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外国語学(地域研究)
話せば近いのに文字がまったく違うヒンディー語とウルドゥー語、6・7・9 だけがアラビア語から来たスワヒリ語の数、1928 年に文字を替えたトルコ語。外国語学の地域研究では、高校の世界史で学ぶ宗教の広がりや交易、国づくりの歴史が、言葉の形の理由を教えてくれます。

ひとことで言うと
同じ曲の、2 つのアレンジ
同じメロディーでも、ピアノ版とギター版では印象が変わります。ヒンディー語とウルドゥー語は、話し言葉の土台がほぼ同じなのに、文字と難しい言葉の由来が違う「2 つのアレンジ」です。地域研究では、違いが生まれたわけを歴史から考えます。

01
宗教と言語の広がり → 地域研究: 話せば近いのに、文字が違う 2 つの言葉
インドの連邦の公用語ヒンディー語と、パキスタンの国語ウルドゥー語は、音も日常の語彙も文法も基本的に同じです。ところが、書く文字はまったく違います。ヒンディー語はデーヴァナーガリー文字で書き、ウルドゥー語はペルシア文字を改良した字体で、右から左へ横書きします。
違いが生まれた背景は、世界史で学ぶ北インドの歴史です。1206 年にデリーにイスラーム教徒の王朝ができると、北インドの言葉にペルシア語やアラビア語の語彙が混ざりました。こうして、イスラーム教徒とヒンドゥー教徒が共通に話す言葉が広がります。ムガル帝国のもとでは、詩や文学の言葉としても磨かれました。
その後、1947 年のインドとパキスタンの分離独立に至る 20 世紀の歴史の中で、この言葉は 2 つに分かれていきました。主にイスラーム教徒が使うウルドゥー語と、主にヒンドゥー教徒が使うヒンディー語です。難しい言葉は、ヒンディー語がサンスクリット語から、ウルドゥー語がペルシア語やアラビア語から多く取り入れています。話し言葉は近くても、改まった文章では違いが大きくなるのです。
名前にも歴史が残っています。「ウルドゥー」は、もとは「軍営地」を意味するトルコ系の言葉で、イスラーム教徒の軍の共通語を指すようになったとされます。大阪大学外国語学部は、ヒンディー語専攻とウルドゥー語専攻を別々に置いています。ウルドゥー語専攻の紹介によると、映画や音楽では、両方の言葉の話し手が分かる語彙が使われています。専攻では、1 年次にアラビア文字の読み書きから学び始めます。
1 つの言葉が 2 つに分かれた理由は、地域の宗教と政治の歴史の中にあります。
図解ヒンディー語とウルドゥー語
ヒンディー語
- デーヴァナーガリー文字で書く
- 難しい語はサンスクリット語から
- インドの連邦の公用語
ウルドゥー語
- ペルシア文字の字体で右から左へ
- 難しい語はペルシア語・アラビア語から
- パキスタンの国語


02
インド洋の交易 → 言語接触の研究: スワヒリ語の数に、アラビア語が混ざるわけ
スワヒリ語は、タンザニアやケニアの公用語で、東アフリカで広く使われる共通語です。名前の「スワヒリ」は、アラビア語の「海岸」に由来します。季節風に乗って海を渡ってきたアラブの商人と、東アフリカの海岸の人々との長い交流の中で生まれた言葉です。大阪大学のスワヒリ語専攻の紹介によると、話し手は 7 千万人を超えます。
世界史探究で学ぶインド洋の交易は、スワヒリ語の数にも跡を残しています。1 から 10 のうち、6 の sita、7 の saba、9 の tisa はアラビア語から入った言葉です。残りの 1〜5 と 8、10 は、アフリカのバントゥー系の言葉から来ています。
6 と 7 には、もともとバントゥー系の言葉(tundatu と fungate)がありました。なぜ替わったのでしょうか。2003 年に、アメリカのイリノイ大学の研究者が論文で答えを出しました。ほかの数が 2 音節なので、2 音節の sita と saba のほうが並びのリズムに合ったという説です。8 はもともと 2 音節の nane なので、3 音節のアラビア語には替わらなかったという説明です。9 の tisa は、6 と 7 より後に、別の理由で入ったとしています。
単語の形にも交易の跡があります。アラビア語の kitāb(本)は、スワヒリ語で kitabu になりました。語頭の ki- が、小さい物を表す名詞の印と同じ形だったため、そのしくみに組み込まれたのです。そのため複数形は、ki- を vi- に替えた vitabu になります。大阪大学外国語学部のスワヒリ語専攻は、日本で唯一、スワヒリ語とアフリカ地域研究を学部から学べる専攻です。1・2 年生でも「アフリカ地域論概説」などの講義があります。
数や単語の形の中に、海を越えた交流の歴史が残っています。
図解6 を表す言葉が替わったわけ(論文の説)
- 11〜5 と 8・10 の数は、どれも 2 音節
- 2アラビア語から来た 6 は、sita(2 音節)
- 3並びのリズムに合う sita が使われるように


03
近代の国づくり → 言語政策: トルコ語は 1928 年に文字を替えた
オスマン帝国の公用語だったオスマン語は、トルコ語をもとにしながら、アラビア語やペルシア語から多くの言葉を借りていました。書くときは、アラビア文字を使っていました。
第一次世界大戦の後、1923 年にトルコ共和国が成立します。そのわずか 5 年後の 1928 年 11 月、ケマル・アタテュルクの文字改革が行われます。トルコ語はアラビア文字をやめ、ラテン文字で書くようになりました。今の文字は母音字 8 と子音字 21 で、発音とよく対応しているので、文字と発音を覚える苦労が少ないとされます。
変わったのは文字だけではありません。アラビア語やペルシア語から借りた言葉を減らし、トルコ語の言葉に置き換える運動も進みました。たとえば「学校」は、アラビア語から来た mektep に代わり、okul という新しい言葉が作られました。「読む」を表す oku- に、名詞を作る -l を付けた言葉です。フランス語の école(学校)に音を似せたという説もあります。言葉を整えることも、国づくりの一部だったのです。
大阪大学外国語学部のトルコ語専攻では、2 年生まで週 5 コマのトルコ語の授業があります。3・4 年生は、言語・歴史・文学のいずれかのゼミで研究します。専攻の紹介では、語順や、日本語の「てにをは」に似た接尾辞を使う点から、日本語を話す人にとって取り組みやすい言語だとしています。アゼルバイジャン語やウズベク語、カザフ語なども、語彙や文法に多くの共通点を持つ仲間の言葉です。
文字や単語の変化には、その国が歩んだ近代の歴史が刻まれています。
図解トルコ語の文字が替わるまで
- 1オスマン帝国アラビア文字でオスマン語を書く
- 21923 年トルコ共和国が成立する
- 31928 年 11 月アラビア文字からラテン文字へ
- 4その後借りた言葉を減らし、新しい語を作る

04
外国語学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目
外国語学部や国際系の学部では、多くの大学で 1・2 年生のうちに、専攻語の文法と会話を集中して学びます。3 年生ごろからは、言語学・文学・歴史・地域研究などのゼミに入り、卒業論文を書きます(進み方は大学によって異なります)。大阪大学のスワヒリ語専攻は、卒論のテーマを「アフリカに関することなら何でもOK!」と紹介しています。
高校では、世界史探究を選ぶと、宗教の広がりや交易、近代の国づくりの歴史が、専攻語の地域とすぐにつながります。地理探究では、民族や宗教の分布や、季節風のような気候を学べます。季節風を知ると、アラブの商人がインド洋を行き来できた理由も見えてきます。英語は、どの言語を専攻しても、研究書や資料を読むために欠かせません。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。
勉強のコツは、世界史の教科書の地図と、地図帳にある言語や宗教の分布図を重ねて見ることです。ムガル帝国やインド洋の交易の地図を並べると、ウルドゥー語やスワヒリ語が生まれた場所と道筋が見えてきます。言葉の地図と歴史の年表を重ねると、地域研究の入口に立てます。
外国語学を学んだ人は、商社やメーカーの海外部門、通訳・翻訳、報道、外交や国際協力などの仕事で、言葉と地域の知識を生かしています。言葉の背景にある歴史を知っていると、相手の国の人との会話もぐっと深まります。
世界史探究と地理探究、英語を組み合わせると、専攻語の地域が立体的に見えてきます。
高校生のうちに試せること
ヒンディー語とウルドゥー語の入門を見比べる
大阪大学の「高度外国語教育独習コンテンツ」では、ヒンディー語やウルドゥー語、スワヒリ語、トルコ語などの基礎を無料で学べます。ヒンディー語とウルドゥー語のページを開き、文字の形と書く向きを比べましょう。
大阪大学「高度外国語教育独習コンテンツ」スワヒリ語で 1 から 10 まで数える
moja、mbili、tatu、nne、tano、sita、saba、nane、tisa、kumi と声に出して数えましょう。アラビア語から入った 6・7・9 が、ほかの数と同じ 2 音節になっているかを、手をたたいて確かめると、論文の説を体で感じられます。
白地図に、4 つの言葉の地域を塗る
白地図に、ヒンディー語、ウルドゥー語、スワヒリ語、トルコ語が主に話される地域を色分けしましょう。世界史の教科書でデリー、ザンジバル、イスタンブールの歴史を調べて書き込むと、言葉と歴史の地図ができます。
「外国語学(地域研究)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 4 件から探せます。
よくある質問
ヒンディー語とウルドゥー語は、同じ言語なのですか?
音や日常の語彙、文法は基本的に同じで、姉妹のような関係です。ただし、文字はまったく違い、改まった文章や専門的な内容では、取り入れた語彙の違いが大きくなります。大阪大学外国語学部のように、別々の専攻を置く大学もあります。
日本で学ぶ人の少ない言葉を専攻しても、将来に役立ちますか?
役立ちます。大阪大学のウルドゥー語専攻の紹介によると、ウルドゥー語を学ぶと、アラビア語やペルシア語の新聞もある程度内容を推測できるようになります。1 つの言葉が、周りの地域の言葉への入口にもなるのです。英語と組み合わせれば、その地域に詳しい人として強みになります。
トルコ語は、日本語を話す人に学びやすいのですか?
大阪大学のトルコ語専攻の紹介では、語順や、日本語の「てにをは」に似た接尾辞を使う点から、日本語を話す人にとって取り組みやすい言語だとしています。文字はラテン文字で、発音とよく対応しています。
