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生物学
電気でタンパク質を 1,000 種類以上に分ける方法、A 型と B 型を分ける糖 1 個、100 年以上使われている酵素の式。生物学科の生化学や分子生物学では、高校の化学で学ぶアミノ酸・糖・反応速度が、生命のしくみを調べる道具になります。

ひとことで言うと
最後の 1 個で、別の目印になる
ブロックの作品は、最後に付ける 1 個で見た目が変わります。赤血球の表面に並ぶ糖の鎖も、先端の糖 1 個の違いで、A 型と B 型という別の目印になります。こうした小さな違いを、化学の言葉で読み解くのが生化学です。

01
アミノ酸の等電点 → 生化学: 電気でタンパク質を 1,000 種類以上に分ける
化学の天然高分子化合物の単元では、グリシンやアラニンなどのアミノ酸を学びます。アミノ酸は、酸性のカルボキシ基と塩基性のアミノ基を両方もつので、液の pH によって電荷が変わります。全体の電荷が 0 になる pH が、等電点です。
多くの教科書には、アミノ酸を電気泳動で分ける問題が出てきます。pH 6.0 の液で電圧をかけると、等電点が約 3.2 のグルタミン酸は陽極へ、約 9.7 のリシンは陰極へ動きます。等電点が約 6.0 のグリシンは、ほとんど動きません。
タンパク質も、アミノ酸がつながった物なので、それぞれ決まった等電点をもちます。1975 年、アメリカのオファレルは、タンパク質を等電点で分けたあと、直角の向きに大きさで分ける 2 次元電気泳動を発表しました。大腸菌のタンパク質を、1,100 種類の点に分けて見せたのです。
この方法では、電荷が 1 つ違うだけのタンパク質も見分けられます。大学の生化学の実験では、電気泳動でタンパク質を分け、細胞の中でどのタンパク質が増えたり減ったりしたかを調べます。高校の等電点の考え方が、その土台です。
等電点の違いを使うと、混ざったタンパク質を電気で分けられます。
図解pH 6.0 の液で電気泳動すると
グルタミン酸
- 等電点 約 3.2
- マイナスの電荷をもつ
- 陽極へ動く
グリシン
- 等電点 約 6.0
- 全体の電荷はほぼ 0
- ほとんど動かない
リシン
- 等電点 約 9.7
- プラスの電荷をもつ
- 陰極へ動く


02
糖の構造 → 糖鎖生物学: A 型と B 型の違いは、糖 1 個
化学では、グルコースやフルクトースなどの単糖と、2 つの単糖がつながった二糖を学びます。乳糖(ラクトース)は、グルコースとガラクトースがつながった二糖です。糖どうしは OH の部分でつながり、長い鎖や枝分かれもつくります。
赤血球の表面には、こうした糖の鎖(糖鎖)が並んでいます。ABO 式血液型は、1901 年にオーストリアのラントシュタイナーが見つけた分け方です。違いは、糖鎖の先端に付く糖 1 個にあります。A 型の人は N-アセチルガラクトサミンを、B 型の人はガラクトースを付ける酵素をもっています。AB 型は両方の酵素をもち、O 型はどちらももたないので、先端に糖が付きません。
N-アセチルガラクトサミンは、ガラクトースの OH の 1 つが、−NHCOCH₃ に置きかわった糖です。高校で学ぶアニリンのアセチル化でできるのと同じ形の部分です。血液型を分けているのは、原子数個の違いなのです。
1990 年、アメリカ・シアトルの研究所のチームは、ABO の遺伝子のしくみを明らかにしました。A 型と B 型の酵素の違いは、アミノ酸 4 個だけでした。O 型の遺伝子は、塩基が 1 つ欠けているため、はたらく酵素ができません。大学の生化学や糖鎖生物学では、こうした糖と酵素の関係を、構造式で読み解きます。
糖の構造式が読めると、血液型のしくみも分子の目で説明できます。
図解血液型を決める、糖鎖の先端
A 型
- 先端に N-アセチルガラクトサミン
- それを付ける酵素をもつ
B 型
- 先端にガラクトース
- それを付ける酵素をもつ
O 型
- 先端に糖が付かない
- はたらく酵素をもたない


03
反応速度 → 酵素反応速度論: 1913 年、砂糖を分ける酵素で生まれた式
化学の反応速度の単元では、反応の速さが反応物の濃度で変わることを学びます。生物では、酵素の反応の速さが、基質の濃度を上げるとやがて頭打ちになるグラフを見ます。この 2 つを 1 本の式でつなぐのが、ミカエリス・メンテンの式です。
1913 年、ドイツのベルリンで、ミカエリスと、カナダのトロント大学で医学の学位をとったメンテンが論文を発表しました。使った酵素は、化学で学ぶスクロース(ショ糖)を、グルコースとフルクトースに分けるインベルターゼです。反応が進むと、液が光の振動の向きを回す向き(旋光)が逆になります。2 人は、この変化を時間を追って測りました。
式は v = Vmax[S] ÷ (Km + [S]) です。Vmax は最大の速さ、[S] は基質の濃度、Km はミカエリス定数です。基質が少ないときは、速さは濃度にほぼ比例し、高校の化学で学ぶ形になります。基質が多くなると酵素がふさがり、速さは Vmax に近づきます。
この式は今も、酵素の性質を比べたり、酵素のはたらきを弱める物質を調べたりするのに使われています。100 年以上前の式が、今も大学の生化学で学ぶ基本の式です。酵素の量と速さの関係は、薬や食品の研究でも使われます。
化学の反応速度と生物の酵素は、1 本の式でつながります。
図解基質を増やすと、速さはどうなる?
- 1[S] = Km のとき: v = Vmax × 1/2(50%)
- 2[S] = 4Km のとき: v = Vmax × 4/5(80%)
- 3[S] = 9Km のとき: v = Vmax × 9/10(90%)


04
生物学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
生物学科の生化学や分子生物学では、化学の有機化合物と天然高分子化合物の知識を、くり返し使います。生物の教科書の DNA やタンパク質も、化学の目で見れば分子です。電気泳動や顕微鏡など、電気と光を使う道具の原理には物理が、実験の結果を比べるには数学の統計が役立ちます。
入試の科目は大学によって違います。例えば京都大学の理学部と農学部は、2027 年度(令和 9 年度)の個別試験で、理科を物理・化学・生物・地学から 2 科目選びます。化学と生物の組み合わせでも、物理と化学でも受験できます。志望校の募集要項で確かめてください。
生物学の面白さは、生き物の不思議を、分子の形や数字で説明できることです。このサイトの大学の学問「生物学」のページでは、分子・細胞から生態まで、生物学の分野を紹介しています。生物学の「化学」のページでは、DNA の二重らせんと水素結合の話も読めます。
化学と生物を両方学ぶと、生命を分子の目で見られます。
高校生のうちに試せること
牛乳と酢で、タンパク質の等電点を確かめる
温めた牛乳に酢を少しずつ加えて、かき混ぜましょう。白い固まりができるのは、牛乳のタンパク質カゼインが、等電点の pH 4.6 付近で水に溶けにくくなるからです。pH 試験紙で、固まり始めたときの pH を調べてみてください。やけどに気をつけましょう。
パイナップルとゼラチンで、酵素のはたらきを比べる
ゼラチンの液を 3 つに分け、生のパイナップル、缶詰のパイナップル、何も入れないものを用意して、冷蔵庫で冷やしましょう。生のパイナップルを入れた液は固まりにくくなります。タンパク質を分解する酵素が、加熱された缶詰ではたらきを失っているかを確かめてください。
表計算で、ミカエリス・メンテンのグラフを描く
表計算ソフトの A 列に基質の濃度を 0 から 20 まで入れ、B1 に「=A1/(2+A1)」と入れて下へコピーしましょう(Km = 2、Vmax = 1 の場合)。折れ線グラフにすると、初めは直線に近く、やがて 1 に近づく曲線になります。Km を変えて比べてみてください。
「生物学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 134 件から探せます。
植物生理学と生化学研究室
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・植物生理学・TRAN DANG XUAN 教授
循環型農業生産、生化学、天然製品などを研究している。

生命分析化学分野
熊本大学(熊本県)
薬学部・大学院薬学教育部・生化学・小橋川 敬博 准教授
抗体の分子工学や、DNAの複製・修復に関わるタンパク質の働きを研究する。
量子生物化学(秋山研究室)
九州大学(福岡県)
有機・生物化学・秋山 良 准教授
電解質溶液中の相互作用や生体分子の拡散を理論とシミュレーションで調べる。
生化学
千葉大学(千葉県)
薬学部 ゲノム創薬学講座・生化学・伊藤 素行 教授

分子生物化学分野
京都大学(京都府)
工学研究科化学理工学専攻・分子生物化学

衛生化学分野
東北大学(宮城県)
薬学研究科生命薬科学専攻・生命解析学・松沢 厚 教授
よくある質問
生化学は、生物学科と化学科のどちらで学べますか?
どちらでも学べます。生物学科では生命のしくみを調べる道具として、化学科では体の中の分子そのものを調べる対象として学ぶことが多いです。農学部・薬学部・医学部にも、生化学の研究室があります。
高校で生物を選んでいなくても、生物学科に進めますか?
入試の科目は大学によって異なります。京都大学の理学部のように、物理と化学で受験できる入試もあります。入学後は細胞や遺伝子の授業が続くので、入試で使わない場合も、生物基礎と生物の教科書を読んでおくと安心です。
酵素の式は、大学のどの授業で学びますか?
多くの大学では、2 年ごろの生化学の授業で、酵素の反応の速さと、酵素のはたらきを弱める物質のしくみを学びます。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。
出典
- O'Farrell P. H.「High resolution two-dimensional electrophoresis of proteins」(Journal of Biological Chemistry、1975 年)
- UniProt「P16442 · BGAT_HUMAN(Histo-blood group ABO system transferase)」
- Yamamoto F. ほか「Molecular genetic basis of the histo-blood group ABO system」(Nature、1990 年)
- Johnson K. A.・Goody R. S.「The original Michaelis constant: translation of the 1913 Michaelis-Menten paper」(Biochemistry、2011 年)
- 京都大学「令和 9 年度 京都大学 入学者選抜要項」(2026 年 7 月)
