図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
数学
値段はどう決まるのか、利益がいちばん大きくなる値段はいくらか、お金は何年で 2 倍になるのか。経済学はこうした問いを、高校の数学 I・A・II・B で学ぶ関数や微分を使って考えます。

ひとことで言うと
文化祭の焼きそばの値段を決めるとき
安くすれば多く売れますが、1 個あたりのもうけは減ります。高くすればもうけは増えても、売れる数が減ります。そのちょうどよい値段を、勘ではなく計算で探す道具が数学です。

01
なぜ経済学で数学を使うのか
経済学部は文系の学部に置かれることが多いものの、授業では数学をよく使います。日本学術会議の参照基準は、その理由の 1 つを「思考の時間を節約すること」と説明しています。言葉では何行もかかる説明が、式なら短く正確に書けるからです。
同じ考えは、言葉・グラフ・式の 3 通りで表せます。「値段が上がると、買いたい量は減る」という文は、右下がりの線にも、q = 300 − p のような式にもなります。参照基準も、経済学を教える方法として、数学・グラフ・言葉の 3 つを挙げています。
1949 年、ビル・フィリップスは、水で動く経済の模型を作りました。フィリップスはニュージーランド出身の技術者で経済学者です。最初の 1 台は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで作られました。色の付いた水をお金に見立て、透明な管に流します。税率を下げると経済がどう動くかを、目で見て確かめられる機械でした。
この機械は MONIAC(モニアック)とも呼ばれ、のちにさらに 13 台が作られました。ハーバード大学やオックスフォード大学、自動車会社のフォードも注文したと、ニューヨーク連邦準備銀行の資料は伝えています。
数学は、経済の考えを短く正確に書くための言葉です。
図解経済学で数学が出てくる場所
- 関数とグラフ需要と供給から値段を考える
- 微分利益が最大になる量や値段を探す
- 指数・数列利子や経済の成長を見積もる
- 確率・期待値保険やくじ、迷ったときの判断
- データの分析統計から傾向を読み取る


02
関数とグラフ: 値段は 2 本の線の交点で決まる
経済学の授業で最初に出会うのが、需要曲線と供給曲線です。需要曲線は「この値段なら、どれだけ買いたいか」を表します。供給曲線は「この値段なら、どれだけ売りたいか」を表します。
買い手は安いほど多く買い、売り手は高いほど多く売ろうとします。そのため 2 本の線は交わり、その交点で値段と取引の量が決まると考えます。例えば値段を p 円とし、買いたい量が 300 − p 個、売りたい量が 2p 個だとします。300 − p = 2p を解くと p = 100 で、100 円で 200 個が取引されます。
これは中学で学ぶ一次関数と連立方程式の応用です。ただし経済学のグラフでは、ふつう縦軸に値段、横軸に量をとります。数学の授業でよく見る y = f(x) のグラフとは、縦と横の役割が入れかわって見えるので注意してください。
東京の豊洲市場では、市場が開く日の早朝にマグロの競りが行われます。買い手が多く品物が少ない日は値段が上がりやすく、その逆の日は下がりやすくなります。需要と供給の考え方は、こうした毎日の値段の動きを説明する道具です。
連立方程式は、値段が決まるしくみを計算する道具です。
図解需要曲線と供給曲線
需要曲線(買う側)
- 値段が下がると多く買う
- グラフは右下がり
- 例: セールの日は買う人が増える
供給曲線(売る側)
- 値段が上がると多く売る
- グラフは右上がり
- 例: 高く売れる野菜を多く作る


03
微分: 「あと 1 個」の増え方で考える
経済学では「あと 1 個作ると、費用はいくら増えるか」「あと 1 杯食べると、満足はどれだけ増えるか」と考えます。この「あと 1 単位」での増え方を限界と呼びます。限界費用や限界効用のように使う、経済学の大事な言葉です。
1870 年代には、3 人の経済学者が、この考えを使った経済学をほぼ同時に、別々に発表しました。イギリスのジェボンズ、オーストリアのメンガー、スイスのローザンヌで教えたワルラスです。「限界革命」と呼ばれ、近代経済学の始まりとされています。
「少し変えたときの増え方」を表すのが、数学 II で学ぶ微分です。利益を表す式を微分し、0 になる点を探すと、利益がいちばん大きくなる量や値段が分かります。式が 2 次式なら、数学 I の二次関数の最大値の求め方でも解けます。
下の図は、文化祭の焼きそばの例です。値段を高くしすぎても安くしすぎても、利益は減ります。多くの大学では、1・2 年の経済数学やミクロ経済学で、変数が 2 つ以上ある場合の微分も学びます。
微分は、いちばん得をする点を探すための道具です。
図解焼きそばの値段を数学で決める
- 1利益 = 1 個のもうけ × 売れる数
- 2式にすると (p − 100)(400 − p)
- 3平方完成して −(p − 250)² + 22500
- 4微分して 0 になる点も p = 250

04
指数・対数と数列: お金は何年で 2 倍になるか
100 万円を年 6% の複利で預けると、1 年後は 106 万円、2 年後は 112 万 3,600 円になります。毎年 1.06 倍になっていく数の並びは、数学 B で学ぶ等比数列です。n 年後の金額は、100 万 × 1.06 の n 乗円と表せます。
では、何年で 2 倍になるでしょうか。1.06 の n 乗 = 2 を解くには、数学 II で学ぶ対数を使います。答えは約 11.9 年です。金融の世界では「72 の法則」という近道もよく使われます。72 を利率で割るだけで、72 ÷ 6 = 12 年とほぼ同じ答えが出ます。
同じ計算は、国の経済にも使えます。国内総生産(GDP)が年 2% ずつ増えると約 35 年、年 7% ずつなら約 10 年で 2 倍になります。大学のマクロ経済学では、成長率のわずかな差が、長い年月で大きな差になることを学びます。
借りる側にも同じ計算が当てはまります。年 15% の利息がつく借金を返さずにいると、約 5 年で 2 倍にふくらみます。指数の考え方は、自分のお金を守るためにも役立ちます。
指数と対数を使うと、長い年月の変化を一度に見積もれます。

05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
日本学術会議の参照基準によると、経済学部の授業で使う数学の多くは、連立一次方程式やグラフ、微分の考え方、基本統計量などです。参照基準はこれらを「それほど高度なものではない」と書いています。入試で数学を課さない経済学部も多くあります。
参照基準は、入学後の導入の授業で、まず関数を使えることとグラフで表せることを目標に挙げています。次の段階が、微分や連立一次方程式を理解して使えることです。つまり、関数とグラフが最初の入口です。
学び直すなら、中学の一次関数と連立方程式から始めるのが近道です。次に数学 I の二次関数、数学 II の微分と指数・対数、数学 B の数列へ進みます。このページの焼きそばや貯金の例に当てはめながら解くと、式の意味がつかみやすくなります。
研究者や経済の専門職を目指す人向けの授業では、多変数の微分積分なども使います。入試で必要な数学の範囲は、大学や入試の方式によって異なります。志望校の募集要項で早めに確かめてください。
関数とグラフが分かれば、経済学の授業の入口に立てます。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1中学の数学一次関数と連立方程式
- 2数学 I二次関数の最大・最小、データの分析
- 3数学 II微分、指数関数・対数関数
- 4数学 B数列、統計的な推測
高校生のうちに試せること
需要と供給の線を描く
無料のグラフ作成ツールで、横軸を量 x、縦軸を値段 y として、y = 300 − x と y = x / 2 の 2 本の直線を描きましょう。交点は (200, 100) で、本文の例と同じ答えになります。式の数字を変えると、交点の値段がどう動くかも確かめられます。
GeoGebra グラフ計算機模擬店の値段を式で決める
文化祭やバザーの前に、値段ごとに何個売れそうかを予想してみましょう。「(値段 − 材料費)× 売れる数」を表計算で並べると、利益がいちばん大きい値段が見えてきます。
72 の法則を電卓で確かめる
スマートフォンの電卓で 1.06 を 12 回かけて、約 2 倍になることを確かめましょう。利率を 3% や 9% に変えて、72 ÷ 利率の答えと比べてみるのもおすすめです。
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 24 件から探せます。
よくある質問
数学が苦手でも経済学部に入れますか?
入れます。入試で数学を課さない経済学部も多くあります。ただし入学後は、関数・グラフ・微分を使う授業があるので、中学の一次関数や数学 I・II の基本を学び直しておくと授業についていきやすくなります。
数学 III は必要ですか?
必要かどうかは、大学と入試の方式によって異なります。経済学部の授業は、まず関数・グラフ・微分の基本から始まります。研究者を目指す人は、大学で多変数の微分積分なども学びます。
電卓やパソコンがあるのに、なぜ数学を学ぶのですか?
計算は機械に任せられますが、どんな式を立てるかは人が決めます。値段と売れる数の関係を式にできれば、計算はパソコンですぐに終わります。


