図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
公民・歴史
教育を受ける権利は誰のものか。義務教育はなぜ無償で、なぜ 9 年なのか。高校の「公共」「倫理」「歴史総合」で学ぶ憲法や思想、近代の歴史は、大学の教育哲学・教育史・教育行政学で教育を考える土台になります。

ひとことで言うと
部活のルールと部の歴史
部活には、練習のルールと、部ができてからの歴史があります。なぜこのルールなのかは、歴史を知ると分かります。学校も同じで、法律が決めたしくみと、150 年あまりの歴史の上に成り立っています。

01
教育を考える土台は、法と歴史と思想
なぜ学校に通うのか。学校のきまりは誰が決めるのか。教育学は、毎日の当たり前に「なぜ」と問う学問です。日本学術会議の参照基準は、国民国家や学校などの今の教育の枠組みについて説明しています。人類の長い歴史で見れば「極めて特殊な歴史的構築物」だというのです。
参照基準は、教育学を学ぶ人が理解すべきこととして、人権思想の発展や教育の歴史の中で生まれてきた概念を挙げています。「公教育」や「学校」といった概念の理解も大切だとしています。人権は公共で、近代の歴史は歴史総合や日本史探究で学ぶ内容です。
大学では、教育行政学・教育史・教育哲学などの授業で、この見方を使います。法律で今のしくみを知り、歴史でその成り立ちを知り、思想で目指す姿を考えます。
法律・歴史・思想の 3 つの見方で、学校の当たり前を問い直します。
図解公民・歴史と教育学のつながり
- 公共人権と憲法 → 教育法規・教育行政学
- 政治・経済国の予算のしくみ → 教育財政
- 倫理ロック・カント・福沢諭吉 → 教育哲学
- 歴史総合近代化と学校教育 → 教育史
- 日本史探究教育制度の広がり → 日本教育史
- 世界史探究近代国家と公教育 → 比較教育学

02
公共と憲法: 教育を受ける権利と、受けさせる義務
日本国憲法第 26 条は、すべて国民は「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定めています。第 2 項では、国民は「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とし、義務教育は無償だとしています。
ここで、義務を負うのが子ども本人ではない点に注目します。学ぶことは子どもの権利で、その権利を守る義務を負うのは保護者です。学校教育法も、保護者は子に 9 年の普通教育を受けさせる義務を負うと定めています。
憲法の考えを教育の分野で具体的にしたのが教育基本法です。第 4 条は、人種や信条、性別、経済的地位などで教育上差別されないと定めています。力があるのに経済的な理由で学ぶのが難しい人には、国や自治体が奨学の措置をとることも決めています。
第 5 条は、国公立の学校の義務教育では授業料を取らないとしています。1963 年度からは教科書も無償で配られるようになり、1969 年度に小中学校の全学年に広がりました。大学の教育行政学では、こうした法律と制度のつながりを学びます。
学ぶことは子どもの権利で、それを保護者と社会が支えます。
図解教育のきまりの重なり
- 学校の授業時間割や授業、学校ごとの計画
- 学習指導要領教科ごとの目標と内容を示す
- 学校教育法など義務教育の年数や学校の種類を決める
- 教育基本法教育の目的と機会均等を定める
- 日本国憲法教育を受ける権利(第 26 条)

03
日本史と歴史総合: 義務教育が 9 年になるまで
1872 年の学制で始まった小学校は、授業料を払って通う学校でした。明治の半ばには授業料がしだいに上がり、子どもが学校に通えない大きな原因になっていました。
1900 年の小学校令で、尋常小学校は 4 年制にそろえられ、4 年の義務教育が確立しました。公立小学校では授業料を取らないことが原則になります。子どもを雇う人が、雇うことで就学を妨げてはならないとも定められました。
就学率は 1895 年の約 61% から、1905 年には約 96% まで上がります。1907 年には義務教育が 6 年に延びました。戦後の 1947 年には新制中学校が生まれ、小学校 6 年と中学校 3 年の 9 年の義務教育になりました。
発足したころの新制中学校は、校舎も先生も足りませんでした。自分の校舎を持てた中学校は、はじめは 15% だけです。廊下や物置を教室の代わりにしたり、外で授業をする「青空教室」も各地で見られました。
義務教育の年数と無償の範囲は、少しずつ広がってきました。
図解義務教育が広がるまで
- 11872 年学制。小学校は授業料を払って通う
- 21900 年4 年の義務教育。授業料は原則なし
- 31905 年就学率が約 96% に
- 41907 年義務教育を 6 年に延ばす
- 51947 年新制中学校ができ、9 年の義務教育に
- 61963 年度教科書の無償配布が始まる


04
倫理と思想: 人は学んで人になる
教育哲学の授業では、思想家が教育をどう考えたかを、原典や翻訳で読みます。高校の倫理で学ぶ思想家の中にも、教育について大切な言葉を残した人がいます。
イギリスのロックは、人の心は生まれたときは白紙(タブラ・ラサ)で、知識は経験から生まれると考えました。倫理で学ぶ経験論です。1693 年の『教育に関する考察』では子どもの育て方を論じ、疲れをいやすレクリエーションの大切さも説いています。
ドイツのカントの『教育学』(1803 年)は、大学での講義をもとにした本です。カントはこの本で、人間は「教育されなければならない唯一の被造物」だと述べました。さらに「人間は教育によってのみ人間になる」とも書いています。
日本では、福沢諭吉の『学問のすゝめ』が 1872 年から出されました。冒頭の「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」には「と言えり」が続き、「と言われている」という意味になります。福沢は寺子屋の教科書『実語教』の言葉を引き、人の違いは学ぶか学ばないかで生まれると説きました。
思想家の言葉は、何のために教えるのかを考える手がかりになります。
図解3 人の思想家の教育観
ロック
- 『教育に関する考察』(1693 年)
- 心は生まれたとき白紙
- 経験が知識をつくる
カント
- 『教育学』(1803 年)
- 人は教育によって人間になる
- 教育されるべき唯一の存在
福沢諭吉
- 『学問のすゝめ』(1872〜76 年)
- 人の違いは学ぶかどうかで生まれる
- 学問で一人ひとりが独立する


05
苦手でも大丈夫: 条文と年表から始める
公民や歴史を入試で使わなかった人も、心配はいりません。公共と歴史総合は全員が学ぶ科目なので、土台はすでにあります。大学では、用語を覚えた数より、資料を読んで「なぜこの制度ができたのか」と問う習慣が役立ちます。
学び直すなら、まず日本国憲法第 26 条と、教育基本法の第 4 条・第 5 条を読むのが近道です。どちらも e-Gov 法令検索で無料で読めます。次に、日本史の教科書の近代と戦後の章から、義務教育の年数や授業料の記述を探し、自分の年表を作ってみてください。
高校の「公共・政治経済」「日本史」「世界史」の科目のページもあわせて読むと、どの単元が教育学のどこにつながるかが見えてきます。
条文と年表を手元に置くと、教育学の授業が身近になります。
高校生のうちに試せること
教育基本法の第 4 条を読む
教育基本法は、前文と 18 の条文でできた短い法律です。e-Gov 法令検索で第 4 条「教育の機会均等」を読み、身の回りでこの考えが生きている制度を 1 つ探してみましょう。
e-Gov 法令検索「教育基本法」自分の小学校の創立年を調べる
通っていた小学校や中学校の創立年を、学校のサイトや周年の記念誌で調べましょう。中学校が 1947 年ごろにできていれば、新制中学校の発足とともに始まった学校です。
青空文庫で『学問のすゝめ』を読む
『学問のすゝめ』は、青空文庫で無料で読めます。初編の最初の数段落を読み、「天は人の上に人を造らず」のあとに福沢が何を言いたかったのかを、自分の言葉でまとめてみましょう。
青空文庫「学問のすすめ」
「公民・歴史」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 107 件から探せます。
よくある質問
教育学部の入試で、公民や歴史は必要ですか?
必要な科目は、大学や入試の方式によって異なります。志望校の募集要項で確かめてください。入学後は教育史や教育行政学の授業で使うので、入試で選ばなかった科目も、教科書を読み直しておくと役立ちます。
倫理を選んでいなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。教育哲学や教育思想史の授業は、思想家の考えを基本から説明して進めるのがふつうです。図書館で倫理の教科書や資料集を借り、ロックやカントのページを読んでおくと、授業に入りやすくなります。
教育学で法律を学ぶのはなぜですか?
学校のしくみは、日本国憲法や教育基本法、学校教育法などで決められているからです。義務教育の年数や教科書の扱いも、法令に沿って決まっています。教育行政学や教育法規の授業で、そのつながりを学びます。

