図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 2
2 年: 生命のしくみを学ぶ
分子生物学・生化学・細胞生物学・遺伝学・発生生物学・生態学・系統進化学の講義が出そろい、分子から生態系までの階層を一通り学ぶ 1 年です。実験では、無菌操作で大腸菌を育て、PCR や電気泳動で目に見えない DNA を扱い始めます。

ひとことで言うと
地図アプリのように、縮尺を切り替えて見る
スマートフォンの地図アプリは、日本全体から 1 軒の家まで縮尺を切り替えられます。2 年の生物学は、同じ生き物を分子・細胞・個体・生態系と、縮尺を切り替えて見る練習です。縮尺ごとに見えるものが違い、それをつなぐと生き物の全体が見えてきます。

01
2 年の科目: 分子から生態系まで、階層を一通り
2 年では、生物学の柱となる講義が出そろいます。千葉大学の生物学科では、2 年に発生生物学・細胞生物学・分子生物学・生理化学・生態学・系統進化学・生物数学などを学びます。実験も、分子遺伝学・発生生物学・生態学の実験と、系統学の野外実験に広がります。
東京理科大学の生命生物科学科でも、2 年に分子遺伝学・生化学・細胞生物学などが並びます(2025 年 4 月 1 日現在)。微生物学や、コンピュータで生命のデータを扱うバイオインフォマティクスもあります。半期の間、金曜日は朝から夕方まで遺伝子工学の基礎の実験です。
生物学では、生き物を、分子・細胞・組織と器官・個体・個体群と群集・生態系という入れ子の階層でとらえます。2 年の講義は、この階層を下から上まで一通り学ぶように組まれています。上の階層は下の寄せ集めではなく、部品どうしの関係から新しい性質が生まれる点に注目します。
別々に見える 2 年の科目は、階層のどこを扱うかでつながっています。
図解生物学の階層と 2 年の科目
- 生態系生態学: 生き物と環境のつながり
- 個体群・群集生態学・系統進化学: 種の集まりと関係
- 個体発生生物学: 1 個の受精卵から体へ
- 組織・器官生理学: 器官が働きを分担する
- 細胞細胞生物学: 生き物の基本の単位
- 分子分子生物学・生化学: DNA とタンパク質

02
遺伝暗号の解読: 試験管の中の「翻訳機」
分子生物学で必ず学ぶのが、DNA の情報がタンパク質に訳されるしくみです。核酸は 4 種類の文字(塩基)で、タンパク質は 20 種類のアミノ酸で書かれた文章にたとえられます。その 2 つの文字の対応表が、遺伝暗号です。
1968 年のノーベル生理学・医学賞の授賞式では、遺伝暗号の解読が、エジプトの象形文字の解読にたとえられました。象形文字は、同じ文を 2 種類の文字で刻んだロゼッタストーンを手がかりに読まれました。しかし、核酸とタンパク質を 1 文字ずつ見比べる方法は、技術的にできませんでした。
そこでアメリカのニーレンバーグは、試験管の中に、核酸の文をタンパク質の文に訳す「翻訳機」を組み立てました。1 種類の文字だけをつないだ核酸を入れると、できたタンパク質も 1 種類のアミノ酸だけでできていました。最初の 1 文字が読めた瞬間です。
最初の結果が報告されたのは 1961 年 8 月です。それから 5 年足らずで、暗号の全体が明らかになりました。解読に取り組んだホリー、コラナ、ニーレンバーグの 3 人が、1968 年の賞を受けています。
答えを知りたいとき、比べられる実験を設計するのが、分子生物学の面白さです。
図解最初の暗号を読んだ実験(1961 年)
- 1翻訳機をつくる試験管でタンパク質をつくる仕組み
- 21 文字の核酸同じ文字だけをつないだ核酸を入れる
- 3できた物を調べる1 種類のアミノ酸だけがつながった
- 4暗号の 1 つ目その文字の並びが、そのアミノ酸を指す

03
学生実験: 大腸菌を育て、DNA を増やす
2 年の実験では、目に見えない微生物や DNA を扱い始めます。東京理科大学の生命生物科学科の基礎遺伝子工学実験は、2 年の前期か後期(組によって異なる)の金曜日に、1〜5 限を通して行われます。最初に学ぶのは、消毒・滅菌と、ほかの菌を混ぜない無菌操作です。
続いて、大腸菌が増えていく様子をグラフにして、数が 2 倍になる時間(ダブリングタイム)を計算します。大腸菌に感染するウイルス(ファージ)を増やし、その DNA を取り出して制限酵素で切る実験もあります。
後半は PCR です。目当ての遺伝子を増やし、電気泳動で、予想どおりの長さの DNA ができたかを確かめます。2 回目の PCR は、実験の組み立てを各自で考えます。最後は、学術雑誌に投稿する形でレポートにまとめます。
持ち物には、白衣とともに方眼の実験ノートが指定され、前半の実験が終わると提出します。何をどれだけ入れたかを、その場で書き残す習慣が、ここで身につきます。
微生物の実験では、ほかの菌を入れない無菌操作がすべての基本です。
図解ダブリングタイムを計算する(例)
- 1増えた倍率 = 1 億 2,800 万 ÷ 200 万 = 64 倍
- 264 = 2 × 2 × 2 × 2 × 2 × 2 = 2⁶
- 32 倍になることが 6 回起きた
- 4120 分 ÷ 6 回 = 20 分


04
2 年生の 1 週間(例): 実験の日と、系統樹を描く日
下の図は、2 年生の前期の 1 週間の例です。東京理科大学の大学案内に載っている 2 年生の前期の時間割を参考にしました。科目の名前や曜日は大学によって異なります。
東京理科大学のバイオインフォマティクス 1 では、データの並べ替えやグループ分けの考え方と、系統樹をつくるアルゴリズムを学びます。後半には Python の演習もあります。大学案内では、4 年生が、初めてのプログラミングで Python を使って系統樹を描いた体験を振り返っています。
野外に出る授業もあります。京都大学の主に 1・2 回生向けの生物学実習 II(自然史コース)では、花に来る昆虫を採集します。セミの抜け殻を集めて種類を見分け、統計の実習に使う回もあります。千葉大学の生物学科でも、2 年に系統学の野外実験があります。
図解2 年生の 1 週間(例)
- 月生化学・線形代数酵素の反応と行列の計算を学ぶ
- 火生命情報科学DNA の配列から系統樹を描く
- 水分子遺伝学・英語遺伝子がはたらくしくみを学ぶ
- 木生物有機化学生き物の分子を化学で読み解く
- 金遺伝子工学実験1〜5 限まで実験室で過ごす
- 土・日レポート・予習増え方のグラフを仕上げる


05
つまずきやすい点と乗り越え方
2 年でつまずきやすいのは、覚えることの多さです。分子や酵素の名前が一度にたくさん出てきます。名前だけを覚えるより、「何から何をつくる反応か」という流れの図を自分で描くと、つながって覚えられます。
目に見えない DNA を扱う実験では、うまくいったかどうかを、電気泳動の帯などで間接的に確かめます。結果が出なかったときは、実験ノートの記録をたどり、どの段階に原因があるかを考えます。
千葉大学の生物学科では、2 年に生物学論文演習や、化学・生物の英語の授業があります。英語の教科書や論文を読む機会が増えるので、図から先に眺めて内容をつかむと読み進めやすくなります。
高校生のうちに試せること
倍々に増える数を表計算ソフトで確かめる
表計算ソフトの 1 行目に 1 と書き、次の行から「上の行 × 2」をくり返しましょう。20 分ごとに 2 倍になるとして、12 時間分(36 回)くり返した数を確かめます。実際の培養では、どこかで増えなくなります。その理由も考えてみてください。
身近な生き物で系統樹を描く
イヌ・ハト・カエル・メダカ・ヒトの 5 種類について、背骨・羽毛・肺・毛などの特徴を表にしましょう。共通する特徴が多いものどうしを近くに置いて、枝分かれの図を描きます。大学では、同じことを DNA の配列で行います。
セミの抜け殻を集めて種類を調べる
夏に公園の木でセミの抜け殻を集め、図鑑などの見分け方を使って、種類ごとに数えましょう。京都大学の 1・2 回生向けの実習でも、セミの抜け殻の採集と種類の見分けを、統計の実習と組み合わせています。木の種類や高さで違いが出るかも記録してみてください。
「2 年: 生命のしくみを学ぶ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 118 件から探せます。

臓器形成学分野
熊本大学(熊本県)
生命資源研究・支援センター・発生遺伝学・荒木 喜美 教授
遺伝子を操作したマウスなどで、哺乳類の発生や病気の遺伝的な仕組みを調べる。
遺伝学グループ
名古屋大学(愛知県)
遺伝学・大澤 志津江 教授
細胞間の相互作用による生体制御の仕組みを解明する。
生命機能解析学分野
東北大学(宮城県)
薬学研究科生命薬科学専攻・生命情報薬学・倉田 祥一朗 教授
発生遺伝学研究室
千葉大学(千葉県)
理学部 生物学科・発生遺伝学・石川裕之
ショウジョウバエを使い、発生のプログラムの解明をめざす。

田﨑研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 生物学プログラム・分子生物学・昆虫科学・田﨑 英祐 准教授
シロアリの王と女王が長生きする仕組みを、生体分子やエネルギー代謝から探る。

光環境適応研究グループ
岡山大学(岡山県)
資源植物科学研究所・植物分子生物学・坂本 亘 教授
強い光による光合成の障害から植物が身を守る仕組みや、葉緑体の維持・DNA代謝の仕組みを解析する。
よくある質問
プログラミングの経験がなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。東京理科大学のバイオインフォマティクス 1 では、データの扱い方やアルゴリズムの考え方を学んだあとで、Python の演習をします。大学案内でも、4 年生が、初めてのプログラミングで系統樹を描いたと話しています。
大腸菌を扱う実験は危なくないですか?
学生実験では、まず消毒・滅菌と、ほかの菌を混ぜない無菌操作を学んでから、大腸菌を扱います。白衣を着て、決められた手順と後片付けの方法を守ることが基本です。
2 年で野外に出ることはありますか?
大学によって異なります。千葉大学の生物学科では、2 年に生態学の実験や系統学の野外実験があります。京都大学の主に 1・2 回生向けの実習でも、京都の近くの山林や大学の緑地で、昆虫や植物、菌類などを調べます。

