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機械工学
荷物を持ち上げるロボットの腕、船を自動でまっすぐ進ませる装置、車の中を走る小さなネットワーク。機械工学の授業では、高校の情報 I で学ぶプログラミングとシミュレーションが、機械を思いどおりに動かす制御の道具になります。

ひとことで言うと
水の入ったコップを、こぼさずに運ぶ
水の入ったコップを運ぶとき、人は傾きを見て、傾き始める速さにも気を配り、少しずつ手を直しながら歩きます。機械に同じことをさせるには、見て直すこの流れを、計算の手順として書く必要があります。それが制御のプログラムです。

01
シミュレーション → 制御工学: 腕が 10 cm 届かないわけ
情報 I の「モデル化とシミュレーション」では、現象を式で表し、時間を少しずつ進めて計算します。文部科学省の研修用教材には、投げたボールの動きを 0.01 秒ずつ計算する例があります。速さから重力の分を引き、位置に速さの分を足す。これをくり返すだけです。
この計算に、モーターの力を足してみます。上下に動くロボットの腕で、1 kg の荷物を高さ 1 m まで持ち上げる例です。いちばん素直なのは、目標との差に比例した力を出す方法で、P 制御(比例制御)と呼びます。ここでは、差 1 m あたり 98 N の力を出すとします(説明のための例)。
計算すると、腕は 0 m から 1.8 m までを、約 0.6 秒ごとに行ったり来たりし続けます。目標に着いても、勢いが止まらないからです。仮に揺れが止まっても、腕は 0.9 m で止まります。荷物の重さ 9.8 N を支える力を出すには、差が 0.1 m 残っている必要があるのです。
目標との差だけを見ていると、揺れやずれが残る。これを数値で確かめられるのが、シミュレーションの強みです。多くの大学では 2・3 年の制御工学で、こうした動きを微分方程式で表し、揺れやずれの大きさを計算で見積もります。
目標との差に比例した力だけでは、揺れやずれが残ります。
図解腕の動きを 0.01 秒ずつ計算する(Python の例)
- 1e = 1.0 − h(目標との差)
- 2s = s + e × 0.01(差をためる)
- 3F = 98 × e + 50 × s − 18 × v
- 4v = v + (F − 9.8) × 0.01
- 5h = h + v × 0.01

02
PID 制御: 差・たまった差・変わる速さの 3 つを見る
そこで、2 つの項を足します。1 つは、差が変わる速さを見る D(微分)の項です。目標が止まっているときは、腕の速さに比例して力を弱め、動きにブレーキをかけます。速さ 1 m/s あたり 18 N で押し返すと、腕は揺れずに 0.9 m で落ち着きます。
もう 1 つが、差を時間でためていく I(積分)の項です。差が残っている間は力が少しずつ増え、重さを支える分を自分で見つけます。3 つを合わせると、腕は約 1 秒で 1.0 m に着き、行き過ぎは 1 mm ほどです。これが PID 制御です。
この 3 つの考え方を数式で分析した早い例が、1922 年のミノルスキーの論文です。ミノルスキーは、船を自動でまっすぐ進ませる装置を研究していました。腕のよい操舵手は、ちょうどよいタイミングで舵を当てたり戻したりしている。勘に見える技を、観察にもとづくタイミングの問題として式にしたのです。
大学の制御工学では、3 つの係数の決め方を学びます。係数を大きくしすぎると揺れが大きくなり、止まらなくなることもあります。どの値なら安定するかを計算で確かめてから、実物の機械で試します。
差・たまった差・変わる速さの 3 つを組み合わせると、速く正確に止まれます。
図解3 つの制御で比べる(1 kg の荷物を 1 m へ)
P だけ
- 0〜1.8 m を行き来する
- 約 0.6 秒ごとにくり返す
P + D
- 揺れずに落ち着く
- でも 0.9 m で止まる
P + I + D
- 約 1 秒で 1.0 m に着く
- 行き過ぎは約 1 mm


03
ネットワーク → 自動車: 車の中の通信は「番号の小さい順」
今の自動車には、エンジンやブレーキなどを受け持つ小さなコンピュータ(ECU)がたくさん載っています。ECU どうしは、車の中のネットワークでつながって働いています。その代表が CAN という通信のしくみです。
CAN は、ドイツのボッシュが 1983 年に開発を始め、1986 年に発表しました。メルセデス・ベンツは 1991 年から高級車で使い始め、まずエンジンを制御する ECU どうしをつなぎました。1993 年には国際規格になり、今では電車や船、工場の機械の制御にも使われています。
情報 I で学ぶインターネットでは、データに宛先の住所(IP アドレス)を付けて送ります。CAN のデータには宛先がなく、中身の種類を表す 11 けたの 2 進数の番号が付きます。2 つの ECU が同時に送り始めると、番号を 1 けたずつ送りながら比べ、0 を送った側が勝ちます。だから番号の小さいデータほど先に届くのです。
ブレーキのような大事なデータに小さい番号を割り当てておけば、通信が混み合っても先に届きます。車やロボットを設計する人は、制御の計算と一緒に、データが届くまでの時間や順番も考えます。
車の中では、データの番号が、届く順番を決めています。
図解2 つの ECU が同時に送ったら(例)
- 116 = 000 0001 0000、768 = 011 0000 0000
- 21 けた目はどちらも 0。2 けた目で 0 と 1 に分かれる
- 31 を送ったエアコンが止まり、あとで送り直す


04
機械工学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
多くの大学の機械工学の入試では、数学と物理が中心です。制御では微分方程式を使うので、数学 III の微分・積分は大学の授業の土台になります。情報 I で書くシミュレーションは、このページの例のように、物理の式をプログラムに直す練習になります。情報 II を開いている学校なら、選んでおくとシステムづくりの経験も積めます。
共通テストの「情報」の扱いは、大学によって違います。九州工業大学は 2026 年 3 月、工学部と情報工学部の一般選抜で、「情報」の配点を段階的に上げると発表しました。前期日程では、2026 年度入試の 25 点が、2027 年度は 50 点、2028 年度は 100 点になります。工学部工学科には、機械を学ぶコースもあります。
機械工学の面白さは、計算で確かめた動きが、実物の機械で目の前に現れることです。部品の強さや流れ、ロボットや乗り物など、大学の機械工学の分野は、このサイトの大学の学問「機械工学」のページで紹介しています。
数学 III・物理・情報 I の 3 つが、制御を学ぶ土台になります。
高校生のうちに試せること
表計算で腕の動きを計算する
表計算の 1 行目に、高さ・速さ・差の合計の 0 を入れましょう。2 行目には、図の 5 つの式を 1 つずつ別の列に書き、300 行下までコピーします。係数の 98・50・18 を変えて折れ線グラフにすると、揺れ方やずれの違いが見えます。
ほうきを手のひらに立てる
長いほうきを手のひらに立てて、倒れないように支えてみましょう。倒れた向きだけでなく、倒れ始める速さを見て手を動かすと、長く立てていられます。制御工学の実験でよく扱う「倒立振子」と同じ問題です。
番号を 2 進数で比べる
好きな 2 つの数を選び、11 けたの 2 進数に直しましょう。上のけたから 1 けたずつ比べ、初めて違ったけたで 0 の側を勝ちにすると、必ず小さい数が勝つことを確かめられます。
「機械工学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 216 件から探せます。
電動機システム工学/電子制御工学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 エネルギー・エレクトロニクスコース・電気機器・制御工学・竹本 真紹 教授
電気自動車や航空機用の高出力モータの開発と、電子制御システムの最適化を研究する。

中島研究室
東京科学大学(東京都)
システム制御
石井研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科システム情報学専攻・システム制御理論・分散協調制御・アルゴリズム・石井 秀明 教授

早川研究室
東京科学大学(東京都)
システム制御
電磁工学研究室
北海道大学(北海道)
電気制御システム

瀧ノ上研究室
東京科学大学(東京都)
システム制御
よくある質問
機械工学でも、プログラミングを使いますか?
使います。多くの大学では、1・2 年でプログラミングや数値計算を学び、制御工学や実験で、測ったデータの処理やシミュレーションに使います。このページの例のように、物理の式を短いプログラムに直す場面がたくさんあります。
PID 制御は、身近な機械にも使われていますか?
目標との差に合わせて動かし方を直し続けるフィードバック制御は、エアコンやロボットなど多くの機械で使われています。製品がどんな式で制御しているかは製品ごとに違い、公開されていないことも多くあります。
CAN は、自動車のほかでも使われていますか?
使われています。電車や船、工場の機械の制御にも使われ、トラックや農業機械向けの国際規格も作られています。
出典
- 文部科学省「高等学校情報科『情報 I』教員研修用教材(本編)」第 3 章 コンピュータとプログラミング
- S. Bennett「Nicolas Minorsky and the Automatic Steering of Ships」(IEEE Control Systems Magazine、1984 年)
- CAN in Automation「History of CAN technology」
- Texas Instruments「Introduction to the Controller Area Network (CAN)」(SLOA101B、2016 年改訂)
- 九州工業大学「令和 9・10 年度学部入学者選抜『一般選抜』における変更点について」(2026 年 3 月 12 日)




