図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 1
1 年: 基礎をかためる
高校で覚えてきた化学を、原子の中の電子とエネルギーの考え方から組み立て直す 1 年です。白衣と保護めがねを着けて臨む化学実験では、物質を扱う基本の操作と、実験ノート・レポートの書き方を最初から身につけます。

ひとことで言うと
レシピを覚える段階から、おいしくなる理由を知る段階へ
高校の化学では、料理のレシピを覚えるように、反応式や物質の性質を覚えてきました。大学 1 年では、なぜその反応が起こるのかを、電子とエネルギーから説明します。理由が分かると、初めて作る料理にも応用がききます。

01
1 年の科目: 高校の化学を土台から組み直す
多くの大学では、1 年の専門の科目は、物理化学・無機化学・有機化学の基礎と、微分積分や力学です。千葉大学の化学科では、1 年に化学基礎実験・微積分学・力学入門と、基本物理化学・基礎無機化学・基礎有機化学などが並びます。
東京理科大学の化学科では、1 年前期の物理化学 1A で、熱とエネルギーから変化の向きを判断する化学熱力学を学びます。同じ時期の有機化学 1A では、電子の動きを「曲がった矢印」で書く練習が始まり、分子の立体の形も扱います。
日本学術会議の参照基準は、化学の多彩な現象が、周期表にまとめられる電子の構造で統一的に説明できると理解させることを大切にしています。覚えていたことの理由が分かるようになるのが、1 年の学びの中心です。
1 年は、化学の「なぜ」に答えるための考え方と道具をそろえる時期です。
図解高校の化学と大学 1 年の化学
高校の化学
- 反応式や物質の性質を覚える
- 融点や沸点は数値として覚える
- 構造式は平面に書く
大学 1 年
- 電子の配置と動きで理由を説明する
- 熱とエントロピーから計算で判断する
- 分子の立体の形まで考える

02
物理化学: 氷が 0℃ で融ける理由を計算する
高校では、水の融点は 0℃ と覚えました。大学の化学熱力学では、なぜ 0℃ なのかを計算で説明します。カギになるのは、出入りする熱を表すエンタルピーと、乱雑さ(散らばり具合)を表すエントロピーです。
氷が融けるときは、まわりから熱を吸います。熱を吸う変化は、それだけを見ると起こりにくい向きです。一方で、水の分子は結晶の決まった位置を離れて動けるようになり、乱雑さが増えます。この 2 つの綱引きをまとめた量が、ギブズエネルギーの変化 ΔG です。
ΔG がマイナスなら、その変化は自然に進みます。氷 1 mol が融けるときに吸う熱は 6.01 kJ、エントロピーの増え方は 22.0 J/K です。この 2 つを使うと、下の図のように、ちょうど 0℃ で ΔG が 0 になります。2 つの数から融点が出てくるのです。
東京理科大学の物理化学 1A も、自由エネルギーの変化を計算できるようになることを目標にしています。決めた温度と圧力で、反応が起こりうるかを判定するためです。同じ考え方で、化学反応が進むかどうかも、実験の前に計算で見通せます。
ΔG の符号を見ると、変化が自然に進むかどうかが分かります。
図解氷が融けるかどうかを計算する
- 1ΔG = ΔH − T × ΔS(T は絶対温度)
- 210℃(283 K): 6,010 − 283 × 22.0 ≒ −216 J。マイナスなので融ける
- 3−10℃(263 K): 6,010 − 263 × 22.0 ≒ +224 J。プラスなので融けない
- 4ΔG = 0 になる温度: 6,010 ÷ 22.0 ≒ 273 K

03
化学実験: 白衣と保護めがねから始まる
1 年の化学実験は、安全に実験するための基本から始まります。東京理科大学の化学科の 1 年次化学実験では、白衣を着て、保護めがね(安全メガネ)を用意するのが決まりです。最初のガイダンスでは、一般的な注意に加えて、実験で出た廃液の処理のしかたを学びます。
実験は、ガラス管を切って曲げるガラス細工や、天秤とピペッターの正確さを確かめる実習から始まります。続いて、分液ろうとで性質の違う有機化合物を分け、再結晶で純粋な結晶を取り出します。取り出した物の純度は、融点と薄層クロマトグラフィーで確かめます。
後半は、高吸水性ポリマーの合成、反応の速さの測定、回折格子を使ったスペクトルの観察、電気分解、pH 滴定、金属イオンの見分け方と続きます。化学の各分野を、1 年で一通り体験できるように組まれています。
成績は、レポートが 60%、実験ノートが 15%、実験態度が 10%、テストが 15% です。予習では、手順や物質の性質を実験ノートに書いておきます。復習では、なぜその結果になったかを考え、2 時間以上かけてレポートを書くよう求められています。
最初に身につけた安全の決まりと基本の操作は、4 年の卒業研究まで使い続けます。
図解1 年の化学実験の流れ(東京理科大学の例)
- 1安全と廃液白衣・保護めがね、廃液の処理を学ぶ
- 2器具の基本ガラス細工、天秤とピペッター
- 3分けて精製分液ろうと・再結晶・融点の測定
- 4各分野を体験反応速度・分光・電気分解・滴定


04
1 年生の 1 週間(例)
下の図は、化学科の 1 年生の後期の 1 週間の例です。科目の名前や曜日は大学によって異なります。東京理科大学の 1 年次化学実験は、火曜日の 3〜5 限の 3 コマ続きで、午後いっぱいを実験室で過ごします。
講義では、物理化学・無機化学・有機化学の基礎に加えて、数学や物理学も並行して学びます。微分積分は、熱力学や反応の速さの式を扱うときの道具になります。英語や教養の科目も多いので、空きコマに実験の予習やレポートを進めると、週末に余裕が生まれます。
図解1 年生の 1 週間(例)
- 月有機化学・英語曲がった矢印で電子の動きを書く
- 火物理化学・化学実験午後は 3 コマ続きの実験
- 水微分積分・物理学熱力学で使う数学を身につける
- 木無機化学・教養原子の構造と周期表を学ぶ
- 金演習・生物学問題を解いて理解を確かめる
- 土・日レポート・サークル実験の結果を考察してまとめる


05
つまずきやすい点と乗り越え方
1 年でつまずきやすいのは、物理化学で数式が急に増えることです。熱力学では、微分や対数を使う式がくり返し出てきます。数学の授業で同じ道具を習う週に、物理化学のノートを見返すと、式の意味がつながって見えてきます。
有機化学では、曲がった矢印や分子の立体の形に慣れるまで時間がかかります。東京理科大学の有機化学 1A のシラバスは、分子の立体の形を実感するには、分子模型を使った学習が効果的だとしています。手で組み立てて回すと、紙の上の構造式が立体として見えてきます。
実験のレポートも、最初は時間がかかります。予想と違う結果が出たときこそ、その理由を考えるのが考察の中心です。分からないことはその週のうちに TA や先生に聞くと、2 年からの専門の実験が楽になります。
高校生のうちに試せること
氷水の温度が 0℃ で止まるのを確かめる
コップに氷と水を入れ、料理用の温度計で 1 分ごとに温度を記録しましょう。氷が残っている間は、温度がほぼ 0℃ のまま変わりません。食塩を加えると 0℃ より下がる理由も、「凝固点降下」という言葉で調べてみてください。
教科書の実験を実験ノートの形で書く
化学の教科書の実験を 1 つ選び、目的・使う物・手順・気をつけること・予想される結果をノートに書きましょう。大学の化学実験でも、実験の前に、手順や物質の性質を実験ノートに書いておくことが求められます。
MolView で分子を立体で見る
MolView は、分子の形を立体で表示して回せる無料のサイトです。メタン・エタノール・ベンゼンを表示し、教科書の平面の構造式と見比べましょう。結合の角度が、平面の図とどう違うかを確かめてみてください。
MolView
「1 年: 基礎をかためる」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 34 件から探せます。
先端環境計測化学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・環境計測化学・藤井 麻樹子 准教授
新しい環境計測の技術を開発し評価する。
先進セラミックス研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・セラミックス工学・多々見 純一 教授
環境・エネルギー・IT向けのセラミックスを開発する。
光機能化学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・光化学・生方 俊 准教授
光を使って分子の振る舞いを制御する。
錯体化学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・錯体化学・山口 佳隆 教授
多様な元素を使って錯体の化学を展開する。
バイオマス資源化学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・バイオマス化学・金井 典子 助教
廃棄物資源をより価値の高い物質へ変える研究を行う。
分子集合化学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学教育プログラム・超分子化学・藤野 智子 准教授
分子設計で秩序ある集合構造をつくり機能を引き出す。
よくある質問
高校で化学の実験をあまりしていなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。1 年の化学実験は、白衣と保護めがねの着け方、器具の使い方、廃液の処理といった基本から始まります。日本学術会議の参照基準も、高校までに化学実験の経験が少ない学生が多く、大学で基礎的な実験教育を行うことが欠かせなかったと振り返っています。
数学や物理が苦手でもやっていけますか?
物理化学では、微分積分や対数を使う式が出てきます。多くの大学では、1 年に微分積分や力学の授業が並び、化学で使う道具を同時に学べます。千葉大学の化学科でも、1 年に微積分学と力学入門が置かれています。高校の微分と積分を見直しておくと安心です。
高校の化学で覚えたことは無駄になりますか?
無駄になりません。大学では、高校で覚えた反応や性質を出発点にして、その理由を電子とエネルギーから説明します。覚えていた知識が多いほど、「あの反応はこういうことだったのか」とつながる場面が増えます。

