大学カタログ

図 1 情報学の広がり情報学の広がり 3

社会で使うシステム

駅の改札、銀行の振込、病院の電子カルテ。毎日何百万人が使っても止まらず、まちがえないシステムを、大勢でつくって守る分野です。

駅の改札・銀行・病院・コンビニがデータの線でつながる街を見下ろしながら、大きな画面の前で打ち合わせをする学生のチーム

ひとことで言うと

大きな建物を、設計図から建てて検査する

大きなビルは、設計図を描き、大勢で分担して工事し、完成前に何度も検査してから使い始めます。社会で使うシステムも同じで、何十人、何百人で設計し、つくり、試してから動かします。動き始めたあとも、点検と修理を続けます。

01

ソフトウェア工学: 大勢でつくり、確かめる

銀行や鉄道のシステムは膨大な量のプログラムでできていて、何百人もの人が分担してつくります。ソフトウェア工学は、大きなソフトウェアを予定どおりに、まちがいなくつくる方法を研究する分野です。

「ソフトウェア工学」という言葉は、1968 年にドイツで開かれた NATO の会議の題に使われたことで広まりました。当時、ソフトウェアが大きく複雑になり、完成の遅れやまちがいが目立つようになっていました。

1969 年のアポロ 11 号では、月面に降りる途中で誘導コンピュータが何度も警告を出しました。それでも、大切な処理を優先して続ける設計だったため、着陸を続けられました。このソフトウェアの開発を率いたのが、MIT のマーガレット・ハミルトンです。

大学では、使う人の要望を聞き取るところから、設計・テスト・運用までの流れを学びます。チームでアプリをつくる演習を行う大学も多くあります。

テストは「動くことを確かめる」だけでなく、「まちがいを見つける」ための作業です。

図解システムができるまで

  1. 1要件定義使う人に聞き、何をつくるか決める
  2. 2設計画面・データの形・分担を決める
  3. 3実装プログラムを書く
  4. 4テストわざと失敗させて、まちがいを探す
  5. 5運用動かしながら点検し、直す
数字のボタンと表示窓が並ぶ、アポロ宇宙船の誘導コンピュータの操作盤
アメリカのコンピュータ歴史博物館に展示されている、アポロ計画の誘導コンピュータの操作盤(DSKY)。宇宙飛行士は数字のボタンで命令を入力しました。写真: ArnoldReinhold(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

02

データベース: 予約と在庫をまちがえない

新幹線の指定席やライブのチケットを予約するとき、裏ではデータベースが座席の空きを管理しています。データベースは、大量のデータを整理してしまい、すばやく探し、正しく書きかえるためのしくみです。

難しいのは、同じ席を何人もが同時に予約しようとしたときです。データベースは、1 人の予約が終わるまでその席を押さえて、二重に売らないようにします。途中で通信が切れたら、予約を丸ごと取り消して元に戻します。

日本では 1960 年、国鉄(いまの JR)が座席予約システム MARS-1 を使い始めました。最初は 1 日 3,600 席分の予約を扱い、2025 年には世界初の鉄道座席予約システムとして IEEE マイルストーンに選ばれています。

コンビニのレジ(POS)も、いつ・どの商品が・何個売れたかをデータベースに記録しています。その記録をもとに、天気や曜日に合わせて仕入れる量を決めています。

データベースの技術は、お金や座席のように、まちがえてはいけないデータを守ります。

図解最後の 1 席を 2 人が同時に予約したら

入力残り 1 席に、A さんと B さんが同時に予約ボタンを押す
  1. 1先に届いた A さんの処理が席を押さえる
  2. 2B さんの処理は、押さえが外れるまで待つ
  3. 3A さんの予約が確定し、残りが 0 席になる
  4. 4B さんには「満席です」と返す
結果同じ席を 2 人に売らずに済む

03

情報システム: 交通系 IC カード・銀行・病院

情報システムは、コンピュータと人の仕事を組み合わせて、社会のサービスを動かすしくみです。身近な例が、駅の改札にかざす交通系 IC カードです。

JR 東日本の Suica は、2001 年 11 月 18 日に首都圏の 424 駅で使えるようになりました。2013 年 3 月 23 日には、全国の 10 種類の交通系 IC カードが相互に使えるようになりました。1 枚で乗れる鉄道やバスの範囲が、大きく広がりました。

銀行の振込を支えるのは、1973 年に動き始めた全銀システムです。国内のほぼすべての金融機関をつなぎ、別の銀行の口座へのお金の移動を処理しています。病院では電子カルテによって、医師・看護師・薬剤師が同じ診察の記録を見ながら働けます。

こうしたシステムは、止まると社会に大きな影響が出ます。そのため、機械を 2 重に用意して、片方が壊れても動き続ける冗長化の設計が欠かせません。

図解身のまわりの情報システム

情報システム
  • 交通系 IC カード改札で残高と乗った駅を記録
  • 銀行の振込全国の金融機関をつないで送金
  • 電子カルテ診察の記録をチームで共有
  • コンビニの POS売れた商品と時刻を記録
  • 座席予約新幹線や飛行機の空席を管理
IC カードの読み取り部が付いた、駅の自動改札機が並ぶ様子
JR 豊川駅(愛知県)の自動改札機。IC カードをかざすと、残高の確認と運賃の計算が一瞬で済みます。写真: HQA02330(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

セキュリティ: システムと情報を守る

セキュリティは、システムやデータを、盗み見・書きかえ・停止から守る技術です。ネット通販のカード番号や病院の診察の記録のように、もれると困る情報を守ります。

守るための基本が暗号です。古代ローマのカエサルは、文字を決まった数だけずらす暗号を使ったと伝えられています。いまの暗号は数学を使っていて、URL が「https」で始まる Web サイトでは、通信が暗号化されています。

攻撃の手口も変わり続けています。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ 10 大脅威 2026」では、組織への脅威の 1 位が「ランサム攻撃による被害」でした。3 位には「AI の利用をめぐるサイバーリスク」が初めて入りました。

攻撃の方法を知ることは、守る方法を考える第一歩です。ただし、他人のシステムに許可なく入ることは不正アクセス禁止法で禁じられています。練習は、CTF のような練習用に用意された場で行います。

暗号の強さは、鍵を知らない人には現実的な時間で解けないことで決まります。

動かしてみるシーザー暗号を試す

ずらす数を変えると、文がどんな暗号になるかを見られます。ずらす数を知らない人が、元の文をどう当てられるかも考えてみてください。

暗号文PHHW DW WKH OLEUDUB

高校生のうちに試せること

  • picoCTF でセキュリティの問題を解く

    アメリカのカーネギーメロン大学が開く、中学生・高校生向けの無料のセキュリティのコンテストです。英語のサイトですが、暗号やネットワークの問題を初級から順に試せます。

    picoCTF
  • セキュリティ・キャンプに応募する

    IPA などが開く、22 歳以下の学生・生徒向けの講習会です。全国大会は応募課題で選ばれ、これまでの募集では参加費は無料で、交通費や宿泊費も主催者の負担でした。最新の条件は公式サイトで確認してください。

    セキュリティ・キャンプ
  • 部活の備品を表で管理する

    スプレッドシートで、部活の備品の名前・数・置き場所・貸し出した人を表にしてみましょう。同じ物を 2 人に貸さないにはどうするかを考えると、データベースの考え方が見えてきます。

「社会で使うシステム」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 146 件から探せます。

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よくある質問

「ハッカー」は悪いことをする人のことですか?

もともとは、コンピュータに詳しく、技術で問題を解く人を指す言葉です。許可なく他人のシステムに入る行為は不正アクセス禁止法で禁じられていて、セキュリティを学ぶ人は練習用の環境や CTF で腕を磨きます。

データベースは表計算ソフトと何が違うのですか?

表計算ソフトは、1 人で表をつくって計算するのに向いています。データベースは、大量のデータを、たくさんの人が同時に読み書きしても食い違いが起きないように管理できる点が違います。

システムをつくる仕事は、プログラムを書くことだけですか?

いいえ。使う人の要望の聞き取り、画面や手順の設計、テストの計画、動き出したシステムの見守りなど、多くの役割があります。チームでの話し合いや、分かりやすく説明する力も大切です。