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図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 2

文学(英米文学)

Nevermore とくり返すカラス、tale を tail と聞き違えるアリス、30 行を削ってできた 2 行の詩。英米文学では、高校の英語で学ぶ発音や単語、短く書く力が、詩のリズムや原文の言葉遊びを味わう道具になります。

古い書斎のような大学のゼミ室で、窓辺の黒いカラスを見上げる学生、しっぽのように曲がりくねった線を紙に書き写す学生、地下鉄の駅の人混みと花の枝のスケッチを見比べる学生たち

ひとことで言うと

歌を、歌詞カードではなく音で聴く

歌詞を目で読むだけでは、歌の良さは半分しか伝わりません。メロディーに乗せて聴くと、言葉の響きやリズムが分かります。英語の詩や小説も、原文を声に出して読むと、訳では消えてしまう音の面白さが見えてきます。

01

詩のリズム: ポーの『大鴉』は強弱の 8 拍

1845 年、アメリカの詩人エドガー・アラン・ポーは、詩『大鴉(おおがらす)』を発表しました。真夜中、亡くした恋人を思う男の部屋にカラスが入ってきます。何を聞かれても、カラスは「Nevermore(二度とない)」とだけ答えます。

1 行目は Once upon a midnight dreary, while I pondered, weak and weary, です。声に出すと、ONCE-u PON-a MID-night DREAR-y と、強い音と弱い音が交互に並びます。強・弱の組は 1 行に 8 つ。ポー自身も、この詩は強弱のリズムでできていると説明しています。dreary と weary は、行の中で韻を踏んでいます。

ポーは翌年の文章『構成の原理』で、くり返しの言葉を選んだ理由も書いています。最もよく響く母音は長い o、最も長く伸ばせる子音は r。そう考えて、Nevermore の 1 語にたどり着いたというのです。ただ、この文章のどこまでが本当かは、研究者の間でも疑われています。作者の言葉をうのみにせず、確かめるのも文学の研究です。

高校の英語では、単語の強勢や文のイントネーションを学びます。その知識が、そのまま英語の詩を読む道具になります。ちなみに、日本の推理小説の基礎を作った江戸川乱歩の筆名は、エドガー・アラン・ポーの名前をもじったものです。

単語の強勢を知っていると、英語の詩のリズムが聞こえてきます。

図解『大鴉』の 1 行目を強弱で読む

入力Once upon a midnight dreary, while I pondered, weak and weary,
  1. 1強く読む音に印を付ける: ONCE-u PON-a
  2. 2強・弱の組を数える: 1 行に 8 つ
  3. 3dreary と weary の韻を確かめる
結果強・弱が 8 回続くリズムが、詩全体をつらぬく
大きなカーテンの陰に身をひそめる男と、上を飛ぶ黒い鳥、帯状の飾りに NEVERMORE の文字を描いた白黒の版画
ギュスターヴ・ドレが 1884 年版の『大鴉』のために描いた挿絵。左上の帯に、カラスがくり返す言葉 NEVERMORE が描かれています。写真: Gustave Doré(Public domain・Wikimedia Commons)

02

言葉遊び: アリスはネズミの tale を tail と聞いた

1865 年、オックスフォード大学の数学の講師チャールズ・ドジソンは、ルイス・キャロルの名前で『不思議の国のアリス』を出版しました。この物語は、英語の言葉遊びの宝庫です。

第 3 章で、ネズミが Mine is a long and a sad tale!(長くて悲しい話なんだ)と言います。アリスはネズミのしっぽを見下ろして、「確かに長いしっぽ(tail)ね。でも、どうして悲しいの?」と答えます。tale と tail は同じ発音です。本の中では、ネズミの話そのものが、しっぽのように曲がりくねった形に印刷されています。

第 9 章では、海の学校の科目として Reeling and Writhing が出てきます。Reading and Writing(読み書き)のもじりで、reel は「よろめく」、writhe は「身をよじる」です。算数の 4 つの分野も変えられています。Addition(足し算)は Ambition(野心)に、Division(割り算)は Derision(あざけり)になっています。

日本語に訳すと、こうした音の面白さは、そのままの形では残りません。原文で読んで初めて分かる笑いがあるのです。高校で単語の発音とつづりを一緒に覚えておくと、こうした言葉遊びにすぐ気づけます。

同じ音の単語を知っていると、原文の言葉遊びに気づけます。

図解海の学校の科目(第 9 章)

海の学校での言い方

  • Reeling and Writhing
  • Ambition・Distraction
  • Uglification・Derision

もとの言葉

  • Reading and Writing(読み書き)
  • Addition・Subtraction(足す・引く)
  • Multiplication・Division(掛ける・割る)
古い紙に、手書きの英文がしっぽのように曲がりくねって並ぶページ
キャロルが出版の前に手書きで作った『地下の国のアリス』の 1 ページ(大英図書館所蔵)。ネズミの話が、しっぽの形に書かれています。出版された本とは、詩の言葉が違います。写真: Lewis Carroll(Public domain・Wikimedia Commons)

03

短く書く: 発句に学んだ 2 行の詩

1913 年 4 月、アメリカの詩人エズラ・パウンドは、雑誌『Poetry』に 2 行の詩を載せました。題は「地下鉄の駅で(In a Station of the Metro)」です。The apparition of these faces in the crowd: / Petals on a wet, black bough. 人混みに浮かぶ顔を、濡れた黒い枝の花びらに重ねた、14 語の詩です。

パウンドは翌年の文章で、この詩ができるまでを書いています。パリの地下鉄のコンコルド駅で、美しい顔を次々に見た日のことです。最初に書いた 30 行の詩は、捨てました。半年後にその半分の長さの詩を書き、1 年後に、自ら「発句(ほっく)のような 1 文」と呼ぶこの形にたどり着きました。

発句は、俳句のもとになった 5・7・5 の句です。パウンドは同じ 1913 年の 3 月、詩の書き方の心得として「余計な言葉は 1 語も使うな」とも書いています。日本の短い詩の形が、英語の新しい詩の手がかりになったのです。

高校の「論理・表現」では、伝えたいことを短く、筋道立てて書く練習をします。30 行を 2 行に削った書き直しは、短く書く力が英語の詩でも生きることを教えてくれます。

削って短くするほど、言葉の 1 つ 1 つが強く働きます。

図解30 行から 2 行へ

  1. 1最初の詩30 行で書いたが、捨てた
  2. 2半年後半分の長さの詩に
  3. 31 年後発句のような 1 文に
  4. 41913 年 4 月雑誌『Poetry』に 2 行で載る
白いタイルに大きなアルファベットが並ぶ壁と、駅名の看板が見える地下鉄のホーム
パリの地下鉄のコンコルド駅(2007 年)。パウンドはこの駅で見た人々の顔から、2 行の詩を作りました。写真: Eric Chan(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

04

英米文学に進むなら: 高校でつけておきたい英語の力

英米文学の授業では、詩や小説を原文で少しずつ読み進めます。多くの大学には、作品を 1 文ずつ訳して話し合う講読や、1 人の作家を深く読むゼミがあります。卒業論文を英語で書ける大学もあります(大学によって異なります)。

高校のうちにつけておきたい力は 3 つです。1 つ目は、単語の発音と強勢を、つづりと一緒に覚える力です。詩のリズムや言葉遊びに気づけます。2 つ目は、辞書を引きながら 1 文の組み立てを確かめる力です。3 つ目は、好きな詩や短い作品を、原文で声に出して読む習慣です。

英米文学を学んだ人は、翻訳や出版、英語の先生などの仕事に進みます。江戸川乱歩も、大学のころから英米の探偵小説に関心を持っていました。乱歩が暮らした東京・池袋の家と旧蔵書は、今は立教大学が受け継いでいます。蔵書には、洋書 2,600 冊も含まれています。

文学の面白さは、同じ作品でも、読む人や時代によって新しい発見があることです。詩・小説・演劇など、大学の文学の分野は、このサイトの大学の学問「文学」のページで紹介しています。

発音と強勢・文の組み立て・声に出して読む習慣が、原文で読む力の土台です。

クイズ英語と英米文学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1江戸川乱歩の筆名のもとになった作家は?

  2. Q2ネズミが long and sad tale と言ったとき、アリスが思い浮かべたのは?

  3. Q3パウンドの詩「地下鉄の駅で」。最初は何行で書かれた?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 『大鴉』を声に出して読む

    Poetry Foundation のサイトでは、『大鴉』の全文を無料で読めます。1 連目を声に出し、強く読む音に印を付けましょう。各連の終わりに来る more の響きも確かめてください。

    Poetry Foundation「The Raven」
  • 『鏡の国のアリス』の最後の詩の秘密を探す

    Project Gutenberg で、続編の『鏡の国のアリス』を開きましょう。最後の詩(A boat beneath a sunny sky で始まる)の、各行の最初の文字を上から順に読むと、ある人の名前が出てきます。

    Project Gutenberg「Through the Looking-Glass」
  • 2 行の英語の詩を書く

    パウンドが 1913 年 3 月に書いた心得「A Few Don'ts by an Imagiste」は、Poetry Foundation のサイトで読めます。通学路で見た景色を、まず英語で 10 行書き、削って 2 行にしてみましょう。

    A Few Don'ts by an Imagiste
  • 旧江戸川乱歩邸を訪ねる

    立教大学の大衆文化研究センター(旧江戸川乱歩邸)は、公開日に見学できます。公開日や見学の方法は、公式サイトで確かめてください。

    立教大学 大衆文化研究センター

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よくある質問

英語の詩は、日本語の詩とどこが違いますか?

日本の短歌や俳句は、5・7・5 のように、主に音の数でリズムを作ります。英語の詩は、強く読む音と弱く読む音の並び方でリズムを作り、行の終わりなどで韻を踏むこともよくあります。『大鴉』の強弱の 8 拍は、その分かりやすい例です。

訳で読むのと原文で読むのは、どう違いますか?

訳は、物語の筋や登場人物の気持ちをよく伝えてくれます。一方で、tale と tail のような同じ音の言葉遊びや、詩の強弱のリズムは、原文でないと味わいにくいものです。訳と原文を読み比べると、訳した人の工夫も見えてきます。

推理小説や子ども向けの物語も、大学で研究できますか?

できます。ポーの作品やキャロルの『不思議の国のアリス』も、英米文学の研究の対象です。立教大学には、江戸川乱歩の資料をもとに大衆文化を研究するセンターもあります。