すマンセル表色系を使います。JIS にも採用されている表し方で、色相・明度・彩度を「5Y 7/8」のように書きます。
東京都墨田区の景観計画は、このマンセル値で建物の色の基準を決めています。区の資料では、若いイチョウの葉が 10GY 5/6、黄葉したイチョウの葉が 5Y 7/8 と表されています。最後の数字が彩度で、大きいほど鮮やかな色です。
墨田区では、外壁の各面の 5 分の 4 を、基準に合う「基本色」にします。隅田川・荒川沿いの区域では、赤〜黄赤の色相(0R〜4.9YR)で明度が 4 以上 8.5 未満なら、彩度は 4 以下です。川の水面が映え、まわりの街並みと調和する、落ち着いた色にするためです。
多くの市区町村が、景観法にもとづく景観計画で色の基準を定めています。建物の色は、建てる人の好みだけでなく、まち全体の見え方を考えて選ぶものです。
色を数字で表せると、まちに合う色を、根拠をもって選べます。
図解マンセル値の読み方
- 15Y: 色相(黄)
- 27: 明度(0 の黒から 10 の白まで)
- 38: 彩度(大きいほど鮮やか)

03
地理: 雪と地形が家の形を決める
岐阜県の白川郷には、合掌造りと呼ばれる、急な勾配の茅葺き屋根の大きな家が並びます。観光庁の解説によると、急な屋根は雪を落としやすく、広い屋根裏は養蚕の作業場として使われました。妻側の大きな窓は、光と風を通します。
屋根は村人たち自身がつくり、数十年ごとに 200 人もの村人が、1 日がかりで葺き替えてきました。気候と仕事と村の助け合いが、そのまま家の形になっています。地理総合で学ぶ「生活文化の多様性」は、こうした住まいの形を読む見方です。
地理総合では、ハザードマップや新旧の地形図を読み取る技能も学びます。建物を建てる前には、土地がもともと川や池だったか、浸水や土砂災害のおそれがないかを調べます。敷地を読む力は、設計の最初の一歩です。
東京藝術大学の建築科の 2025 年度の入試「総合表現」は、特徴のある地形の上に場所を構想し、描いて表す問題でした。気候や風土と一体となる場所をつくる力が問われています。
土地の気候と地形を読むことが、その場所に合う建物の出発点です。
図解地理の見方を設計に生かす
白川郷の合掌造り
- 急な屋根で雪を落とす
- 屋根裏を養蚕の作業場に
- 妻側の窓で光と風を通す
これからの設計
- ハザードマップで危険を知る
- 新旧の地形図で土地を読む
- 気候に合わせて屋根や窓を決める


04
歴史: 鹿鳴館の設計者が始めた日本の建築教育
1877 年、イギリスの建築家ジョサイア・コンドルが明治政府に招かれ、25 歳で来日しました。工部大学校の教師として教えたのは、いまの建築学にあたる「造家学」です。最初の卒業生は、辰野金吾・片山東熊・曾禰達蔵・佐立七次郎の 4 人でした。
コンドルは、日本史の授業で学ぶ鹿鳴館も設計しました。1883 年に完成した鹿鳴館は、外務卿の井上馨が条約改正の交渉のために計画した社交の場で、欧化政策の象徴とされます。教科書に出てくる出来事の舞台も、だれかが設計した建物なのです。
1886 年には、いまの日本建築学会のもとになる造家学会ができました。「造家」という言葉は、のちに「建築」に改められます。歴史総合で学ぶ近代化の流れを知っていると、明治の洋館がなぜその形で建てられたのかが見えてきます。
大学の建築史では、日本史で学ぶ寺社や城、世界史で学ぶ神殿や大聖堂も、図面や写真、古い記録から読み解きます。古い建物を直して使い続けるときにも、歴史の知識が生きてきます。
歴史を知ると、建物の形の理由と、まちの成り立ちが読めるようになります。


05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
高校の芸術は、音楽 I・美術 I・工芸 I・書道 I から 1 科目を選ぶので、美術を学んでいない人もいます。心配はいりません。多くの建築学科では、1 年の造形やデッサン、製図の授業で、線の引き方から学びます。
高校のうちに始めるなら、鉛筆 1 本でのスケッチがおすすめです。うまく描くことより、よく見ることが目的です。窓の数、屋根の傾き、影の向きを確かめながら、身近な建物を 10 分で描いてみてください。
地理総合と歴史総合は、全員が学ぶ科目です。地理総合の地形図とハザードマップ、歴史総合の近代化の単元は、建築学の敷地の調査や建築史に直結します。このサイトの高校の「地理」「日本史」「世界史」のページもあわせて読んでみてください。
よく見て描く習慣と、土地と歴史を調べる習慣が、設計の土台になります。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1線と形直線・円・立方体をくり返し描く
- 2光と陰箱やコップをデッサンする
- 3建物のスケッチ学校や駅を 10 分で描く
- 4地図と年表地形と歴史から町の成り立ちを調べる
高校生のうちに試せること
10 分スケッチを続ける
週に 1 回、駅や学校など身近な建物を、鉛筆 1 本で 10 分だけ描きましょう。1 か月続けたら最初の絵と並べて、形のとらえ方がどう変わったかを見比べてください。
地理院地図で土地の成り立ちを見る
国土地理院の地理院地図で、家や学校のまわりを開きましょう。地形分類の地図を重ねると、昔の川の跡(旧河道)や低い土地が分かります。建物を建てる前に、設計者が確かめることの一つです。
地理院地図まちの外壁の色を観察する
通学路の建物の外壁の色を、色鉛筆や絵の具で写し取りましょう。鮮やかな色と落ち着いた色がどこに使われているかを記録し、自分の住む市区町村の景観計画に色の基準があるか調べてみてください。
藝大建築科の入試の参考作品を見る
東京藝術大学の建築科は、入試の参考作品とコメントをウェブで公開しています。立体をどう正確に描いているか、地形や気候をどう表しているかに注目して見てみましょう。
東京藝術大学 美術学部 建築科
「美術・地理歴史」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 396 件から探せます。

建築史・意匠学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 建築学プログラム・建築学・水田 丞 准教授
平和建築・都市デザイン、景観デザイン、近代建築史などを研究している。

建築意匠学研究室
九州大学(福岡県)
都市・建築学・末廣 香織 教授

建築史・建築芸術研究室
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 建築学科・建築史・大野敏 教授
国内外の歴史的建築や都市を調べ、保存や地域づくりに生かす。
吉武研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム・西洋建築史・吉武 隆一 准教授
古代ギリシアやヘレニズム期の建築を研究する。
建築史学分野
京都大学(京都府)
工学研究科建築学専攻・建築史学
景観デザイン研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科・景観工学・星野 裕司 教授
景観のとらえ方のモデル化やデザイン手法、九州の都市デザインを研究する。
よくある質問
美術を選択していなくても、建築学科で困りませんか?
困りません。高校の芸術は音楽・美術・工芸・書道から選ぶので、美術を学んでいない入学者もいます。多くの建築学科では、1 年の造形や製図の授業で基礎から学びます。
地理と歴史は、どちらが建築に役立ちますか?
どちらも役立ちます。地理は敷地の地形や気候、災害のおそれを読む力に、歴史は建築史や古い建物の保存・再生に生きます。地理総合と歴史総合は全員が学ぶ科目なので、まずはこの 2 つを大切にしてください。
美術系の大学と工学部では、建築の学び方は違いますか?
美術系の大学では、入試で実技を課し、造形やデザインの授業が多い傾向があります。工学部・理工学部では、構造や環境の工学の科目が多くなります。どちらも設計製図を学びますが、科目の組み方は大学によって異なるので、各大学のカリキュラムで確かめてください。

