図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
生物
うれしい、こわい、覚えている。こうした心のはたらきは、脳と神経、ホルモンのはたらきと深く結びついています。高校の生物基礎と生物で学ぶ神経のしくみは、大学で学ぶ神経・生理心理学の入口になります。

ひとことで言うと
試合の前に心臓がドキドキするわけ
大事な試合の前は、心臓が速く打ち、手のひらに汗をかきます。「緊張する」という心の動きが、自律神経やホルモンを通して体にあらわれるからです。心と体のつながりを知るための科目が、生物です。

01
公認心理師の科目にも、脳と体のしくみがある
心理学は文系の学部に置かれることが多いものの、脳や体のしくみもよく学びます。国家資格の公認心理師になるための大学の 25 科目には、「神経・生理心理学」があります。中身は、脳と神経のつくりとはたらき、記憶や感情が生まれる体のしくみ、高次脳機能障害です。
ほかにも「人体の構造と機能及び疾病」や「精神疾患とその治療」があります。「精神疾患とその治療」では、薬による心と体の変化も学びます。ストレスと病気の関係を学ぶ「健康・医療心理学」も含めると、25 科目のうち少なくとも 4 つが体や脳と深く関わっています。
高校の生物基礎では、神経系と内分泌系(ホルモン)による体の調節を学びます。生物では、目で受け取った刺激が神経を通って筋肉の反応になるまでの流れを学び、神経系に関連して記憶にもふれます。どちらも、心理学の授業でそのまま使う知識です。
心のはたらきを深く知るには、脳と体のしくみが欠かせません。
図解心理学で生物が出てくる場所
- 神経とシナプス学習と記憶のしくみ
- 目と刺激の受容ものの見え方の心理学
- 自律神経緊張やストレスと体の変化
- ホルモン体の中の状態と心の関係
- 動物の行動行動と神経のはたらき

02
神経とシナプス: 一瞬の反応の中で起きていること
飛んできたボールを見て、手を出す。この一瞬に体の中では、目が光を受け取り、神経が信号を脳へ送り、脳から筋肉へ命令が出ています。高校の生物で学ぶ「刺激の受容と反応」の流れです。
神経の信号は、神経細胞(ニューロン)の中を電気の変化として伝わります。神経細胞どうしのつなぎ目はシナプスと呼ばれ、ここでは化学物質が信号を受け渡します。心理学で学ぶ学習や記憶は、このつなぎ目の変化と深く関わっています。
心理学の実験では、反応にかかる時間をよく測ります。友だちが落とした定規をつかむだけでも、およその反応時間が分かります。物理で学ぶ落下の式を使えば、定規が落ちた距離から時間を計算できます。
反応の速さを測る実験の裏には、神経のしくみがあります。
図解定規で反応時間を測る
- 1落ちた距離 = 1/2 × 9.8 × 時間 × 時間
- 20.2 m = 4.9 × 時間 × 時間
- 3時間 × 時間 は約 0.041


03
学習と記憶: アメフラシが教えてくれたこと
心理学では、経験によって行動が変わることを「学習」と呼びます。公認心理師の科目の「学習・言語心理学」でも、人の行動が変化する過程を学びます。この学習が神経の中でどう起きるのかを、海の生き物で調べた研究者がいます。
アメリカのエリック・カンデルは、はじめ哺乳類で学習と記憶を調べましたが、しくみが複雑すぎると考えました。そこで選んだのがアメフラシです。神経細胞が約 2 万個と少なく、大きな細胞も多いからです。えらを守るために引っこめる、単純な反射を使って調べました。
ある刺激を受けると、この反射が強まり、その状態が何日も、何週間も続きました。カンデルは、学習によってシナプスのはたらきが強まることを示し、短い記憶も長い記憶もシナプスにあることを明らかにしました。この研究などで、2000 年にノーベル生理学・医学賞を受けています。
1990 年代には、マウスでも同じようなシナプスの変化が起きることを示しました。高校の生物で学ぶシナプスの知識は、こうした記憶の研究を理解する土台になります。
記憶は、神経細胞のつなぎ目の変化として残ります。
図解アメフラシで分かった学習のしくみ
- 1反射えらを守るために引っこめる
- 2ある刺激反射が強まるようになる
- 3シナプスの変化信号の受け渡しが強まる
- 4記憶変化が何日も何週間も続く


04
自律神経とホルモン: 気持ちは体にあらわれる
生物基礎では、体の中の状態を保つしくみとして、自律神経とホルモンを学びます。自律神経には、体を活動に向ける交感神経と、休むときにはたらく副交感神経があります。緊張すると心臓が速く打ち、汗が出るのは、交感神経のはたらきです。
心理学の実験では、こうした体の変化を、心の状態を知る手がかりとして測ることがあります。脳の活動を画像にする fMRI(機能的 MRI)も、心理学の研究で広く使われています。その原理である BOLD 法を 1990 年に発見したのは、アメリカのベル研究所の研究員だった小川誠二です。
小川は、血液の中のヘモグロビンが、酸素と結びつくかどうかで磁気の性質を変えることに目をつけました。この発見で、体を傷つけずにヒトの脳の活動を測れるようになり、2003 年に日本国際賞を受けています。
体の反応を測る心理学は、警察でも生かされています。愛知県警察の科学捜査研究所では、ポリグラフという装置で質問への生理反応を記録します。その反応から、犯人しか知りえない事件の詳細を知っているかを推定し、捜査に役立てます。この検査などを担う文書心理鑑定の職員は、これまで「心理」などの試験区分で採用されてきました。
心の動きは、自律神経やホルモンを通して体の反応になります。

05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
文系の進路を選ぶと、生物は生物基礎だけという人もいます。それでも心理学の入口には十分です。生物基礎には、神経系と内分泌系による体の調節や自律神経など、心理学とつながる内容が入っています。
学習指導要領は、生物基礎で中心に扱う重要用語を 200〜250 語程度としています。用語をたくさん覚えるより、しくみをつかむことを大切にする考え方です。まず中学の理科で学んだ「刺激と反応」を思い出し、生物基礎の「神経系と内分泌系による調節」へ進むと、つながりが見えてきます。
余裕があれば、生物の「動物の反応と行動」で、神経のしくみと動物の行動を学んでおきましょう。大学の神経・生理心理学の授業が分かりやすくなります。入試で必要な理科の科目は大学によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。
生物基礎の神経とホルモンが分かれば、大学の授業の入口に立てます。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1中学の理科刺激と反応、感覚器官と神経
- 2生物基礎神経系とホルモンによる調節
- 3生物刺激の受容と反応、動物の行動
- 4大学神経・生理心理学で脳と心を学ぶ
高校生のうちに試せること
定規で自分の反応時間を測る
友だちに 30 cm の定規の端を持ってもらい、0 の目盛りの位置に指を構えましょう。合図なしに離された定規をつかみ、落ちた距離を記録します。10 回測って平均を出し、本文の式で時間に直すと、自分の反応時間が分かります。
緊張したときの脈を数える
落ち着いているときと、発表や試合の直前とで、手首の脈を 15 秒数えて 4 倍しましょう。1 分あたりの心拍数を比べると、心の動きが自律神経を通して体にあらわれることを確かめられます。
脳科学辞典で用語を 1 つ調べる
脳科学辞典は、日本神経科学学会が無料で公開している、脳科学の用語の辞典です。「海馬」「シナプス」など気になった言葉を 1 つ選んで読んでみましょう。最初は、最初の段落と図だけ読めば十分です。
脳科学辞典
「生物」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 96 件から探せます。

脳神経機構学分野
岡山大学(岡山県)
医歯薬学総合研究科 医学系講座・神経科学・浅沼 幹人 教授
グリア細胞による神経保護やパーキンソン病モデルの脳腸病態など、神経の障害と修復を研究する。
感性データサイエンス
広島大学(広島県)
医系科学研究科 協力講座(脳・こころ・感性科学研究センター)・脳科学・近添 淳一 教授
機能的MRI、人工知能、機械学習などを研究している。
認知行動神経科学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 保健学分野(作業療法学専攻)・作業療法学・石井 大典 教授
半側空間無視や視床出血のモデル動物を使い、体性感覚や恐怖記憶を調べている。

脳病態解析分野
新潟大学(新潟県)
脳研究所 進化脳病態領域・神経科学・松井 秀彰 教授
脳の病気や障がいを、独自の病態科学と進化の視点から研究する。
脳機能イメージング
広島大学(広島県)
医系科学研究科 協力講座(脳・こころ・感性科学研究センター)・脳科学・眞溪 歩 教授
認知・情動・運動の制御のしくみを、脳波計測や電気的な介入で調べている。

行動神経科学
九州大学(福岡県)
神経科学・松尾 直毅 教授
記憶・学習や情動などを担う高次脳機能の仕組みを研究する。
よくある質問
高校で生物を選ばなかったら、心理学は難しいですか?
大丈夫です。大学の神経・生理心理学の授業は、基礎から始まります。生物基礎を学んでいれば、神経系やホルモンの入口はそろっています。入試で必要な科目は大学によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。
脳を調べれば、心はすべて分かりますか?
脳の活動を測る技術は進んでいますが、それだけで心のすべてが分かるわけではありません。心理学では、脳や体の測定と、行動の実験や質問紙による調査を組み合わせて、心のはたらきを調べます。
生理心理学を生かせる仕事はありますか?
例えば愛知県警察の科学捜査研究所では、ポリグラフ検査などを担う職員を、これまで「心理」などの試験区分で採用してきました。質問への生理反応から、事件の詳細を知っているかを調べる仕事です。


