図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 3
経済学
米で測ると約 8 万円、大工の賃金で測ると約 41 万円になる江戸の 1 両、解散させても物価が下がらなかった株仲間、米の値段で重さが変わった明治の地租。経済学では、日本史で学ぶお金と税の歴史が、今の経済を考える具体例になります。

ひとことで言うと
お小遣いの価値を、何で測るか
同じ 3,000 円のお小遣いでも、おにぎりならたくさん買えますが、映画なら 1〜2 回で終わります。何と比べるかで、「多い」「少ない」の感じ方が変わります。経済学は、こうしたお金の価値の測り方や、税や決まりが人の行動をどう変えるかを考える学問です。

01
江戸のお金 → マクロ経済学: 「1 両は今のいくら?」の答えは 1 つではない
江戸時代は、金貨・銀貨・銭貨の 3 つのお金を使う三貨制度でした。交換の割合には幕府が決めた公定相場がありましたが、実際の相場は毎日変わっていました。今の円とドルの為替レートに似たしくみが、江戸の町にもあったのです。
日本銀行金融研究所の貨幣博物館は、「江戸時代の 1 両は今のいくら?」という問いに、「簡単には言えません」と答えています。18 世紀の米の値段(1 両で米 1 石、約 150 kg)で計算すると、2024 年の値段で約 8 万 1,000 円です。18 世紀後半の大工の賃金(1 両で 23 人を 1 日雇えた)で計算すると、約 41 万 4,000 円になります。
何で測るかによって、お金の価値は 5 倍も変わるのです。大学の経済学では、たくさんの品物やサービスの値段をまとめて、物価の動きを表す方法を学びます。「1 両はいくら?」は、その考え方の入口になる問いです。
お金の中身も変わりました。1695 年の元禄の改鋳では、小判に含まれる金の割合が、慶長小判の 86% から 57% に下げられました。幕府は差額(出目)で収入を得ましたが、物価が上がり経済が混乱したと言われます。一方で、経済の広がりに合わせてお金の量を増やした点に注目する見方もあります。
お金の価値は、何と比べるかで大きく変わります。
図解1 両を何で測る?(2024 年の値段で計算)
米で測る
- 1 両で米 1 石(約 150 kg)
- 18 世紀の例
- 約 8 万 1,000 円
大工の賃金で測る
- 1 両で大工 23 人を 1 日
- 18 世紀後半の例
- 約 41 万 4,000 円


02
株仲間 → 制度の経済学: 解散させても、物価は下がらなかった
株仲間は、江戸時代の商人や職人がつくった同業者の組合です。幕府や藩に認められ、仲間に入れる人の数を限って、商売を独り占めできました。その代わりに、冥加金(みょうがきん)というお金を納めていました。
1841 年、老中の水野忠邦は天保の改革の一つとして、株仲間の解散を命じました。商品の流れを良くして、物価を下げるのがねらいでした。ところが、商人の取引の秩序が乱れ、物価も下がりませんでした。幕府は 10 年後の 1851 年に、株仲間の再興を認めています。
なぜ、うまくいかなかったのでしょうか。日本学術会議の参照基準(歴史学分野)は、株仲間が取引を支えた働きに注目する研究を紹介しています。18 世紀前半の大坂の塩問屋の仲間は、代金をごまかした仲買人とは、仲間の全員が取引をやめると決めていました。だました相手とは、だれも取引しない。この決まりが、取引の信用を支えていたと考えられるのです。
19 世紀前半の桐生の織元の仲間にも、預けた糸をほかに使った機屋には、仲間の全員が仕事を任せないという決まりがありました。こうした働きの分析には、ゲーム理論という経済学の道具が使われます。参照基準によると、株仲間が禁止された期間については、信用や品物の流れが悪くなったと伝える文書が残っています。経済成長率が下がったことも、数字で示せるそうです。
決まりをなくすと、見えなかった働きまで失われることがあります。
図解株仲間の公認・解散・再興
- 1享保・田沼期幕府が株仲間を公認していく
- 21841 年天保の改革で解散を命じる
- 3解散のあと取引の秩序が乱れ、物価も下がらない
- 41851 年幕府が再興を認める

03
地租改正 → 財政学: 米で納める税から、お金で納める税へ
明治政府は 1873 年に地租改正法を出し、税のしくみを全国で作り直しました。土地の持ち主に地券を渡し、土地の値段(地価)の 3% を、原則としてお金で納めさせたのです。江戸時代に年貢がかからなかった町の土地や武家地も、税の対象になりました。
地租改正は、新しい政府の財政の土台を固めるために行われました。地租は、地価や税率を変えない限り、毎年同じ額になる税です。国税庁の資料によると、地租改正が終わった 1881 年度の地租は 4,327 万 4,000 円で、国の歳入の 70.2% を占めました。
ところが農家の側から見ると、話が変わります。納める金額は同じでも、米の値段が下がれば、売らなければならない米の量が増えます。1876 年に米の値段が下がると負担は重くなり、各地で地租改正に反対する一揆が起きました。政府は 1877 年に、税率を 2.5% に下げています。
同じ金額でも、物の値段によって重さが変わる。経済学では、これを「名目」と「実質」の違いとして学びます。税の重さを、だれが、どんなときに感じるのかを考えるのが財政学です。
お金で納める税は、物の値段しだいで重くも軽くもなります。
図解米の値段で変わる地租の重さ(計算しやすい数字の例)
- 1米 1 石が 6 円なら、0.5 石を売れば納められる
- 2米 1 石が 3 円に下がると、1 石を売る必要がある
- 3納める金額は同じでも、手放す米は 2 倍になる


04
経済学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目
経済学部では、多くの大学で 1・2 年生のうちにミクロ経済学・マクロ経済学と統計学の基礎を学びます。日本経済史などの歴史の科目は、その上で学ぶ科目として置かれていることが多くあります(科目の名前や学ぶ時期は大学によって異なります)。
日本学術会議の経済学分野の参照基準は、経済学では数学と統計学を多く使うと書いています。そのうえで、入試で数学を課さない大学も多く、高校で数学を学んでこなかった学生が多いことを課題に挙げています。経済学に進むなら、数学 II・B までは選んでおくと安心です。
日本史探究には、このページで見た江戸のお金や地租改正のように、経済のしくみを考える具体例がたくさんあります。公民の「政治・経済」で学ぶ市場や財政の言葉と結びつけると、理解が深まります。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。
経済学の面白さは、昔の出来事を、今の言葉と数字で説明し直せることです。理論や政策など、大学の経済学の分野は、このサイトの大学の学問「経済学」のページで紹介しています。
数学・日本史探究・政治・経済の 3 つが、経済学の土台になります。
高校生のうちに試せること
1 両の値段を、自分で計算する
貨幣博物館のページには、米・大工の賃金・そば・団子などで 1 両の価値を計算する式が載っています。近くの店で今の値段を調べて計算し、答えがいくつに分かれるか比べましょう。
貨幣博物館「江戸時代の 1 両は今のいくら?」本物の地券を見る
国税庁 税務大学校の租税史料ライブラリーでは、地券や地租改正の資料を画像で見られます。三重県の地券で、3% から 2.5% への引き下げが朱色で書き加えられたところを探しましょう。
国税庁「地租改正と地券発行」米の値段の動きを調べる
総務省統計局の小売物価統計調査では、米などの店頭の値段を調べられます。何年か分の米の値段を並べ、地租改正のころの農家の立場なら、値段の上がり下がりが暮らしにどう響くかを考えましょう。
総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)」
「経済学」に関連するコミュニティ
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よくある質問
経済学部で、日本史の知識は役に立ちますか?
役に立ちます。日本経済史の授業では、江戸時代のお金や明治の税のしくみなど、日本史探究で学ぶ出来事を経済学の言葉で分析します。日本学術会議の参照基準も、経済の制度や政策の意義を、歴史的な背景を含めて理解することを学びの目標に挙げています。
数学が苦手ですが、経済学部に入れますか?
入試に数学を課さない経済学部もあります。ただ、入学後は数学や統計学を使う授業が多くあります。高校のうちに数学 I・A と数学 II・B の基本を身につけておくと、授業に入りやすくなります。

