図 1 公共・政治経済の広がり公共・政治経済の広がり 3
経済のしくみ
市場と価格、財政と税、金融、雇用と社会保障を学ぶ分野です。花火大会、昭和の 1 万円、救急車、アルバイト先でのけがなど、身の回りの出来事を経済のしくみで説明できるようになります。

ひとことで言うと
体をめぐる血液
お金は、家計・企業・政府のあいだをめぐっています。買い物で払ったお金は企業の売上になり、給料や税金になって、また家計や政府に流れます。経済のしくみを学ぶことは、このめぐり方の地図を手に入れるようなものです。

01
市場と価格: 花火大会は、市場だけでは開きにくい
公共の経済の学習は、市場のしくみから始まります。多くの物の値段は、買いたい人と売りたい人の動きで決まり、値段の変化を手がかりに、何をどれだけ作るかが調整されます。学習指導要領の解説は、こうした市場経済の働きと、その限界の両方を学ぶとしています。
限界の例が、花火大会です。夜空の花火は、お金を払っていない人も川沿いから見られます。払った人だけに見せることが難しいので、見物する人から料金を集めるだけでは、費用をまかなうのが難しくなります。このように、みんなが同時に使え、払わない人を締め出しにくいものを公共財と呼びます。一般の道路や灯台、消防なども、その例として挙げられます。
もう一つの限界が、売り手と買い手が持つ情報の差です。中古車の売り手は車の傷み具合を知っていますが、買い手には分かりにくいものです。アメリカの経済学者アカロフは、1970 年の論文で、こうした情報の差があると、よい品物が市場に出にくくなることを示しました。この研究は、2001 年のノーベル経済学賞につながっています。
解説も、消費者と企業の間の情報の差を小さくするために、どんな工夫がされているかを考える学習を例に挙げています。商品の表示のルールや保証の制度は、その答えの一つです。
市場にまかせるとうまくいかない部分を、政府が補う理由がここにあります。
図解市場が得意なこと・苦手なこと
得意なこと
- 値段を手がかりに作る量が決まる
- ほしい人に物が届きやすい
- 工夫した企業が伸びやすい
苦手なこと
- 花火や道路のような公共財
- 公害のような周りへの害
- 売り手と買い手の情報の差


02
お金の価値と物価: 昭和 40 年の 1 万円は、今いくら?
物の値段が全体として上がり続けることをインフレーション、下がり続けることをデフレーションと呼びます。物価が上がると、同じ 1 万円で買える物が減ります。つまり、お金の価値が下がるということです。
日本銀行は、昭和 40 年(1965 年)の 1 万円が今どのくらいにあたるかを、2 つの物差しで試算しています。消費者物価指数で比べると、令和 7 年(2025 年)の物価は約 4.8 倍で、約 4.8 万円になります。企業物価指数で比べると約 2.6 倍で、約 2.6 万円です。
同じ問いでも、物差しによって答えが 2 倍近く違うのです。消費者物価指数は、店で買う物とサービスの値段を表します。企業物価指数は、企業どうしで取引される物の値段を表します。日本銀行も、何を物差しにするかで結果はまちまちなので、参考の数字として考えるよう書いています。
金融の学習では、銀行がお金の貸し借りをなかだちする役割や、日本銀行が金利を通じて物価の安定を目指すしくみも学びます。数字を見たら「何を、どう測った数字か」を確かめる習慣が、経済を学ぶ第一歩です。
経済の数字は、何をどう測ったかとセットで読みます。
図解昭和 40 年の 1 万円を今に直す
- 1消費者物価指数で比べると約 4.8 倍
- 2企業物価指数で比べると約 2.6 倍
- 3物差しによって結果が違うことを確かめる

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財政と税: 救急車 771 万回の出動を支えるお金
消防白書によると、令和 6 年(2024 年)の救急車の出動は、全国で 771 万 8,380 件でした。約 4.1 秒に 1 回の割合です。消防組織法は、市町村の消防にかかる費用は市町村が負担すると定めていて、その費用は主に税金でまかなわれています。財政を学ぶと、こうした公共サービスを誰がどう支えているかが見えてきます。
税には、国に納める国税と、都道府県や市区町村に納める地方税があります。所得税や住民税のように、納める人と負担する人が同じ税を直接税と呼びます。消費税のように、店などが納め、買い物をした人が負担する税を間接税と呼びます。
所得税は、所得が多いほど税率が上がる累進課税です。税率は 5%から 45%までの 7 段階に分かれています。よくある誤解は、税率が上がる区切りを少しでも超えると、所得全体に高い税率がかかるというものです。実際には、高い税率がかかるのは、区切りを超えた部分だけです。
集めた税をどう使うかは、国では国会、地方では議会が予算として議決して決めます。税の集め方と使い道を、選挙で選ばれた代表が決めるしくみです。経済の分野は、法や政治の分野とも深くつながっています。
税の集め方と使い道を知ると、公共サービスの本当の値段が見えてきます。
図解所得税の計算(課税される所得が 200 万円の場合)
- 1195 万円までの部分に 5%: 9 万 7,500 円
- 2195 万円を超えた 5 万円に 10%: 5,000 円
- 32 つを足し合わせる

04
雇用と社会保障: アルバイト中のけがには労災保険
公共では、雇用と労働の問題とあわせて、病気やけが、老後、失業などに備える社会保障のしくみを学びます。日本の社会保険には、医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険(労働者災害補償保険)があります。年金は老後のためだけでなく、障害を負ったときや、家族を亡くしたときの支えにもなります。
高校生にいちばん身近なのが労災保険です。厚生労働省によると、労災保険は、正社員、アルバイト、パートタイマーなど、名前や働き方にかかわらず適用されます。仕事中や通勤中のけがや病気について、治療費や、休んで給料が受けられない間の補償などが支払われます。保険料は会社が全額を負担します。
注意したいのは、労災保険の対象になるけがには、ふだんの健康保険が使えないことです。病院では、仕事中のけがだとはっきり伝えます。会社が加入の手続きを怠っていた場合でも、けがをした人への給付は行われます。「自分の不注意だから労災は使えない」とは限らないので、困ったときは労働基準監督署に相談できます。
制度の名前と、自分が使う場面をセットで覚えると役に立ちます。
図解社会保険の 5 つ
- 医療保険病院での支払いが一部で済む
- 年金保険老後や障害、家族の死亡に備える
- 介護保険介護が必要になったときに
- 雇用保険仕事を失ったときなどに
- 労災保険仕事中・通勤中のけがや病気に

05
資料で考える: 数字の「物差し」を確かめる
この分野では、統計やグラフを読む場面が多くあります。日本銀行の試算のように、同じ問いでも物差しによって答えが変わります。グラフを見たら、縦軸の単位、いつの数字か、誰が作ったかを確かめてください。
つまずきやすいのは、「インフレ」「累進課税」などの用語を覚えるだけで終わることです。たとえば所得が違う 2 人について、消費税と所得税の負担を計算し、それぞれの税の長所と短所を、立場を変えて比べてみてください。
大学では、経済学部のミクロ経済学・マクロ経済学・財政学・労働経済学などで、この続きを学びます。社会保障は、法学部の社会保障法や、社会学部の福祉の授業でも学べます。経済を研究するサークルも、各地の大学にあります。
高校生のうちに試せること
日本銀行の「教えて!にちぎん」を読む
昭和 40 年の 1 万円の試算のページを読みましょう。家族が生まれた年の 1 万円が今いくらにあたるかを、同じ考え方で調べてみると、物価の数字が身近になります。
日本銀行「昭和 40 年の 1 万円を、今のお金の価値に換算すると?」所得税の速算表で計算する
国税庁のタックスアンサーにある速算表を使って、課税される所得が 300 万円と 700 万円のときの所得税を計算しましょう。所得が 2 倍あまりになると、税額は何倍になるかを確かめると、累進課税のしくみが分かります。
国税庁「No.2260 所得税の税率」働く前にルールを確かめる
厚生労働省のサイト「確かめよう労働条件」の Q&A で、労災保険や休憩、働く条件の示し方を調べましょう。アルバイトを始める前に、家族と一緒に読んでおくと安心です。
厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A
「経済のしくみ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 35 件から探せます。
よくある質問
数学が苦手でも、経済の分野は学べますか?
学べます。公共や政治・経済で使う計算は、割合やかけ算が中心です。所得税の速算表や物価の倍率のように、身近な数字で練習すると慣れていきます。大学の経済学ではグラフや微分も使いますが、多くの大学では 1 年生で基礎から学びます。
税金はなぜ払わなければならないのですか?
道路や消防、学校など、みんなで使うサービスの費用をまかなうためです。日本国憲法は、国民に納税の義務を定め(30 条)、新しく税を課すには法律が必要だとしています(84 条)。誰がどれだけ負担するのが公平かは、政治・経済の大きなテーマです。
