大学カタログ

図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1

生物

細胞、遺伝子、からだの調節、免疫。高校の生物基礎と生物で学ぶこれらのしくみが、医学部の生理学・免疫学・遺伝医学などの授業の土台になります。

明るい実験室で、顕微鏡で小さな緑の藻をのぞく学生、温度を変える箱型の装置に小さな試験管を並べる学生、白血球の大きな模型を囲んで話し合う学生たち

ひとことで言うと

からだを 1 軒の家にたとえると

細胞は部屋、遺伝子は設計図、体温や血糖を保つしくみは空調の自動運転、免疫は警備員です。高校の生物では、この家のつくりと設備の動き方を一通り学びます。医学部では、その設備が故障したときに何が起きるのかを学んでいきます。

01

医学部の授業は、高校の生物の続きから始まる

医学部の 1〜3 年生ごろに学ぶ基礎医学の多くは、高校の生物とつながっています。文部科学省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」には、医学生が身につける学修目標が並んでいます。メンデルの法則、DNA からたんぱく質ができるしくみ、体内環境のフィードバック調節などです。どれも、高校の生物基礎・生物で入口を学ぶ内容です。

最新のノーベル賞も、高校の生物の言葉で読み解けます。2026 年のノーベル生理学・医学賞は、光で神経細胞を動かす「光遺伝学(オプトジェネティクス)」の研究に贈られました。始まりは、クラミドモナスという単細胞の緑藻が、なぜ光に向かって泳げるのかという疑問でした。

ドイツのヘーゲマンとナーゲルは、この藻の細胞の表面に、青い光が当たると開くイオンの通り道を見つけました。アメリカのダイセロスは 2005 年、その遺伝子をラットの神経細胞に入れ、光で神経の信号を起こすことに成功します。細胞膜のたんぱく質、遺伝子を扱う技術、神経の信号という、高校の生物で学ぶ 3 つの内容がそろって初めて分かる研究です。

この方法で、記憶や感情、行動に関わる脳の回路が次々に明らかになりました。目の不自由な人の視力を取り戻すための研究にも使われ始めています。

医学の授業の多くは、高校で学ぶ細胞・遺伝子・調節・免疫の続きです。

図解医学部で生物が出てくる場所

高校の生物
  • 細胞と分子組織学・生化学で細胞の中を学ぶ
  • 遺伝子と DNA遺伝医学や検査のしくみの土台
  • 体内環境の維持生理学で血糖や体温の調節を学ぶ
  • 免疫免疫学で病原体から守るしくみを学ぶ
  • 神経とホルモン生理学で信号の伝わり方を学ぶ
黒い背景に、細長い 2 本の毛が生えた楕円形の小さな細胞がたくさん集まっている、白黒の顕微鏡の写真
電子顕微鏡で見たクラミドモナス。2 本のべん毛で水中を泳ぎます。この藻の光を感じるたんぱく質が、光遺伝学の出発点になりました。写真: Dartmouth Electron Microscope Facility(Public domain・Wikimedia Commons)

02

遺伝子: 「2 倍、2 倍」で DNA を増やす PCR

高校の生物基礎では、DNA の 2 本の鎖がほどけ、それぞれを鋳型に新しい鎖ができる複製のしくみを学びます。この反応を試験管の中で何度もくり返し、ごくわずかな DNA を大量に増やす技術が PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)です。学習指導要領の解説でも、生物の「遺伝子を扱う技術」の例として PCR 法が挙げられています。

PCR を考えたのは、アメリカの化学者キャリー・マリスです。ノーベル賞の記念講演によると、ある金曜日の夜、山小屋へ車を走らせながら思いつきました。くり返すたびに DNA が 2 倍になるなら、30 回で 2 の 30 乗、つまり約 10 億倍になります。マリスはこの発明で、1993 年のノーベル化学賞を受けました。

初めのころの装置は、温度の違う 3 つの水槽の間で、機械が試料を移していくしくみでした。今の装置は、1 つの箱の中で数分ごとに温度を変え、30〜40 回のくり返しを数時間で終えます。

医学部では、遺伝医学や微生物学、臨床検査の授業で PCR が出てきます。新型コロナウイルスの流行で広く知られた PCR 検査は、ウイルスの遺伝子を増やして見つけ出す検査です。はしかや風疹の検査にも使われています。

DNA の複製のしくみを知ると、遺伝子の検査の原理が分かります。

図解PCR の 1 回のくり返し

  1. 1熱で 2 本に分けるDNA の 2 本の鎖をほどく
  2. 2目印がつく温度を下げると、短い DNA が目的の場所につく
  3. 3酵素が伸ばすDNA ポリメラーゼが新しい鎖をつくる
  4. 42 倍になる30 回くり返すと約 10 億倍
温度の表示が並んだ操作盤の下に、四角い 3 つの水槽が横一列に並んだ古い装置
初期の PCR の装置。温度の違う 3 つの水槽の間で、機械が試料を移しながら反応をくり返しました。写真: Agesworth(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

03

体内環境: 血糖濃度を保つ「負のフィードバック」

外の気温や食事の量が変わっても、体温や血液の成分はほぼ一定に保たれます。この性質を恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。1932 年に、アメリカの生理学者キャノンが提唱した言葉です。キャノンは、止まって動かない状態ではなく「変化しつつも安定した状態」を表す言葉だと説明しました。

生物基礎では、その代表例として血糖濃度の調節を学びます。食事のあと血糖濃度が上がると、すい臓からインスリンが出て、血糖濃度を下げます。空腹で下がると、今度はグルカゴンなどが血糖濃度を上げます。結果が原因を打ち消す方向にはたらくこのしくみを、負のフィードバックと呼びます。

学習指導要領の解説は、食事の前後の血糖濃度とインスリン濃度の変化を、グラフから読み取る学習を例に挙げています。インスリンが足りなくなって起こる身近な病気として、糖尿病にもふれます。医学部の生理学でも、同じようにグラフや数値からからだの変化を読み取ります。

コア・カリキュラムには「恒常性維持のための調節機構(フィードバック調節)」が学修目標として挙がっています。医学部では、生理学で体温・血圧・体液の調節を、生化学で糖や脂質の代謝を、さらにくわしく学びます。

からだの調節の多くは、負のフィードバックで成り立っています。

図解食事のあと、血糖濃度が戻るまで

  1. 1食事をとるブドウ糖が吸収され、血糖濃度が上がる
  2. 2すい臓がはたらくインスリンが血液の中に出る
  3. 3細胞が取り込む肝臓や筋肉がブドウ糖を取り込み、たくわえる
  4. 4血糖濃度が下がるインスリンの分泌も減っていく

04

免疫: 自分のからだを攻撃しない「見張り役」

生物基礎では、白血球が異物を取り込んで処理するしくみや、抗体による防御を学びます。花粉症のように、免疫のはたらきが関わる身近な病気にもふれます。医学部の免疫学では、これを細胞や分子のレベルまで深めていきます。

免疫には、外から来た病原体を攻撃しながら、自分の細胞は攻撃しないという難しい役目があります。1995 年、京都大学医学部出身の坂口志文さんは、新しい種類の T 細胞を見つけました。免疫が自分のからだを攻撃しないよう、おさえる役目をもつ細胞です。今では制御性 T 細胞と呼ばれています。

当時は、自分を攻撃する危険な免疫の細胞は、胸腺で取り除かれるだけだと考える研究者が多くいました。ノーベル賞の発表は、坂口さんが流れに逆らって研究していたと紹介しています。2001 年には、アメリカのブランコウとラムズデルが、関わる遺伝子 Foxp3 を見つけました。3 人は 2025 年のノーベル生理学・医学賞を受けています。

この発見は、がんや自己免疫疾患の新しい治療法の研究につながり、いくつかは臨床試験が行われています。医学部では、制御性 T 細胞を含む免疫のしくみを基礎医学の免疫学で学びます。

免疫は、攻撃するしくみとおさえるしくみの両方で成り立っています。

クイズ生物と医学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1PCR で DNA を 2 倍にするくり返しを 30 回行うと、およそ何倍になる?

  2. Q2坂口志文さんたちが見つけた制御性 T 細胞の主なはたらきは?

  3. Q32026 年のノーベル生理学・医学賞。神経を光で動かす研究のきっかけになった生き物は?

0 / 3 問に回答
細かいひだのような突起におおわれた丸い細胞を、黒い背景に青く色づけした顕微鏡の写真
電子顕微鏡で見たヒトの T 細胞(色は後から付けたもの)。制御性 T 細胞も、T 細胞の仲間です。写真: NIAID/NIH(Public domain・Wikimedia Commons)

05

生物を選ばなかった人へ: どこから学び直すか

医学部の入試では、理科を物理・化学・生物から 2 科目選ぶ大学が多く、物理と化学で受験する人もいます。そのため、入学後に生物の基礎から学べる授業を置く大学があります。

例えば杏林大学医学部の 2026 年度の 1 年生には、9 コマの「入門生物学」があります。シラバスは、高校で生物を履修していない人に限らず、大学で生命科学を学ぶための導入の講義だと説明しています。大阪大学理学部の Q&A も、高校で生物を学ばなかった 1 年生向けの集中講義を紹介しています。補習のような講義で、医・歯・薬学部の学生と合同で 4・5 月に開かれます。

学び直すなら、生物基礎の「ヒトの体の調節」から始めるのが近道です。神経とホルモン、血糖濃度の調節、免疫がまとまっています。次に生物の「生命現象と物質」と「遺伝情報の発現と発生」へ進むと、細胞の中で起きていることが見えてきます。

このサイトの高校の「生物」のページと、大学の「生物学」のページもあわせて読むと、高校で学ぶ内容がどの学問につながるかが分かります。入試で必要な理科の科目は大学によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

生物基礎の「ヒトの体の調節」が分かれば、医学の授業の入口に立てます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1生物基礎ヒトの体の調節(神経・ホルモン・免疫)
  2. 2生物生命現象と物質、遺伝情報の発現
  3. 3大学の入門の授業細胞・遺伝子・分子の基礎を固める
  4. 4基礎医学生理学・生化学・免疫学へ

高校生のうちに試せること

  • ノーベル賞の解説の図を読む

    ノーベル賞の公式サイトでは、受賞した研究を一般向けに説明した資料を公開しています。2026 年の光遺伝学の資料を開き、図の中から細胞膜・遺伝子・神経など、高校の生物で学んだ言葉を探しましょう。英語ですが、図を追うだけでも研究の流れがつかめます。

    The Nobel Prize「Popular information」(2026 年)
  • ブロッコリーから DNA を取り出す

    学校の理科室で先生に相談し、ブロッコリーのつぼみをすりつぶして、食塩と台所用の中性洗剤を混ぜた液を加えましょう。こした液に冷やしたエタノールを静かに注ぐと、白い糸のような DNA が浮かんできます。PCR で増やしているのも、この DNA です。

  • 教科書の血糖濃度のグラフを読み解く

    生物基礎の教科書で、食事の前後の血糖濃度とインスリン濃度のグラフを探しましょう。インスリンが増え始めるのは血糖濃度が上がる前か後か、グルカゴンはどう動くかを、自分の言葉で説明してみると、フィードバックのしくみが身につきます。

「生物」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 167 件から探せます。

研究室をすべて見る(158 件)

よくある質問

高校で生物を選ばなくても、医学部の授業についていけますか?

ついていけます。物理と化学で受験して入学する人もいて、1 年生で生物学の基礎から学べる授業を置く大学もあります。ただし覚えることが多いので、入学前に生物基礎の教科書を読んでおくと安心です。

生物と物理、医学部の受験ではどちらを選ぶべきですか?

どちらが有利かは、大学や入試の方式、自分の得意な科目によって異なります。生物を選ばなかった場合は入学後に学ぶ機会があり、物理も医学物理学や画像診断の装置の理解に使います。志望校の募集要項で、選べる科目を早めに確かめてください。

高校の生物は、暗記科目ではないのですか?

用語を覚えることも必要ですが、医学部で役立つのはしくみの理解です。学習指導要領は、用語を数多く覚えさせるより、生物基礎で 200〜250 語程度、生物で 500〜600 語程度の重要用語を中心に、しくみを理解させるよう求めています。なぜそうなるのかを説明できるようにしておくと、大学の授業につながります。