大学カタログ

図 1 化学の広がり化学の広がり 4

分析化学

その水に、その食品に、何がどれだけ入っているのか。物質を見分け、量を正確に測る方法を作って使う分野です。食品や環境の安全、病気の診断、スポーツのドーピング検査まで、暮らしの安心を数字で支えます。

色の帯がにじんだろ紙を光にかざして見比べる学生と、小さな瓶が円く並んだ分析装置に試料をセットする学生たちがいる実験室

ひとことで言うと

わずかな手がかりから、正体を突き止める

探偵は、現場に残った小さな手がかりから、何が起きたかを推理します。分析化学も、わずかな試料から、何が・どれだけ含まれているかを突き止めます。違うのは、推理の道具が装置と数字であることです。

01

何が、どれだけ: 0.01 ppm を見分ける

分析化学には、何が含まれているかを調べる定性分析と、どれだけ含まれているかを測る定量分析があります。食品の安全を守る決まりも、この定量分析の上に成り立っています。

2006 年 5 月 29 日、食品に残る農薬などについての「ポジティブリスト制度」が始まりました。それまでは、基準が決まっていない農薬が見つかっても、販売を止められませんでした。この制度では、基準のない物質にも一律基準の 0.01 ppm を当てはめ、超えた食品の販売などを禁止しています。

0.01 ppm は、食品 1 kg の中に 0.01 mg という、とても小さな量です。国内に出回る食品は自治体が、輸入食品は検疫所が検査しています。こうした検査を支えているのが、クロマトグラフィーや質量分析です。

「どれだけ」を正確に測れることが、安全の決まりの土台です。

図解0.01 ppm は、どのくらい?

入力一律基準 0.01 ppm(食品 1 kg に 0.01 mg)
  1. 11 ppm は 100 万分の 1(1 kg に 1 mg)
  2. 20.01 ppm は、その 100 分の 1 で 1 億分の 1
  3. 3食品 1 トンでも 10 mg。1 円玉 1 枚(1 g)の 100 分の 1
結果1 億分の 1 の量を見分けて測る力が、食品の安全を支えている

02

クロマトグラフィー: 混ざった物を分けて調べる

水性ペンの黒いインクで点を打ったろ紙の端を水につけると、水がしみ上がるにつれて、青や赤、黄色に分かれていきます。成分ごとに、紙へのくっつきやすさと水への溶けやすさが違うので、進む速さに差が出るのです。

この方法の始まりは 20 世紀の初め、ロシアのツヴェットが、すりつぶした葉の色素を分けた実験だとされます。クロロフィルやカロテンなどが色の帯に分かれたことから、ギリシア語の「色」と「書く」を合わせてクロマトグラフィーと名づけられました。

いまは、気体や液体を細い管に流して、何百もの成分を分ける装置が使われます。分けた成分を質量分析計で 1 つずつ調べると、ごくわずかな農薬や薬の成分まで見つけられます。

混ざった物を分けることが、正確な分析の第一歩です。

図解ペンのインクを分けてみる

  1. 1点を打つろ紙の下から 2 cm に水性ペンで
  2. 2水につける点が水につからない深さで立てる
  3. 3しみ上がる水と一緒に色が上へ進む
  4. 4色が分かれる進む速さの差で色の帯ができる
水の入ったコップの上につるしたろ紙に、黒いインクが緑や赤の色に分かれてにじんでいる
黒いインクをろ紙で分けた様子。1 色に見えるインクも、いくつかの色の成分が混ざってできています。写真: Oscar(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

03

質量分析: 分子の重さを量って見分ける

質量分析は、分子をイオンにして飛ばし、その重さを測って種類を見分ける方法です。世界中の化学の研究室で使われていますが、かつては、たんぱく質のような大きな分子をこわさずにイオンにすることができませんでした。

この壁を越えたのが、京都の島津製作所の技術者だった田中耕一さんです。1985 年 2 月、田中さんは、試料と混ぜるコバルトの細かい粉の代わりに、間違えてグリセリンと混ぜた粉を使ってしまいました。「もったいない」と考えてそのまま測ると、それまで見たことのない信号が現れました。

ここから、レーザーを当てて大きな分子をこわさずに浮かび上がらせる方法が生まれました。田中さんは 2002 年、43 歳でノーベル化学賞を受けています。ノーベル財団の発表は、こうした方法が新しい薬の開発を大きく変えたと述べ、食品の検査やがんの早期の診断への応用も挙げています。

大きな分子の重さを量れるようになり、生命科学や医療が進みました。

図解分析の道具を比べる

クロマトグラフィー

  • 混ざった物を成分ごとに分ける
  • 気体用と液体用がある

質量分析

  • 分子の重さで種類を見分ける
  • ごくわずかな量でも測れる

分光分析

  • 吸収する光の波長で調べる
  • 色や濃さを数字にする
実験台の上に並ぶ、液体クロマトグラフの箱形の装置と、青い大きな質量分析計
液体クロマトグラフと質量分析計を組み合わせた装置(チェコの農業食品検査機関)。食品に残った農薬を調べるのに使われています。写真: Sarka Na kopci(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

スポーツと環境の公正・安全を支える

ドーピング検査も分析化学の仕事です。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は、競技会のほか、自宅や練習場所でも選手から尿や血液を採ります。検体は、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が認めた分析機関に運ばれて分析されます。

1 回の検査では見つけにくい不正もあります。そこで、同じ選手の血液のデータをくり返し記録し、その人の値の変わり方から不正を見つける方法も使われています。「アスリート・バイオロジカル・パスポート」と呼ばれます。

空気や水の監視にも分析は欠かせません。環境省の「そらまめくん」では、全国の測定局で測った大気汚染物質の濃度を見られます。化学物質の濃度を正しく測る専門家として、国家資格の環境計量士もあります。

正確な分析が、スポーツの公正さと暮らしの安全を守っています。

クイズ分析化学クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1ポジティブリスト制度の一律基準 0.01 ppm は、食品 1 kg あたり何 mg?

  2. Q2「クロマトグラフィー」の名前のもとになったギリシア語の意味は?

  3. Q3田中耕一さんの発見のきっかけになった出来事は?

0 / 3 問に回答

05

大学での学び方と、分析化学が生きる仕事

多くの大学では、2 年で分析化学を学び、3 年で NMR などを使う機器分析に進みます。滴定で濃度を求める実験から始め、測った値のばらつきや誤差を統計で扱う方法も身につけます。科目の名前や順番は大学によって異なります。

分析化学は、化学のほかの分野の土台でもあります。新しい物質を作ったら、それが本当に目的の物かを分析で確かめるからです。研究室では、新しい測り方の開発や、少ない試料で多くの成分を一度に測る工夫に取り組みます。

仕事では、食品・医薬品・化学メーカーの品質管理や、環境の測定を行う会社で働く人がいます。分析装置のメーカーや、国や自治体の検査機関で働く人もいます。都道府県警察の科学捜査研究所で、事件の現場に残った物質を分析する人もいます。

図解分析の流れ

  1. 1試料を採る水・食品・血液などを集める
  2. 2前処理目的の成分を取り出し、濃くする
  3. 3分けて測るクロマトグラフィーと質量分析
  4. 4判断する基準や過去のデータと比べる

高校生のうちに試せること

  • 水性ペンでペーパークロマトグラフィー

    コーヒー用のろ紙を細長く切り、下から 2 cm の所に水性ペンで点を打ちます。紙の端を水につけて、色が分かれる様子を観察しましょう。同じ黒でも、ペンの種類によって分かれ方が違うかを比べてみてください。

  • 「そらまめくん」で家の近くの空気を調べる

    環境省の「そらまめくん」で家の近くの測定局を探し、大気汚染物質の濃度を見てみましょう。時刻や天気で値がどう変わるかを数日記録すると、測ることの意味が見えてきます。

    環境省「そらまめくん」
  • 水道局の水質検査の結果を読む

    住んでいる市町村の水道局のサイトでは、水道水の水質検査の結果が公開されています。どんな項目を、どこまで低い濃さまで調べているかを見て、基準の値と比べましょう。

「分析化学」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 89 件から探せます。

研究室をすべて見る(65 件)

よくある質問

分析化学は地味な分野ではありませんか?

結果が数字で出るので目立ちにくい面はありますが、新しい物質の確認から食品・環境の安全まで、化学のあらゆる場面で欠かせません。田中耕一さんのノーベル賞のように、新しい測り方の発明が、生命科学や医療を大きく前に進めることもあります。

分析の仕事に資格は必要ですか?

必須ではない仕事も多くありますが、計量法にもとづく国家資格として環境計量士(濃度関係)があります。国家試験には化学分析や濃度の計量の科目があり、大学で学ぶ分析化学の内容が生きます。