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図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 3

物理

分子の動きを説明し、目に見えない分子の形を測るには、物理の考え方が欠かせません。高校の物理で学ぶ気体分子の運動・電磁気・原子の単元は、大学の化学熱力学・分析の装置・量子化学の土台になります。

大学の研究棟で、階段の付いた巨大な円筒形の磁石の装置を見上げる学生、背の高い箱形の電子顕微鏡の前で画面を見る学生、小さな玉が飛び回る透明な箱の模型をのぞく学生たち

ひとことで言うと

撮り方の上達は、カメラのしくみから

写真が好きな人は、レンズやセンサーのしくみを知ると、暗い場所でもきれいに撮れるようになります。化学者にとっての物理も同じです。分子を動かす熱や、分子を見る装置のしくみを教えてくれます。

01

化学の現象の多くは、物理の法則で動いている

日本学術会議の参照基準は、化学を学ぶ学生が身につける 18 の事柄のうち、多くが物理学と関わるとしています。物質の状態と熱、化学熱力学、光や電波を使った測定、原子の構造などです。20 世紀初めの量子力学の発展を受けて、化学結合の本質を理解する量子化学が生まれた、とも述べています。

高校の物理は、様々な運動・波・電気と磁気・原子の 4 つの大項目でできています。化学科でとくに役に立つのは、気体分子の運動と熱、電気と磁気、そして原子の単元です。

下の図は、高校の物理と化学の授業のつながりの例です。千葉大学の化学科では、1 年の専門基礎科目に「力学入門」が入っています。科目の名前や時期は、大学によって異なります。

高校の物理の単元は、化学の授業の土台になります。

図解高校の物理と化学の授業

高校の物理
  • 気体分子の運動化学熱力学と反応速度論
  • 熱と仕事エンタルピーとエネルギーの保存
  • 電磁気NMR などの分析装置のしくみ
  • 波と光分光学: 光で分子を調べる
  • 原子量子化学: 電子の波と化学結合

02

気体分子の運動: 分子は音より速く飛び回る

物理の「気体分子の運動」では、分子の運動エネルギーの平均が、絶対温度に比例することを学びます。ここから、分子の速さ(2 乗の平均の平方根)は √(3RT/M) で表せます。R は気体定数、M はモル質量(kg/mol)です。

空気の主成分の窒素(M = 0.028 kg/mol)で、25 ℃(298 K)の速さを計算すると、約 515 m/s になります。同じ温度の空気中の音の速さ、約 346 m/s よりも速いのです。それでも香りがすぐには部屋中に広がらないのは、分子がほかの分子と次々にぶつかり、向きを変えるからです。

化学ではこの考え方を、反応の速さの説明に使います。反応は、分子どうしがぶつかって起こります。温度が上がると、活性化エネルギーの山を越えられる勢いの分子の割合が増えます。「学ぶために必要な科目 1: 化学」のページで紹介したアレニウスの式は、分子の運動の物理で裏付けられています。

物理で学ぶ熱力学第一法則(内部エネルギーの変化 = 受け取った熱 + された仕事)は、化学ではエンタルピーという量の土台になります。物理の熱力学を化学反応に広げたのが、大学の化学熱力学です。

温度は、分子がどれだけ激しく動いているかの目安です。

図解窒素分子の速さを計算する

入力25 ℃(298 K)の窒素 N₂。モル質量 M = 0.028 kg/mol
  1. 1速さ v = √(3RT/M)、R = 8.31 J/(mol·K)
  2. 23 × 8.31 × 298 ÷ 0.028 ≒ 265,000
  3. 3√265,000 ≒ 515
結果約 515 m/s。音の速さ(約 346 m/s)より速い

03

電磁気: NMR の「900 MHz」は、磁石の強さ

化学の研究室で欠かせない分析装置が、NMR(核磁気共鳴)装置です。強い磁場の中に試料を置くと、水素の原子核は小さな磁石のようにふるまい、決まった周波数の電波を吸収します。この周波数は、磁場の強さに比例します。

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の値では、水素の原子核の共鳴周波数は、磁場 1 テスラあたり約 42.58 MHz です。磁場が 9.4 テスラなら約 400 MHz、21.1 テスラなら約 900 MHz です。「400 MHz の NMR」という呼び名は、磁石の強さを周波数で表したものです。

信号を読み取るしくみには、物理の電磁誘導が使われています。向きをそろえて回る原子核の磁石が、そばのコイルに電圧を生じさせるのです。NMR を開いた物理学者の 1 人、ブロッホのノーベル賞の講演の題は「核誘導の原理」でした。

強い磁場を作るのは、超伝導の磁石です。2015 年、物質・材料研究機構や理化学研究所などのチームは、1,020 MHz(24.0 テスラ)の NMR の開発を発表しました。決め手は、高温超伝導の線材を使った磁石です。磁場が強いほど感度と分解能が上がり、たんぱく質のような大きな分子も調べやすくなります。

電磁気の法則が、分子の形を調べる装置を動かしています。

図解磁場の強さから周波数を計算する

入力水素の原子核: 磁場 1 テスラあたり約 42.58 MHz
  1. 19.4 テスラ: 42.58 × 9.4 ≒ 400 MHz
  2. 221.1 テスラ: 42.58 × 21.1 ≒ 900 MHz
  3. 324.0 テスラ: 42.58 × 24.0 ≒ 1,020 MHz
結果周波数は磁場に比例する。装置の呼び名は、磁石の強さを表す
天井の高い部屋の中央に、灰色と青色の巨大な装置が脚の上に載り、らせん階段とはしごで上に登れるようになっている
スウェーデン・ヨーテボリの NMR センターにある 900 MHz の NMR 装置。約 21 テスラの磁場を作る超伝導の磁石が、この大きな容器に入っています。写真: Adville(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

原子: 電子の波で、化学結合と分子の形を見る

物理の「原子」の単元では、電子が粒であると同時に、波の性質も持つことを学びます。1924 年にフランスのド・ブロイが考えました。1927 年には、アメリカのデビッソンとガーマーが、結晶に当てた電子が回折することを確かめています。

電子の波長は、λ = h ÷(質量 × 速さ)で求められます。100 V で加速した電子なら約 0.12 nm で、原子の大きさ(約 0.1 nm)と同じくらいです。だから電子の波は、原子の並びや分子の形を調べる道具になります。2017 年のノーベル化学賞は、たんぱく質などの立体の形を電子で調べる、クライオ電子顕微鏡の開発に贈られました。

電子の波の考え方は、化学結合の説明にもつながりました。1927 年、ドイツのハイトラーとロンドンは、量子力学で水素分子の結合を初めて説明しました。この考え方を化学に広げたポーリングは、1954 年に化学結合の研究でノーベル化学賞を受けています。

大学の量子化学では、高校で学ぶボーアの原子モデルの先へ進み、シュレディンガー方程式で電子の軌道を求めます。物理の原子の単元は、化学結合を理解する入口です。

電子の波の性質が、化学結合と分子の形を見る道具を生みました。

クイズ物理と化学をつなぐクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q125 ℃ の空気の中で、窒素分子が飛び回る速さはおよそ?

  2. Q2「400 MHz の NMR」の 400 MHz が表しているものは?

  3. Q3100 V で加速した電子の波長は、どのくらい?

0 / 3 問に回答
白と濃い灰色に塗り分けられた、人の背よりずっと高い四角い柱のような装置が 2 台並んでいる部屋
イギリスのリーズ大学にあるクライオ電子顕微鏡。電子の波を使い、凍らせたたんぱく質などの立体の形を調べます。写真: Hiramano92(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

05

苦手でも大丈夫: どこから学び直すか

入試の理科で物理を選ぶかどうかは、大学や入試の方式によって異なります。多くの大学では、1 年に力学などの物理の授業があり、基礎から学べます。まず物理基礎の「力学的エネルギー」と「熱」を確かめてください。エネルギーの考え方は、化学熱力学の入口です。

次に、物理の「気体分子の運動」「電磁誘導と電磁波」「原子」の順に進みます。公式を使ったら、答えの単位と桁を確かめる習慣をつけてください。化学の計算でも、そのまま役に立ちます。

このサイトの高校の「物理」のページと、大学の「物理学」のページもあわせて読んでみてください。物理学科では、同じ熱力学や量子力学を、物理の側から深く学びます。化学の「物理化学」のページでは、物理の道具で化学を説明する分野を紹介しています。

NMR や電子顕微鏡は、日本のメーカーも作っています。2015 年の 1,020 MHz の NMR の開発にも、日本電子のグループ会社が加わりました。物理と化学の両方を学んだ人は、こうした装置を開発したり、使いこなして新しい物質を調べたりする仕事に就いています。

エネルギーと電磁気が分かれば、化学の装置と計算の土台ができます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1物理基礎: エネルギー力学的エネルギーと熱
  2. 2物理: 気体気体分子の運動と熱力学第一法則
  3. 3物理: 電磁気電磁誘導と電磁波
  4. 4物理: 原子電子の波と原子のスペクトル

高校生のうちに試せること

  • シミュレーションで、分子の速さを見る

    コロラド大学ボルダー校の PhET の「気体の性質」では、箱の中を飛び回る気体の分子を見ながら、温度を変えられます。温度を上げ下げして、分子の動きや速さの分布がどう変わるかを確かめましょう。

    PhET「気体の性質」
  • スマートフォンで地磁気を測り、共鳴周波数を出す

    ドイツの RWTH アーヘン工科大学が作った無料のアプリ phyphox で、スマートフォンの磁気センサーの値(μT)を見てみましょう。日本付近の地磁気はおおむね 40〜50 μT です。42.58 Hz/μT をかけると、地磁気の中で水素の原子核が共鳴する周波数は約 2,000 Hz で、耳に聞こえる音と同じくらいです。

    phyphox(RWTH アーヘン工科大学)
  • 電子の波長を、電卓で計算する

    電子の波長は λ = h ÷ √(2 × 質量 × 電気量 × 電圧) で求められます。h = 6.63 × 10⁻³⁴ J·s、電子の質量 9.11 × 10⁻³¹ kg、電気量 1.60 × 10⁻¹⁹ C を入れます。電圧を 100 V と 10,000 V にして計算しましょう。電圧を 100 倍にすると、波長は 10 分の 1 になります。

「物理」に関連するコミュニティ

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よくある質問

高校で物理を選ばなくても、化学科に進めますか?

入試で必要な理科の科目は、大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。多くの大学では、1 年に力学などの物理の授業があり、基礎から学べます。物理基礎のエネルギーと熱、物理の気体分子の運動を読んでおくと、化学熱力学の授業に入りやすくなります。

化学科で物理を使うのは、どんな授業ですか?

物理化学(化学熱力学・量子化学・反応速度論)と、NMR などの機器分析の授業で特によく使います。日本学術会議の参照基準も、化学を学ぶ学生が身につける事柄の多くが物理学と関わるとしています。

物理が好きな人は、化学のどんな分野に向いていますか?

物理化学や理論化学、分析の装置を扱う分野では、物理の考え方がそのまま生きます。研究室によっては、レーザーや超伝導の磁石、電子顕微鏡などの装置を使って研究します。