図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 1
物理学(地球物理学・宇宙物理学・天文学)
地震の記録から見つかった地球の「芯の中の芯」、2 機の衛星の距離の変化で量る地下水、星の光の暗い線から分かった星の成分。大学の物理学では、高校の地学で学ぶ地震波や重力、恒星の光を、物理の法則で読み解きます。

ひとことで言うと
花火の色で、中の金属が分かる
夏の花火は、赤ならストロンチウム、黄緑ならバリウムと、色で中の金属が分かります(炎色反応)。光が届けば、近づかなくても中身を推理できるのです。地球物理学や宇宙物理学も、地震の波や星の光など遠くから届くものを、物理の法則で読み解きます。

01
地震波と地球の内部 → 地球物理学: 1936 年、「芯の中の芯」が見つかった
地学基礎では、地震の波で地球の中を調べることを学びます。液体を伝わらない S 波が届かない地域があることから、外核は液体だと分かりました。では、地球の中心まで液体なのでしょうか。この問いに答えたのが、デンマークの地震学者インゲ・レーマンです。
レーマンは 1925 年からデンマークの測地研究所で働き、1928 年からは地震の部門の責任者を務めました。手がかりは、1929 年にニュージーランドで起きた大きな地震の記録です。液体の核で波が曲げられ、P 波が届きにくいはずの地域(影の部分)で、2 か所の地震計が大きな P 波を記録していました。
レーマンは、各地の記録をカードに書き写し、オートミールの空き箱に入れて整理していたと伝えられています。そして 1936 年、「P′」というとても短い題の論文を発表しました。外核の中にもう 1 つの核(内核)があると考えれば、記録を説明できるという内容です。のちに地震計の性能が上がると、内核があることは確かめられていきました。今では、内核はおもに固体の鉄でできていると考えられています。
ここで使われているのは、高校の物理で学ぶ波の屈折です。波は、伝わる速さが違う物質の境目で向きを変えます。光が空気から水に入ると曲がるのと同じしくみで、地震の波も、地球の中の層の境目で曲がったり跳ね返ったりします。大学の地球物理学では、弾性体の力学で地震の波の速さを求め、たくさんの地震計の記録から、地球の中のつくりを計算で描き出します。
地震の波の届き方を物理で読むと、行けない地球の中心の姿が分かります。
図解レーマンが内核を見つけるまで
- 11929 年ニュージーランドで大きな地震が起きる
- 2記録を調べる影の部分に、大きな P 波が届いていた
- 31936 年論文「P′」で、内核があると考えた
- 4その後観測が進み、内核が確かめられていく


02
重力と地球の形 → 測地学: 2 機の衛星の距離の変化で、地下水の重さを量る
地学では、地球の形と重力を学びます。重力の強さは、場所によってわずかに違います。地下に重い岩石や大量の水があると、その上では少しだけ強くなるのです。この小さな違いを宇宙から測ったのが、NASA とドイツが共同で打ち上げた衛星 GRACE です。
GRACE は、2002 年 3 月に打ち上げられました。同じ形の 2 機の衛星が、高さ約 500 km の軌道を、約 220 km 離れて前後に並んで回ります。重力の少し強い地域の上に来ると、先を行く衛星が先に引っぱられ、2 機の距離がわずかに変わります。その変化を、電波で 10 マイクロメートル(髪の毛の太さの約 10 分の 1)まで測りました。
NASA などの研究チームは 2009 年、この観測から、インド北部の地下水が減り続けていることを示しました。2002〜2008 年に失われた地下水は 109 km³ を超えます。日本最大の湖、琵琶湖の水の量(約 275 億 m³)のおよそ 4 倍です。地下水の水面は、1 年に最大で約 30 cm 下がっていました。原因は、ほぼすべてが人による利用だとされています。井戸を 1 本ずつ測らなくても、宇宙から広い地域の水の増え減りをつかめるのです。
GRACE は、予定の 5 年を大きく超えて 15 年以上観測を続け、氷床の氷が減っていく様子なども明らかにしました。衛星の動きを説明するのは、高校の物理で学ぶ万有引力と円運動です。教科書の法則が、地球の水の行方を追う道具になっているのです。
重力のわずかな違いを測ると、地下の水や氷の増え減りが宇宙から分かります。
図解GRACE で地下水の増え減りを量る
- 1重力の強い地域で、先の衛星が先に引かれる
- 22 機の距離の変化を、電波で測る
- 3毎月の重力の地図をつくって比べる


03
恒星の光とスペクトル → 宇宙物理学: 星の成分は、ほとんどが水素だった
地学では、恒星の光をスペクトルに分けて、表面温度や種類を調べることを学びます。虹色の帯の中には、ところどころに暗い線があります。元素ごとに吸収する光の波長が決まっているので、暗い線から星の大気にある元素が分かります。
1920 年代のはじめまで、太陽の成分は地球の岩石とよく似ていると考える天文学者が多くいました。太陽の光の強い暗い線の多くが、地球に多い元素のものだったからです。これを覆したのが、アメリカのハーバード大学で天文学を学んでいたセシリア・ペインです。1925 年 1 月 1 日に書き上げた博士論文で、恒星の大部分が水素とヘリウムでできていることを示しました。
手がかりは、インドの物理学者サハが 1920 年に示した理論です。熱によって、原子が電子を失ったり、高いエネルギーの状態に移ったりする割合を表します。太陽の大気(約 5,700 K)では、水素の暗い線をつくれる状態にある水素原子は、約 2 億個に 1 個しかありません。線が弱いのは、水素が少ないからではなかったのです。
当時の有力な天文学者ラッセルは、この結論に強く反対しました。それでも、のちに天文学者のストルーベは、この論文を「天文学で書かれた最も優れた博士論文」と呼んでいます。今、天の川銀河で測られている水素とヘリウムの割合は、ペインの 1925 年の計算と合っています。ペインは 1956 年、ハーバード大学で女性として初めての教授になりました。大学の宇宙物理学では、熱と統計の物理や量子力学を使って、星の光を数字に変えて読み解きます。
光を物理の法則で読み解くと、行けない星の成分まで分かります。
図解水素の暗い線が弱いのはなぜ?
それまでの考え
- 水素の線が弱い
- だから、水素は少ないはず
- 太陽の成分は地球の岩石に似ている
ペインの考え
- 線をつくれる水素原子は約 2 億個に 1 個
- 線が弱くても、水素は大量にある
- 恒星の大部分は水素とヘリウム


04
物理学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目
地球物理学や宇宙物理学、天文学は、理学部の物理学科や地球物理学科、天文学科などで学べます。たとえば東北大学理学部の宇宙地球物理学科では、2 年生の前半まで物理系の学生と同じ授業を受けます。後半からは、天文学コースと地球物理学コースに分かれます。
授業の一覧には、「地震学」「震源物理学・演習」「弾性体力学・演習」「恒星物理学」など、高校の地学の続きが並びます。流体力学・同演習は、両方のコースの必修です。天文学コースでは天体物理学実習、地球物理学コースでは地球物理学実験も必修になっています。4 年生では研究室に分かれ、セミナーに参加しながら課題研究に取り組みます。科目の名前や学年は大学によって異なります。
高校では、物理と、数学 III・C まで学んでおくと安心です。地震波の屈折は物理の「波」、衛星の動きは「万有引力」と「円運動」、星の光は「原子」の単元につながります。地学基礎・地学は、物理の法則で何を調べたいのかを教えてくれる科目です。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。
勉強のコツは、地学で出てきた事実の「理由」を、物理で説明してみることです。なぜ S 波は液体を伝わらないのか。なぜ衛星は地球に落ちてこないのか。答えを物理の教科書で探すと、2 つの科目がつながって見えてきます。
物理と数学 III・C に、地学の題材を組み合わせると力になります。
高校生のうちに試せること
世界の地震を地図で見て、中心角を測る
IRIS の Seismic Monitor では、世界で最近起きた地震を地図で見られます。大きな地震を 1 つ選び、地球儀と糸を使って、震源から日本までの角度(中心角)を測りましょう。
IRIS「Seismic Monitor」(英語)CD や DVD で光を分けて、色の並びを比べる
CD や DVD の記録面に蛍光灯の光を映すと、虹色に分かれます。白熱電球や、日光が当たった白い紙の光でも試し、色の並び方や明るい線の違いを比べましょう。太陽を直接見てはいけません。
大学の宇宙地球物理学科の授業の表を読む
東北大学理学部の案内には、宇宙地球物理学科の 4 年間の授業の表があります。高校の地学で学んだ内容に近い授業の名前に印をつけ、何年生で学ぶかを確かめましょう。
東北大学理学部「理学部案内 2025」
「物理学(地球物理学・宇宙物理学・天文学)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 225 件から探せます。
宇宙物理学 高エネルギー天文学グループ(Uxg研)
名古屋大学(愛知県)
天文・宇宙物理学
複雑性科学実験(ΣE研)
名古屋大学(愛知県)
天文・宇宙物理学
火山科学
九州大学(福岡県)
固体地球惑星科学・下司 信夫 教授
火山噴出物の解析からマグマの動きと噴火のダイナミクスを探る。

宇宙物理学
岡山大学(岡山県)
理学部 物理学科・宇宙物理学・石野 宏和 教授
宇宙背景放射の偏光を精密に測るため、科学衛星の準備や超伝導検出器の開発を行う。
固体地球物理学
神戸大学(兵庫県)
惑星学・吉岡 祥一 教授
応用地球物理学分野
京都大学(京都府)
工学研究科社会基盤工学専攻・応用地球物理学
よくある質問
地球物理学は、物理学科と地球科学科のどちらで学べますか?
どちらでも学べます。物理学科や地球物理学科では物理の法則から地球を調べ、地球科学科や地球惑星科学科では、地質や岩石とあわせて広く学ぶことが多くあります。東北大学の宇宙地球物理学科のように、天文学と地球物理学を 1 つの学科で学べる大学もあります。分け方は大学によって異なります。
高校で地学を学んでいなくても、地球物理学に進めますか?
進めます。大学の地球物理学は物理学を土台にしているので、物理と数学をしっかり学んでいれば授業についていけます。地学の知識は、大学の入門の授業や本で補えます。地学基礎を学んでいると、扱う現象のイメージがつかみやすくなります。
出典
- EARTH Magazine「March 29, 1936: Notes on Earth's Inner Core」(英語)
- NASA JPL「GRACE Space Twins Set to Team Up to Track Earth's Water and Gravity」(2002 年・英語)
- NASA JPL「Prolific Earth Gravity Satellites End Science Mission」(2017 年・英語)
- NASA Scientific Visualization Studio「Groundwater Depletion in India Revealed by GRACE」(2009 年・英語)
- American Physical Society「January 1, 1925: Cecilia Payne Gaposchkin and the day the universe changed」(APS News、2015 年・英語)

