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心理学
赤を見つめたあとに浮かぶ緑の残像、モネとピカソの絵を見分けたハト、ネズミの頭の中にあった地図。高校の生物で学ぶ眼のしくみ・動物の行動・神経と記憶は、大学の知覚心理学や比較心理学、神経科学で、心のはたらきを確かめる手がかりになります。

ひとことで言うと
地図アプリと、頭の中の地図
スマートフォンの地図アプリは、GPS で今いる場所を示します。私たちの脳の中にも、今いる場所で活動する神経細胞があり、地図のようにはたらいています。見る・覚える・行動するしくみを、行動と神経の両方から調べるのが、心理学と神経科学です。

01
刺激の受容 → 知覚心理学: 赤を見つめたあと、白い紙に緑が見えるわけ
生物の「動物の反応と行動」では、眼が光を受け取り、神経を通して脳へ伝えるしくみを学びます。網膜で色を見分ける錐体細胞には、よく反応する光の色が違う 3 種類があります。
では、赤い紙を数十秒見つめてから白い紙に目を移すと、何が見えるでしょう。うっすらと緑色が見えます。青を見つめたあとなら黄色です。この補色の残像は、色が見えるしくみを考える大きな手がかりになってきました。
19 世紀の終わりごろ、色の見え方をめぐって 2 つの説が対立していました。ヤングとヘルムホルツは、光を受け取る細胞が 3 種類あるとする 3 色説を唱えました。生理学者で心理学者のヘリングは、赤と緑、青と黄がそれぞれ対になってはたらくとする反対色説を唱えました。残像や、「赤っぽい緑」という色が見えないことが、その根拠でした。
今では、2 つのしくみが順にはたらくと考えられています。まず網膜の入口で、3 種類の錐体細胞が光を受け取ります。その先の網膜や、脳へ向かう途中の細胞では、赤と緑、青と黄を比べるように信号が組みかえられます。生理学の目で見ると、2 つの説はどちらも正しかったという見方ができるのです。大学の知覚心理学では、こうした見え方を決まった手順の実験で測り、脳のしくみと結びつけます。
残像のふしぎは、眼と脳へ向かう細胞の 2 段階のしくみで説明できます。
図解色の見え方の 2 つの説
3 色説
- ヤングとヘルムホルツ
- 光を受け取る細胞は 3 種類
- 網膜の錐体細胞で確かめられた
反対色説
- ヘリング
- 赤と緑、青と黄が対になる
- 網膜や脳へ向かう細胞で確かめられた

02
動物の行動 → 比較心理学: ハトは、モネとピカソの絵を見分けた
生物の「動物の行動」では、行動を神経のはたらきと結びつけて学びます。経験によって行動が変わることを学習といい、ある音のあとにえさをもらううちに、音だけで反応するようになる条件づけも、その一つです。心理学では、学習のしくみを、ヒト以外の動物でもくわしく調べます。
1995 年、慶應義塾大学の渡辺茂さんたちは、ハトがモネとピカソの絵を見分けられることを発表しました。ハトに 2 人の画家の絵のスライドを見せ、えさを使って見分ける訓練をします。するとハトは、訓練で一度も見せていない絵も、画家ごとに見分けられるようになりました。
ハトは、モネの絵で学んだことをセザンヌやルノワールの絵に、ピカソで学んだことをブラックやマティスの絵に広げました。モネの絵は上下さかさまにすると見分けにくくなりましたが、ピカソの絵はさかさまでも見分けられました。モネの絵では、描かれた物の形が手がかりになっていたと考えられます。
この研究は、1995 年のイグ・ノーベル賞(心理学賞)を受けました。ヒトと動物の心を比べる分野を、比較心理学や比較認知科学と呼びます。動物がどこまで「同じ仲間」を見分けられるかを調べると、ものを分類する力がどのように生まれたのかを考える手がかりになります。
動物の行動を比べると、心のはたらきの成り立ちが見えてきます。
図解ハトの絵の見分け実験(1995 年)
- 1訓練で見せていない 2 人の絵も、正しく見分けた
- 2セザンヌやルノワールの絵は、モネの側に分けた
- 3モネの絵は、上下さかさまにすると見分けにくくなった


03
神経と記憶 → 神経科学: ネズミの頭の中にあった地図
生物では、神経のしくみに関連して、記憶にもふれます。心理学では、記憶や学習が脳のどこで、どう起きているのかを、行動の実験と神経の記録の両方から調べます。
20 世紀の半ば、アメリカの心理学者トールマンは、迷路を進むネズミを調べました。そして、ネズミが道を覚えられることから、脳の中に地図(認知地図)ができていると考えました。ただ、その地図が脳のどこに、どんな形であるのかは分かりませんでした。
1971 年、オキーフは、部屋の中を自由に動くラットの海馬で、神経細胞の信号を記録しました。すると、ラットが部屋の決まった場所にいるときだけ活動する細胞が見つかりました。これが場所細胞です。2005 年には、メイ=ブリット・モーザーとエドバルド・モーザーが、近くの嗅内皮質で格子細胞を見つけました。六角形の網の目の位置ごとに活動する細胞です。
ノーベル賞の発表は、これらの細胞がつくるしくみを「脳の中の GPS」と紹介しています。3 人は 2014 年のノーベル生理学・医学賞を受けました。脳の画像の研究などから、ヒトにも同じような細胞があることが示されています。高校で学ぶ神経と記憶の知識は、こうした研究を読み解く入口になります。
行動の実験と神経の記録を合わせると、記憶のしくみが見えてきます。
図解頭の中の地図が見つかるまで
- 120 世紀半ばトールマンが認知地図を考える
- 21971 年オキーフが海馬で場所細胞を見つける
- 32005 年モーザーたちが格子細胞を見つける
- 42014 年3 人がノーベル生理学・医学賞を受ける


04
心理学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
心理学は、文学部・教育学部・人間科学部などで学ぶことが多く、文系の科目で受験できる入試も多くあります。それでも入学後は、脳と神経、感覚と知覚、動物の学習など、生物とつながる授業があります。実験の結果を確かめるには、数学の統計も使います。
入試の科目は大学によって違います。例えば京都大学の教育学部は、心理学も学べる学部です。2027 年度(令和 9 年度)の一般選抜の前期日程では、文系 44 人・理系 10 人を分けて募集します。個別試験は、文系が国語・数学・外国語・地理歴史、理系が国語・数学・外国語・理科(物理・化学・生物・地学から 1 科目)です。
文系で受験する場合も、生物基礎の神経とホルモン、生物の「動物の反応と行動」を読んでおくと、大学の授業に入りやすくなります。このサイトの大学の学問「心理学」のページでは、知覚・認知と脳、発達、社会など、心理学の分野を紹介しています。心理学の「生物」のページでは、アメフラシで分かった記憶のしくみも読めます。
文系・理系のどちらで入っても、生物の知識は心理学の授業で生きます。
高校生のうちに試せること
補色の残像を自分の目で確かめる
赤・青・緑・黄の色紙を用意し、1 枚を明るい部屋で 30 秒ほど見つめてから、白い紙に目を移しましょう。どの色のあとに、何色の残像が見えるかを表にまとめます。見えた色の組み合わせを、本文の反対色説と比べてみてください。太陽や明るい照明を直接見つめるのはやめましょう。
記憶だけで、学校までの地図を描く
家から学校までの道を、地図を見ずに紙に描きましょう。描き終えたら、スマートフォンの地図アプリと比べます。曲がり角の数や道の向きなど、正しく覚えていた所とずれていた所を書き出すと、頭の中の地図の特徴が見えてきます。
高校生のための心理学講座に参加する
日本心理学会は、大学などと共催で、高校生も参加できる心理学の講座を各地で開いています。2026 年 11 月 14 日には、追手門学院大学(大阪府茨木市)で講座が予定されています。学会のサイトでは、YouTube で見られる講座も案内しています。
日本心理学会「高校生のための心理学講座2026」
「心理学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 24 件から探せます。
神経行動研究室
岡山大学(岡山県)
理学部 生物学科・神経内分泌学・坂本浩隆
魚類など多様な生物を比べ、脳を中心に性分化の柔軟さや社会行動の神経・内分泌制御を研究する。

行動神経科学
九州大学(福岡県)
神経科学・松尾 直毅 教授
記憶・学習や情動などを担う高次脳機能の仕組みを研究する。
神経行動研究室
東北大学(宮城県)
理学部生物学科・生命科学研究科・神経行動
知覚・認知心理学研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・森田 ひろみ

神経行動学グループ
名古屋大学(愛知県)
神経科学・乘本 裕明 教授
睡眠や記憶を支える神経の基盤を調べる。
認知行動神経科学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 保健学分野(作業療法学専攻)・作業療法学・石井 大典 教授
半側空間無視や視床出血のモデル動物を使い、体性感覚や恐怖記憶を調べている。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
心理学は、文系と理系のどちらですか?
大学によって異なります。文学部や教育学部などに置かれることが多い一方、京都大学の教育学部のように、文系と理系に分けて募集する大学もあります。どちらで入っても、入学後は脳と神経や統計など、理系の知識も使います。
残像が見えるのは、目が悪いからですか?
いいえ。残像は、眼と脳へ向かう細胞が色の信号を比べて処理するしくみから生まれるもので、多くの人に起こります。見え方のくせを調べることで、知覚のしくみが分かってきます。
動物の研究は、ヒトの心を知る役に立ちますか?
役に立ちます。場所細胞はラットで見つかり、のちにヒトにも同じような細胞があることが示されました。ハトの絵の見分けのように、動物とヒトを比べることで、心のはたらきがどう生まれたのかを考えられます。
出典
- 脳科学辞典(日本神経科学学会)「色覚」
- Watanabe S.・Sakamoto J.・Wakita M.「Pigeons' discrimination of paintings by Monet and Picasso」(Journal of the Experimental Analysis of Behavior、1995 年)
- Improbable Research「Winners of the Ig Nobel Prize」(1995 年)
- The Nobel Prize「Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2014」
- 京都大学「令和 9 年度 京都大学 入学者選抜要項」(2026 年 7 月)
