図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 2
環境調査・自然を守る仕事
川や森、海にどんな生き物が暮らしているかを調べ、開発の影響を見きわめたり、自然を守る計画を立てたりする仕事です。生き物を見分ける力と、データを読み解く力の両方が生きます。

ひとことで言うと
生き物で、自然の健康診断をする
健康診断では、血液の数値などから、からだの変化に早めに気づきます。環境調査も同じで、どんな生き物が、どれだけいるかを定期的に調べると、自然の小さな変化に気づけます。生き物は、その場所の環境を映すものさしなのです。

01
どんな仕事?: 生き物を調べて、自然と暮らしの両立を考える
生物学を生かして自然を守る仕事には、いくつかの働き方があります。調査を専門にする環境コンサルタント、都道府県や市町村の環境の担当、そして国立公園などを守る環境省の自然保護官(レンジャー)です。
道路やダム、大きな発電所などをつくる前には、環境影響評価法に沿って、環境への影響を調べて評価する手続きがあります。これを環境アセスメントといいます。現地にどんな動物や植物がいるか、数の少ない種はいないかを調べるのが、生物の専門家の出番です。
調べた結果は、工事の計画を見直したり、生き物のすみかを残したりする判断に使われます。生き物の名前が分かることが、自然と暮らしを両立させる話し合いの出発点になります。
生き物を見分け、数えることが、自然を守る判断の出発点になります。
図解生物学を生かす環境の仕事
- 環境コンサルタント工事の前後に生き物を調べる
- 自治体の環境担当地域の自然や外来種の対策を担う
- 自然保護官国立公園や希少な生き物を守る
- 研究所の研究員生き物の変化を長く記録する
- NPO・博物館市民と一緒に自然を調べる

02
川の生き物調べ: 34 年の記録が教えてくれること
国土交通省は 1990 年度から、全国の一級河川で「河川水辺の国勢調査」を続けています。魚や川底の生き物、植物、鳥、両生類・爬虫類・哺乳類、陸上の昆虫などを、同じ方法でくり返し調べる調査です。34 年間で約 4,000 回の調査が行われました。
2025 年に発表された分析では、川が生き物の宝庫であることが改めて確かめられました。全国の一級河川で確認された鳥は 342 種で、日本の鳥の目録に載っている 676 種の約半分にあたります。両生類も約半分、植物は約 4 割の種類が見つかっています。
長く続けたからこそ見えた変化もあります。温かい水を好む魚のテングヨウジは、より北の川でも見られるようになりました。特定外来生物のアライグマは、見つかる場所が広がっています。一方、自然の豊かさの目安になるカヤネズミは、確認される地区が広がっていました。同じ方法で調べ続けたデータだからこそ、こうした変化を比べられます。
同じ方法で長く調べ続けることで、自然の変化が数字で見えてきます。
図解34 年の調査で見えてきたこと
多くの種類がすむ
- 鳥: 676 種のうち 342 種
- 両生類: 59 種のうち 30 種
- 植物: 8,118 種のうち 3,520 種
変化が見えた
- テングヨウジ: 北の川にも広がる
- アライグマ: 見つかる場所が拡大
- カヤネズミ: 確認される地区が拡大


03
新しい道具: 川の水 1 L から、すむ魚を調べる
水や土、空気の中には、そこにすむ生き物に由来する DNA がただよっています。これを環境 DNA といいます。川の水をくんで DNA を調べれば、魚をつかまえなくても、どんな魚がいるかの手がかりが得られます。
河川水辺の国勢調査では、2026 年度から、魚の環境 DNA 調査が新しく加わりました。現地での主な作業は、川岸や橋の上から水をくむことです。1 地点でくむ水は 1 L が基本で、川に沿って 2 km ごとに地点を決めます。従来の調査より、多くの地点を調べやすいのが強みです。
くんだ水は、10 ℃以下を目安に冷やして保管します。実験室でフィルターにこし、DNA を取り出して増やし、配列を読んで、魚の種類ごとの配列と照らし合わせます。ごくわずかな DNA を扱うので、地点ごとに使い捨ての手袋を替えるなど、ほかの DNA を混ぜない工夫が欠かせません。
生物学と DNA の技術が合わさって、調査のやり方そのものが変わりつつあります。


04
自然保護官(レンジャー)の仕事と 1 日(例)
環境省の自然系の職員は、レンジャーとも呼ばれます。国立公園などの保護地域の指定や管理、絶滅のおそれのある野生生物の保護などが仕事です。野生の鳥や獣の管理を含め、自然環境の幅広い分野を受け持ちます(環境省)。
国立公園は全国に 35 か所あります。35 か所目は、2024 年 6 月に指定された北海道の「日高山脈襟裳十勝国立公園」です。レンジャーは、全国の国立公園や野生生物にかかわる事務所に勤め、2〜3 年ごとに場所を移りながら経験を積みます(環境省)。
現場では、地元の自治体や観光にかかわる人、研究者と相談しながら、自然の守り方と使い方を考えます。ここでは、国立公園の現地の事務所で働くレンジャーの 1 日の例を紹介します。生き物の知識と、人と話し合う力の両方が求められる仕事です。
国立公園を守る仕事は、生き物の知識と人との話し合いの両方で成り立っています。
図解国立公園で働くレンジャーの 1 日(例)
- 8:30朝の打ち合わせその日の予定と天気を確かめる
- 9:30現地の見回り登山道や湿原の様子を点検する
- 12:00昼休み
- 13:00外来種の対策地域の人と一緒に駆除の作業をする
- 15:00地元との会議自治体や観光の関係者と相談する
- 16:30書類の作成見回りの記録や計画をまとめる

05
向いている人と入り方・その先
環境省のレンジャーになるには、国家公務員の試験に合格し、採用される必要があります。総合職では「森林・自然環境」と「化学・生物・薬学」の区分から採用しています。一般職(大卒程度)では、「林学」「農学」など 5 つの区分の合格者が対象です(環境省)。
環境コンサルタントの会社や、都道府県・市町村で環境を担当する道もあります。自然環境研究センターの「生物分類技能検定」の 1 級・2 級の登録者は、環境省の入札に参加するための資格として認められています。生き物を見分ける力が、仕事の力としてはっきり評価されるのです。
外で過ごすのが好きな人、細かな違いに気づける人に向いています。経験を積むと、調査のリーダーや、自然を守る計画づくり、国の政策を考える仕事などへ進む道があります。
生き物を見分ける力は、どの入り口でも強みになります。
図解レンジャーへの道(例)
- 1大学生態学や野外実習で学ぶ
- 2国家公務員試験総合職か一般職(大卒程度)
- 3官庁訪問環境省で面接を受ける
- 4採用・配属全国の事務所や本省へ
- 5経験を積む2〜3 年ごとに異動する
高校生のうちに試せること
全国水生生物調査に参加する
川にすむサワガニやカワゲラなど 29 種類の生き物を目印に、水のきれいさを 4 段階で調べる調査です。環境省と国土交通省が 1984 年度から続けていて、個人でも参加できます。参加するときは、住んでいる都道府県の窓口に届け出ましょう。
令和 7 年度全国水生生物調査結果の公表について(環境省)生物分類技能検定の 4 級に挑戦する
3 級・4 級は、生き物が好きな一般の人を対象にした級です。動物や植物の名前と特徴を覚える勉強が、野外で生き物を見分ける力につながります。まずは 4 級の範囲から始めてみましょう。
生物分類技能検定とは(自然環境研究センター)モニタリングサイト1000の調査地を探す
環境省は 2003 年から、全国の約 1,000 か所で、生き物の移り変わりを長く記録する調査を続けています。近くにある調査地を地図で探し、どんな生き物が調べられているかを見てみましょう。
モニタリングサイト1000(環境省 生物多様性センター)
「環境調査・自然を守る仕事」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 82 件から探せます。
森林生態学
名古屋大学(愛知県)
森林・環境資源科学・戸丸 信弘 教授
森林群集の動態や樹木の遺伝的変異・繁殖を調べ、保全に生かす。

生物多様性保全研究室
東北大学(宮城県)
理学部生物学科・生命科学研究科・生物多様性保全
応用生態学
岡山大学(岡山県)
工学部 環境・社会基盤系 環境マネジメントコース・保全生態学・中田 和義 教授
河川や農業水路で絶滅危惧種の保全手法と外来ザリガニなど外来種の防除手法を研究する。

野生植物生態学研究室
新潟大学(新潟県)
佐渡自然共生科学センター 演習林・植物生態学・本間 航介
多雪地や里山の樹木の適応と更新、トキの野生復帰の現場での生物多様性を研究する。
動物進化生態学研究室
千葉大学(千葉県)
理学部 生物学科・動物生態学・菊地友則
さまざまな動物を用い、社会性を生み出す制御メカニズムを解明する。

動物生態学研究室
北海道大学(北海道)
生物資源科学・荒木 仁志 教授
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
自然保護官になるには、どの学部がよいですか?
環境省は、総合職では「森林・自然環境」と「化学・生物・薬学」の区分から採用しています。生物学科のほか、農学部の森林科学や生態学の学科から目指す人もいます。総合職では、どの区分で入っても入省後の仕事に違いはないと、環境省は説明しています。
環境 DNA があれば、網で魚をとる調査はいらなくなりますか?
環境 DNA は、多くの地点を手早く調べるのに向いています。一方で、魚の大きさや育ち具合は、実際につかまえて調べる必要があります。国の川の調査でも、環境 DNA 調査は従来の調査に「追加」する形で始まりました。
生き物の名前を覚えるのが苦手でも大丈夫ですか?
最初から覚えている人はいません。大学の野外実習では、図鑑と見比べながら、特徴を一つずつ確かめるところから始めます。身近な公園の植物や鳥など、1 つのグループから覚えていくと、見分けるコツがつかめます。
