大学カタログ

図 1 化学の広がり化学の広がり 5

生命・材料・化学工学

化学で分かったことを、薬・服・電子部品・肥料などの「役に立つ物」に変える分野です。高分子化学・材料化学・生化学・化学工学を学び、実験室の発見を工場での生産や暮らしにつなげます。

青い水槽の中で淡く光るクラゲ、銀色に光る薄い膜、色ごとに束ねたペットボトル、銀色の塔が並ぶ化学工場の模型を囲んで話し合う学生たち

ひとことで言うと

1 人分のレシピを、1 万人分にする

家で 1 人分の料理がおいしくできても、1 万人分を同じ味で作るのは別の難しさがあります。大きな鍋では、火の通り方も混ぜ方も変わるからです。実験室のフラスコでできた物質を、工場で安全に大量に作る方法を考えるのも、応用化学の仕事です。

01

高分子とプラスチック: 長い鎖の分子を使いこなす

ペットボトルやレジ袋、服のポリエステル、ナイロンの糸は、小さな分子を何千もつないだ長い鎖の分子(高分子)でできています。鎖の長さや並び方を変えると、硬さや透明さ、熱への強さが変わります。高分子化学は、これを設計して新しい素材を作る分野です。

使い終わったプラスチックをどうするかも、化学の大きな課題です。プラスチック循環利用協会によると、2024 年に日本で出た廃プラスチックは 911 万トンでした。その 89% が有効に利用されています。ただ内訳をみると、製品に戻すマテリアルリサイクルは 20%、化学原料に戻すケミカルリサイクルは 2% です。燃やして熱や電気を回収する方法が、約 3 分の 2 を占めています。

プラスチックを分子のレベルまで分解し、新品と同じ品質の原料に戻すケミカルリサイクルは、化学の力が試される分野です。種類の違うプラスチックが混ざったごみを効率よく分ける技術や、使い終わったら分解しやすい高分子の研究も進んでいます。

分子の設計も、使い終わった後の行き先も、化学の仕事です。

図解日本の廃プラスチックの行き先(2024 年)

製品に戻す

  • マテリアルリサイクル 20%
  • 溶かして、再び製品にする

原料に戻す

  • ケミカルリサイクル 2%
  • 分解して、化学原料にする

熱を回収する

  • 燃料・発電など 約 67%
  • 燃やして熱や電気を使う
屋根のある置き場に、つぶしたペットボトルを色ごとに四角く固めた束が積まれている
色ごとに分けて固めたペットボトルの束(チェコのオロモウツ)。種類や色をそろえてから、再生の工程へ送ります。写真: Michal Maňas(CC BY 3.0・Wikimedia Commons)

02

電気を通すプラスチック: 失敗から生まれた発見

プラスチックは電気を通さないので、電線の被覆に使われます。この常識をくつがえしたのが、2000 年のノーベル化学賞を受けた白川英樹さんたちです。白川さんは中学 3 年のとき、将来は科学者になって、人の役に立つプラスチックの研究をしたいと作文に書いたと振り返っています。

1967 年の秋、白川さんが助手を務めていた東京工業大学の研究室での出来事です。訪れていた研究者がポリアセチレンを作ろうとして、黒い粉の代わりに、ぼろぼろの膜を作りました。調べると、触媒の量が予定の 1,000 倍でした。実験の指示の「mmol」の「m」が抜けたか、読み違えたと考えられています。条件を整えると、銀色に光る薄い膜ができました。

この膜に目を留めたアメリカのマクダイアミッドに招かれ、白川さんは 1976 年にペンシルベニア大学へ渡ります。膜に臭素を加えて電気の通しやすさを測ると、値は一気に 1,000 万倍になり、測定器の切り替えが間に合わないほどでした。物質を少し加えて性質を変えるドーピングの効果を、初めてとらえた瞬間でした。

失敗の原因を確かめる姿勢が、大発見につながりました。

図解銀色の膜から、電気を通すプラスチックへ

  1. 11967 年触媒が 1,000 倍で、膜ができる
  2. 2原因を探る触媒の濃さが決め手だと突き止める
  3. 31976 年臭素を加えると、電気が 1,000 万倍
  4. 42000 年ノーベル化学賞を受ける

03

生化学: クラゲの光を、生命を見る道具にする

生化学は、体の中の分子と反応を化学の目で調べる分野です。応用化学では、酵素やたんぱく質を、薬や検査、ものづくりの道具として使う研究も進んでいます。

名古屋大学で有機化学を学んだ下村脩さんは、1961 年、光るクラゲ(オワンクラゲ)の研究を始めました。場所は、アメリカ西海岸のフライデーハーバーです。1962 年、光るたんぱく質を取り出す途中で、もう 1 つのたんぱく質に気づきます。紫外線を当てると緑に光る GFP(緑色蛍光たんぱく質) です。

下村さんたちは 1961 年から 1988 年までに、研究のために約 85 万匹のクラゲを集めました。いまでは GFP を目印として別のたんぱく質につなぎ、脳の神経の細胞が育つ様子や、がん細胞が広がる様子を観察できます。下村さんは 2008 年、ほかの 2 人とともにノーベル化学賞を受けました。

生き物の分子を取り出して調べると、新しい道具が生まれます。

クイズ応用化学クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1白川英樹さんの研究室で、銀色の膜ができるきっかけになった出来事は?

  2. Q2オワンクラゲから見つかった GFP は、紫外線を当てると何色に光る?

  3. Q32024 年、日本の廃プラスチックで最も多かった処理のしかたは?

0 / 3 問に回答
青い水の中を漂う、透明な傘をもつクラゲ
オワンクラゲ。北アメリカの西海岸の海にすみ、GFP はこのクラゲから見つかりました。写真: Julia Sumangil(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

化学工学: フラスコの反応を、工場の規模へ

空気の約 8 割は窒素ですが、植物はそのままでは窒素を栄養にできません。20 世紀の初め、ドイツのハーバーは、窒素と水素から触媒を使ってアンモニアを作る方法を開発しました。アンモニアは化学肥料の原料になります。ハーバーは 1918 年のノーベル化学賞を受けています。

この方法のかなめは、温度・圧力・気体の流れる速さを整えた装置に、窒素と水素を通すことです。工場で大量に作るには、高い圧力に耐える大きな反応装置が必要でした。反応・熱の出入り・物の流れを組み合わせて、安全で無駄のない工場を設計するのが化学工学です。

装置を大きくすると、熱がこもりやすくなるなど、フラスコでは起きなかった問題が出てきます。反応の速さや熱の伝わり方、液体を沸点の差で分ける蒸留などを式で表します。問題を前もって予測して防ぐのが、化学工学の技術者の大切な役目です。

化学の発見を工場の生産につなぐ橋渡しが、化学工学です。

図解アンモニア 34 kg を作るには?

入力N₂ + 3H₂ → 2NH₃(窒素 1 mol と水素 3 mol から、アンモニア 2 mol)
  1. 1窒素 N₂ 1 mol は 28 g、水素 H₂ 3 mol は 6 g
  2. 2アンモニア NH₃ 2 mol は 34 g
  3. 31,000 倍すると、窒素 28 kg と水素 6 kg から 34 kg
結果反応式の係数から、必要な原料の重さが計算できる
建物の前の芝生に立つ、さびた鉄の太い円柱の装置
1921 年に作られた、アンモニア合成用の高圧の反応装置。いまはドイツのカールスルーエ工科大学の敷地に置かれています。写真: Dietmar Rabich(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

05

大学での学び方と、応用化学が生きる仕事

応用化学科・工業化学科・化学工学科などでは、多くの場合、1・2 年で物理化学・有機化学・無機化学の基礎を学びます。3 年からは、高分子化学・材料化学・生化学・化学工学などに広がります。学科の名前や学ぶ内容の配分は大学によって異なります。

化学工学の授業では、物質や熱の流れを計算する移動現象、反応装置を設計する反応工学、蒸留などの分離工学を学びます。学生実験では、小さな蒸留の装置や反応装置を動かし、計算と実際の結果を比べます。

応用化学を学んだ人は、化学・素材・医薬品・食品・化粧品・電池・半導体などのメーカーで、研究開発や生産技術の仕事につきます。工場の設計や運転を担うプラントエンジニアの道もあります。

図解応用化学が生きる場所

応用化学
  • 医薬品・食品酵素やたんぱく質を使う
  • 繊維・樹脂高分子を設計する
  • 電子材料電気を通す・光る材料
  • 肥料・燃料大きな工場で大量に作る
  • リサイクル使った物を原料に戻す
  • 化学工場安全で無駄のない工程

高校生のうちに試せること

  • プラスチックが水に浮くか沈むか調べる

    ペットボトルの本体とキャップを小さく切り、水に入れて浮くか沈むかを比べましょう。種類によって密度が違い、本体の PET は沈み、キャップに多いポリプロピレンなどは浮きます。はさみでけがをしないように気をつけてください。

  • 「プラスチックリサイクル 20 のはてな」を読む

    プラスチック循環利用協会の解説で、プラスチックの種類やリサイクルの方法を学べます。家のごみの分け方と見比べて、どの方法で再生されているのかを考えましょう。

    プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクル 20 のはてな」
  • 反応式から、原料の重さを計算する

    教科書の化学反応式を 1 つ選び、作りたい物の重さから、必要な原料の重さを計算しましょう。1,000 倍、100 万倍と規模を大きくしたとき、熱や安全の面で何が問題になりそうかも考えてみてください。

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よくある質問

化学工学科は、化学科とどう違いますか?

化学工学は、化学反応を工場の規模で安全に効率よく行う方法を研究する工学の分野です。物質や熱の流れを数式で扱うことが多く、機械工学に近い内容も学びます。化学の基礎を学んだうえで、装置や工程を設計する力を身につけます。

生物が好きでも、応用化学で学べますか?

応用化学には、酵素やたんぱく質、微生物を使う生化学やバイオの研究室が多くあります。GFP のように、生き物の分子を化学の道具として使う研究もあります。研究室の分野は大学によって違うので、学科のサイトで研究室の一覧を確かめると、選ぶ手がかりになります。