図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 1
医薬品・食品のバイオ研究
細胞や微生物を育てて、薬や食品の成分をつくってもらう仕事です。生き物を育てる技術、遺伝子を調べる技術、効き目を確かめる技術のすべてに、大学で学ぶ生物学が生きます。

ひとことで言うと
細胞を育てる「農家」になる
農家は、水や肥料、温度を整えて作物を育て、たくさんの実りを得ます。バイオの研究者も、栄養や温度、酸素を整えて細胞や微生物を育て、薬や食品の成分をつくってもらいます。育て方しだいで、とれる量も質も変わるところまでよく似ています。

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どんな仕事?: 生き物の力を借りて、薬や食品をつくる
バイオの研究職は、細胞や微生物の働きを使って、役に立つ物をつくる仕事です。薬の会社では、細胞に抗体などのたんぱく質の薬をつくらせます。食品の会社では、微生物の発酵の力を使ったり、食べ物の成分がからだにどう働くかを調べたりします。
からだへの働きを確かめるのも、大切な仕事です。特定保健用食品(トクホ)は、健康への働きの表示について、国の審査を受けた食品です。機能性表示食品は国の審査がない代わりに、会社が自らの責任で、科学的な根拠をもとに表示します(消費者庁)。その根拠をつくるのが、研究員の実験と試験です。
どちらの分野でも、生き物は思いどおりには動きません。温度や栄養の少しの違いで、増え方やつくる物の量が変わります。生き物の性質を知り、よく働ける環境を整えることが、生物学を学んだ人の腕の見せどころです。
生き物がよく働ける環境を整えることが、バイオの研究の中心です。
図解2 つの分野と共通の技術
医薬品
- 細胞にたんぱく質の薬をつくらせる
- 大きなタンクで細胞を安定して育てる
- 薬の効き目を細胞で確かめる
食品
- 発酵の力で味や香りを引き出す
- 微生物の性質を遺伝子で調べる
- からだへの働きを試験で確かめる
共通の技術
- ほかの菌を混ぜない無菌操作
- 遺伝子を調べる・組み換える
- 統計で結果を判断する


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薬をつくる細胞: 1957 年のハムスターから、国産の細胞へ
抗体など、たんぱく質でできた薬をバイオ医薬品といいます。その多くは、細胞を大きなタンクで育て、細胞につくらせています。よく使われるのが CHO 細胞です。もとは、1957 年にチャイニーズハムスターの卵巣からつくられた細胞株です。2021 年の報告では、抗体の薬の 80% 以上の品目で使われています(日本医療研究開発機構)。
なぜ、大腸菌や酵母ではなく、動物の細胞なのでしょうか。抗体のような薬には、たんぱく質に複雑な糖の鎖をつけるなどの仕上げが必要です。動物の細胞はこの仕上げまでこなせますが、大腸菌や酵母では、こうした薬をつくるのが難しいのです。
日本の研究にも動きがあります。これまで薬づくりに使われてきた CHO 細胞は、すべて海外の細胞バンクに由来するものでした。そこで、大学と企業でつくる研究組合が、ハムスターの卵巣から新しい細胞「CHO-MK」を育てました。従来の細胞より約 2 倍の速さで増える、国産の細胞です(日本医療研究開発機構)。
どの細胞を使い、どう育てるかで、薬のつくりやすさが変わります。


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生物学が生きる場面: 育てる・選ぶ・確かめる
研究の基本は、無菌操作です。空気中には目に見えない菌がただよっているため、きれいな空気が流れる作業台の中で培養します。ほかの菌が混ざると、何週間も育てた細胞が使えなくなることもあります。
次に、遺伝子の知識が生きます。細胞に薬をつくらせるには、薬の設計図になる遺伝子を細胞に入れます。そのあと、遺伝子が入った細胞だけが生き残る薬剤で選び分けます。その中から、薬をたくさんつくる細胞を探します(日本医療研究開発機構)。
最後は、確かめる力です。細胞の増え方やつくる量は、育てるたびに少しずつばらつきます。何回くり返せば本当の差と言えるのかを判断する統計は、会社の研究で毎日使う道具です。
育てる・選ぶ・確かめるのくり返しで、薬をつくる細胞が生まれます。
図解細胞に抗体をつくらせる(例)
- 1抗体の遺伝子を運ぶ DNA を用意する
- 2CHO 細胞に遺伝子を入れる
- 3薬剤で、遺伝子が入った細胞だけを残す
- 4よく増えて、たくさんつくる細胞を選ぶ


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食品会社のバイオ研究員の 1 日(例)
ここでは、食品の会社で、微生物を使った新しい食品を研究する研究員の 1 日の例を紹介します。
微生物は夜のあいだも増え続けるので、研究の予定も微生物に合わせて立てます。朝いちばんに、前の日から育てていた菌の増え方を確かめます。増えすぎても足りなくても、次の実験の結果が変わるからです。
食品の研究では、味や香りを人が確かめる評価も大事な仕事です。数値が良くても、おいしくなければ商品になりません。研究員は、実験のデータと、人が食べたときの感じ方の両方を見ながら、候補をしぼっていきます。
微生物の育ち方に合わせて、1 日の実験を組み立てます。
図解食品会社のバイオ研究員の 1 日(例)
- 8:45菌の様子を確かめる夜のあいだの増え方を測る
- 9:30培養の準備培地をつくり、器具を殺菌する
- 11:00遺伝子の解析候補の菌の DNA を調べる
- 12:00昼休み
- 13:00試作品の評価味や香りをチームで比べる
- 15:00データの整理結果をグラフにし、統計で確かめる
- 16:30打ち合わせ商品開発や品質の担当と相談する

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向いている人と入り方・その先
生物学科や生命科学科のほか、農学部の農芸化学科や応用生命科学科、薬学部、工学部の生物工学科などからも目指せます。研究職では、大学院の修士課程を修了してから入社する人が多くいます。
高校生のうちから研究を発表できる場もあります。日本農芸化学会は、2006 年度の京都大会から、高校生のポスター発表会「ジュニア農芸化学会」を開いています。大学の先生や企業の研究者と、直接質問し合えるのが特長です。2027 年 3 月には名古屋で開かれます。
生き物の小さな変化に気づける人、うまくいかない実験を工夫してやり直せる人に向いています。経験を積むと、研究のリーダーや、工場で安定してつくる方法を考える仕事、品質を守る仕事などへ進む道があります。
研究室で、生き物を育てて調べる経験を積むことが近道です。
図解バイオの研究職への道(例)
- 1学部細胞・遺伝子・微生物と生物学実験
- 2修士課程多くは 2 年。研究室で培養と解析
- 3研究員薬や食品の会社で研究する
- 4その先リーダーや生産技術、品質の仕事
高校生のうちに試せること
機能性表示食品の根拠を読む
スーパーやコンビニで「機能性表示食品」と書かれた商品を見つけたら、パッケージの届出番号を控えましょう。消費者庁の検索サイトで番号を入れると、どんな試験や研究を根拠にしているかを読めます。
機能性表示食品の届出情報検索(消費者庁)牛乳とヨーグルトで発酵を観察する
家の人と一緒に、清潔な容器に牛乳と少しのヨーグルトを入れ、温かい場所に置いて、数時間ごとに様子を記録しましょう。乳酸菌がつくる酸で、牛乳がしだいに固まります。置く温度を変えて、固まる速さを比べてみましょう。食べずに観察だけにしましょう。
ジュニア農芸化学会の発表を調べる
日本農芸化学会のサイトには、2006 年からの高校生の発表の一覧があります。全国の高校生が、どんな生き物や食べ物をテーマに研究しているかを見て、自分の研究のヒントにしましょう。
ジュニア農芸化学会(日本農芸化学会)
「医薬品・食品のバイオ研究」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 172 件から探せます。
糖鎖生命科学
名古屋大学(愛知県)
応用生命科学・佐藤 ちひろ 教授
細胞表面の糖鎖の役割を理解・制御し、健康・環境・食に役立てる。
微生物機能化学
神戸大学(兵庫県)
応用生命化学・吉田 健一 教授
分子細胞制御学
名古屋大学(愛知県)
応用生命科学・柴田 秀樹 教授
細胞内輸送や分泌に関わるタンパク質の構造と相互作用を研究する。
細胞制御工学研究分野
九州大学(福岡県)
システム生物工学・片倉 喜範 教授
食の健康科学(ニップン)寄付講座
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科応用生命化学専攻

食品生物構造学研究室
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科応用生命化学専攻・食品科学
よくある質問
バイオの研究職には、生物学科と農学部のどちらが向いていますか?
どちらからも目指せます。生物学科では生命のしくみそのものを、農学部の農芸化学科などでは、微生物や食品を人の役に立てる面を深く学びます。会社の研究所では、生物・農学・薬学・化学などの出身者が一緒に働いています。
遺伝子組換えの実験は、危なくないのですか?
日本では、遺伝子を組み換えた生き物の使い方を、法律(カルタヘナ法)で定めています。大学や会社では、この決まりに沿って、生き物が外に広がらないように実験室や装置を選び、安全に実験しています。
化学が苦手でも、バイオの研究はできますか?
生き物の中で起きることの多くは、分子の化学反応です。大学では生化学などで基礎から学びます。高校の化学基礎で学ぶ物質量や濃度の考え方は、培地をつくるときにも使うので、少しずつ慣れていけば大丈夫です。
