大学カタログ

図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2

化学

DNA の二重らせんも、タンパク質の形も、光合成と呼吸も、分子どうしの結びつきと電子の受け渡しで説明できます。高校の化学で学ぶ水素結合・有機化合物・酸化還元が、大学の生化学や分子生物学の言葉になります。

大学の実験室で、ねじれたはしごのような DNA の大きな模型を組み立てる学生、緑の葉の細胞を顕微鏡でのぞく学生、玉と棒をつないだ長い鎖を折りたたんでみせる学生たち

ひとことで言うと

ほどけて、また閉じるファスナー

上着のファスナーは、引けば開き、閉じればまた留まります。DNA の 2 本の鎖も、水素結合という弱い結びつきで留まっているので、ほどいて写し、また閉じられます。こうした結びつきの強さを教えてくれるのが化学です。

01

生き物の中は、化学反応でできている

生物学科の授業では、生命のしくみを分子の反応として説明する場面がたくさんあります。日本学術会議の参照基準も、生体高分子などの化学物質に大きく依存する生命活動の基礎は、物理学と化学の法則で説明できるとしています。

高校の生物の学習指導要領にも、化学とのつながりを示す一文があります。「生命現象と物質」の単元では、生命現象を分子のレベルで捉えるために必要な、最小限の化学の知識にも触れる、というものです。千葉大学の生物学科では、2 年に生理化学 I・II が並びます。

高校の生物で学ぶ DNA・タンパク質・ATP は、化学の目で見ると、どれも有機化合物です。DNA は糖とリン酸と塩基がつながった高分子、タンパク質はアミノ酸がつながった高分子です。化学の「高分子化合物」の単元で学ぶつくりが、生物の教科書の図の中身になっています。

下の図は、高校の化学の単元と、生物学での使い道の例です。どれも、2 年からの授業でくり返し出てきます。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。

化学は、生き物の中で起きていることを説明する言葉です。

図解高校の化学と生物学の使い道

高校の化学
  • 水素結合DNA の二重らせんとタンパク質の形
  • 有機化合物糖・アミノ酸・脂質のつくり
  • 天然高分子タンパク質と核酸の鎖のつながり
  • 酸化還元呼吸と光合成の電子の流れ
  • 反応速度と平衡酵素の反応の速さ
  • 物質量(mol)液をつくり、量を正確に測る
六角形に近い細胞が石垣のように並び、どの細胞の中にも緑色の丸い粒がぎっしり詰まっている顕微鏡の写真
コケの葉の細胞を顕微鏡で見たところ。緑の粒が葉緑体で、ここで光合成の化学反応が進みます。写真: Kristian Peters(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

02

水素結合: 二重らせんの決め手は、化学の知識だった

化学では、分子どうしを結びつける力として水素結合を学びます。DNA の 2 本の鎖は、塩基どうしの水素結合で結びついています。A(アデニン)と T(チミン)は 2 本、G(グアニン)と C(シトシン)は 3 本の水素結合でペアをつくります。

1950 年、オーストリア出身の生化学者シャルガフは、DNA の A と T、G と C の量がほぼ等しいことを報告しました。ただ、その理由は本人にも分かりませんでした。1953 年、ワトソンとクリックは、厚紙で塩基の形を切り抜き、机の上でパズルのように組み合わせて構造を考えました。

2 人ははじめ、チミンとグアニンの原子のつながり方を誤って考えていて、うまく組み合いませんでした。アメリカの化学者ドナヒューの助言で形を描き直すと、A と T、G と C がぴったり組み合い、シャルガフの規則も説明できました。化学の知識が、二重らせんの決め手になったのです。

この規則を使うと、1 つの塩基の割合から、ほかの割合を計算できます。G と C の組は水素結合が 3 本なので、G と C が多い DNA ほど、2 本の鎖を離すのに高い温度が要ります。大学の分子生物学の実験では、こうした性質を考えて温度を決めます。

結びつきの数と強さが分かると、DNA の形とふるまいを説明できます。

図解A の割合から、ほかの塩基を計算する

入力ある 2 本鎖の DNA で、A(アデニン)が全体の 30%
  1. 1A と T は同じ量なので、T も 30%
  2. 2残りは 100 − 30 − 30 = 40%
  3. 3G と C は同じ量なので、20% ずつ
結果A 30%・T 30%・G 20%・C 20%。水素結合は A–T が 2 本、G–C が 3 本
灰色の金属の板が、6 角形と 5 角形をつなげた形に切り抜かれ、ペンで記号や番号が書き込まれている。角から細い金属の棒が伸びている
ワトソンとクリックが 1953 年に組み立てた DNA の模型に使われた、塩基の形のアルミ板(ロンドンの科学博物館)。原子のつながり方が正しくないと、ペアはぴったり組み合いません。写真: Science Museum, London(CC BY-SA 2.0・Wikimedia Commons)

03

タンパク質の形: 1 本の鎖が、決まった形に折りたたまれる

化学では、アミノ酸がペプチド結合でつながってタンパク質ができることを学びます。鎖はらせんや板のような形をつくり、さらに立体的に折りたたまれます。この形を支えているのも、水素結合などの分子どうしの力です。

ゆで卵の白身は、熱で一度固まると元に戻りません。熱でタンパク質の形が壊れる変性です。ところがアメリカのアンフィンセンは、薬品で形をほどいたタンパク質が、条件を整えると元の形に戻ることを示しました。1961 年に形はアミノ酸の並び順で決まると結論し、1972 年のノーベル化学賞を受けています。

ただ、並び順から形を予想するのは難問でした。1969 年、アメリカのレヴィンタールは、アミノ酸 100 個の鎖でも、形の候補は少なくとも 10 の 47 乗通りあると計算しました。1 つずつ試すと宇宙の年齢より長くかかるのに、細胞の中では数ミリ秒で折りたたまれます。

この難問は、2020 年に AI で大きく前進しました。くわしくは、生物学の「応用: 医療・食料・環境」のページで紹介しています。大学の生化学や構造生物学では、水素結合や電気の引き合い、水になじみにくい部分どうしが集まる性質など、形を決める力を化学の言葉で学びます。

タンパク質のはたらきは、化学の力で決まる形から生まれます。

クイズ化学と生物学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q12 本鎖の DNA で、A(アデニン)が 30% のとき、G(グアニン)は何%?

  2. Q2ワトソンとクリックが、二重らせんの構造を考えるのに使った道具は?

  3. Q3アミノ酸 100 個の鎖がとりうる形の候補は、少なくとも何通り?(レヴィンタールの計算)

0 / 3 問に回答

04

酸化還元: 光合成と呼吸は、電子の受け渡し

化学基礎では、酸化還元反応が電子の受け渡しであることを学びます。呼吸は、ブドウ糖から電子を取り出して、最後に酸素に渡す反応です。光合成はその逆向きで、水から電子を取り出し、二酸化炭素を糖に変えます。大学の生化学では、解糖系・クエン酸回路・電子伝達系の反応を 1 つずつたどり、電子がどこへ渡るかを追います。

酸化数を使うと、受け渡す電子の数を数えられます。下の図のように、ブドウ糖 1 個が二酸化炭素になると電子が 24 個出て、それを酸素 6 個が受け取ります。反応式の「6O₂」は、電子の数から決まっているのです。

生物では、電子が電子伝達系を流れると水素イオンの濃度の差ができ、その差を使って ATP がつくられることを学びます。このしくみを 1961 年に唱えたのが、イギリスのミッチェルです。体調をくずして大学を離れたあと、古い屋敷を自ら修理して研究所にし、所長の自分を含めて 3 人までの研究員で研究を続けました。1978 年には、ノーベル化学賞を受けています。

光合成で水から電子を取り出すのは、光化学系 II という大きなタンパク質の集まりです。その形を原子のレベルで明らかにしたのが、岡山大学の沈建仁さんと大阪市立大学の神谷信夫さんたちです。兵庫県の SPring-8 で調べ、2011 年に発表しました。米国の科学誌 Science は、この成果を「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー 2011」の 1 つに選んでいます。

光合成と呼吸は、電子の流れとして同じ考え方で理解できます。

図解酸化数で、呼吸の電子を数える

入力C₆H₁₂O₆ + 6O₂ → 6CO₂ + 6H₂O(ブドウ糖の呼吸)
  1. 1ブドウ糖の炭素の酸化数は平均 0、CO₂ の炭素は +4
  2. 2炭素 1 個から電子 4 個、6 個で 24 個が出る
  3. 3O₂ 1 個は電子 4 個を受け取る(O は 0 → −2 が 2 原子)
結果24 ÷ 4 = 6。だから酸素は 6 個いる
緑の丘のふもとに、白く細長い建物が大きな円を描くように続いている。手前に駐車場と道路がある
兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設 SPring-8(2007 年撮影)。1 周約 1.4 km のリングで強い X 線をつくり、タンパク質の結晶の形を原子のレベルで調べます。写真: Artorius(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

05

苦手でも大丈夫: どこから学び直すか

生物学で使う化学の土台は、化学基礎の「化学結合」と「物質量(mol)」です。決まった濃さの液をつくるのに試薬を何 g はかればよいかは、mol の計算そのものです。学生実験の準備で、くり返し使います。

次に、化学の「分子間力」と「酸化還元」、最後に「有機化合物」と「高分子化合物」の単元で、糖・アミノ酸・核酸を学びます。反応を覚えるときは、どの結合が切れ、どの電子が動くかに印をつけておくと、生化学の授業にそのままつながります。

化学の目を持つ生物学者は、いろいろな場所で働いています。製薬会社や食品会社の研究所で酵素やタンパク質を調べる人、SPring-8 のような施設でタンパク質の形を明らかにする研究者もいます。形が分かると、そのタンパク質にぴったり結びつく薬の候補を考えられるようになります。

このサイトの高校の「化学」のページと、大学の「化学」のページもあわせて読んでみてください。生物学の「分子・細胞」のページでは、細胞の中で分子がどうはたらくかを紹介しています。

結合と mol が分かれば、生化学の入口に立てます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1化学基礎: 結合共有結合・イオン結合と分子の形
  2. 2化学基礎: 物質量mol の計算、酸化と還元
  3. 3化学: 理論分子間力と水素結合、反応速度
  4. 4化学: 有機・高分子糖・アミノ酸・タンパク質・核酸

高校生のうちに試せること

  • ペーパーモデルで、DNA の二重らせんを組み立てる

    日本蛋白質構造データバンク(PDBj)は、実際の構造のデータから作った紙の模型を公開しています。「生き物の設計図・DNA」を印刷して組み立て、塩基のペアがらせんの内側に並ぶ様子を手で確かめましょう。

    PDBj 入門「ペーパーモデル」
  • 「今月の分子」で、ATP をつくるモーターを読む

    PDBj の「今月の分子」では、タンパク質などの形とはたらきを、日本語の解説と図で読めます。「ATP 合成酵素」の回を開き、水素イオンの流れで回るモーターのしくみを、このページの呼吸と光合成の話と結びつけてみましょう。

    PDBj 入門「今月の分子: ATP 合成酵素」
  • 卵の白身で、タンパク質の変性を確かめる

    生卵の白身を小さな耐熱容器に分け、温度の違うお湯で湯せんしましょう。温度計で湯の温度を測り、白く固まり始める温度を記録します。固まった白身を冷やしても元に戻らないことも確かめましょう。火やお湯を使うので、やけどに気をつけてください。

「化学」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 129 件から探せます。

研究室をすべて見る(106 件)

よくある質問

化学基礎だけで、生物学科の授業についていけますか?

入試で化学を課すかどうかや出題の範囲は、大学や入試の方式によって異なるので、募集要項で確かめてください。授業では、化学の「有機化合物」と「高分子化合物」の知識をよく使います。入学までに、糖・アミノ酸・核酸の構造を教科書で読んでおくと安心です。

生物学科でも、化学の実験はありますか?

1 年に化学の講義や実験を置く大学もあります。2 年からの分子生物学や生化学の実験でも、試薬の濃さを mol で計算したり、pH をそろえた液をつくったりします。内容は大学によって異なります。

化学が好きなら、生物学のどの分野が向いていますか?

生化学、構造生物学、分子生物学などは、化学の考え方を特によく使います。光合成や呼吸のしくみ、タンパク質の形を調べる研究室は、理学部の生物学科のほか、化学科や農学部、薬学部にもあります。