博士後期課程(標準 3 年)に進むと、授業料の支払いは続きますが、生活費を国の制度で支えてもらう道があります。日本学術振興会(JSPS)の特別研究員(DC)は、令和 9(2027)年度採用分の研究奨励金が月額 227,000 円(支給予定額)です。科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)は、大学が年 180 万円から 240 万円の範囲で生活費相当額を決めます。ただし、どちらも希望者全員ではなく、選ばれた人が対象です。この記事は、修士の学生・学部生・若手研究者が「博士に進むなら、いつ、何に申し込むか」を、国と大学の公式の資料で整理したものです。

修士 2 年間の費用と、JASSO の調査にある博士課程の収入と支出(令和 6 年度の学生生活費 2,077,900 円など)は、大学院進学の費用の記事に書きました。ここでは繰り返さず、博士課程の支援の中身と、申し込みの順番に絞ります。

国は博士後期課程の生活費を支える方針 目標と進学の今

制度がある理由を、SPRING の公募要領は次のように書いています。優秀な学生が博士後期課程への進学をためらう背景には、「博士後期課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」「博士後期課程修了後の就職が心配である」といった不安があると考えられる、という認識です(JST「次世代研究者挑戦的研究プログラム 令和 9 年度公募要領」2026 年 2 月)。

国の目標は、2021 年 3 月に閣議決定された第 6 期科学技術・イノベーション基本計画にあります。2025 年度までに、生活費相当額を受給する博士後期課程学生を従来の 3 倍に増やす、という内容です。基本計画は、これが修士課程からの進学者数の約 7 割にあたり、2018 年度の実績が在籍学生の 10.1% だったため、全体の約 3 割が受給する状態にあたると説明しています。生活費相当額は年間 180 万円以上とされ、DC 並みの年 240 万円程度の受給者を大幅に増やすことも書かれています(文部科学省「科学技術・イノベーション基本計画(令和 3 年 3 月 26 日閣議決定)参考資料」)。人数では約 22,500 人です(文部科学省 科学技術・学術審議会 人材委員会の資料、2025 年 6 月)。2026 年 2 月の同資料には、第 7 期基本計画で「博士課程入学者数及び博士号取得者数を 2030 年度末までに 2 万人」とする目標が掲げられたと書かれています。第 6 期の目標年度である 2025 年度に何人が受給したかは、確かめた資料からは読み取れませんでした。

進学の今の数字は、文部科学省の学校基本調査(令和 7 年度、2025 年 12 月 26 日公表の確定値)と、同省の大学院関連の資料(2026 年 5 月時点)で確かめました。

項目数字年・出典
博士課程の入学者数16,212 人(3 年連続で増加。平成 15 年度の 18,232 人が最多)令和 7 年度・学校基本調査
博士課程の在学者数79,560 人令和 7 年度・学校基本調査
修士課程修了者の進学率11.2%(修了者 77,633 人、進学者 8,670 人。前年度より 0.3 ポイント上昇)2025 年 3 月修了・学校基本調査

この進学率の「進学者」には、大学院のほか、大学学部、専修学校、外国の学校へ入学した人も含まれます。博士課程だけに進んだ人の割合ではない点に注意してください。

生活費の支援 DC と SPRING

特別研究員 DC は本人が申請する

特別研究員 DC は、JSPS が大学院博士課程の在学者を採用し、研究に専念してもらう制度です。申請は個人ではなく、在学する大学など申請機関を通して行います。令和 9 年度採用分の募集要項と JSPS のページから、内容を表にしました。

項目DC1DC2
申請できる人採用年度の 4 月 1 日に博士後期課程の 1 年次相当(進学予定の人を含む)採用年度の 4 月 1 日に博士後期課程の 2 年次以上相当
採用期間3 年間2 年間
研究奨励金月額 227,000 円(支給予定額)月額 227,000 円(支給予定額)
研究費(特別研究員奨励費)A 区分は 3 年で 240 万円以下、B 区分は 240 万円超 450 万円以下A 区分は 2 年で 160 万円以下、B 区分は 160 万円超 300 万円以下
採用予定数600〜700 名程度1,000〜1,100 名程度

研究奨励金の月額 227,000 円は、12 か月で年 2,724,000 円です(編集部の計算)。税法上は給与所得として扱われます。採用最終年次に優れた成果を上げた人には、研究奨励金特別手当(月額 30,000 円、上限 12 か月)が付くことがあります。特別研究員奨励費は、DC の申請と同時にしか応募できず、採用 2 年目以降に改めて応募することはできません。大学院の身分以外の身分(常勤職など)は原則として持てません。JASSO の貸与奨学金を受けている人が採用されたときは、その奨学金を辞退します。特別研究員に採用された経験がある人は、再び申請できません(JSPS「令和 9(2027)年度採用分 特別研究員募集要項(DC)」2026 年 2 月、JSPS「申請資格・支給経費・採用期間」)。

採用の状況は、JSPS の表(令和 8 年 10 月 1 日現在)で次のとおりです。採用率は、申請者数と採用者数から編集部が計算しました。

採用年度区分申請者数採用者数採用率
令和 8(2026)年度DC15,637 名634 名11.2%
令和 8(2026)年度DC28,609 名1,026 名11.9%
令和 7(2025)年度DC14,959 名708 名14.3%
令和 7(2025)年度DC27,444 名1,092 名14.7%

採用者数がほぼ一定のまま申請者が増え、採用率が下がっています。文部科学省は 2026 年 2 月の資料で、その要因の一つに、SPRING の採択大学で DC への申請が義務化・推奨されていることを挙げています。確認できた大学は 30 大学(全体の約 3 割)です(同省の人材委員会資料)。

SPRING は大学が学生を選ぶ

SPRING は、大学が事業統括を置いて支援プロジェクトを申請し、JST に採択されると、その大学が博士後期課程の学生を選抜して支援する仕組みです。学生が JST に直接申請するのではなく、進学先または在学先の大学の募集に応募します。令和 9 年度は 86 件の支援プロジェクトが採択されました(JST、2026 年 10 月 14 日)。支援期間は最大 3 年間(医学・歯学・薬学・獣医学系の 4 年制は 4 年間)で、標準修業年限を超えた期間は対象外です。年齢の条件はありません。

令和 9 年度からの新制度では、支援する学生が 3 つの区分に整理されました。公募要領の区分は、次のとおりです。

区分対象となる条件対象から外れる条件学生への支援
区分 1日本国籍の人、特別永住者、永住者、日本人・永住者の配偶者等など、公募要領の表で対象が「〇」の人生活費相当額として十分な水準(年 240 万円以上)で、給与・役員報酬等の安定的・固定的な収入を得ている人研究奨励費(生活費相当額)と研究費
区分 2在留資格が「留学」の人国内外の機関・法人に役員・職員等として所属がある人(アルバイトを除く)研究費(生活費相当額は対象外)
区分 3年 240 万円以上の安定的な給与収入がある社会人など海外の営利機関・法人のみに所属する人など研究費(生活費相当額は対象外)

アルバイトの収入と、TA・RA の対価は、「安定的・固定的な収入」に含まれません。研究奨励費(生活費相当額)は大学が年 180 万円から 240 万円の範囲で決め、区分 1 では研究奨励費と研究費の合計が年 220 万円以上になります。JST が大学に支払う 1 枠あたりの最大単価は区分 1 で 290 万円ですが、これは大学事務費やキャリア開発の費用を含む額で、学生本人の受取額ではありません(JST「令和 9 年度公募要領」2.7〜2.9)。学生の選び方、応募の時期、研究費の配分は、大学ごとに違います。

DC と SPRING は両方は受けられない

SPRING の公募要領は、JSPS の特別研究員を受けている学生を、すべての区分で SPRING の支援の対象外としています。SPRING と同じ趣旨の国費による研究費の支援があるためで、DC と SPRING のどちらか一方、という形になります。民間などの給付型奨学金で年 240 万円以上の生活費の支援を受けている学生は、区分 1 の研究奨励費の対象外です。貸与型の奨学金は金額にかかわらず対象です。SPRING の研究奨励費を受けると、JASSO の「特に優れた業績による奨学金の返還免除」の対象から外れます。TA・RA で対価を受けることは、研究に支障のない範囲で禁止されていません。

SPRING に採択された大学で DC への申請が求められる場合があるため、進学先の募集要項で、DC への申請が義務か推奨かを確かめてください。

授業料の免除 大学ごとの例

博士後期課程の授業料は、国立大学では標準額が修士課程と同じ年 535,800 円(国立大学等の授業料その他の費用に関する省令)で、修士課程の費用は先の記事に書きました。この授業料を、大学独自の制度で免除・支援する例があります。確かめられた国立大学 3 校を並べます。

大学博士後期課程の授業料の免除・支援年度
北海道大学JSPS 特別研究員(DC1・DC2)に採用されている博士後期課程の学生は、授業料が全額免除。免除の申請は不要令和 8 年度前期
九州大学特別研究員(DC1・DC2)は前期・後期とも授業料を全額免除。SPRING や BOOST などの採用者は、現行は半額免除で、新制度では 2/3 免除。大学院は令和 8 年度入学者も現行の制度が続き、新制度への完全移行は令和 9 年度から令和 8 年度
東北大学JSPS 特別研究員、国際共同大学院などの学位プログラム、日本人対象の高等大学院のプロジェクトに採用された博士後期課程の学生は、授業料・入学料を免除(入学料の免除は日本人のみ)。申請書類は不要で、標準修業年限を超えた人は対象外2026 年度

3 校に共通するのは、DC などの競争的な支援に選ばれた人の授業料を、大学が免除する点です。DC に採用されると、生活費、研究費、授業料の 3 つが重なって支えられることになります。免除の対象になるプログラムは大学ごとに違うため、志望する研究科の学生支援のページで確かめてください。選ばれなかった場合のために、東北大学は経済的理由による免除の申請者としても受け付けていて、九州大学も家計による免除を別に設けています。

奨学金の返還免除と TA・RA

JASSO の第一種奨学金(博士課程相当は月額 80,000 円か 122,000 円)には、貸与が終わる年度に特に優れた業績があれば返還が免除される制度があります。2025 年度に貸与が終わった博士課程の人は 1,303 人で、大学が推薦した 504 人のうち 500 人が免除になりました(全額 213 人、半額 287 人。貸与が終わった人に対する割合は約 38%、編集部の計算)。修士課程の結果と制度の説明は先の記事にあります(JASSO「2025 年度 大学院第一種奨学金における特に優れた業績による返還免除の認定」)。

TA(ティーチング・アシスタント)と RA(リサーチ・アシスタント)は、大学が研究補助などの仕事として雇う制度で、額は大学・部局・事業ごとに決まります。例を挙げます。

  • 東京大学の「リサーチ・アシスタント実施要領」は、RA を博士後期課程などの優れた学生が研究補助者として働く非常勤職員とし、勤務時間を週 20 時間程度までと定めています。給与は別に定めるとされています。
  • 北海道大学の文学研究院は、令和 8 年度の RA を博士後期課程の学生 6 名で募集しました。前期 150 時間・後期 150 時間の採用期間で、DC に採用されている学生も応募できます。
  • 東北大学の TA の時給は、2026 年 4 月から博士後期課程で 1,900 円です。

JASSO の令和 6 年度の調査で、博士課程の一般の学生の TA・RA の報酬が平均年 268,800 円だった点は、前の記事に書いたとおりです。RA は大学や部局の研究プロジェクトなどに参画して働く仕事なので、募集があるかどうかは、研究科や指導教員に早めに聞いてください。

博士後期課程の支援を、生活費(DC・SPRING)、授業料(免除・大学の支援)、研究費(特別研究員奨励費・SPRING の研究費)、そのほか(JASSO・TA・RA)の 4 つに分け、申し込みの時期の帯をつけた図

図: 博士後期課程の支援の組み合わせと申し込みの時期(作成: 大学カタログ編集部 / もとの資料: JSPS、JST、文部科学省、JASSO、各大学の公式ページ。2026 年 10 月 23 日確認)

博士に進むなら いつ何に申し込むか

DC の申請は、令和 9 年度採用分では次の日程でした。令和 10 年度採用分の日程は、2026 年 10 月 23 日時点で JSPS の選考日程のページに出ていないため、同じ流れになると決めつけず、公表を待ってください(JSPS「選考日程」「申請手続」)。

令和 9 年度採用分の流れ(JSPS)時期
募集要項の公表2026 年 2 月上旬
申請の受付2026 年 4 月上旬から
申請機関から JSPS への提出の期限2026 年 6 月 3 日(水)17 時。本人から大学への期限は大学ごとに早い
第一次選考結果の開示2026 年 10 月上旬ごろまで
第二次選考結果の開示2027 年 1 月上旬ごろまで
採用の開始2027 年 4 月 1 日

この流れを、今の学年に当てはめます。公式の日程から読み取った編集部の整理です。

今の立場(2026 年 10 月)今から春にかけて
修士 1 年令和 10 年度採用分の DC1 を、2027 年春(修士 2 年の春)に申請する流れになる。研究室の指導教員に、申請書の相談の時期を聞く
修士 2 年(2027 年 4 月に博士へ進学)令和 9 年度採用分の DC1 は申請が終わっている。進学先が SPRING の採択大学か、学内の選抜の時期はいつかを確かめる。博士 1 年の春には DC2 の申請の機会がある
学部 4 年・学部 3 年修士の間に、DC と SPRING の違い、進学先の授業料免除の対象を調べる

SPRING の学内選抜は、採択結果の通知と学生の選抜が令和 8 年 9 月以降、支援の開始が令和 9 年 4 月ごろと公募要領に書かれています。それ以上の日程は大学ごとなので、進学先の大学院のページを見てください。研究科や研究室のようすは、研究室の選び方の記事と研究室の一覧も参考にしてください。博士の先の研究費は科研費の若手研究の記事と科研費の応募スケジュールの記事で説明しています。志望する大学のページは、大学一覧から探せます。

よくある迷い

DC と SPRING、どちらを目指せばよいですか?

両方は受けられないため、どちらかになります。DC は自分で申請して全国で選ばれる制度で、SPRING は進学先の大学が選ぶ制度です。採用率は DC1 が 11.2%、DC2 が 11.9%(令和 8 年度採用分)なので、DC に申請しながら、進学先の SPRING や授業料免除の条件も調べておくと、選ばれなかったときの手立てが残ります。

社会人として働きながら博士に進む場合は?

SPRING では、年 240 万円以上の安定的な給与収入がある社会人は区分 3 で、研究費の支援だけが対象になります。DC は、大学院の身分以外の身分(常勤職など)を原則として持てません。勤務先の制度と、進学先の大学の窓口に確かめてください。

留学生は同じ支援を受けられますか?

SPRING の令和 9 年度の新制度では、在留資格が「留学」の人は区分 2 で、研究奨励費(生活費相当額)は対象外です。永住者や日本人の配偶者等などの在留資格の人は、区分 1 の対象に入る場合があります。個別の在留資格は、公募要領の表と大学の窓口で確かめてください。

支援が決まらなかったら、博士には進めませんか?

制度のどれか一つが決まらなくても、JASSO の第一種奨学金(博士課程相当は月額 80,000 円か 122,000 円)、大学の授業料免除、TA・RA、民間団体の奨学金を組み合わせて進む人はいます。ただし、金額や条件は大学と制度ごとに違い、生活費を満たす保証はありません。進学を決める前に、指導教員と、志望する大学院の学生支援の窓口で、自分が使える制度と時期を確かめてください。