図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 1
情報学
785 段の石段の上り方、100 万件の名簿への 1 件の追加、1 台のコンピュータを大勢で使うしくみ。情報学の授業では、高校の情報 I・II で書いたプログラムが、計算量・データ構造・OS を学ぶ出発点になります。

ひとことで言うと
体育祭の準備は、段取りで終わる時間が変わる
体育祭の準備は、同じ人数でも、仕事の順番や道具の置き場所の決め方で、終わる時間が変わります。コンピュータも同じで、手順やデータのしまい方しだいで、速さが何万倍も変わります。情報学は、その違いを数で比べて選ぶ学問です。

01
プログラミング → 計算量: 785 段の石段の上り方は何通り?
香川県の金刀比羅宮は、表参道から御本宮まで 785 段の石段が続きます。1 段ずつか 2 段ずつ上るとき、上り方は何通りあるでしょうか。小さい数で考えると、1 段なら 1 通り、2 段なら 2 通り、3 段なら 3 通りです。
n 段目には、n − 1 段目から 1 段か、n − 2 段目から 2 段で着きます。だから、n 段の上り方は、n − 1 段と n − 2 段の上り方の和です。情報 I で学ぶ関数を使うと、この決まりをそのまま数行のプログラムに書けます。関数の中で自分自身を呼ぶこの書き方を、再帰と呼びます。
ところが、このプログラムは 30 段で 269 万回以上も関数を呼び出します。同じ段数の答えを、何度も計算し直しているからです。呼び出しの回数は、段数が 1 増えるごとに約 1.6 倍になります。785 段では 165 けたの回数になり、今のコンピュータでも終わりません。
そこで、1 段目から順に答えをリストに書きためていきます。前の 2 つを足すだけなので、785 段でも足し算は 784 回で済み、答えは 164 けたの数になります。大学の「アルゴリズムとデータ構造」の授業では、この方法を動的計画法と呼びます。手間がデータの大きさに応じてどう増えるか(計算量)を見積もる方法も学びます。
同じ答えを何度も計算しない工夫で、手間は桁違いに減ります。
図解785 段の上り方を求める 2 つの方法
そのまま再帰で
- 同じ段の答えを何度も計算
- 30 段で 269 万回の呼び出し
- 785 段では終わらない
リストに書きためる
- 1 段目から順に 1 回ずつ計算
- 785 段でも足し算 784 回
- 大学では動的計画法と呼ぶ


02
配列 → データ構造: 100 万件の名簿の先頭に 1 件を入れる
情報 I では、たくさんのデータを配列(リスト)にまとめて扱います。配列は、データを番号順にすき間なく並べる形です。何番目のデータでも、番号から置き場所を計算して、すぐに取り出せます。
では、100 万件の名簿の先頭に、1 件を加えるとどうなるでしょう。すき間がないので、100 万件を 1 つずつ後ろへずらす必要があります。先頭に 1 件ずつ 10 万回加えると、ずらす回数は合わせて約 50 億回になります。
そこで使われるのが連結リストです。データごとに「次はこれ」という矢印を付けてつなぐ形で、途中に入れるときは矢印を 2 本付け替えるだけで済みます。その代わり、50 万番目のデータを読むには、先頭から矢印を 50 万回たどらなければなりません。
どの形にも得意と苦手があるので、使い方に合わせて選びます。大学の授業では、配列とリストのほか、木やグラフ、ハッシュ表などを学び、手間がデータの数とともにどう増えるかで比べます。日本学術会議の参照基準も、配列・木・グラフなどのデータ構造を、情報学の基本に挙げています。
データのしまい方を変えるだけで、同じ仕事の手間が大きく変わります。
図解配列と連結リストの得意・苦手
配列
- すき間なく番号順に並べる
- 何番目でもすぐ読める
- 先頭に入れると全部ずらす
連結リスト
- 矢印で次のデータとつなぐ
- 途中に入れるのは矢印 2 本
- 50 万番目は 50 万回たどる

03
コンピュータのしくみ → OS: 1 台を大勢で同時に使う工夫
スマートフォンでは、音楽を聴きながら地図を見て、メッセージも受け取れます。けれども、CPU の 1 つのコアが一度に進められるプログラムは、基本的に 1 つです。OS がそれぞれのアプリに少しずつ順番に時間を割り当て、すばやく切り替えているのです。
この方法の始まりの 1 つが、1961 年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で公開された CTSS です。それまでは、プログラムを書いたカードを係の人に預け、何時間も結果を待つのが普通でした。CTSS では答えが数秒で返り、利用者ごとのパスワードを初めて使ったコンピュータとしても知られています。
切り替えの間隔には、ちょうどよい長さがあります。例えば、1 回の切り替えに 0.1 ミリ秒かかるとします。10 ミリ秒ごとに切り替えれば、むだになる時間は約 1% です。1 ミリ秒ごとにすると反応は速くなりますが、むだは約 9% に増えます。
大学の OS の授業では、こうした切り替えの順番の決め方(スケジューリング)や、メモリの分け方を学びます。参照基準も、メモリ管理やプロセス管理を OS の基本機能に挙げています。情報 I で学ぶ CPU とメモリのしくみが、その土台です。
OS は、限られた CPU の時間を、たくさんのプログラムに配っています。
図解切り替えの間隔と、むだになる時間(例)
- 110 ミリ秒ごと: 0.1 ÷ 10.1 = 約 1%
- 21 ミリ秒ごと: 0.1 ÷ 1.1 = 約 9%
- 3短くするほど反応は速いが、むだが増える

04
情報学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
情報 II を開いている学校なら、選んでおくと大学の学びに直結します。情報システムの開発やデータサイエンスを、情報 I より深く扱うからです。数学では、数学 B の数列が再帰や漸化式に、数学 C のベクトルが画像や AI の計算につながります。
入試での「情報」の扱いは、大学や学部によって大きく違います。例えば電気通信大学の情報理工学域は、2025 年度入試から、前期日程の個別試験に「情報」を加えました。数学と英語は必須で、物理・化学・情報の 3 つから 2 つを選びます(2026 年度の募集要項)。共通テストでは「情報」を含む 6 教科 8 科目を課しています。
情報学の面白さは、手順やしまい方を少し変えるだけで、同じ仕事が何万倍も速くなるのを、自分の目で確かめられることです。アルゴリズムや OS、ネットワーク、AI など、大学の情報学の分野は、このサイトの大学の学問「情報学」のページで紹介しています。
情報 II と数学 B・C を学んでおくと、大学の授業にすぐつながります。
高校生のうちに試せること
上り方を 2 つの方法で計算する
授業で使う言語で、n 段の上り方を返す関数を再帰で書いてみましょう。n が 1 以下なら 1、それ以外は way(n − 1) + way(n − 2) を返します。25 段、30 段と増やして時間を比べたあと、リストに書きためる方法に直してください。
Python Tutor で再帰の動きを見る
Python Tutor では、プログラムが 1 行ずつ動く様子を図で見られます。上り方の関数を貼り付けて 5 段で動かし、同じ段数の呼び出しが何回出てくるか数えましょう。
Python Tutor動いているプログラムの数を見る
Windows ならタスクマネージャー、Mac ならアクティビティモニタを開きましょう。何もしていないつもりでも、たくさんのプログラムが動いています。OS が CPU の時間を配っている様子を、使用率の数字で確かめられます。
電気通信大学の「情報」の問題を解く
電気通信大学は、個別試験の「情報」の試作問題とサンプル問題を、解答例と解説動画とともに公開しています。大学が入試でどんな力を見たいのかが分かります。
電気通信大学「情報」試作問題・サンプル問題
「情報学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 53 件から探せます。

分散システム構成学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 ネットワーク工学コース・分散システム・舩曵 信生 教授
無線ネットワークの自動構築や電子透かし、並列計算、プログラミング学習支援システムを研究する。
システムソフトウェア研究室
筑波大学(茨城県)
ソフトウェアシステム・計算機工学
分散システム学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 情報科学プログラム・情報科学・藤田 聡 教授
エッジコンピューティング、もののインターネット(IoT)、ユビキタスコンピューティングなどを研究している。

高スループットシステム研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 情報電気工学科 情報工学教育プログラム・計算機システム・長名 保範 准教授
物理実験のデータ収集や海洋レーダ、量子誤り訂正向けの高速計算システムを作る。

コンピュータアルゴリズム分野
京都大学(京都府)
情報学研究科情報学専攻・コンピュータ工学・湊 真一 教授
システムソフトウェア研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 情報電気工学科 情報工学教育プログラム・システムソフトウェア・芦原 評 准教授
OSや分散・並列システム、プログラミング言語処理系を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
情報 II を開いていない高校です。不利になりますか?
情報 II は選択の科目で、開いているかどうかは学校によって異なります。多くの大学では、プログラミングやアルゴリズムの授業を基本から始めます。気になる単元は、文部科学省が公開している情報 II の教員研修用教材で自習できます。
再帰は、高校の情報 I で習いますか?
情報 I では、関数を作って呼び出すことを学びます。関数が自分自身を呼ぶ再帰まで扱うかは、教科書や学校によって異なります。多くの大学では、1・2 年のプログラミングやアルゴリズムの授業で学びます。
個別試験でも「情報」が出ますか?
大学によります。電気通信大学の情報理工学域のように、前期日程の個別試験で「情報」を選べる大学があります。扱いは大学や日程によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

