大学カタログ

図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 3

歴史

文学の作品には、書かれた時代の政治や暮らし、季節の感じ方が映っています。歴史総合や日本史探究・世界史探究で学ぶ知識は、作品の背景を読み解き、登場人物の気持ちに近づく手がかりになります。

大学のゼミ室の壁に長い年表を貼り、平安の宮廷の絵巻の複製や古い暦、19 世紀のパリの街の絵を並べて、作品の年代に印をつけながら話し合う大学生たち

ひとことで言うと

祖父母の昔話を、その時代を知って聞くとき

「あのころは電話が家に 1 台しかなくて」という話も、その時代の暮らしを知っていると、気持ちまで伝わってきます。文学作品も同じで、書かれた時代を知るほど、登場人物の言葉が身近に感じられます。

01

作品は、書かれた時代を映している

日本学術会議の参照基準(言語・文学分野)は、作品を精密に読み解く修練が「決定的に重要」だと書いています。その手がかりの 1 つが、作者や読者、「作品の背景にある社会的・文化的環境」と作品との関係です。作品だけを切り離さず、時代と一緒に読むということです。

高校の国語でも、「古典探究」の目標に、作品の成立した背景や他の作品との関係を踏まえて古典を読むことが入っています。国語と歴史は、文学を読む場面で出会うのです。

作品の言葉そのものにも、時代が刻まれています。例えば『源氏物語』に出てくる「女御」と「更衣」は、天皇のきさきの位の名前で、女御のほうが上の位です。位の違いを知らないと、登場人物どうしの関係が読み取れません。

歴史の知識は、主に 3 つの場面で役立ちます。作品の舞台になった時代を知ること、作者が生きた時代を知ること、作品がどう読み継がれてきたかを知ることです。

作品を時代と一緒に読むことが、文学研究の基本です。

図解文学で歴史が役立つところ

歴史の知識
  • 政治のしくみ宮廷や身分が物語の筋を動かす
  • 暦と季節昔の月の名と今の季節のずれ
  • 世界の出来事革命や戦争が小説の舞台に
  • 作者の時代作者が見ていた社会を知る
  • 読まれ方の歴史写本や翻訳で読み継がれた道

02

日本史: 摂関政治を知ると『源氏物語』が分かる

平安時代の中ごろ、藤原氏は娘を天皇のきさきにし、生まれた皇子が天皇になると、母方の祖父として力をふるいました。日本史で学ぶ摂関政治です。藤原道長は、娘の彰子・妍子・威子らを次々にきさきにし、3 代の天皇の外戚になりました。

1018 年、威子がきさきに立った日の宴で、道長は「この世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることもなしと思へば」と詠みました。満月のように欠けたところがない、という権力の絶頂を表す歌です。

紫式部は、この道長の娘、中宮彰子に仕えた女房です。後宮では、きさきの父の力がきさきの立場を大きく左右しました。『源氏物語』の桐壺更衣が帝に愛されながら心細い思いをするのも、父の大納言を亡くし、頼れる後ろ盾がいなかったことが大きな理由です。

摂関政治を知っていると、この場面が恋の物語であると同時に、家の力をめぐる物語でもあると分かります。

政治のしくみを知ると、物語の人間関係が立体的に見えてきます。

図解摂関政治のしくみ

  1. 1娘をきさきに有力な貴族が娘を天皇に嫁がせる
  2. 2皇子が生まれるその皇子が次の天皇になる
  3. 3外戚になる天皇の母方の祖父として力を持つ
  4. 4女房が仕えるきさきのもとに紫式部らが集まる
池に浮かぶ竜と鳥の頭の飾りをつけた 2 そうの船に楽人が乗り、建物の縁から貴族が眺める絵巻の一部
藤田美術館が所蔵する国宝『紫式部日記絵巻』の一場面。紫式部が彰子に仕えた日々の記録をもとに、13 世紀前半ごろに描かれました。写真: 作者不詳(Public domain・Wikimedia Commons)

03

暦の歴史: 「五月雨」は 5 月の雨ではない

日本は明治 5 年(1872 年)の 11 月に、太陽暦への改暦を発表しました。それまでの暦(旧暦)の明治 5 年 12 月 3 日が、新しい暦の明治 6 年 1 月 1 日になりました。準備の期間がほとんどなく、国内は混乱したと国立国会図書館は紹介しています。

旧暦の月の呼び名(和風月名)は、今の季節感と 1〜2 か月ほどずれています。例えば「五月雨」は、旧暦 5 月ごろに降り続く長雨のことです。今の暦では 6 月ごろの梅雨にあたります。

松尾芭蕉が『おくのほそ道』で詠んだ「五月雨をあつめて早し最上川」も、梅雨の雨を集めて勢いを増した川の句です。6 月の呼び名の「水無月」も、「無」は「の」の意味で、水の月、田に水を引く月だと言われます。

改暦という日本史の知識があれば、古典の季節の言葉を、今の季節に置きかえて読めるようになります。

改暦を知ると、古典の季節の言葉を正しく読めます。

図解旧暦と今の暦

旧暦(太陰太陽暦)

  • 明治 5 年まで使われた
  • 月の満ち欠けに季節の調整を加える
  • 五月雨 = 旧暦 5 月ごろの長雨

今の暦(太陽暦)

  • 明治 6 年から使われている
  • 太陽の動きをもとにする
  • 五月雨は 6 月ごろの梅雨にあたる
川岸の木の標柱の向こうに、緑の山に囲まれた広い川と、川を下る小さな遊覧船が見える
山形県の最上峡を下る遊覧船。芭蕉と曾良も、このあたりの最上川を舟で下りました。写真: ブルーノ・プラス(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

04

世界史: 『レ・ミゼラブル』のバリケードはいつ?

ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』は、1862 年に出版されました。ミュージカルや映画で知っている人も多い作品です。物語の背景は、1815 年のワーテルローの戦いから、1832 年の共和派の蜂起のころまでの社会です。

後半で若者たちがバリケードを築く市街戦は、1832 年 6 月にパリで起きた共和派の蜂起がもとになっています。1789 年のフランス革命の場面ではありません。世界史で学ぶ革命の流れを知っていると、この勘違いを避けられます。

フランスでは 1789 年の革命のあとも、ナポレオンの時代、王政の復活、1830 年の七月革命と、政治の形が何度も変わりました。登場人物の立場や考え方の違いも、この流れを知ると読み取りやすくなります。

ユゴーは、蜂起のあった 1832 年から 1848 年まで、パリのヴォージュ広場に面した建物に住んでいました。今はヴィクトル・ユゴー記念館として公開されています。

小説の舞台の年を確かめると、場面の意味を正しくつかめます。

図解『レ・ミゼラブル』までの年表

  1. 11789 年フランス革命が始まる
  2. 21815 年ワーテルローの戦い
  3. 31830 年七月革命で王が代わる
  4. 41832 年パリで共和派が蜂起する
  5. 51862 年『レ・ミゼラブル』が出版される
赤いれんがと白い石の壁に、青い屋根と多くの窓が並び、1 階がアーチの回廊になった建物
パリのヴォージュ広場に面したヴィクトル・ユゴー記念館。ユゴーは 1832 年から 1848 年まで、この建物に住んでいました。写真: Staroad.fr(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

05

苦手でも大丈夫: 作品から歴史に入る

年号を覚えるのが苦手でも、心配はいりません。文学を学ぶときに大切なのは、出来事の暗記よりも、その時代の人が何を大切にし、どう暮らしていたかを想像する力です。

おすすめは、好きな作品から入る方法です。作品が書かれた年と、舞台になった年を調べ、教科書の年表に書き込みます。全員が学ぶ「歴史総合」は、近現代の日本と世界を互いの関わりの中で学ぶ科目なので、近代の小説の背景を知るのに役立ちます。

近代の小説では、日本史と世界史の両方の知識が生きます。森鷗外の『舞姫』(1890 年)は、ベルリンに留学した若い官僚の物語です。鷗外自身も、1884 年から 4 年間、医学を学ぶためにドイツへ留学していました。明治の日本が西洋に学ぼうとした時代を知ると、主人公の迷いの重さが分かります。

大学の文学部には文学史や文化史の授業があり、時代の流れを作品と一緒に学び直せます(科目の名前や学ぶ時期は大学によって異なります)。

好きな作品の年を年表に書き込むことから、歴史と文学はつながります。

クイズ歴史と文学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1古典に出てくる「五月雨」は、今の暦ではいつごろの雨?

  2. Q2『レ・ミゼラブル』の市街戦の場面のもとになった出来事は?

  3. Q3紫式部が仕えた中宮彰子の父は誰?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 国立国会図書館の「日本の暦」を見る

    国立国会図書館の電子展示会「日本の暦」では、江戸時代の暦や明治の改暦の資料を画像で見られます。「大小暦クイズ」にも挑戦し、昔の人が月の大小をどう覚えたかを確かめましょう。

    国立国会図書館「日本の暦」
  • 好きな作品の年表を作る

    好きな小説や古典を 1 つ選び、書かれた年と舞台の年を調べましょう。教科書の年表に書き込むと、作者がどんな出来事を見ていたかが見えてきます。

  • 『紫式部日記』と教科書を並べて読む

    図書館で『紫式部日記』の現代語訳を借り、日本史の教科書の摂関政治のページと並べて読みましょう。道長や彰子が、日記の中でどう描かれているかが分かります。

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よくある質問

日本史と世界史、どちらを選べばよいですか?

学びたい文学によって役立つ科目が変わります。日本の古典や近代文学なら日本史探究、外国の文学なら世界史探究が背景を知る助けになります。全員が学ぶ歴史総合でも、近現代の日本と世界のつながりを学べます。入試で選べる科目は大学によって異なります。

歴史が苦手でも、文学部でやっていけますか?

やっていけます。大学には文学史や文化史の授業があり、作品と一緒に時代の流れを学び直せます。高校のうちは、好きな作品の時代を調べることから始めると、興味のある時代から歴史に入れます。

歴史学科と文学科では、何が違いますか?

歴史学は、古文書などの史料から、過去に何が起きたかを明らかにします。文学研究は、作品の言葉を読み解き、表現の意味や価値を考えます。同じ『紫式部日記』でも、歴史学では宮廷の記録として、文学では作品として読みます。