図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 3
3 年: 実験で確かめる
錯体化学や高分子化学、反応速度論などの専門の講義に加えて、学生実験が週 2 日になる 1 年です。フラスコの中で狙った分子をつくり、再結晶で取り出し、NMR などの装置で本当にできたかを確かめます。

ひとことで言うと
レシピどおりに作り、味見で確かめる
3 年の実験は、教わったレシピで料理を作り、味見で出来を確かめる段階です。化学では、舌の代わりに融点や NMR などの測定で、狙った分子ができたかを確かめます。出来上がりの量を量り、レシピどおりなら何 g できたはずかと比べるのも、毎回の作業です。

01
3 年の科目: 専門が広がり、実験が週 2 日に
3 年では、選べる専門の講義が増えます。千葉大学の化学科では、3 年に物性化学・錯体化学・表面物理化学・有機元素化学・酵素化学などが並びます。東京理科大学の化学科でも、反応速度論・量子化学・高分子化学・機器分析学などが 3 年の科目です。
東京理科大学の機器分析学では、質量分析・NMR・赤外分光の原理と、スペクトルの読み方を学びます。反応速度論では、反応の速さを微分方程式で扱います。講義で学ぶ道具を、その週の実験ですぐに使うのが 3 年の特徴です。
同じ大学では、3 年前期に有機化学実験と物理化学実験が、別々の曜日の午後に 3 コマ続きで行われます。物理化学実験では、水とトルエンの蒸気圧を測って分子どうしの力の違いを調べたり、分子の構造をコンピュータで計算してスペクトルと比べたりします。
3 年は、講義で学んだ知識を、実験で確かめる年です。
図解3 年で学ぶ科目(例)
- 錯体化学金属と分子が組み合わさった物質
- 高分子化学長い鎖の分子のつくり方と性質
- 反応速度論反応の速さを微分方程式で扱う
- 機器分析NMR・質量分析・赤外分光
- 物性化学電気や磁石の性質を電子から説明
- 学生実験有機化学・物理化学の実験が週 2 日

02
有機化学実験: 毎週、新しい分子をつくる
東京理科大学の化学科の有機化学実験(3 年前期)では、ほぼ毎週、別の反応で新しい分子をつくります。還元反応・アルドール反応・酸化反応・求核置換反応などが並びます。
この中には、ノーベル化学賞につながった反応が 3 つあります。1912 年のグリニャール反応、1950 年のディールス・アルダー反応、1979 年のウィッティヒ反応です。教科書で名前を見た反応を、自分の手で動かせるのです。
反応が終わったら、目的の物を取り出して純度を上げます。熱い溶媒にとかしてから冷やし、結晶だけを取り出すのが再結晶です。ろ紙の上に白い結晶が残ったときが、狙った分子が手の中に現れる瞬間です。
最後に、取り出した量から収率を計算します。収率は、反応式どおりに進んだときにできるはずの量(理論量)のうち、実際に何%が手に入ったかを表す数字です。下の図は、グリニャール反応の代表的な例で計算したものです。
収率を計算すると、実験のどこで物が失われたかを考えるきっかけになります。
図解収率を計算する(例)
- 1反応式から、0.0100 mol の安息香酸メチルからは 0.0100 mol ができるはず
- 2理論量 = 0.0100 mol × 260 g/mol = 2.60 g
- 3再結晶して、実際に取り出せた結晶は 1.82 g
- 4収率 = 1.82 ÷ 2.60 × 100


03
機器分析: NMR で分子の形を確かめる
できた物が本当に狙った分子かは、見た目では分かりません。そこで使うのが NMR(核磁気共鳴)装置です。強い磁石の中に試料を入れて電波を当てると、水素などの原子核が決まった周波数の電波を吸収し、また放出します。
同じ水素の原子核でも、分子の中のどこにあるかで、信号の位置が少しずつずれます。例えば、エタノールの水素の信号は 3 組に分かれ、面積の比は 3:2:1 です。分子式が同じ C₂H₆O のジメチルエーテルは、6 個の水素がすべて同じ環境にあるので、信号は 1 組になります。
この現象は 1946 年に水素の原子核で確かめられ、1952 年のノーベル物理学賞を受けました。その後の数十年は、主に物質の化学構造を調べるのに使われてきました。同じ原理を体の中の水に使ったのが、病院の MRI です。MRI の研究には、2003 年のノーベル生理学・医学賞が贈られています。
東京理科大学の有機化学実験では、最初のガイダンスで NMR と赤外分光装置の使い方を学び、各実験で自分の試料を測ります。病院の MRI と同じ原理の装置を、3 年生が自分で使うのです。
NMR を使うと、目に見えない分子の形を、信号の数と位置から読み取れます。
図解同じ C₂H₆O を NMR で見分ける
エタノール
- CH₃・CH₂・OH の 3 種類の水素
- 信号は 3 組
- 面積の比は 3:2:1
ジメチルエーテル
- O の両側に同じ CH₃ が 2 つ
- 6 個の水素がすべて同じ環境
- 信号は 1 組だけ


04
実験の日の 1 日(例)
下の図は、有機化学実験がある日の 1 日の例です。科目の名前や時間は大学によって異なります。実験の日は、午後いっぱいを実験室で過ごし、夜にレポートを書き始めます。
東京理科大学の有機化学実験のシラバスは、予習とレポートに、それぞれ 2 時間ほどかけることを求めています。成績は、作業と安全への取り組みが 40%、実験ノートが 20%、レポートが 40% です。レポートの構造式は、構造式を描くソフトを使って書きます。
3 年後期の特別化学実験では、7 つのコースから 2 つを選びます。金のナノ粒子の合成、光る錯体の合成、隕石の表面の分析、卵白のたんぱく質の分離など、研究に近いテーマが並びます。研究室で実験をする「研究室プレ配属コース」もあり、4 年の研究室選びの手がかりになります。
図解有機化学実験の日(例)
- 9:00講義高分子化学で鎖の分子を学ぶ
- 12:00昼休み予習ノートの手順を見直す
- 13:00説明と準備白衣と保護めがね、器具を確認
- 13:30反応試薬を量り、反応を進める
- 15:30取り出す再結晶して結晶をろ過する
- 17:00確かめる融点を測り、NMR の結果を見る
- 夜レポート収率を計算し、考察を書く

05
つまずきやすい点と乗り越え方
3 年でつまずきやすいのは、実験とレポートが毎週重なることです。予習・実験・レポートの流れを 1 週間の中で回せるように、レポートは実験の日の夜に、骨組みだけでも書き始めると楽になります。
収率が低かったり、融点がずれたりすることもよくあります。どの操作で物が失われたか、何が混ざっていたかを、実験ノートの記録から考えます。失敗の理由を記録から説明することが、考察の中心です。
3 年の終わりには、多くの大学で研究室の配属が決まります。東京理科大学の化学科では、配属が決まったあとの 3 月上旬に、卒業研究のための防災と安全の集中講義があります。実験で夢中になった分野や、特別化学実験で触れたテーマを振り返っておくと、研究室を選びやすくなります。
高校生のうちに試せること
SDBS で NMR のスペクトルを見る
産業技術総合研究所の SDBS は、有機化合物のスペクトルを無料で見られるデータベースです。エタノールとジメチルエーテルの NMR を探して、信号の数を比べましょう。
SDBS(産業技術総合研究所)ミョウバンを再結晶して、取り出せた割合を出す
スーパーなどで売っている焼きミョウバンを、お湯に溶けるだけ溶かし、ゆっくり冷やして結晶を育てましょう(やけどに気をつけてください)。溶かした重さと、取り出せた結晶の重さから割合を計算します。100% を超えたら、結晶になるときに水を取りこむことと結びつけて、理由を考えてみてください。
ノーベル賞の反応を調べる
学生実験で行うグリニャール反応は、1912 年のノーベル化学賞につながりました。ノーベル財団のサイトで受賞理由を読み、今どんな分子をつくるのに使われているかを調べましょう。
The Nobel Prize in Chemistry 1912
「3 年: 実験で確かめる」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 51 件から探せます。

有機合成化学グループ
大阪大学(大阪府)
基礎工学研究科物質創成専攻・有機合成化学・鷹谷 絢 教授
有機合成化学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 化学プログラム・化学・吉田 拡人 教授
有機合成化学、有機金属化学、新反応開発などを研究している。
有機合成化学
筑波大学(茨城県)
有機化学
金属やフッ素などの特性を生かした有機合成反応を開発する。
生命機能分子合成化学研究室
東北大学(宮城県)
理学研究科化学専攻・生命機能分子合成化学

薬品合成化学分野
京都大学(京都府)
薬学研究科薬科学専攻・薬品創製化学・高須 清誠 教授

合成プロセス化学
岡山大学(岡山県)
工学部 化学・生命系 応用化学コース・有機合成化学・菅 誠治 教授
有機電解法を軸に、環境負荷の少ない有機合成プロセスやマイクロリアクターを研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
学生実験は危なくないですか?
危険のある薬品や装置も使うので、手を動かす前に、安全の決まりと危ない点を予習します。東京理科大学の有機化学実験では、作業と安全への取り組みが成績の 40% を占めます。白衣と保護めがねを着け、決められた手順を守ることが基本です。
NMR のような高価な装置を、学生が自分で使えますか?
大学によって異なります。東京理科大学の有機化学実験では、最初のガイダンスで NMR と赤外分光装置の使い方を学び、各実験で測定できるようにします。
3 年のうちに研究室を体験できますか?
大学によって異なります。東京理科大学の化学科の特別化学実験には、研究室で実験をする「研究室プレ配属コース」があり、5〜6 月に募集があります。研究室の公開日やオープンキャンパスも、研究室の雰囲気を知る機会です。
出典
- 東京理科大学「2026 年度シラバス 理学部第一部 化学科」(有機化学実験・機器分析学・反応速度論・物理化学実験・特別化学実験 ほか)
- 千葉大学「理学部 化学科 カリキュラム・ツリー」
- The Nobel Prize「Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2003」
- The Nobel Prize「All Nobel Prizes in Chemistry」
- LibreTexts Chemistry「Integration」(Lafayette College『CHEM 440: Structure Determination』・エタノールの NMR)

