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図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 2

医薬品・化粧品・食品の開発

薬の候補になる分子をつくったり、化粧品や食品の成分を組み合わせて、使い心地や味を工夫したりする仕事です。からだに使う物、口に入る物だからこそ、効き目と安全の両方を化学で確かめます。

明るい研究室で、色とりどりの液体の入った試験管、白いクリームの入った小さな容器、昆布や果物を並べた机を囲み、白衣の若い研究員たちが話し合う様子

ひとことで言うと

バンドの音のバランスをつくる

バンドでは、ギター・ベース・ドラム・歌の音量のバランスで、同じ曲でも印象が大きく変わります。化粧品や食品の開発も、たくさんの成分の役割と量のバランスを決める仕事です。薬の開発では、1 つの分子の形を少しずつ変えながら、いちばん良い組み合わせを探します。

01

どんな仕事?: からだに使う物、口に入る物の中身をつくる

薬・化粧品・食品は、どれも化学の成分の組み合わせでできています。薬の研究では、病気に関わる分子に働く候補の分子を設計して合成します。見つかった薬を、工場で安全に大量につくる方法を考える研究者もいます。

化粧品では、水や油、粉などの原料を組み合わせて、肌へののびやさっぱり感、長持ちするかを工夫します。これを処方開発といいます。食品の会社では、味や香り、食感、日持ちをよくする成分を研究します。

薬は、化学の産業の中でも特に研究にお金をかける分野です。2023 年度、医薬品をつくる会社は、売上高の 10.3% を研究に使いました。製造業全体の 4.0% の 2 倍以上です(総務省の調査を日本化学工業協会がまとめたもの)。

成分の組み合わせと分子の形を工夫して、効き目や使い心地を生みます。

図解3 つの分野の開発

医薬品

  • 候補の分子を設計して合成する
  • 効き目と安全性を細胞などで調べる
  • 工場でつくる方法を考える

化粧品

  • 水と油、粉の組み合わせを決める
  • 肌へののびや使い心地を試す
  • 温度を変えて長持ちを確かめる

食品

  • 味や香りの成分を調べる
  • 食感や日持ちを工夫する
  • 安全に食べられるかを確かめる

02

日本の化学者が取り出した、3 つの成分

1985 年、特許庁は日本の特許の制度が 100 周年を迎えたのを記念して、「十大発明家」を選びました。10 人のうち 3 人は、化学の力で、からだや食べ物に関わる成分を取り出した人です。

高峰譲吉は、工部大学(いまの東京大学工学部)の応用化学科を卒業した化学者です。アメリカで、純粋なアドレナリンを結晶として取り出す方法を発明し、1901 年に特許を得ました。空気の圧力を下げ、液の温度を上げずに溶媒を取り除く工夫が、そのかぎでした。

池田菊苗は、東京帝国大学で物理化学を研究していた教授です。昆布のうま味の正体を調べてグルタミン酸ソーダだと突き止め、1908 年に調味料のつくり方の特許を得ました。農芸化学者の鈴木梅太郎は、米ぬかから脚気に効く成分を取り出しました。いまのビタミン B1 で、世界で最初に取り出されたビタミンとされています。

身近な食べ物やからだの働きの謎が、化学で解かれてきました。

クイズからだと食べ物の化学クイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q1池田菊苗が、うま味の正体を探して調べた食材は?

  2. Q2特許庁の「十大発明家」の一人、高峰譲吉が特許を得た発明は?

  3. Q3医薬品をつくる会社が研究に使うお金は、売上高のおよそ何%?(2023 年度)

0 / 3 問に回答
小石の浜一面に、黒っぽい帯のような昆布がすき間なく並べて干されている
北海道の浜で、昆布を干している様子(1985 年)。池田菊苗は、昆布のだしのうま味のもとを、化学の方法で突き止めました。写真: Marie-Sophie Mejan(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

03

化学が生きる場面: 分子の形を少しずつ変えて、薬に近づける

薬の候補が見つかっても、そのままでは薬になりません。効き目が弱かったり、水に溶けにくかったり、からだの中ですぐに分解されたりするからです。そこで、分子の一部を少しずつ変えた仲間の分子をたくさん合成して、性質を比べます。

このくり返しで、大学の有機化学が大きな力になります。どの部分をどう変えるか、それはどんな反応で合成できるか。できた物を NMR や質量分析で確かめ、生物の専門家に効き目を調べてもらいます。結果を見て、次に合成する分子を決めます。

候補が決まったら、工場で安全に、安く、大量につくる方法を考えます。これをプロセス化学といいます。実験室では使えた試薬が、工場では危なくて使えないこともあります。別の反応の道すじを探すのも、化学者の仕事です。

分子を設計してつくれることが、薬の研究での化学者の強みです。

図解薬の候補の分子を磨く(例)

  1. 1設計する分子のどこを変えるかを考える
  2. 2合成するフラスコで仲間の分子をつくる
  3. 3確かめる構造を分析し、効き目を測る
  4. 4考える結果から次の分子を決める

04

化粧品の処方開発: 水と油を仲良くさせる

乳液やクリームは、本来は混ざらない水と油を混ぜ合わせた物です。間を取り持つのが、水になじむ部分と油になじむ部分の両方をもつ界面活性剤です。この技術を乳化といい、アイスクリームやチョコレートなどの食品にも使われています(日本化粧品工業会)。

混ざり方には 2 つの型があります。水の中に油の粒が散らばる型と、油の中に水の粒が散らばる型です。生クリームは前の型なのでコーヒーに混ざり、バターは後の型なので混ざりません。透明な化粧水に油の成分が入っていられるのは、界面活性剤が集まった粒が、光の波長より小さいからです。

日焼け止めにも化学が詰まっています。紫外線を吸収する分子と、酸化チタンや酸化亜鉛のように紫外線を散らす粉を組み合わせます。効き目は「SPF」と「PA」で表し、いちばん高い表示は SPF50+ と PA++++ です。

水と油、粉と分子を組み合わせて、使い心地と効き目を両立させます。

図解化粧品の処方開発者の 1 日(例)

  1. 8:45朝会試作と試験の予定を共有する
  2. 9:30試作原料を量り、温めながら混ぜて乳化する
  3. 11:30使用感の確認肌へののびやべたつきを比べる
  4. 12:30昼休み
  5. 13:30安定性の確認温度を変えて保管した試作品を調べる
  6. 15:30打ち合わせ商品の企画や品質の担当と相談する
  7. 17:00記録配合と結果をまとめ、次の案を考える
水の入ったグラスの中で、白い粉が煙のように広がりながら沈んでいく
水に入れた酸化チタンの白い粉。水には溶けずに広がっていきます。日焼け止めでは、こうした粉が紫外線を散らす「紫外線散乱剤」として使われます。写真: Pixelmaniac pictures(CC0・Wikimedia Commons)

05

向いている人と入り方・その先

化学科や応用化学科のほか、薬学部や、農学部の農芸化学科などからも目指せます。研究職では、大学院の修士課程を修了してから入社する人が多くいます。博士課程まで進んで研究を深めてから入社する人もいます。

薬用の化粧品などの医薬部外品を売り出す会社には、品質と安全を管理する責任者を置く決まりがあります。薬剤師のほか、大学で薬学や化学の専門の課程を修めた人も、この責任者になれます(医薬品医療機器等法施行規則)。化学を学んだことが、そのまま資格の条件になるのです。

人の役に立つ物をつくりたい人、においや手ざわりなどの小さな違いに気づける人に向いています。経験を積むと、研究のリーダーや、新しい商品を企画する仕事、品質を守る責任者などへ進む道があります。

化学を軸に、生物や薬の知識も合わせて学ぶと強みになります。

図解薬・化粧品・食品の開発への道(例)

  1. 1学部有機化学・生化学・学生実験
  2. 2修士課程多くは 2 年。研究室で合成や分析
  3. 3研究員合成や処方の開発を担当する
  4. 4その先リーダーや商品の企画、品質の責任者

高校生のうちに試せること

  • マヨネーズの原理で乳化を確かめる

    家の人と一緒に、コップに酢と油を入れてよく混ぜてみましょう。しばらくすると 2 つの層に分かれます。そこに卵黄を少し加えて混ぜると、白っぽく混ざった状態が長く続きます。卵黄の成分が、界面活性剤の役目をするからです。

  • 日焼け止めの表示を読む

    家にある日焼け止めの SPF と PA、UV 耐水性の表示を確かめましょう。成分の欄に酸化チタンや酸化亜鉛があれば、紫外線を散らす粉が入っています。用語の意味は、日本化粧品工業会のページで確かめられます。

    気になる紫外線用語 CHECK!(日本化粧品工業会)
  • 十大発明家の物語を読む

    特許庁のサイトでは、高峰譲吉・池田菊苗・鈴木梅太郎を含む 10 人の発明の物語を読めます。化学の発明が、どんな困りごとから生まれたのかに注目して読んでみましょう。

    十大発明家(特許庁)

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よくある質問

薬をつくる仕事は、薬学部でないとできませんか?

薬の研究所では、薬学部のほか、化学科や応用化学科、農学部などの出身者も働いています。分子を設計して合成する研究では、有機化学の力が特に生きます。

化粧品の開発では、化学のどんな知識を使いますか?

水と油を混ぜる乳化や、粉を均一に散らす技術には、物理化学や界面化学の知識を使います。紫外線を吸収する成分や香りの成分を理解するには、有機化学が欠かせません。

食品の開発には、化学と生物のどちらが必要ですか?

両方を使います。味や香り、色の成分を調べるのは化学、発酵やからだへの働きを調べるのは生物の知識です。農芸化学科のように、化学と生物を合わせて学ぶ学科もあります。