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史学(西洋史・東洋史)

ラテン語の 1 語で見破られた偽の文書、20 世紀のインクで描かれた「15 世紀の地図」、砂漠の石窟から出た数万点の写本。大学の西洋史・東洋史では、高校の世界史で覚えた用語や時代の流れが、資料を疑い、読み解く手がかりになります。

大学の史学の研究室で、古い羊皮紙の地図を光にかざして調べる学生、巻物の写しを広げる学生、世界地図の上に銀貨を並べて海をまたいで糸で結ぶ学生たち

ひとことで言うと

フリマアプリで「本物」を見分ける

フリマアプリで限定品を買うとき、説明文の言い回しや写真の細かな部分から、本物かどうかを確かめます。史学も同じです。資料の言葉づかいや材料を手がかりに、いつ、だれが作ったのかを確かめてから、歴史を組み立てます。

01

古代の用語を知る → 西洋史の史料講読: 「サトラップ」の 1 語が偽物を見破った

世界史探究では、アケメネス朝ペルシアが州ごとに「サトラップ」と呼ばれる長官を置いたことを学びます。このペルシアの用語が、ヨーロッパの歴史を動かした文書の正体を明かす手がかりになりました。

その文書が『コンスタンティヌスの寄進状』です。4 世紀のローマ皇帝コンスタンティヌス 1 世が、ローマの司教(教皇)にローマ市や西方の支配をゆだねた、という内容です。教皇が土地を治める根拠の 1 つとされ、「中世最大の偽書」とも呼ばれます。

1440 年ごろ、イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラがこの文書を調べました。文書には「われらのすべてのサトラップとともに」という一節があります。ヴァッラは、ローマの会議でサトラップという言葉を聞いた者がいるか、と問いかけました。4 世紀のローマに合わない言葉づかいを積み重ね、後の時代の偽作だと論証したのです。今では、8〜9 世紀ごろに作られたという説が有力です。

同じ問いには、自然科学の方法でも挑めます。イェール大学は 1965 年、ヴィンランド地図の存在を発表しました。コロンブスより前に北アメリカの海岸を描いた、15 世紀の地図とされてきたものです。1973 年の調査でも、1920 年代に使われ始めた顔料がインクから見つかり、偽物ではないかと疑われていました。2021 年、大学の保存科学の専門家が、地図全体を X 線で調べました。すると、1920 年代に初めて作られたインクに使われるチタンの化合物が、線と文字のすべてから見つかりました。羊皮紙は 15 世紀ごろの本から切り取られたとみられ、紙が古くても本物とは限らないと分かったのです。

大学の史料講読では、資料が本物かどうかを、言葉と物の両方から確かめます。

図解偽物を見破った 2 つの方法

言葉で見破る

  • 1440 年ごろ・ヴァッラ
  • 『コンスタンティヌスの寄進状』
  • 4 世紀に合わない言葉を指摘

インクで見破る

  • 2021 年・イェール大学
  • ヴィンランド地図
  • 線と文字に 1920 年代以降のインク
茶色く変色した羊皮紙に、ヨーロッパやアジア、アフリカの陸地が描かれた古い地図。左上の端に、大きな島がいくつか描かれている
イェール大学が所蔵するヴィンランド地図。左上の島の 1 つが、北アメリカの一部とされた「ヴィンランド」です。2021 年の分析で、20 世紀のインクで描かれた偽物と結論づけられました。写真: Yale University Press(Public domain・Wikimedia Commons)

02

漢文と多くの言葉 → 東洋史: 砂漠の石窟から、数万点の写本が出てきた

中国の甘粛省にある敦煌は、シルクロードの道が 2 つに分かれる近くにあったオアシスの町です。そばの崖に掘られた莫高窟(ばっこうくつ)には、今も 492 の石窟が残ります。1900 年、その 1 つの小さな部屋から、数万点の古い文書が見つかりました。

文書の中心は、4 世紀から 11 世紀の初めごろまでの写本です。8〜9 割は漢文で、次に多いのがチベット語です。ソグド語やウイグル語、ホータン語、さらにヘブライ語の写本まであります。多くは仏教の経典ですが、契約書や会計の記録など、当時の人々の暮らしを伝える資料も含まれています。

文書は、その後世界中に散らばりました。1907 年にスタインがイギリスへ、翌年にペリオがフランスへ、大量の文書を持ち出しました。残りは北京の図書館に収められ、日本の大谷探検隊やロシアの調査隊が持ち帰ったものもあります。1 つの資料群を調べるのに、いくつもの国の言葉で書かれた研究を読み合わせることになるのです。

大阪大学の東洋史学では、漢文の文献を根本の史料にしながら、現地の言葉の史料やフィールドワークの成果を合わせて研究しています。中央アジア史の教員は、シルクロードの古文書を紹介しています。そこには、欲張りな大地主や厳しい徴税の役人、税を逃れようとする貧しい農民の日常まで記されているそうです。この研究室には、敦煌の石窟に残る多くの言葉の資料をまとめた本を、共同で編んだ教員もいます。

東洋史では、漢文を軸に、多くの言葉の資料と世界中の研究を読み合わせます。

図解敦煌の文書は今どこに?

莫高窟から出た文書
  • ロンドン1907 年にスタインが持ち出す
  • パリ翌年にペリオが持ち出す
  • 北京残りを図書館に収める
  • 日本大谷探検隊が持ち帰る
  • ロシアロシアの調査隊が持ち帰る
乾いた砂色の崖のふもとに、四角い穴のような石窟の入口がいくつも並び、手前に木々が続いている
中国・甘粛省の敦煌にある莫高窟。崖に掘られた石窟の 1 つから、1900 年に数万点の古い文書が見つかりました。写真: eviltomthai(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

03

同じ時代の別地域を比べる → グローバルヒストリー: 1571 年、銀が世界をつないだ

16 世紀の半ば、南アメリカのアンデスの山で、巨大な銀山が見つかりました。今のボリビアにあるポトシです。ユネスコは、16 世紀のこの地域が世界最大の工業地帯とみなされていた、と紹介しています。

同じころ、日本でも銀の生産が盛んになりました。島根県の石見銀山は、1526 年に博多の商人の神谷寿禎(かみや・じゅてい)が開発したと伝えられます。島根県によると、17 世紀前半の日本の銀は、世界の産出量の 3 分の 1 といわれます。そのかなりの部分を、石見銀山で産出していたと考えられています。ユネスコは、ここで掘られた銀が港から朝鮮や中国へ運ばれたと紹介しています。

2 つの地域の銀が向かった先の 1 つが、中国です。明では 16 世紀の半ばから、いくつもの税をまとめて銀で納めさせる一条鞭法(いちじょうべんぽう)が広がりました。16 世紀の末には、各地に普及しています。経済史家のフリンとヒラルデスは、スペインがフィリピンにマニラを築いた 1571 年を、世界貿易の始まりとみる論文を書きました。太平洋を渡る船が、アジアとアメリカ大陸を直接結んだからです。

一方、イギリスのウォーリック大学のグローバルヒストリーの授業では、ある課題が出されています。「銀の役割は大きく見られすぎている」という意見について論じる、というものです。1 つの説を、反対の見方と比べて確かめるのが、この分野の面白さです。日本でも、大阪大学の大学院が、東洋史学・西洋史学・人文地理学を「グローバルヒストリー・地理学」というコースにまとめています。

同じ時代の離れた地域を並べると、世界がつながっていく様子が見えてきます。

図解銀がつないだ世界(16〜17 世紀)

  1. 11526 年石見銀山の開発が始まったと伝わる
  2. 216 世紀半ばアンデスのポトシで銀山が見つかる
  3. 31571 年スペインがマニラを築く
  4. 417 世紀前半日本の銀は世界の 3 分の 1 といわれる
四角く区切られた紋章が刻まれた、ふちが不ぞろいな古い銀貨。右下に小さな穴があいている
1651 年に南アメリカのポトシで造られた、スペインの 8 レアル銀貨。アンデスの銀は、こうした銀貨になって海を渡りました。写真: Reinhard Saczewski(CC0・Wikimedia Commons)

04

西洋史・東洋史に進むなら: 高校で選んでおきたい科目

史学の専攻は、多くの大学で文学部などに置かれています。西洋史・東洋史のほか、西南アジア史やアジア史などに分ける大学もあります(分け方や名前は大学によって異なります)。多くの大学では、2・3 年生ごろから外国語の史料を読む授業やゼミが始まり、最後に卒業論文を書きます。

高校では、世界史探究を選んでおくと、教科書の用語が大学で史料を読む手がかりになります。英語は、海外の研究書を読むためにいちばん大切です。東洋史に進むなら古典探究の漢文、交易の道を地図で考えるなら地理探究も役立ちます。英語の授業で歴史を扱う長文が出てきたら、世界史の知識と結び付けて読んでみてください。大学の講読の授業に、そのままつながる練習になります。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。

勉強のコツは、教科書の太字の用語を「いつ、どこで使われた言葉か」まで覚えることです。サトラップがペルシアの用語だと知っていれば、ローマの文書に出てきたときの違和感に気付けます。用語は、時代と地域の目印になるのです。

史学を学んだ人は、社会科の先生や博物館の学芸員、公文書館のアーキビストなどとして働いています。資料を疑い、確かめてから伝える力は、報道や出版、企業の調査の仕事でも生かせます。

世界史探究と英語を土台に、漢文や地理を組み合わせると力になります。

クイズ世界史と史学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1ヴァッラが偽物を見破る手がかりにした「サトラップ」。もとは何の言葉?

  2. Q22021 年にイェール大学が調べたヴィンランド地図。偽物と分かった決め手は?

  3. Q3敦煌の莫高窟から見つかった数万点の文書。いちばん多い言葉は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • ヴァッラの文で「サトラップ」を探す

    アメリカのハノーバー・カレッジのサイトでは、ヴァッラの著作をラテン語と英語の対訳で読めます。ページの中で satrap を検索し、ヴァッラがどんな言い方で偽物だと指摘したかを確かめましょう。

    Hanover College「Discourse on the Forgery of the Alleged Donation of Constantine」(英語・ラテン語)
  • ヴィンランド地図の分析の画像を見る

    イェール大学のニュースでは、地図のインクの成分を色で示した画像や、書き直された裏の書き込みの画像を見られます。英語の記事ですが、写真の説明だけでも読んでみましょう。

    Yale News「Analysis unlocks secret of the Vinland Map — it's a fake」(英語)
  • 石見銀山の銀の道を地図でたどる

    島根県のサイトでは、石見銀山から港まで銀を運んだ街道を紹介しています。地図帳で石見銀山と温泉津(ゆのつ)の港を探し、そこから中国、マニラ、ポトシまで線でつないでみましょう。

    島根県「銀山街道」

「史学(西洋史・東洋史)」に関連するコミュニティ

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よくある質問

西洋史と東洋史は、何が違いますか?

主に扱う地域が違います。西洋史はヨーロッパやアメリカなど、東洋史は中国を中心とするアジアの歴史を扱うことが多く、西アジアや南アジアを別の専攻にする大学もあります。どちらも、その地域の言葉で書かれた資料と、世界中の研究を読む点は同じです。

ラテン語や漢文は、高校で習っていなくても大丈夫ですか?

大丈夫です。ラテン語などの古い言葉は、多くの大学で入門の授業から学べます。漢文は高校の古典で基礎を学びますが、大学の講読の授業で読み方を一から確かめていきます。まずは英語の読解力を伸ばしておくと、どの道に進んでも役立ちます。

グローバルヒストリーは、ふつうの世界史と何が違うのですか?

国や地域ごとに歴史をたどるのではなく、銀のように国境を越えて動くものに注目し、地域どうしのつながりを考える点が特徴です。「世界貿易は 1571 年に始まった」という説のように、新しい見方が今も議論されている分野です。