図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
研究者・生命データの解析
大学院に進み、遺伝子や細胞、免疫や脳のしくみなど、生命の謎に挑む研究者や、ゲノムのデータを解析する専門家になる道です。実験室での実験と、コンピュータでのデータ解析の両方が、発見につながります。

ひとことで言うと
世界中の辞書を引いて、新しい言葉を探す
知らない言葉は、辞書を引いて意味を調べます。生命の研究者も、読み取った DNA の配列を、世界の研究者が集めたデータと照らし合わせて意味を探ります。どの辞書にもまだ載っていない言葉を見つけることが、新しい発見です。

01
どんな仕事?: 生命の「なぜ」に、実験とデータで答える
生物学の研究者は、生命についての問いを立て、実験や観察で確かめる仕事です。細胞はどう分かれるのか、からだはどう病原体と戦うのか、生き物はどう進化してきたのか。答えが分かると、医療や農業、自然を守る技術にもつながります。
研究の道具も変わってきました。ゲノムの解析で大量のデータが生み出される時代になり、生物学と情報科学を組み合わせたバイオインフォマティクスが急速に発展しています。生命科学と情報科学の両方の知識を持つ技術者や研究者を求める声も、大きくなっています(日本バイオインフォマティクス学会)。
研究者が働く場所は、大学や国の研究所、会社の研究所などです。成果は論文にまとめ、ほかの研究者の審査を受けて発表します。教科書にまだ載っていないしくみを、最初に目にできるのが、研究者ならではの喜びです。
実験とデータ解析の両方が、発見への道具になります。
図解生物学の研究者の仕事
- 実験する細胞や生き物で仮説を確かめる
- データを解析配列や画像をプログラムで調べる
- 論文を書く審査を経て世界に発表する
- 学会で議論国内外の研究者と意見を交わす
- 学生を育てる研究室で実験や解析を教える

02
限られた遺伝子から、数億種類の抗体: 利根川進さんの発見
私たちのからだは、ウイルスや細菌などの異物に出会う前から、数億種類もの抗体を用意しています。抗体は、白血球の一つである B リンパ球がつくるたんぱく質です。でも、遺伝子の数には限りがあります。どうしてこれほど多くの種類をつくれるのかは、長いあいだ謎でした。
この謎を解いたのが、日本の利根川進さんです。1976 年に発表した研究で、細胞が B リンパ球へ育つあいだに、抗体をつくる DNA の部品が組み替えられることを示しました。組み合わせが変わることで、1 つ 1 つの B リンパ球が、それぞれ違う抗体をつくれるのです。この発見で、利根川さんは 1987 年にノーベル生理学・医学賞を受けました(ノーベル財団)。下の図は、組み合わせで種類が増える考え方を、分かりやすい数で示した例です。
ノーベル財団は、この発見がワクチンで免疫の働きを高めたり、困った免疫の反応をおさえたりする研究にもつながると説明しています。「なぜ、こんなことができるのか」という素朴な疑問が、医療を変える知識になる。それが基礎研究の面白さです。
素朴な疑問を実験で確かめることが、大きな発見につながります。
図解組み合わせで種類を増やす(考え方の例)
- 1A から 1 つ選ぶ: 40 通り
- 2B から 1 つ選ぶ: 25 通り
- 3C から 1 つ選ぶ: 6 通り
- 4かけ算する: 40 × 25 × 6


03
生命データの解析: 5 万人のゲノムを比べる
東日本大震災の復興事業として、東北大学などは東北メディカル・メガバンク計画を進めています。2013 年に始まったゲノムの調査では、15 万人を超える住民の協力で、DNA などの試料を集めました(科学技術振興機構)。
2022 年 6 月末までに、約 5 万人分の全ゲノム解析が終わりました。近い親せきを除いた約 3 万 8,000 人分のデータは、データベースにまとめて公開されています。1 人ひとりの病気のなりやすさを予測して予防に生かしたり、薬の開発を速めたりすることが期待されています。
何万人分ものゲノムを比べるには、コンピュータと統計の力が欠かせません。読んだ配列を基準の配列に並べてそろえ、人による違いを数え上げ、病気との関係を調べる。この解析を担うのが、バイオインフォマティクスの技術者や研究者です。生物学と情報の両方が分かる人が、研究の現場で求められています。
大量のデータから意味を引き出す人が、これからの生命科学を支えます。
図解たくさんの人のゲノムを比べる流れ(例)
- 1試料を集める協力者の血液などから DNA を取る
- 2配列を読むシーケンサーで DNA を読む
- 3並べてそろえる基準の配列に合わせて並べる
- 4違いを数える人による配列の違いを集計する
- 5公開して使う研究者が使えるデータベースに

04
生命データを解析する研究者の 1 日(例)
ここでは、大学の研究室で、実験のチームと組んでゲノムのデータを解析する若手研究者の 1 日の例を紹介します。
解析の仕事は、パソコンの前だけでは終わりません。実験のチームが読んだデータにおかしな点がないかを確かめ、次の実験の条件を一緒に考えます。データがどうやって生まれたかを知らないと、正しく解析できないからです。
大きなデータの解析は、スーパーコンピュータでも何時間もかかることがあります。計算を走らせているあいだに新しい論文を読み、ほかの研究者が使っている方法を調べます。
実験とデータの両方を理解することが、正しい解析の土台です。
図解生命データを解析する研究者の 1 日(例)
- 9:00結果の確認夜に終わった計算の結果を見る
- 10:00実験チームと相談次に読む試料を一緒に決める
- 12:00昼休み
- 13:00プログラムづくり解析の手順をコードにする
- 15:00論文を読む英語の新しい論文で方法を調べる
- 16:30計算を走らせるスーパーコンピュータに解析を任せる

05
研究者への道と、バイオインフォマティクスの資格
生物学の研究者を目指す人は、大学院に進みます。修士課程(多くは 2 年)で研究の進め方を身につけ、博士課程(多くは 3 年)で自分の成果を論文にまとめます。そのあと、任期つきの研究員として経験を積み、大学や研究所の職を目指すのがよくある道のりです。
バイオインフォマティクスには、日本バイオインフォマティクス学会の「バイオインフォマティクス技術者認定試験」があります。受験資格は問わず、分子生物学・情報科学・バイオインフォマティクスの基礎を、4 択の 60 問で確かめます。2026 年度は年 2 回、全国のテストセンターで行われています。
生物学科から情報の力を身につける人もいれば、情報学科から生命の研究に加わる人もいます。問いを粘り強く追いかけられる人、うまくいかない結果からも学べる人に向いています。研究者のほか、製薬や食品の会社、医療の現場などで、データを解析する専門家として働く道もあります。
生物と情報の両方を学んでおくと、選べる道が広がります。
高校生のうちに試せること
統合 TV で解析の道具を学ぶ
ライフサイエンス統合データベースセンターの「統合 TV」では、生命科学のデータベースや解析ツールの使い方を、動画で無料で学べます。気になる動画を 1 本選んで、研究者が使う道具にふれてみましょう。
統合 TV(ライフサイエンス統合データベースセンター)認定試験の参考問題を解いてみる
日本バイオインフォマティクス学会は、認定試験の参考問題と過去問を公開しています。細胞のつくりなど、高校の生物で解ける問題もあります。生命科学と情報科学の問題を 1 問ずつ解いてみましょう。
参考問題・過去問(日本バイオインフォマティクス学会)DNA の文字を数えるプログラムを書く
無料で使えるプログラミングの環境で、A・T・G・C の 4 文字を並べた短い配列を用意し、それぞれの文字がいくつあるかを数えるプログラムを書いてみましょう。文字を数えるだけでも、バイオインフォマティクスの第一歩です。
「研究者・生命データの解析」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 117 件から探せます。
細胞分子機能科学研究室
北海道大学(北海道)
細胞生物学・北村 朗 准教授

機能ゲノミクス分野
熊本大学(熊本県)
生命資源研究・支援センター・ゲノム科学

損傷修復分野
熊本大学(熊本県)
発生医学研究所 発生制御部門・分子生物学・立石 智 講師
DNAが傷ついても複製を続ける損傷トレランスの仕組みと、がんや早老症との関係を調べる。

杉本研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 生物学プログラム・血液学・細胞生物学・杉本 健吉 准教授
造血幹細胞の自己複製や血管新生の制御、概日リズムと行動の関係を調べる。

代謝制御薬学分野
東北大学(宮城県)
薬学研究科生命薬科学専攻・生命情報薬学・斎藤 芳郎 教授
細胞生物学研究室
広島大学(広島県)
理学部 生物科学科・細胞生物学・千原 崇裕 教授
よくある質問
プログラミングの経験がなくても、バイオインフォマティクスはできますか?
大学によっては、生物学科でもデータ解析やプログラミングを学ぶ授業があります。最初は決まった手順で解析ツールを使うところから始め、少しずつ自分でプログラムを書けるようになる人が多くいます。
研究者になるには、博士号が必要ですか?
大学や国の研究所で研究者として働くには、博士の学位を求められることが多くあります。修士課程を終えて、会社の研究職やデータ解析の仕事に就く人もいます。どちらを選ぶかは、研究室の先生や先輩に相談しながら決める人が多くいます。
実験とデータ解析、どちらに進むか迷っています。
両方を経験してから決める人が多くいます。卒業研究で実験をしながら、自分のデータを自分で解析してみると、どちらが好きかが見えてきます。実験も解析も分かる人は、研究のチームで頼りにされます。

