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図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 3

情報学(数値シミュレーション・データ解析)

6 万 4,000 人で天気を計算する「予報の工場」の夢、数字の桁を丸めただけで変わった計算の未来、地震の前に計算しておく何万通りもの津波。情報学の数値シミュレーションとデータ解析では、高校の地学で学ぶ大気と海の動きを、コンピュータで計算して予測します。

大学の計算機室で、地球儀の表面を細かいます目に区切った模型を囲む学生、同じ形の紙飛行機を何機も飛ばして落ちた場所の広がりを確かめる学生、海の地形の模型の上に波紋の模様を重ねる学生たち

ひとことで言うと

文化祭の壁画を、ます目に分けて描く

文化祭の大きな壁画は、下絵をます目に分け、全員で同時に描き進めます。隣の人と色や線をそろえながら進めれば、1 人ではとても間に合わない絵も期日までに仕上がります。数値予報も、地球の大気をます目に分け、たくさんの計算を同時に進めて、明日の天気を求めます。

01

大気の運動 → 数値予報: 6 万 4,000 人で天気を計算する「予報の工場」

地学では、大気が熱や水蒸気を運び、高気圧や低気圧が動くしくみを学びます。こうした大気の動きは、物理の法則で式に書けます。その式を計算して天気を予報しようと考えたのが、イギリスの気象学者リチャードソンです。1922 年に出した本で、地球をます目に分け、ます目ごとに気圧や風を計算する方法を示しました。実際の観測データで試した手計算の予報は、現実とかけ離れた結果になりました。

それでもリチャードソンは、本の中で 1 つの夢を描きました。地球全体の天気を実際の天気より速く計算するには、約 6 万 4,000 人の計算係が要る。そう見積もり、劇場のような大きな建物を思い描いたのです。壁には世界地図が描かれ、計算係は担当する地域の席で、それぞれ式の一部を受け持ちます。中央の高い台に立つ責任者は、計算が進みすぎた地域にはばら色の光を、遅れた地域には青い光を当てて、全体の歩調をそろえます。

この「予報の工場」は、今のスーパーコンピュータのしくみとよく似ています。大きな問題を地域ごとに分け、たくさんの計算装置で同時に計算し、隣どうしで結果をやりとりする。情報学で学ぶ並列計算の考え方そのものです。

夢が動き出したのは 1950 年です。アメリカの気象学者チャーニーたちのチームは、初期のコンピュータ ENIAC で、24 時間先の予報を 4 回計算しました。ます目の間隔は約 500〜740 km、1 か月の作業で打ち込んだパンチカードは約 10 万枚です。24 時間先の予報の計算に約 24 時間かかりましたが、リチャードソンはこの結果を「大きな科学の進歩」とたたえました。今、気象庁の全球モデルのます目は約 13 km、日本付近の局地モデルは 1 km です。

大気をます目に分けて同時に計算する考え方が、天気予報を支えています。

図解ます目の大きさの移り変わり

1950 年 ENIAC

  • ます目の間隔は約 500〜740 km
  • 19 × 16 個の格子点で計算
  • 24 時間先の予報に約 24 時間

今の気象庁

  • 全球モデルのます目は約 13 km
  • 日本付近の局地モデルは 1 km
  • 台風や大雨の予報に使う
銀色の金属の枠の中に、真空管や配線がびっしりと並んだ大きな計算機。上に緑色の屋根のような覆いがあり、下の段には丸い部品が並んでいる
プリンストン高等研究所でつくられた計算機「IAS マシン」(スミソニアン協会の展示)。ENIAC での予報の 2 年後、チャーニーたちはこの計算機で同じ予報を 5 分で計算しました。写真: Smithsonian Institution(Public domain・Wikimedia Commons)

02

初期値の誤差 → データ解析: 数字の桁を丸めたら、計算の未来が変わった

1960 年代のはじめ、マサチューセッツ工科大学(MIT)の気象学者ローレンツは、コンピュータで天気の変化を計算していました。あるとき計算を途中からやり直そうとして、印刷された数字を入力し直しました。その数字は、0.506127 を 0.506 とするように、桁が丸められていました。

結果は、最初の計算と大きく違うものになりました。ほんのわずかな入力の違いが、時間とともにふくらんだのです。ローレンツは 1963 年の論文で、見分けられないほど小さな違いの 2 つの状態が、やがて大きく違う状態になりうると書きました。1972 年の講演の題は「ブラジルの 1 匹のちょうの羽ばたきは、テキサスで竜巻を起こすか」。バタフライ効果と呼ばれるようになった考え方です。

観測には必ず誤差があるので、計算を始める値(初期値)を完全に正しくすることはできません。そこで気象庁は、少しずつ違う初期値を多数用意して、たくさんの予報を計算する「アンサンブル予報」を使っています。台風や 1 週間先の天気の予報に使う全球アンサンブル予報システムでは、51 通りの予報を計算します。

たくさんの予報の平均やばらつきを調べれば、予報がどれくらい確かかが分かります。気象庁の説明では、2018 年 8 月の台風第 13 号の 5 日先の予報で、誤差を考えない予報は実際より西寄りの進路でした。一方、誤差を考えた予報の束の中には、実際の進路が含まれていました。平均やばらつきから確からしさを読むのは、統計を使ったデータ解析そのものです。

観測の誤差を前提に、たくさんの予報のばらつきから確からしさを読むのが今の予報です。

図解アンサンブル予報のしくみ

入力観測から求めた、今の大気の状態(初期値)
  1. 1観測の誤差を考えて、初期値を少しずつ変える
  2. 2全球のシステムでは、51 通りの予報を計算する
  3. 3予報の平均と、ばらつきの大きさを調べる
結果ばらつきが小さければ確かな予報、大きければ外れやすい予報

03

海水の運動 → 津波シミュレーション: 地震の前に、何万通りもの津波を計算しておく

地学では、海の水が波や潮の満ち引き、海流として動くしくみを学びます。津波は、地震で海底が持ち上がったり沈んだりして、海の水全体が動く現象です。日本の近くで地震が起きると、津波はすぐに海岸に届くことがあります。気象庁によると、地震が起きてから計算を始めたのでは、最新のコンピュータでも、津波が届くまでに警報を出せません。

そこで気象庁は、あらかじめ津波の数値シミュレーションを行い、結果を「津波予報データベース」にためています。想定する断層は、水平方向に約 1,500 か所、深さは 0〜100 km の間で 6 通り、マグニチュードは 4 通りです。掛け合わせると、およそ 3 万 6,000 通りになります。地震が起きたら、その位置と規模に合う結果をすぐに探して、警報や注意報を出します。

計算は 2 段階です。まず、断層のずれで海底がどう動くかを計算します。次に、海を縦横の細かいます目に区切り、各ます目の津波の高さと速さを、時間を追って計算します。浅く地形も複雑な海岸の近くは、沖合の結果から「グリーンの法則」で高さを求めます。全国の海岸をすべて細かく計算するには、時間がかかりすぎるからです。

データベースは、実際の地震から学んで直されています。2016 年 11 月 22 日の福島県沖の地震では、断層の向きが想定と違い、宮城県の津波を小さく予測しました。気象庁は全国の地震の断層の向きを点検し、2018 年 7 月に約 2,200 通りのシミュレーションを加えています。先に計算して、すばやく探す。結果を振り返って、データを直す。情報学で学ぶデータの扱い方が、ここにも生きています。

時間のかかる計算を先に済ませ、地震のときはすばやく探すのが津波予報の工夫です。

図解津波予報データベースの使い方

  1. 1ふだん何万通りもの津波を計算してためる
  2. 2地震が起きる地震の位置と規模を求める
  3. 3検索する合う計算結果をデータベースから探す
  4. 4発表する予報区ごとに警報・注意報を出す
海辺の道路わきに建つ、三角の屋根飾りのある小さな古い建物。白い扉があり、左側には海と緑の山が広がっている
宮崎県日向市の細島港にある、国土地理院の細島験潮場。海面の高さを測る施設です。気象庁は、各地の検潮所に津波が届く時刻も計算して、情報に使っています。写真: Tremblay.typea(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

情報学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目

数値シミュレーションやデータ解析は、情報学部や情報工学科のほか、理学部の地球惑星科学科などでも学べます。たとえば東京大学理学部の地球惑星物理学科では、3 年生で計算機演習があります。UNIX の基礎、Fortran のプログラミング、行列の固有値問題や時間発展方程式の数値解法、データの統計解析を学びます。

4 年生の授業には、「地球物理数値解析」「地球物理データ解析」があります。特別研究の題の例には、「地震波と津波の同時シミュレーション」も挙がっています。経験のない学生でも計算機演習で力をつけられるよう、若手の教員と大学院生が指導すると紹介されています。科目の名前や学年は大学によって異なります。

高校では、数学 II・B と数学 III・C を学んでおくと安心です。数列の漸化式は「今の値から次の値を求める」計算で、数値シミュレーションの基本の形です。微分は変化の速さを、統計はばらつきを扱う道具になります。情報 I でプログラミングとシミュレーションに触れ、物理で運動の法則を学んでおくと、題材と道具がそろいます。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。

勉強のコツは、地学で出てきた式を、表計算ソフトやプログラムで一歩ずつ動かしてみることです。津波の速さの式で水深を変え、届くまでの時間を計算するだけでも、シミュレーションの入口に立てます。

数学 II・B・III・C と情報 I に、地学の大気と海の学びを組み合わせると力になります。

クイズ地学と情報学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1リチャードソンが「予報の工場」で、地球全体の天気の計算に必要と見積もった計算係の人数は?

  2. Q21950 年、ENIAC で計算した 24 時間先の天気予報。計算にかかった時間はおよそ?

  3. Q3津波予報データベースの断層。約 1,500 か所 × 深さ 6 通り × 規模 4 通りでは、およそ何通り?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 表計算で、小さな違いがふくらむ様子を見る

    表計算ソフトの A1 に 0.3、A2 に =4*A1*(1-A1) と入れ、下へ 50 行コピーしましょう。B 列は 0.3000001 から同じように計算します。最初はそろっていた 2 つの列が、何行目から違う値になるかを確かめます。

  • 気象庁の数値予報モデルの一覧を読む

    気象庁のページには、モデルごとのます目の大きさと、予測できる現象の大きさが載っています。全球モデルと局地モデルで、表せる現象がどう違うかを表にまとめましょう。

    気象庁「気象に関する数値予報モデルの種類」
  • 津波予報データベースを直したお知らせを読む

    気象庁の 2018 年のお知らせでは、福島県沖の地震を受けてデータベースを直した理由が、図で説明されています。断層の向きの違いが、予測をどう変えたかを読み取りましょう。

    気象庁「津波予報データベースを全国的に改善」(2018 年 7 月 17 日)
  • 大学の計算機演習の中身を見る

    東京大学理学部の地球惑星物理学科・地球惑星環境学科の案内では、計算機演習の内容や特別研究の題の例を読めます。気になる題を 1 つ選び、どんな計算が必要か考えましょう。

    東京大学理学部「地球惑星物理学科・地球惑星環境学科」案内(2026 年)

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よくある質問

天気や海のシミュレーションは、情報学部と理学部のどちらで学べますか?

どちらでも学べます。情報学部や情報工学科では計算の方法やプログラム、データ解析の手法を中心に、理学部の地球惑星科学科では大気や海のしくみと合わせて学ぶことが多くあります。分け方は大学によって違うので、研究室の一覧で確かめてください。

プログラミングが苦手でも大丈夫ですか?

大丈夫です。大学の演習は、基本から順に学べるよう組まれています。東京大学の地球惑星物理学科も、経験のない学生でも計算機演習で力をつけられると紹介しています。高校のうちは、表計算ソフトで式を一歩ずつ計算してみるだけでも準備になります。