図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
数学
検索が一瞬で終わる理由も、3D のゲームの動きも、AI が学ぶしくみも、数学で説明できます。高校の数学 I・A・II・B・III・C は、大学の情報学の授業の土台になります。

ひとことで言うと
4 人分のレシピを 40 人分に増やすとき
材料は 10 倍にすればよくても、煮込む時間まで 10 倍にはなりません。何がどのくらい増えるかを見積もる道具が数学です。情報学でも、データが 10 倍、100 倍になったときに、処理の時間がどう増えるかを数学で見積もります。

01
2 進数: 0 と 1 で数も文字も色も表す
コンピュータの中では、数も文字も写真も、すべて 0 と 1 の並びで表されています。電気のオンとオフのように、2 つの状態で区別できるからです。0 か 1 かの 1 けたをビットと呼び、8 ビットをまとめて 1 バイトと呼びます。
高校では、数学 A の「数学と人間の活動」で二進法を、情報 I でデータの表し方を学びます。数学 A のこの単元を授業で扱うかは、学校によって異なります。8 ビットで表せるのは、2 の 8 乗 = 256 通りです。多くの画像では、1 つの点の色を赤・緑・青それぞれ 256 段階で表します。組み合わせは 256 × 256 × 256 = 約 1,677 万色です。
文字も同じしくみです。英字の「A」は 65 番、2 進数で 01000001 と決められています(ASCII という文字の表)。多くの大学では、1 年の離散数学や 2 年の論理回路の授業で、2 進数で計算する回路や、データをむだなく表す方法を学びます。
2 進数が分かると、データの大きさや色の数を自分で計算できるようになります。

02
対数: 100 万件から 20 回で見つかる理由
名簿から 1 人を探すとき、先頭から順に見ると、100 万件なら最大で 100 万回比べることになります。名前順に並んでいれば、真ん中の人と比べて前半か後半かを決め、範囲を半分にしていけます。この方法を二分探索と呼びます。
1 回比べるごとに、範囲は半分になります。2 の 20 乗は 104 万 8,576 で 100 万より大きいので、20 回以内で必ず見つかります。1 億件でも 27 回以内です。データが 100 倍になっても、回数は 7 回しか増えません。
この「2 を何回かければその数になるか」を表すのが、数学 II で学ぶ対数(log)です。大学のアルゴリズムの授業では、手順の回数がデータの数 n に比例するか、log n に比例するかで速さを比べます(計算量)。共通テスト「情報 I」の試作問題の資料でも、プログラムの書き方の例に二分探索が使われました。
対数は、1614 年にスコットランドのジョン・ネイピアが発表しました。かけ算を足し算に置きかえられるため、対数の目盛りを刻んだ計算尺が作られました。1970 年代にポケットサイズの関数電卓が登場するまで、計算尺は技術者の必需品でした。
対数が分かると、データが増えても速い手順を見分けられるようになります。


03
ベクトルと行列: 画像や 3D を動かす
デジタルの写真は、小さな点(画素)が縦横に並んだ数の表です。フルハイビジョンの画像なら、横 1,920 × 縦 1,080 で約 207 万個の点が並びます。数を縦横に並べたものを行列と呼びます。写真を明るくする、ぼかす、といった加工は、この数の表への計算として行います。
数学 C で学ぶベクトルは、向きと大きさをもつ量です。3D のゲームでは、キャラクターや建物の形を、たくさんの点の座標で表します。点を回転させる、カメラから見た位置に直す、といった計算は、行列のかけ算にまとめて一度に行えます。
1975 年、ユタ大学の研究者マーティン・ニューウェルは、ティーポットの形を方眼紙に写し取りました。そして手作業で、3D の座標のデータにしました。この「ユタ・ティーポット」は、光や影を描く方法を試す見本として、その後 20 年ほど研究者に使われました。
行列は、数学 C の「数学的な表現の工夫」で扱う学校もありますが、本格的に学ぶのは大学 1 年の線形代数です。高校のベクトルの計算に慣れておくと、線形代数の授業に入りやすくなります。
ベクトルと行列は、画面の中の物を動かすための共通の言葉です。
図解行列が使われている場所
- 写真の加工明るさの調整やぼかし
- 3D のゲーム点の回転や移動、カメラの向き
- AI の計算大量のかけ算と足し算をまとめて行う
- 検索の順位ページどうしのリンクを表にして計算


04
微分と確率・統計: AI が学ぶしくみ
AI の多くは、予想と正解のずれを少しずつ小さくすることで学習します。ずれを小さくするには、設定の数値をどちらに動かせばよいかを知る必要があります。それを教えてくれるのが、数学 II・III で学ぶ微分です。
グラフの傾きを調べ、坂を下る向きに少しずつ進む方法を勾配降下法と呼びます。AI の学習では、大量のデータを使ってこの計算を何度もくり返します。その一つひとつは、行列のかけ算と足し算の組み合わせです。2024 年のノーベル物理学賞は、ジョン・ホップフィールドとジェフリー・ヒントンに贈られました。受賞の理由は、人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした発見と発明です。
確率・統計も欠かせません。迷惑メールを見分ける方法の 1 つでは、過去のメールから確率を計算します。「ある単語が入っているとき、迷惑メールである確率」です。これは数学 A で学ぶ条件付き確率の考え方です。数学 B の「統計的な推測」は、AI の結果がどのくらい信頼できるかを確かめるときに使います。
微分は「どちらに直せばよくなるか」を教えてくれる道具です。
図解AI が学ぶくり返し
- 1予想する今の設定で答えを出す
- 2ずれを測る正解との差を数で表す
- 3傾きを求める微分で、ずれが減る向きを知る
- 4少し直すその向きに設定を少し動かす

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苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
数学に苦手意識があっても、情報学をあきらめる必要はありません。数学は積み重ねの教科なので、つまずいた単元まで戻るのがいちばんの近道です。二次関数があいまいなまま微分を学ぶと、どちらも分かりにくくなります。
おすすめは、中学の一次関数から順に戻る方法です。数学 I の二次関数と「データの分析」、数学 II の指数・対数と微分、数学 B の数列、数学 C のベクトルへと進みます。このページで紹介した使い道を思い浮かべながら学ぶと、記号の意味がつかみやすくなります。
大学の情報学では、計算の速さはそれほど問われません。大事なのは、式が何を表しているかを言葉で説明できることです。面倒な計算は、プログラムに任せられます。
入試で課される数学の範囲は、大学や学部、入試の方式によって異なります。理系の学科では、数学 III・C まで課す大学が多くあります。志望校の募集要項で、早めに確かめてください。
式の意味を言葉で説明できれば、計算が遅くても心配いりません。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1中学の一次関数変化の割合とグラフ
- 2数学 I二次関数・データの分析
- 3数学 II指数・対数、微分・積分の考え
- 4数学 B・C数列とベクトル
高校生のうちに試せること
辞書で二分探索を試す
紙の辞書で単語を引くとき、真ん中から開いて前か後ろかを決める方法で、何回ページを開いたか数えてみましょう。2,000 ページの辞書でも、理屈の上では 11 回で目当てのページに着けます。
GeoGebra で図形を回す
無料の作図ツール GeoGebra で、点の座標に回転の式を当てはめ、図形が回る様子を確かめましょう。数学 C のベクトルや、大学の線形代数の入口になります。
GeoGebra共通テストの資料で二分探索を読む
大学入試センターが公開している試作問題「情報」の概要には、二分探索の手順が Python などのプログラムと並べて載っています。対数の考え方と見比べながら読んでみましょう。
大学入試センター 試作問題等
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 284 件から探せます。

超階層システム数理行動学
広島大学(広島県)
統合生命科学研究科 生命医科学プログラム・行動学・杉 拓磨 准教授
統計推論分野
京都大学(京都府)
情報学研究科(協力講座)・データ科学イノベーション教育
システム数理研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・佐野 良夫

鹿島亮研究室
東京科学大学(東京都)
数理・計算科学
宇宙衝撃工学研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 機械数理工学科・衝撃工学・波多 英寛 助教
ロケットや衛星向けの衝撃試験法や高温での衝突試験、爆発試験を研究する。
松尾研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・微分方程式の数値解法・数値解析全般・シミュレーション・松尾 宇泰 教授
よくある質問
数学 III を学んでいなくても、情報学に進めますか?
進めます。数学 III を入試で課さない大学や学部もあります。微分積分は大学 1 年の授業で学び直すため、入学してから補うこともできます。ただし理系の学科では入試に必要な場合が多いので、志望校の募集要項を確かめてください。
電卓やプログラムがあるのに、なぜ数学を学ぶのですか?
コンピュータは計算をしてくれますが、どの計算をすればよいかは決めてくれません。手順が速いか、結果が信頼できるかを判断するには、数学で考える力が必要です。
大学の数学は、高校の数学と何が違いますか?
高校では答えを計算で求める問題が中心ですが、大学では「なぜそうなるか」を証明したり、式の意味を説明したりする場面が増えます。情報学では、それをプログラムで確かめられるのが特徴です。


