図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 3
英語
心理学の新しい研究の多くは、英語の論文で世界に発表されます。高校の「英語コミュニケーション」で身につける読む力と、「論理・表現」で身につける書く力は、大学のゼミや卒業研究でそのまま役立ちます。

ひとことで言うと
料理のレシピは、決まった順番で書かれている
レシピは「材料」「作り方」「できあがり」の順に書かれているので、初めての料理でも迷わずに読めます。心理学の英語の論文も、目的・方法・結果・考察と決まった順に書かれています。順番を知っていれば、全部の単語が分からなくても要点をつかめます。

01
「心理学」という言葉は、英語の本の翻訳から
日本語の「心理学」という言葉は、明治のはじめに英語の本を訳すときに使われました。1875 年、西周(にし あまね)がアメリカのヘブンの本を『心理学』という題で訳し、文部省から出版しています。
もとの英語は psychology ではなく、mental philosophy でした。西周は「心理上の哲学」を縮めて「心理学」と訳し、psychology のほうは「性理学」と訳し分けていました。明治 10 年(1877 年)以降に 2 つが混ざって使われ、どちらも「心理学」と呼ぶようになりました。
日本の大学で心理学の講義が始まったのも、英語圏への留学がきっかけです。アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学で学んだ元良勇次郎は、1888 年に帝国大学(今の東京大学)で精神物理学の講義を始めました。日本の心理学の始まりには、英語で学んだ人たちが大きく関わっていました。
日本の心理学は、英語の本と留学から始まりました。


02
論文の英語には、決まった言い方がある
心理学の論文の多くは、決まった順に書かれています。目的(Introduction)、方法(Method)、結果(Results)、考察(Discussion)の順です。方法の部分には、参加者(participants)の人数や年齢、実験の手順が書かれています。最初に要旨(Abstract)を読めば、全体をつかめます。
論文の英語には、ふだんと違う意味で使う単語があります。significant は「重要な」ではなく、統計の「有意な」、つまり偶然とは考えにくいという意味です。mean は「意味する」ではなく「平均」です。
よく使う言い回しは、ある程度決まっています。最初は意味が分からなくても、何本か読むうちに同じ表現に何度も出会います。心理学で使う意味を、単語ごとに 1 つずつ集めていけば十分です。
論文の形と、決まった言い回しを知れば、英語の論文は読みやすくなります。
図解同じ単語でも意味が変わる
ふだんの意味
- significant: 重要な
- mean: 意味する
- condition: 状態、体調
- subject: 科目、話題
心理学の論文での意味
- significant: 統計的に有意な
- mean: 平均
- condition: 実験の条件
- subject: 実験の参加者(古い言い方)


03
世界の心理学に、日本からの研究が必要なわけ
心理学の研究は、どこの国の人を調べたかで結果が変わることがあります。2010 年、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の研究者たちは、研究の参加者のかたよりを指摘しました。2003〜2007 年の心理学の研究では、参加者の 96% が、世界の人口の 12% しかいない国々の人でした。
アメリカだけで約 70% をしめ、調べられた人の多くは大学生でした。研究者たちは、欧米などの豊かな国々の人と、それ以外の地域の人の間に違いがあると報告しています。ものの見え方、公平さの感じ方、記憶、周りに合わせるかどうかなどです。
日本の研究者が英語で発表した研究が、世界の心理学を動かしたこともあります。1991 年、北山忍とアメリカのヘーゼル・マーカスは「文化と自己」についての論文を発表しました。文化によって自分のとらえ方が違い、その違いがものの見方や感じ方、やる気にまで及ぶことを示したものです。
日本心理学会の『心理学ワールド』は、この 1991 年の論文を契機に文化心理学が発展してきたと紹介しています。日本で暮らす人の心を調べ、英語で世界に伝えることには、大きな意味があります。
日本の心を調べて英語で伝えることが、世界の心理学を広げます。

04
英語で発表し、世界の研究者と語り合う
国際心理学会議は、4 年に 1 度開かれる心理学の大きな国際会議です。2016 年 7 月 24 日から 29 日には、第 31 回の会議がパシフィコ横浜で開かれました。テーマは「Diversity in Harmony(調和の中の多様性)」で、世界中の心理学者に参加を呼びかけました。
この会議では、日本語の「こころ(kokoro)」も大切な考え方として取り上げられました。英語の案内は、kokoro には mind・heart・emotion など多くの意味が重なると説明しています。日本語の考え方を英語で伝えることも、日本の研究者の大切な役目です。
日本の学術誌の論文にも、英語の要旨が付いています。日本心理学会の『心理学研究』に 2020 年に載った論文は、スマートフォンのフリック入力と単語の印象の関係を調べました。指を下向きに動かして入力する文字が多い単語ほど、よい印象に評価されやすいことを、5 つの研究で確かめています。
この効果は、スマートフォンを持ったことのない人には見られませんでした。こうした日本の研究も、英語の要旨があることで世界の研究者に届きます。
英語の要旨があれば、日本の研究も世界に届きます。
図解英語の論文を読む順番
- 1題名と要旨Abstract で全体をつかむ
- 2図と表結果を目で確かめる
- 3方法参加者と手順を読む
- 4考察何が分かったかを読む

05
英語が得意でなくても始められる工夫
最初から英語の論文だけで学ぶ必要はありません。日本語の教科書で用語と考え方をつかみ、英語では要旨と図から読み始めれば十分です。日本語の論文に付いた英語の要旨を読むと、内容を知っている分、英語の言い回しに集中できます。
翻訳ツールも、使い方しだいで役に立ちます。ただし significant を「重要な」と訳すなど、心理学での意味とずれることがあります。訳した結果は、原文の専門用語と見比べてください。
心理学では、実験の参加者や相談に来た人の情報を扱います。そうした個人の情報や、まだ公開していない研究のデータは、翻訳ツールに貼り付けないでください。
高校の「英語コミュニケーション」では読む力を、「論理・表現」では筋道を立てて書く力を身につけます。どちらも、英語の要旨を読み、自分の研究を短くまとめる力の土台になります。
訳すのは説明だけ、用語は原文で確かめ、個人の情報は入力しない、と覚えておくと安心です。
図解翻訳ツールの使い分け
訳してよい
- 論文の要旨
- 教科書の説明
- 自分で書いた英文の確認
原文で確かめる
- 統計の用語
- 質問紙の質問文
- 引用する文
入力しない
- 参加者の個人情報
- 相談の内容
- 公開前のデータ
高校生のうちに試せること
『心理学研究』の英語の要旨を読む
日本心理学会の『心理学研究』は J-STAGE で公開されていて、論文の要旨はだれでも読めます。題名が気になった論文を開き、英語の要旨(Abstract)を読んでみましょう。分からない単語は、心理学での意味を調べてメモします。
心理学研究(J-STAGE)心理学の英単語帳を作る
significant・mean・participants・condition のように、心理学の論文でよく出る単語を、ふだんの意味と並べてノートに書き留めましょう。20 語ほど集まると、要旨がぐっと読みやすくなります。
PsyArXiv で世界の新しい研究をのぞく
PsyArXiv は、心理学の論文を学術誌の審査の前などに公開し、だれでも無料で読めるようにしているサイトです。memory や sleep など興味のある英単語で検索し、題名と要旨だけ読んでみましょう。ほかの研究者による審査の前の論文なので、結論をうのみにしないことも大切です。
PsyArXiv
「英語」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 290 件から探せます。
よくある質問
英語が苦手でも心理学を学べますか?
学べます。多くの大学では、心理学の授業は日本語で行われ、日本語の教科書も多くあります。英語の論文を読む機会は、ゼミや卒業研究で増えていきます。要旨と図から少しずつ慣れていけば大丈夫です。
英語の論文は、いつから読みますか?
大学によって異なりますが、多くの大学では 3・4 年のゼミで英語の論文を読んで発表する機会があります。卒業研究で、これまでの研究を調べるときにも英語の論文を読みます。
翻訳ツールがあれば、英語の勉強はいりませんか?
大意をつかむには役立ちますが、significant のような統計の用語は、ふだんの意味で訳されることがあります。訳の結果を確かめられる程度の英語の力があると、ツールを安全に使えます。


