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図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2

化学

血液の pH、薬の形、からだの中の反応の速さ。高校の化学基礎と化学で学ぶ酸と塩基・有機化合物・反応速度は、医学部の生化学や薬理学で、からだと薬を理解するための言葉になります。

実験室で、色の違う液が並んだ試験管を見比べる学生、ヤナギの枝を手に話す学生、泡が勢いよく立つビーカーをのぞきこむ学生たち

ひとことで言うと

同じ材料でも、火加減で料理は変わる

料理は、材料の組み合わせと火加減で出来上がりが変わります。からだの中でも、どんな物質がどれだけの速さで反応するかで、はたらきが決まります。その材料と火加減を読み解く道具が化学です。

01

からだの中は、化学反応でできている

医学部では、からだの中の物質と反応を、化学の言葉で説明します。例えば杏林大学医学部の 1 年生には「生体化学」という授業があります。シラバスによると、高校の化学では単なる有機化合物として習った物質が、からだの中では大切な役割を担っています。それを学ぶのが、この授業のねらいの 1 つです。

同じシラバスには、からだの恒常性を保つ緩衝液の理論や、酵素が化学反応を速めるしくみが到達目標として並びます。ここで学ぶことは、のちの代謝生化学・薬理学・生理学の土台になります。

文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムにも、化学とつながる学修目標があります。酵素のはたらきと調節や、薬が受容体に結合して効くしくみなどです。高校で学ぶ酸と塩基、有機化合物、反応速度は、こうした授業でくり返し使います。

病院でよく使う点滴の生理食塩水も、化学で説明できます。水 1,000 mL に食塩 9 g をとかした、濃度 0.9% の食塩水です。血液の液体の部分と浸透圧が等しいので、赤血球などの細胞が水を吸ってふくらんだり、縮んだりしません。化学で学ぶ溶液の濃度と浸透圧が、ここで生きています。

化学は、からだと薬の中で起きていることを説明する言葉です。

図解医学部で化学が出てくる場所

高校の化学
  • 酸と塩基・pH生理学で血液の pH の調節を学ぶ
  • 化学平衡緩衝液が pH の変化をおさえる
  • 有機化合物薬理学で薬の形とはたらきを学ぶ
  • 反応速度・触媒生化学で酵素のはたらきを学ぶ
  • 天然高分子糖・アミノ酸・たんぱく質の代謝
  • 溶液と浸透圧点滴の生理食塩水の濃度

02

酸と塩基: 血液の pH は 7.4 前後に保たれる

化学基礎では酸と塩基、pH を学び、化学ではさらに電離平衡を学びます。学習指導要領は、そこで緩衝液にもふれることとしています。緩衝液は、酸や塩基が少し加わっても pH が変わりにくい液です。

からだの中で、この緩衝液のはたらきをしているのが血液です。健康な人の血液は弱い塩基性で、pH はおよそ 7.35〜7.45 の間に保たれています。pH が 1 違うと水素イオンの濃度は 10 倍違うので、これはとても狭い範囲です。特に大切なのは、二酸化炭素が水に溶けてできる炭酸と、炭酸水素イオンの組み合わせです。

細胞は、栄養を使うたびに二酸化炭素を出しています。二酸化炭素が血液にたまると、pH は下がります。そこで脳は呼吸の速さと深さを変え、肺から出す二酸化炭素の量を分単位で調節しています。腎臓も、数日かけて余分な酸や塩基を体の外に出し、pH を整えます。

医師は、血液の pH と、二酸化炭素や炭酸水素イオンの量を測って、からだの状態を調べます。高校の化学平衡の考え方が、そのまま患者のからだを読み解く道具になっているのです。

血液の pH を保つしくみは、化学で学ぶ緩衝液そのものです。

図解階段を駆け上がったとき

入力階段を一気に駆け上がり、脚の筋肉がたくさんはたらいた
  1. 1筋肉の細胞から、二酸化炭素が多く出る
  2. 2血液の中で炭酸が増え、pH が下がろうとする
  3. 3脳が呼吸を速く深くし、肺から二酸化炭素を出す
結果息がはずむのには、血液の pH を保つという意味もある
試験管立てに並んだ 10 本ほどの試験管。左から赤、紫、青、緑、黄色と、液の色が少しずつ変わっていく
紫キャベツの汁で pH を調べた試験管。左ほど酸性、右ほど塩基性で、pH によって色が変わります。写真: Supermartl(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

03

有機化合物: ヤナギの樹皮から生まれた薬アスピリン

化学の有機化合物の単元では、ベンゼンの環をもつ芳香族化合物として、サリチル酸やアセチルサリチル酸が出てきます。サリチル酸に無水酢酸をはたらかせて、アセチルサリチル酸をつくる反応も学びます。学習指導要領の解説も、サリチル酸の仲間など、からだにはたらく有機化合物の発見や合成の歴史を、扱う例に挙げています。

ヤナギの樹皮が痛みや熱をやわらげることは、古代から知られていました。19 世紀に入ると樹皮からサリチル酸が取り出され、1859 年にはドイツのコルベが構造を明らかにして合成しました。ただ、サリチル酸は胃を荒らし、飲み続けられない患者もいました。

1897 年、ドイツのバイエル社の化学者ホフマンは、サリチル酸にアセチル基をつけたアセチルサリチル酸を合成しました。名前のアスピリンは、アセチルの「A」と、サリチル酸がとれる低木シモツケの仲間の属名「スピラエア」から付けられました。

では、なぜ効くのでしょうか。1971 年、イギリスのベインが、アスピリンはプロスタグランジンという物質ができるのを妨げて効くことを示しました。プロスタグランジンは、からだの中でホルモンのようにはたらく物質です。合成から 70 年以上たって、ようやくしくみが分かったのです。ベインはこの研究などで、1982 年のノーベル生理学・医学賞を受けています。

薬の多くは有機化合物で、構造の小さな違いがはたらきを変えます。

図解アスピリンが生まれるまで

  1. 1古代ヤナギの樹皮が痛みや熱に使われる
  2. 21859 年コルベがサリチル酸を合成する
  3. 31897 年ホフマンがアセチル基をつける
  4. 41971 年ベインが効くしくみを示す
夏の青空の下、草原の中に立つ、枝が垂れ下がった大きなヤナギの木
ドイツ・バイエルン州のヤナギの木。ヤナギの樹皮は、古代から痛みや熱をやわらげるのに使われてきました。写真: Hans-Jürgen Neubert(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

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反応速度と触媒: 酵素は、からだの中の触媒

化学では、反応の速さが濃度・温度・触媒で変わることを学びます。学習指導要領の解説は、その例として過酸化水素の分解反応を挙げています。過酸化水素水に触媒の酸化マンガン(IV)を入れると、酸素の泡が勢いよく出てくる反応です。

同じ反応を、からだの中では酵素のカタラーゼが進めます。カタラーゼは肝臓や赤血球などに多く、酵素の中でも特に反応が速いことで知られます。生のレバーを過酸化水素水に入れると泡が出るのは、このためです。

酵素は、反応に必要なエネルギー(活性化エネルギー)の壁を低くして、体温くらいの温度でも反応を速く進めます。酵素の正体はたんぱく質で、熱を加えすぎると立体の形がくずれ、はたらきを失います。からだの中の化学反応の多くは、酵素の助けを借りて進みます。そのため、酵素や受容体のはたらきを強めたり弱めたりすることが、多くの薬の役目になります。

アスピリンも、プロスタグランジンができる反応を妨げる薬です。コア・カリキュラムには、薬の量とからだの反応の関係(用量反応曲線)も学修目標に挙がっています。反応の速さと量を数字で考える力は、薬理学でそのまま生きます。

酵素は、体温でも反応を速く進める、からだの中の触媒です。

クイズ化学と医学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1健康な人の血液の pH は、およそどのくらい?

  2. Q2薬の名前「アスピリン」の最初の「A」が表すものは?

  3. Q3過酸化水素水に生のレバーを入れると出てくる泡の正体は?

0 / 3 問に回答

05

苦手でも大丈夫: どこから学び直すか

杏林大学医学部のシラバスは、高校化学の知識を、生体化学・代謝生化学・薬理学の講義に欠かせないものとしています。そのため 2026 年度の 1 年生には、9 コマの「入門化学」があります。高校で化学を履修しなかった学生を対象に、生化学の基礎になる高校化学を講義する授業です。

学び直すなら、化学基礎の物質量(mol)と酸・塩基から始めるのが近道です。次に化学の電離平衡と緩衝液、反応速度へ進みます。最後に有機化合物と、糖・アミノ酸・たんぱく質などの天然高分子化合物を学ぶと、生化学の授業にそのままつながります。

覚える反応が多いと感じたら、このページの血液の pH やアスピリンのように、からだや薬の話に結びつけて覚えるのがおすすめです。高校の「化学」のページや、大学の「化学」のページもあわせて読むと、化学がどの学問につながっているかが見えてきます。入試で必要な理科の科目は大学によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

化学の知識は、医師になってからも生きます。薬理学や生化学の研究者として新しい薬のしくみを調べる医師や、製薬会社で新しい薬の臨床試験に関わる医師もいます。医学のページの「薬や医療機器をつくる」もあわせて読むと、仕事の姿が具体的に見えてきます。

酸・塩基と有機化合物が分かれば、生化学と薬理学の入口に立てます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1化学基礎物質量(mol)、酸・塩基と pH
  2. 2化学(理論)電離平衡と緩衝液、反応速度
  3. 3化学(有機)有機化合物と天然高分子化合物
  4. 4大学生化学・薬理学で、からだと薬へ

高校生のうちに試せること

  • 紫キャベツで pH の色見本を作る

    刻んだ紫キャベツをお湯にひたすと、紫色の液がとれます。酢、水、重曹をとかした水などに少しずつ加えて、色の違いを並べてみましょう。色見本ができたら、身近な液体が酸性か塩基性かの見当がつきます。

  • 大根おろしで酵素の泡を比べる

    学校の理科室で先生に相談し、オキシドール(うすい過酸化水素水)に大根おろしを少し入れてみましょう。加熱した大根おろしと泡の出方を比べると、熱で酵素のはたらきが失われることが分かります。

  • PubChem でアスピリンを回してみる

    PubChem は、アメリカ国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する、物質のデータベースです。アスピリンのページで 3D の図を回し、教科書の構造式のベンゼン環やアセチル基がどこにあるかを確かめましょう。

    PubChem「Aspirin」
  • 化学グランプリの過去問に挑戦する

    日本化学会の化学グランプリは、高校生以下が化学の力を競うコンテストです。過去の問題と解説が公式サイトで公開されているので、酸と塩基や有機化合物の問題から解いてみましょう。

    化学グランプリ 過去出題問題

「化学」に関連するコミュニティ

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よくある質問

高校で化学を選ばないと、医学部の授業は難しいですか?

入試で必要な理科の科目は大学によって異なり、化学を履修しなかった人向けに、入学後に高校化学の基礎を学べる授業を置く大学もあります。ただ、生化学や薬理学では化学の知識をくり返し使うので、化学基礎と化学を学んでおくと授業についていきやすくなります。

化学は覚えることが多くて苦手です。

反応をばらばらに覚えるより、しくみと結びつけて覚えると忘れにくくなります。例えば、炭酸と炭酸水素イオンの組み合わせが pH の変化をおさえる理由を、平衡の移動で説明できるようにしておくと、医学部の生理学や生化学の授業が分かりやすくなります。

医学部と薬学部では、化学の学び方は違いますか?

薬学部では、有機化学や分析化学など、薬をつくり調べるための化学を深く学びます。医学部では、生化学や薬理学で、からだの中の反応や薬のはたらきを理解するために化学を使います。どちらも、高校の化学が出発点です。