図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
化学
化学科にとって、高校の化学は「出発点」です。電子配置・化学平衡・反応速度・有機化合物の単元で覚えたことを、大学では電子とエネルギーから説明し直し、計算で予想できるようにします。

ひとことで言うと
天気を覚えるより、天気図から予報する
過去の天気をいくら覚えても、明日の天気は分かりません。気圧や前線のしくみを知ると、天気図から明日を予報できます。大学の化学も、電子とエネルギーのしくみから、まだ試していない反応の行方を予想します。

01
高校の化学は、大学の化学の出発点
医学や生物学では、化学は道具の 1 つです。化学科では、化学そのものが学ぶ対象になります。日本学術会議の参照基準によると、少し前まで高校の化学は「暗記科目」と言われるほど多くの事柄を含み、理科離れの一因とも言われていました。
大学では、その事柄を覚え直すのではなく、理由から組み立て直します。参照基準は、化学を学ぶ学生が身につける知識を 18 の事柄にまとめています。化学熱力学、反応速度論、原子の構造と量子化学、有機電子論などで、どれも高校の単元の続きにあたります。
下の図は、高校の単元と大学の授業のつながりの例です。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。高校で覚えた「答え」は、大学で理由を確かめるときの大切な手がかりになります。
高校の単元の 1 つひとつが、大学の授業の入口です。
図解高校の単元と大学の授業
- 電子配置と周期表量子化学: 電子の軌道から説明する
- 化学反応と熱化学熱力学: エンタルピーとエントロピー
- 化学平衡化学熱力学: ギブズエネルギーで計算
- 反応速度反応速度論: アレニウスの式
- 有機化合物有機電子論: 矢印で電子の動きを書く
- 物質量・酸と塩基分析化学: 量を正確に測る

02
電子配置: カリウムの電子は、なぜ N 殻に入る?
化学基礎では、原子番号 20 番までの電子配置を学びます。K 殻に 2 個、L 殻に 8 個と、内側から順に電子を入れていきます。ところが 19 番のカリウムでは、M 殻にはまだ 18 個まで入るはずなのに、19 個目の電子は外側の N 殻に入ります。
学習指導要領の解説も、この理由に化学の授業でふれることを例に挙げています。答えを出すのが、大学の量子化学です。殻の中は、さらに s・p・d・f という軌道に分かれます。カリウムでは、M 殻の 3d 軌道より、N 殻の 4s 軌道のほうがエネルギーが低いのです。
1 つの軌道の組に入る電子の数は、s が 2 個、p が 6 個、d が 10 個、f が 14 個です。これを足し合わせると、周期表の各周期の元素の数が 2・8・8・18・18・32・32 になる理由が分かります。全部足すと 118 で、いま名前が付いている元素の数と一致します。
電子の居場所とエネルギーが分かると、元素の性質の並びを、覚えるのではなく説明できるようになります。量子化学は、多くの大学で 2 年ごろに学ぶ授業です。
電子の軌道とエネルギーから、周期表の形そのものが説明できます。
図解周期の長さを、軌道から数える
- 1第 1 周期: s だけで 2
- 2第 2・3 周期: s + p で 2 + 6 = 8
- 3第 4・5 周期: s + d + p で 2 + 10 + 6 = 18
- 4第 6・7 周期: f も加わり 2 + 14 + 10 + 6 = 32

03
化学平衡と反応速度: 「どちらへ」と「どれだけ速く」
高校の化学では、反応の熱をエンタルピー変化 ΔH で表し、吸熱反応でも自然に進む理由としてエントロピーにふれます。大学の化学熱力学では、この 2 つを組み合わせたギブズエネルギー G を使います。ΔG = ΔH − TΔS がマイナスなら、反応はその向きに自然に進むことができます。
化学平衡も、同じ考え方で計算できます。25 ℃ では、標準のギブズエネルギーの差 ΔG° が 5.7 kJ/mol 下がるごとに、平衡定数 K は 10 倍になります。ΔG° = −RT ln K という式から出てくる値です。物質ごとのデータ表を使えば、実験の前に平衡の位置を予想できます。
反応の速さを扱うのが、反応速度論です。1889 年、スウェーデンのアレニウスは、速さが温度とともに急に大きくなることを、活性化エネルギーを使った式で表しました。活性化エネルギーが 50 kJ/mol の反応なら、20 ℃ から 30 ℃ に上げると、速さは約 2 倍になります。
身近な例が、コンサートなどで使うケミカルライトです。反応のエネルギーを光として出す化学発光で光ります。アメリカのパデュー大学の化学の実演では、湯に入れたものは明るく光ってすぐに消え、氷水に入れたものは暗いまま長く光り続けます。
熱力学は反応の行き先を、速度論は着くまでの時間を教えてくれます。


04
有機化合物: 矢印で電子の動きを書く
化学の有機化合物の単元では、エチレンなどのアルケンに臭素を加えると、臭素の赤褐色が消えることを学びます。二重結合に臭素が付け加わる付加反応です。一方、二重結合があるように書くベンゼンは、鉄を触媒にして臭素と反応させても、付加ではなく置換が起こります。
大学の有機化学では、こうした反応を有機電子論で説明します。電子の対がどこからどこへ動くかを、曲がった矢印で書く方法です。イギリスの化学誌 Chemistry World によると、この矢印が初めて論文に登場したのは 1922 年です。ロビンソンとカーマックが、ブタジエンに臭素が付く位置を説明するのに使いました。
下の図は、エチレンに臭素が付く反応を、矢印で追ったものです。矢印 1 本ごとに、電子の対が 1 組動きます。矢印の決まりは数個しかなく、教科書の何十もの反応を同じ書き方で表せます。ベンゼンが付加より置換を選ぶ理由は、「学ぶために必要な科目 2: 数学」のページで、行列を使って確かめます。
電子の対の動きを矢印で書くと、反応の筋道が見えてきます。
図解エチレンに臭素が付くまで
- 1近づく臭素の分子が二重結合に近づく
- 21 本目の矢印二重結合の電子が、臭素の原子へ動く
- 32 本目の矢印Br–Br の電子が反対側の Br へ移る
- 43 本目の矢印残った Br⁻ が反対側から炭素と結合


05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
高校の化学の土台は、化学基礎の「物質の構成」と「物質量」です。まず原子の構造・電子配置・化学結合と、mol を使った計算を確かめてください。ここがあやふやだと、大学の量子化学と化学熱力学の両方でつまずきやすくなります。
次に、化学の「化学反応と熱」「反応速度と化学平衡」へ進み、最後に「有機化合物」を学びます。反応式を書いたら、切れた結合とできた結合に印を付けておくと、大学の有機電子論にそのままつながります。
日本化学会などが開く化学グランプリは、高校生以下が参加できる化学のコンテストです。1999 年から毎年開かれ、海の日に全国の会場で一次選考があります。成績上位の約 80 人は、実験をともなう二次選考に合宿形式で進みます。
このサイトの高校の「化学」のページでは、高校 3 年間の流れを紹介しています。大学の化学の「1 年: 基礎をかためる」「物理化学」「有機化学」のページもあわせて読んでみてください。高校の単元が、大学のどこにつながるかが見えてきます。医学の「化学」のページでは、からだと薬を理解する道具としての化学を紹介しています。
電子配置と物質量が分かれば、大学の授業の入口に立てます。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1化学基礎: 構成原子の構造・電子配置・化学結合
- 2化学基礎: 物質量mol の計算、酸と塩基、酸化と還元
- 3化学: 理論反応と熱、反応速度、化学平衡
- 4化学: 有機官能基と芳香族化合物の反応
高校生のうちに試せること
化学グランプリの一次選考に挑戦する
化学グランプリは、高校生以下ならだれでも参加できる化学のコンテストです。例年 4 月から 6 月ごろに申し込み、7 月の海の日にマークシート式の一次選考があります。参加した中学 3 年生から高校 2 年生などから 20 名程度が、翌年の国際化学オリンピックの代表候補に推薦されます。
化学グランプリとは(日本化学会)ケミカルライトで、温度と反応の速さを比べる
同じ色のケミカルライトを 2 本光らせ、1 本はコップのぬるま湯(40 ℃ くらい)、もう 1 本は氷水に入れましょう。部屋を暗くして明るさを比べ、何分後まで光るかを記録します。中の液が目や肌に付かないよう、切ったり開けたりはしないでください。
周期表で、各周期の元素の数を数える
周期表を印刷して、第 1〜第 7 周期の元素の数を数えましょう。2・8・8・18・18・32・32 になります。どれも、s(2 個)・p(6 個)・d(10 個)・f(14 個)の足し算で表せます。1・2 族、3〜12 族、13〜18 族で色を変えると、軌道の区分けが見えてきます。
「化学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 261 件から探せます。
光物理化学グループ
大阪大学(大阪府)
基礎工学研究科物質創成専攻・光物理化学・倉持 光 教授
有機反応化学
筑波大学(茨城県)
有機化学
安定な分子や高分子を精密に変換する有機合成反応を研究する。

機能物質工学研究グループ
名古屋大学(愛知県)
物理化学・固体化学・長田 実 教授

機能有機化学研究室(山口研究室)
名古屋大学(愛知県)
有機化学
π電子系をもつ機能性分子を研究する。
「グリーン物質変換」総括寄付講座
東京大学(東京都)
理学系研究科化学専攻・有機化学・触媒化学・小林 修 特任教授
構造化学研究室
東京大学(東京都)
理学系研究科化学専攻・物理化学・分析化学・合田 圭介 教授
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
化学基礎しか学んでいなくても、化学科に進めますか?
入試で化学を課すかどうかや出題の範囲は、大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。入学後は、1 年の授業で原子の構造や化学結合から学び直します。化学の「化学平衡」「反応速度」「有機化合物」を高校のうちに読んでおくと、授業に入りやすくなります。
化学グランプリは、高校 3 年生でも参加できますか?
参加できます。ただし、国際化学オリンピックの代表候補は中学 3 年生から高校 2 年生が対象なので、高校 3 年生は選ばれません。公式サイトによると、成績優秀者に特別な入学制度を設けている大学もあります。
化学科でも、数学や物理は必要ですか?
必要です。化学熱力学や量子化学では、対数・微分積分・行列や、物理の熱・電磁気・原子の考え方を使います。このページの続きの「学ぶために必要な科目 2: 数学」と「学ぶために必要な科目 3: 物理」で、どこで何を使うかを紹介しています。
