図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
数学
屋根の傾き、模型と実物の違い、形を決める寸法の比。建築学では、高校で学ぶ相似・三角比・数列を、図面を描き、建物の大きさを決めるための道具として使います。

ひとことで言うと
S と L の T シャツ、布の量の差
L サイズの T シャツは、S より少し大きく見えるだけです。でも布の面積は長さの 2 乗で増えるので、必要な布はずっと多くなります。建築も同じで、大きさを変えると面積や重さの増え方が変わるため、数学で確かめながら設計します。

01
建築学で数学を使う場所
建築学科の多くは工学部・理工学部にあり、1 年から数学の授業があります。日本学術会議の参照基準も、土木工学・建築学を学ぶ人に、工学の基盤である数学や力学の基礎知識を求めています。
建築の数学は、計算問題を解くためだけのものではありません。図面や模型を描くときは相似と縮尺、屋根や坂の傾きには三角比を使います。寸法の比を考えるときには、数列や二次方程式が出てきます。
2 年から始まる構造力学では、柱や梁にかかる力をベクトルで合わせたり分けたりします。梁がどれだけ曲がるかは、積分で求めます。図形の数学と計算の数学の両方が、設計の毎日の道具になります。
建築の数学は、形と大きさを決めるための言葉です。
図解建築学で数学が出てくる場所
- 相似と縮尺図面・模型と実物の大きさ
- 三角比屋根の勾配、スロープ、建物の高さ
- 数列と比白銀比・黄金比と寸法の決め方
- ベクトル柱や梁にかかる力を合わせる
- 微分・積分梁の曲がり方を計算する

02
相似: 模型が立っても、実物が立つとは限らない
建築学科では、1/100 や 1/50 の図面と模型で案を考えます。模型と実物は、形が同じで大きさだけが違う相似な図形です。中学 3 年で学ぶとおり、相似比が 1:100 なら、面積の比は 1:1 万、体積の比は 1:100 万になります。
この違いは、建物の強さに大きく効いてきます。同じ材料で模型を 100 倍にすると、重さは体積に比例して 100 万倍になります。一方、柱の断面積は 1 万倍にしかなりません。柱の 1 cm² が支える重さは、100 倍に増える計算です。
細い柱の模型がしっかり立っていても、そのまま大きくすると、柱がつぶれるおそれがあります。大きな建物ほど柱や梁を太くし、鉄やコンクリートなどの強い材料を使うのはこのためです。構造力学では、この強さを数字で確かめます。
面積は 2 乗、体積は 3 乗。この差が、大きな建物の柱が太い理由です。
図解模型と実物を比べる(相似比 1:100)
- 1長さは 100 倍
- 2柱の断面積は 100² = 1 万倍
- 3重さ(体積)は 100³ = 100 万倍
- 4柱 1 cm² あたりの重さは 100 万 ÷ 1 万 = 100 倍

03
三角比: 屋根の勾配とスロープを角度に直す
建築では、屋根の傾きを比で表すことが多くあります。水平に 10 進んで 4 上がる屋根は「4 寸勾配」です。tan θ = 4 ÷ 10 = 0.4 なので、三角比の表で調べると θ は約 21.8 度です。水平と高さが同じ 10 寸の勾配は「矩(かね)勾配」と呼び、45 度です。
屋根の面積も三角比で求めます。真上から見た面積が 60 m² の 4 寸勾配の屋根なら、実際の面積は 60 ÷ cos 21.8° ≒ 64.6 m² です。屋根の材料をどれだけ用意するかを見積もるときに使います。
車いすで通る坂(スロープ)にも決まりがあります。バリアフリー法の施行令は、車いすで通れるようにする経路のスロープを、原則として勾配 12 分の 1 以下と定めています。角度にすると約 4.8 度です。60 cm の段差を越えるには、水平に 7.2 m の長さが必要で、高さが 75 cm を超えると途中に踊り場も要ります。
三角比を使うと、比で表した勾配を、角度や長さに直せます。
図解比で表す勾配と角度
4 寸勾配の屋根
- 水平 10 に高さ 4
- tan θ = 0.4
- 約 21.8 度
矩勾配の屋根
- 水平 10 に高さ 10
- tan θ = 1
- 45 度
車いすのスロープ
- 水平 12 に高さ 1 まで
- tan θ ≒ 0.083
- 約 4.8 度

04
数列と比: 白銀比と黄金比
コピー用紙の A4 は 210 mm × 297 mm で、長い辺は短い辺の約 1.414 倍、つまり √2 倍です。半分に折った A5 も、A4 と相似な形のままです。この 1:1.414 の比は白銀比とも呼ばれます。
大工が使う L 字の物差し、曲尺(かねじゃく)の裏には、表の √2 倍の目盛り「角目(かどめ)」があります。丸太の直径を角目で測ると、その丸太から取れる角材の一辺を、計算せずに読み取れます。直径 30 cm の丸太なら、一辺は約 21 cm です。
もう一つが、約 1.618 の黄金比です。前の 2 つを足して次の数をつくる 1、1、2、3、5、8…の数列を、フィボナッチ数列と呼びます。数学 B で学ぶ漸化式の代表例で、となり合う数の比は 55 ÷ 34 ≒ 1.618 のように黄金比に近づきます。
建築家ル・コルビュジエは、人の体の寸法と黄金比をもとに、「モデュロール」という寸法の物差しを考えました。身長 183 cm をへその高さ 113 cm で割ると約 1.619 です。183 を 1.618 で割ると 113、さらに割ると 70、43 と続きます。この並びでは、となり合う 2 つの和が 1 つ上の数になります(43 + 70 = 113)。東京・上野の国立西洋美術館はル・コルビュジエの設計で、前庭の床の目地はモデュロールで割り付けられています。
√2 や黄金比は、紙の大きさから建物の寸法まで、形を決める比として使われています。


05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
建築で使う数学の入口は、中学の相似と三平方の定理です。ここが分かれば、図面と模型の大きさや、屋根の斜めの長さを計算できます。次に数学 I の三角比で、勾配と角度を行き来できるようにしてください。
そのあと、数学 B の数列、数学 C のベクトル、数学 II・III の微分と積分へ進みます。構造力学では、力をベクトルで分けたり合わせたりし、梁の曲がり方を積分で求めます。教科書の例題を建物の例に置きかえて解くと、式の意味がつかみやすくなります。
入試で課される数学の範囲は、大学や入試の方式によって異なります。志望校の募集要項で早めに確かめてください。このサイトの高校の「数学」のページと、大学の「数学」のページもあわせて読むと、高校の単元が大学のどこで深まるかが見えてきます。
相似と三角比が分かれば、図面と屋根の計算の入口に立てます。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1中学 3 年相似と三平方の定理
- 2数学 I三角比: 勾配と角度
- 3数学 B・C数列とベクトル
- 4数学 II・III微分と積分: 梁の計算へ
高校生のうちに試せること
A4 の紙で √2 を確かめる
A4 の紙の短い辺と長い辺を定規で測り、長い辺 ÷ 短い辺を電卓で計算しましょう。半分に折って同じ計算をすると、ほぼ同じ 1.41 になります。どんな比なら半分に折っても形が変わらないか、二次方程式で考えてみてください。
校舎の高さを三角比で測る
校舎から 20 m 離れた所に立ち、屋上を見上げる角度を測りましょう。スマートフォンの傾きを測るアプリや、分度器とストローで作った道具が使えます。30 度なら 20 × tan 30° ≒ 11.5 m で、これに目の高さを足すと校舎の高さです。
フィボナッチ数列を表計算でつくる
表計算ソフトの A1 と A2 に 1 を入れ、A3 に「=A1+A2」と入れて下へコピーしましょう。B 列で「その数 ÷ 1 つ前の数」を計算すると、値が 1.618 に近づいていく様子が分かります。
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 33 件から探せます。

循環建築構造学研究室
九州大学(福岡県)
都市・建築学・山口 謙太郎 教授
建築構造工学講座
神戸大学(兵庫県)
建築学
建築材料・構造分野
新潟大学(新潟県)
工学部 工学科 建築学プログラム・建築構造・中村 孝也 教授
耐震工学や鉄筋コンクリート構造、空間構造を扱う。
大西研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム・建築情報・建築設計・大西 康伸 教授
BIMやVR、自動設計などデジタル技術を使った設計の方法を研究する。

建築構造学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 建築学プログラム・建築学・田川 浩 教授
鋼構造建築物、耐震設計、制振システムなどを研究している。

建築都市空間デザイン専攻 建築構造工学研究室
北海道大学(北海道)
建築都市
よくある質問
建築学科の入試では、数学はどこまで必要ですか?
工学部・理工学部の建築学科の多くは、一般選抜で数学を課します。数学 III や数学 C まで必要かどうかは、大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。
数学が苦手でも、設計の仕事はできますか?
できます。建物の設計は、見た目と使いやすさ(意匠)、構造、設備の担当に分かれることが多く、細かな構造の計算は構造設計の担当者が受け持ちます。ただ、計算の考え方を知っていると、担当者と話がしやすくなります。
黄金比を使えば、美しい建物になりますか?
黄金比を使えば必ず美しくなる、というわけではありません。比は寸法を決める手がかりの一つで、使う人の動きや光の入り方、敷地の条件と合わせて考えます。
