図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
研究者・理科の先生
大学院に進み、大学や研究所で新しい反応や物質を探す研究者と、中学・高校で理科を教える先生。立場は違っても、どちらも「なぜ?」を実験で確かめ、化学の面白さを次の世代へ手渡す仕事です。

ひとことで言うと
曲を生む作曲家と、音楽の先生
作曲家は、まだだれも聞いたことのない曲を生み出します。音楽の先生は、名曲のすばらしさを演奏しながら伝えます。化学の研究者は新しい物質や反応を見つけ、理科の先生は化学の面白さを実験で見せて伝えます。

01
どんな仕事?: 新しい物質を見つける人と、化学を手渡す人
化学の研究者は、まだだれも知らない反応や物質を探し、その性質を明らかにします。大学や国の研究所、会社の研究所で働き、成果は論文にまとめて世界に発表します。大学の研究者は、講義や学生の研究の指導も受け持ちます。
研究のやり方は、分野によってさまざまです。フラスコで新しい分子を合成する人、結晶の構造を X 線で調べる人、コンピュータで反応を予測する人がいます。1 つの研究室の中でも、合成・測定・計算を組み合わせて謎に挑みます。
中学校や高校の理科の先生は、授業と実験を通して、化学の考え方を伝えます。実験の準備や薬品の管理、安全の指導も大切な仕事です。生徒が「なぜ?」と感じる瞬間に立ち会えるのが、先生ならではの喜びです。
新しい化学をつくる人と、化学を伝える人。どちらも化学を深く学んだ人の仕事です。
図解研究者と理科の先生
研究者
- 大学・研究所・会社で働く
- 新しい反応や物質を探す
- 論文で世界に発表する
理科の先生
- 中学校・高校で働く
- 授業と実験で化学を伝える
- 薬品の管理と安全の指導をする

02
日本発の発見: 薄くて曲がる太陽電池
いま世界の研究者が競って取り組む材料に、ペロブスカイト太陽電池があります。ペロブスカイトと呼ばれる結晶の構造をもつ材料で、光を電気に変えます。国内の研究者が開発した日本発の技術で、桐蔭横浜大学の宮坂力さんたちが生み出しました。
2009 年に初めてつくられたとき、発電効率は 3〜4% でした。2012 年に英国と日本の研究者が固体の型を共同で開発すると、世界中で研究が加速します。2024 年 11 月には、最高で 26.7% まで上がりました。ふつうのシリコンの太陽電池の 20% 程度を上回る値です(経済産業省)。
この太陽電池は、軽くて曲げられるのが特長です。シリコンの太陽電池は 1,400℃以上でつくりますが、ペロブスカイトは 150℃ほどでつくれます。主な原料のヨウ素は、日本が世界で 2 番目に多く産出する元素です。国は 2040 年までに約 20GW を導入する目標を立て、宮坂さんは 2026 年に京都賞に選ばれました。1 つの研究室の発見が、十数年で国の目標になったのです。
大学の研究室での発見が、世界の競争と国の目標につながりました。


03
理科の先生: 色の変化で、見えない反応を見せる
中学校や高校で理科を教えるには、理科の教員免許状が必要です。化学科や応用化学科に理科の教職課程を置く大学もあり、化学の授業に教職の授業を加えて学びます。どの学科で取れるかは、大学によって異なります。
化学の授業では、目に見えない原子や分子の変化を、どう見せるかが腕の見せどころです。たとえば、うがい薬に含まれるヨウ素は、でんぷんと出会うと青紫色になります。そこにビタミン C を含む飲み物を加えると、ヨウ素がビタミン C と反応して、色が消えます。
生徒は、どの飲み物にビタミン C が多いかを、色が消えるまでの滴の数で比べられます。結果の理由を、電子のやりとり(酸化と還元)で説明すると、教科書の反応が一気に身近になります。大学で深く学んだ化学が、生徒の素朴な疑問に答える力になります。
身近な物で反応を見せ、理由を化学で説明するのが授業の醍醐味です。
図解ビタミン C を比べる授業(例)
- 1うすめたうがい薬にでんぷんを加え、青紫色にする
- 2飲み物を 1 滴ずつ加え、色が消えるまで数える
- 3飲み物ごとの滴の数を表にして比べる
- 4ヨウ素とビタミン C の反応を式で説明する


04
大学の化学の若手研究者の 1 日(例)
ここでは、大学の化学科で新しい材料を研究する助教の 1 日の例を紹介します。助教は、教授と一緒に研究室を運営しながら、自分の研究テーマも進める立場です。
研究室には、卒業研究に取り組む 4 年生や大学院生がいます。学生の実験の相談にのり、安全な手順を一緒に考えるのも大切な仕事です。学生実験の指導や講義を受け持つ日もあります。
夕方以降は、論文を書いたり、研究費の申請書をまとめたりします。海外の研究者と英語で議論することもあります。新しい物質ができたことを示すデータを最初に目にするのは、研究者だけが味わえる瞬間です。
研究・教育・発表を組み合わせて、新しい化学をつくっていきます。
図解大学の化学の助教の 1 日(例)
- 9:00研究室のゼミ学生の研究の進み具合を聞く
- 10:30合成と測定新しい材料をつくり、構造を調べる
- 12:00昼休み
- 13:00学生実験の指導2 年生の実験を見守る
- 15:30データの解析測定の結果を学生と読み解く
- 17:00論文の執筆成果を英語の論文にまとめる
- 18:30海外との会議共同研究の進め方を話し合う

05
研究者と先生への道
研究者を目指す人の多くは、大学院に進みます。2025 年 3 月に、理学部などで化学を学んで卒業した 2,550 人のうち、約 6 割の 1,577 人が大学院などに進学しました(学校基本調査)。修士課程と博士課程で、自分の研究をまとめる力を身につけます。
同じ年に博士課程を修了した人は、化学(理学)が 149 人、応用化学(工学)が 295 人でした。博士の学位を取ったあと、任期つきの研究員として経験を積み、大学や国の研究所、会社の研究所の職を目指すのがよくある道のりです。
理科の先生になるには、教員免許状を取ったうえで、公立なら都道府県などの採用試験に合格します。大学院で化学の研究を深めてから先生になる人もいます。どちらの道でも、自分で問いを立て、実験で確かめた経験が大きな力になります。
大学院での研究の経験が、研究者にも先生にも生きます。
図解化学の研究者への道(例)
- 1学部4 年で研究室に入り、卒業研究
- 2修士課程多くは 2 年。実験と発表の基礎
- 3博士課程多くは 3 年。研究を論文にまとめる
- 4研究員任期つきで研究の経験を積む
- 5大学・研究所公募に応募し、研究を続ける
高校生のうちに試せること
ヨウ素でんぷん反応で飲み物を比べる
家の人の了解を得て、水でうすめたうがい薬に、片栗粉を溶かした水を少し加えます。青紫色になったら、ジュースやお茶を 1 滴ずつ加え、色が消えるまでの滴の数を比べましょう。うがい薬の液は飲まず、終わったら水でよく流しましょう。
研究の最前線のニュースを読む
桐蔭横浜大学の宮坂研究室のサイトでは、ペロブスカイト太陽電池の研究の歩みや、横浜の大さん橋などで行われた実証試験のニュースを読めます。研究室の発見が、社会で試される様子を追ってみましょう。
宮坂研究室(桐蔭横浜大学)大学や学会の一般向けの講演を聞く
大学の公開講座や、学会が開く一般向けの講演会では、研究者の話を直接聞けます。化学の日(10 月 23 日)のころなどに、近くで開かれる催しを探してみましょう。終わったあとに質問をしてみると、研究者の考え方がよく分かります。
「研究者・理科の先生」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 203 件から探せます。
分光物理化学
筑波大学(茨城県)
物理化学
非線形分光や時間分解赤外分光で界面構造や化学反応を調べる。

合成・構造有機化学研究室
東北大学(宮城県)
理学研究科化学専攻・合成・構造有機化学
分子ナノ物性化学
千葉大学(千葉県)
理学部 化学科・物理化学・大場 友則 准教授
大気物理化学
筑波大学(茨城県)
物理化学
エアロゾルや雲粒、水の界面で起こる物理化学過程を研究する。
生物合成化学研究室
北海道大学(北海道)
応用化学
強光子場科学研究室
東京大学(東京都)
理学系研究科化学専攻・物理化学・岩崎 純史 教授
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
研究者と先生、両方を目指すことはできますか?
大学で理科の教職課程を取りながら、研究室で卒業研究に取り組めます。大学院に進んでから教員になる人も、教員を続けながら大学院で学び直す人もいます。
研究者になるには、とても優秀でないといけませんか?
成績だけで決まるわけではありません。うまくいかない実験を工夫して続ける粘り強さや、小さな変化に気づく観察力が大切です。ペロブスカイト太陽電池も、発電効率 3〜4% の小さな成果から始まりました。
化学の先生は、物理や生物も教えますか?
中学校の理科の先生は、化学だけでなく、物理・生物・地学の内容も教えます。高校では化学の授業を中心に受け持つことが多いですが、学校の事情でほかの科目を受け持つこともあります。

