図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
国語
高校の国語で学ぶ古文の文法や漢文の訓読は、大学で『源氏物語』や漢詩を原文で読む力になります。文章を一語ずつ丁寧に読む力は、近代の小説を深く読み解くときの土台です。

ひとことで言うと
字幕なしで映画を楽しめるようになるとき
字幕つきでも話の筋は分かりますが、役者の言葉の細かな味わいは字幕から落ちてしまいます。古文の文法や漢文の知識があると、現代語訳という字幕を外して、作品を原文のまま味わえるようになります。

01
文学は、言葉そのものを読む学問
日本学術会議の参照基準(言語・文学分野)は、「文学の学修は、その媒体となる言語の学修と不可分である」と書いています。日本の文学を学ぶなら、日本語そのものを読む力が欠かせません。
大学の授業では、1 つの作品を一字一句ゆっくり読む「精読」を大切にします。参照基準も、精読は語彙・文法・文体についての確かな知識と力を身につける助けになると説明しています。国語の授業での読み方が、そのまま大学の学び方になります。
参照基準は、文学の学びの成果として、卒業論文のほかに創作や書評、翻訳なども挙げています。どれも、言葉を正確に読み、選んで書く力がもとになります。
高校の国語は、全員が学ぶ「現代の国語」「言語文化」と、選んで学ぶ「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」から成ります。下の図のように、どの科目も大学の文学のどこかにつながっています。
国語で身につける読む力が、文学研究のいちばんの土台です。
図解高校の国語と大学の文学
- 言語文化古典と近代の作品に初めて触れる
- 古典探究古文・漢文を原文で深く読む
- 文学国語小説や詩歌を読み、書く
- 論理国語レポートや卒業論文の書き方
- 現代の国語説明や議論を正確に読む

02
古文の文法: 『源氏物語』の 1 文目を読む
『源氏物語』は、平安時代の中ごろに紫式部が書いた長い物語です。11 月 1 日の「古典の日」は、寛弘 5 年(1008 年)11 月 1 日の『紫式部日記』に、この物語が記録として初めて現れることにちなんでいます。
冒頭の 1 文は「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり」です。主語がはっきり書かれていないため、敬語が人物を見分ける手がかりになります。
「さぶらふ」は、身分の高い人のそばにお仕えするという意味の謙譲語で、帝への敬意を表します。「たまふ」は尊敬語で、女御や更衣への敬意です。2 つの敬語が重なることで、帝と女御・更衣の関係が一度に分かります。
「時めく」にも注意が必要です。古文では、帝などに特に大切にされて栄えることを言い、今の「胸がときめく」とは意味が違います。この 1 文は、それほど高い身分ではないのに、帝に特に愛された女性がいた、という意味になります。
敬語と古語の意味が分かると、主語の書かれない文でも人物が見えてきます。
図解『源氏物語』の 1 文目を読む
- 1「さぶらふ」= お仕えする(帝への敬意)
- 2「たまふ」= 女御・更衣への敬意
- 3「時めく」= 帝に大切にされて栄える

03
漢文: 平安の宮廷でも、漢詩は会話の種だった
『枕草子』には、雪の降り積もった日の有名な場面があります。中宮定子が「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」とたずねると、清少納言は格子を上げさせ、御簾を高く巻き上げました。それを見た定子は笑ったと書かれています。
これは、唐の詩人白居易の詩句「香炉峰の雪は簾をかかげて看る」を踏まえたやりとりです。定子は詩をなぞなぞのように使い、清少納言は言葉ではなく、詩のとおりの動作で答えたのです。漢詩を知らないと、この場面の面白さは分かりません。
江戸時代の松尾芭蕉も、漢詩を作品に生かしました。1689 年に始まる『おくのほそ道』の旅で、芭蕉は平泉で「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」と記しています。唐の杜甫の詩「春望」の「城春にして草木深し」を、「草青みたり」に変えて引いたものです。
高校で学ぶ返り点や送り仮名は、中国の文語文である漢文を、日本語の文章として読むための決まりです。この決まりを知っていると、大学の漢文学や中国文学の授業だけでなく、日本の古典の奥にある漢詩にも気づけます。
漢文を学ぶと、日本の古典の中に隠れた漢詩に気づけます。
図解漢詩を踏まえた 2 つの名場面
『枕草子』
- 平安時代の宮廷での出来事
- 踏まえた詩: 白居易の詩句
- 御簾を高く上げて答える
『おくのほそ道』
- 江戸時代の芭蕉の旅
- 踏まえた詩: 杜甫の「春望」
- 「草木深し」を「草青みたり」に

04
古典を知ると、近代の小説も深く読める
芥川龍之介の「羅生門」は、1915 年 11 月に雑誌『帝国文学』に発表された短編小説です。芥川はこのとき、柳川隆之介という名前を使いました。平安時代後期の説話集『今昔物語集』の巻第 29 第 18 話「羅城門登上層見死人盗人語」を元に書かれています。
元の話を読んでから小説を読むと、芥川がどこを変え、何を書き足したのかが見えてきます。作品の元になった話や資料は「典拠」や「出典」と呼ばれます。それを調べて比べることは、文学研究の大切な方法の 1 つです。
高校の「言語文化」の学習指導要領解説も、古典の作品と近代以降の作品を読み比べる学習を例に挙げています。「羅生門」と『今昔物語集』は、ちょうどその組み合わせです。
比べて気づいたことを、根拠を示して文章にまとめる力は「論理国語」で身につきます。小説の表現を味わう力は「文学国語」で深まります。大学の卒業論文は、この 2 つの力を合わせる仕事です。
古典と近代の作品を比べて読む力は、卒業論文の出発点になります。
図解読み比べで論文の種を見つける
- 1元の話を読む『今昔物語集』巻第 29 第 18 話
- 2小説を読む芥川龍之介「羅生門」(1915 年)
- 3違いを書き出す人物・結末・言葉の違いを表にする
- 4理由を考えるなぜ変えたのかを根拠と一緒に書く


05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
学習指導要領解説は、古典を読むとは、原文を一語ずつ現代語に置きかえることではないと書いています。文法を断片的な知識として覚えるだけにならないよう、作品を読むことと結びつけて学ぶことを求めています。
学び直すなら、まず現代語訳で話の筋をつかみ、次に原文を声に出して読む順番がおすすめです。その上で、歴史的仮名遣い、用言の活用、助動詞、係り結び、敬語の順に確かめると、主語の書かれない文も読めるようになります。漢文は、返り点の読み方から始めれば十分です。
古文に親しむ入口には、百人一首も向いています。小野小町の「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」では、「ふる」に「降る」と「経る」、「ながめ」に「長雨」と「眺め」が重ねられています。こうした掛詞を 1 首ずつ確かめると、文法が生きた知識になります。
大学の古典の授業も、注釈書や辞書を引きながら、少しずつ読み進める形が多くあります。くずし字で書かれた写本を読む授業を開いている大学もありますが、高校では習わない内容なので、大学で一から学べます。
現代語訳で筋をつかんでから原文へ進むと、古文はぐっと読みやすくなります。
高校生のうちに試せること
AI のアプリでくずし字を読む
無料アプリの「みを(miwo)」は、くずし字の資料をスマートフォンで撮影すると、AI が今の文字に変えてくれます。下の国書データベースで見つけた写本の画像で、どこまで読めるか試しましょう。
CODH「みを(miwo)」国書データベースで古典の写本を見る
国文学研究資料館の国書データベースでは、古典の写本や版本の画像を無料で見られます。教科書で読んだ作品の名前で探し、昔の人が手で写した本の姿を確かめましょう。
国文学研究資料館 国書データベース「羅生門」と元の話を読み比べる
青空文庫で「羅生門」を読み、図書館で『今昔物語集』の現代語訳から「羅城門登上層見死人盗人語」を探しましょう。登場人物や結末の違いを表にすると、芥川が変えたところが見えてきます。
青空文庫「羅生門」
「国語」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 245 件から探せます。
中国文学語学分野
広島大学(広島県)
人間社会科学研究科 人文学プログラム・中国文学語学・川島 優子 教授
明清の白話小説など、中国の古典文学を研究している。
日本語日本文学研究室
熊本大学(熊本県)
文学部 東アジア言語文化学コース・日本語学・日本文学
日本語の歴史や方言、古代から近代までの日本の文学作品を研究する。
日本語学研究室
岡山理科大学(岡山県)
古典文学研究室
ノートルダム清心女子大学(岡山県)
日本語学研究室
ノートルダム清心女子大学(岡山県)
漢文学研究室
岡山理科大学(岡山県)
よくある質問
古文や漢文が苦手でも、文学部に入れますか?
入れます。入試の国語の範囲は大学や方式によって異なり、漢文を出題しない大学もあります。入学後は注釈書や辞書を引きながら少しずつ読む授業が多いので、高校のうちに助動詞と敬語の基本を復習しておくと楽になります。
近代の小説だけを研究したい場合も、古文は必要ですか?
専攻によって必要な量は違います。ただ、明治の文章には文語体で書かれたものもあり、近代の作家も古典を下敷きに作品を書いています。「羅生門」のように、古典を知っていると読みが深まる作品は少なくありません。
高校のうちに、国語でいちばんやっておくとよいことは?
好きな作品を 1 つ選び、気になる言葉に線を引きながら、ゆっくり読み返すことです。大学の授業で大切にする精読の練習になります。