図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 2
医学
1 日に約 170 L つくられる尿のもと、のどが渇いたときに増える水の通り道、花粉症のカギになる抗体。高校の生物基礎で学ぶ体内環境・ホルモン・免疫は、医学部の生理学や免疫学で、体と病気を理解する出発点になります。

ひとことで言うと
浄水場と、水門の係
腎臓は、血液をいったん大量にこして、必要な水や栄養を戻す浄水場のような臓器です。どれだけ水を戻すかは、ホルモンという合図で水門を開け閉めして決めます。病気を学ぶ前に、こうした正常な体のしくみを学ぶのが生理学です。

01
体内環境 → 生理学: 1 日 170 L の原尿が、約 1 L の尿になる
中学の理科では、腎臓と肝臓のはたらきのあらましを学びます。生物基礎では、体の中の環境を一定に保つしくみを、ホルモンや自律神経と結びつけて学びます。医学部の生理学では、その中心ではたらく腎臓のしくみを、数字で追いかけます。
腎臓の糸球体では、血液から水や小さな分子がこし出され、原尿ができます。その量は 1 日に約 170 L、2 L のペットボトル 85 本分です。ところが、体の外に出る尿は 1 日に約 1 L です。原尿のほとんどは、尿細管などで血液に戻されているのです。
原尿が血液からこし出された液だと確かめたのは、1924 年に論文を発表したアメリカのウェアンとリチャーズです。2 人はカエルの腎臓で、糸球体を包む袋にごく細い管を刺し、中の液を取り出しました。液にはブドウ糖が血液とほぼ同じ濃さで含まれていましたが、ぼうこうの尿にはありませんでした。こし出したブドウ糖を、尿細管で取り戻している証拠です。
大学の生理学では、この「こして、戻す」量を計算で確かめます。尿細管で再吸収されない物質を使うと、尿と血しょうの濃さの比(濃縮率)から、原尿の量を求められます。
腎臓は、大量にこして必要な物を戻すことで、体の中を一定に保っています。
図解原尿の量を求める(例)
- 1濃縮率: 17 ÷ 0.1 = 170 倍
- 2戻らない物質なので、尿 1 L 分の量 = 原尿 170 L 分の量
- 3原尿の量: 1 L × 170 = 170 L

02
ホルモン → 生理学・分子生物学: バソプレシンが増やす「水の通り道」
生物基礎では、ホルモンが血液で運ばれ、決まった器官(標的器官)にはたらくことを学びます。腎臓にはたらくホルモンの 1 つが、脳下垂体後葉から出るバソプレシン(抗利尿ホルモン)です。汗をかくなどして体の水分が減ると分泌され、尿を濃く、少なくします。
では、水は細胞の膜をどうやって通り抜けるのでしょう。1980 年代の半ばから赤血球の膜のタンパク質を調べていたアメリカのアグレは、その 1 つが水だけを通す通り道だと突き止めました。アクアポリンと呼ばれるこのタンパク質の発見で、アグレは 2003 年のノーベル化学賞を受けています。
1993 年、東京医科歯科大学(今の東京科学大学)の研究グループが、新しい水の通り道の遺伝子を取り出しました。腎臓の中では、集合管だけではたらく通り道です。アフリカツメガエルの卵でこの遺伝子をはたらかせると、卵は水をよく通すようになりました。のちに AQP2 と呼ばれるこの通り道こそ、バソプレシンが調節する水の通り道だったのです。
原尿の水の約 70% は、尿細管のはじめで AQP1 という通り道から戻ります。管の終わりでは、さらに約 10% が AQP2 から戻ります。バソプレシンは AQP2 を細胞の表面に運ばせて、戻る水の量を変えるのです。このホルモンが足りない病気では、1 日の尿が 10〜15 L になることもあります。
ホルモンは、細胞の表面の通り道を出し入れして、体の水を調節しています。
図解汗をかいたあと、尿が濃くなるまで
- 1水分が減る汗などで体の水分が減り、体液が濃くなる
- 2ホルモンが出る脳下垂体後葉からバソプレシンが出る
- 3通り道が増える集合管の細胞の表面に AQP2 が運ばれる
- 4尿が濃くなる水が血液に戻り、尿は濃く少なくなる


03
免疫 → 免疫学: 花粉症のカギ IgE を見つけた、日本人の夫妻
生物基礎では、体に入った異物を排除する免疫のしくみを学び、身近な病気の例として花粉症などにもふれます。花粉症は、本来は害の少ない花粉に、免疫が強く反応しすぎて起こるアレルギーの一つです。
この反応のカギになる抗体を見つけたのが、石坂公成さんと照子さんの夫妻です。2 人はアメリカ・デンバーの小児ぜんそくの研究所で研究していました。そこで、アレルギーを起こす抗体が、それまで知られていた抗体とは違う種類だと突き止めたのです。1966 年に発表されたこの抗体が、IgE(免疫グロブリン E) です。
夫妻はその後、IgE がマスト細胞(肥満細胞)という白血球の仲間にくっつくことを報告しました。くっつかれたマスト細胞がヒスタミンを出し、アレルギーの症状が起こります。今では、アレルギーを確かめる血液の検査で、IgE の量を測っています。
照子さんは 1949 年に医学の学位をとり、研究の道を選びました。1990 年には、日本の女性の科学者として初めてベーリング・北里賞を受けています。医学部の免疫学では、こうした抗体と細胞のはたらきを学びます。病理学では、病気のときに組織や細胞がどう変わるかを学びます。
免疫の「はたらきすぎ」を分子で説明したのが、IgE の発見です。
図解花粉症が起こるまで(あらまし)
- 1花粉が入る体が花粉を異物と見なす
- 2IgE ができる花粉にくっつく IgE がつくられる
- 3マスト細胞に付くIgE がマスト細胞の表面にくっつく
- 4再び花粉が来るヒスタミンが出て、症状が起こる


04
医学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
多くの大学の医学部では、2〜3 年ごろの基礎医学で、生理学・免疫学・病理学などを学びます。生物基礎と生物の体の調節・免疫の単元は、その入口です。腎臓やホルモンのしくみを分子で理解するには化学が、検査の数字や薬の量を扱うには数学が役立ちます。
入試の科目は大学によって違います。例えば京都大学の医学部医学科は、2027 年度(令和 9 年度)の個別試験で、理科を物理・化学・生物から 2 科目選びます。物理と化学の組み合わせでも受験できます。入試で生物を使わない場合も、生物基礎の体内環境と免疫の単元を読んでおくと、医学部の授業に入りやすくなります。
医学の面白さは、のどの渇きや花粉症のような身近なことの裏に、分子のしくみが見えてくることです。このサイトの大学の学問「医学」のページでは、体と病気、治療のしくみを紹介しています。医学の「生物」のページでは、血糖濃度を保つしくみや制御性 T 細胞の話も読めます。
生物・化学・数学をそろえておくと、医学部の基礎医学に入りやすくなります。
高校生のうちに試せること
濃縮率の計算で、原尿の量を求める
本文の例の数字を変えて計算してみましょう。尿の中の濃さが 2 倍になると、原尿の量はどう変わるでしょうか。尿の量を 1.5 L にしたときも計算し、原尿の何 % が血液に戻るかを比べてみてください。
花粉を顕微鏡で観察する
学校の顕微鏡を借りて、ユリやツツジなど身近な花の花粉をスライドガラスにのせ、観察しましょう。植物ごとに、花粉の形や表面の模様の違いが見られます。花粉症の人は、先生や家の人と相談してから行ってください。
ノーベル賞の解説で、水の通り道を読む
ノーベル財団の公式サイトには、2003 年の化学賞の一般向けの解説(英語)があります。腎臓で水が戻るしくみと、AQP1・AQP2 の役割を説明した段落を探して読んでみましょう。分からない単語は、辞書で 1 つずつ調べれば十分です。
The Nobel Prize「Popular information: The Nobel Prize in Chemistry 2003」
「医学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 60 件から探せます。
細胞生理学研究グループ
名古屋大学(愛知県)
細胞生理学・大嶋 篤典 教授
膜を介した情報伝達の仕組みを解明する(創薬科学研究科)。

代謝内科学
熊本大学(熊本県)
大学院生命科学研究部 総合医薬科学部門・内科学(代謝・内分泌)・窪田 直人 教授
糖尿病や代謝・内分泌の病気の仕組みを分子レベルで調べ、臨床研究につなげる。
神経行動研究室
岡山大学(岡山県)
理学部 生物学科・神経内分泌学・坂本浩隆
魚類など多様な生物を比べ、脳を中心に性分化の柔軟さや社会行動の神経・内分泌制御を研究する。

呼吸器・乳腺内分泌外科学分野
岡山大学(岡山県)
医歯薬学総合研究科 医学系講座・外科学・豊岡 伸一 教授
肺がん・乳がんの病態をゲノムやiPS細胞で解明し、肺移植の拒絶反応や保存の研究も行う。
動物細胞生理学
名古屋大学(愛知県)
応用生命科学・MATURANA Andres Daniel 准教授
細胞シグナル伝達を解析し、医薬品などの有用物質の開発につなげる。
中枢性代謝制御学
熊本大学(熊本県)
大学院生命科学研究部 総合医薬科学部門・代謝・神経内分泌・戸田 知得 准教授
脳が体重や血糖値を一定に保つ仕組みを調べる。
よくある質問
腎臓やホルモン、免疫の研究は、医学部でなくてもできますか?
できます。理学部・薬学部・農学部にも、生理学や免疫学の研究室があります。研究の対象や方法は、学部や研究室によって異なります。
このページを読んで、花粉症の治療を決めてもよいですか?
このページは、体のしくみを学ぶための説明です。症状や治療、薬については、医師や薬剤師に相談してください。
生理学・免疫学・病理学は、何年生で学びますか?
多くの大学では、2〜3 年ごろの基礎医学で学びます。解剖学や生化学と並んで、その後の臨床医学の土台になります。学ぶ時期や科目の名前は、大学によって異なります。
出典
- The Nobel Prize「Popular information: The Nobel Prize in Chemistry 2003」
- Vallon V.「Micropuncturing the nephron」(Pflügers Archiv、2009 年)
- Fushimi K. ほか「Cloning and expression of apical membrane water channel of rat kidney collecting tubule」(Nature、1993 年)
- La Jolla Institute for Immunology「Teruko Ishizaka, co-discoverer of allergy-associated antibodies and pioneering female scientist at LJI, dies」(2019 年)
- 京都大学「令和 9 年度 京都大学 入学者選抜要項」(2026 年 7 月)

