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建築学(都市計画・防災計画)
伊勢湾台風のあとに条例で決まった「1 階の床の高さ」、断層の真上ではなく少し離れた所に現れた「震災の帯」、住民が頭の中に描く町の地図。建築学の都市計画や防災計画では、高校の地理で学ぶ地形と災害、生活圏の調査が、安全で分かりやすいまちを考える土台になります。

ひとことで言うと
家具の置き場所は、地震と通り道で決める
部屋に家具を置くとき、地震で倒れないか、通り道をふさがないかを考えます。重い物は下に、よく使う物は取り出しやすい所に置きます。都市計画や防災計画は、それをまち全体の大きさで考えます。土地の高さや地盤、人の動き方を調べてから、建物や道の決まりをつくるのです。

01
地形と水害 → 防災計画: 伊勢湾台風のあと、名古屋は「1 階の床の高さ」を決めた
1959 年 9 月 26 日の夕方、台風 15 号が紀伊半島に上陸しました。のちに伊勢湾台風と名付けられる台風です。名古屋港では観測史上最高の 3.55 m の高潮が起き、死者・行方不明者は 5,098 人にのぼりました。台風による犠牲者としては、明治以降で最も多い数です。
内閣府の資料は、被害が大きくなった理由を 3 つに分けて説明しています。災害を起こす力(誘因)、土地や備えの弱さ(素因)、被害を広げた要因(拡大要因)です。伊勢湾の奥には低く平らな平野が広がり、その先には江戸時代から干拓で陸地にした土地がありました。そこが十分な対策のないまま市街地になり、貯木場の大量の木材が流れ出して被害を広げたのです。
名古屋市は 1961 年 6 月、臨海部防災区域建築条例を施行しました。海に近い区域を 4 つに分け、建物の 1 階の床の高さなどを決めています。最も危険な第 1 種区域では、1 階の床を N・P+4 m 以上にし、木造は認めません。N・P は名古屋港の基準となる水面の高さで、区域の中には、この高さを示した電柱もあります。
第 1 種区域のうち、海岸や川岸から 50 m 以内で市長が指定する区域は、さらに厳しい決まりです。住まいの部屋がある建物や病院などは原則として建てられず、木造以外で部屋の床を N・P+5.5 m 以上にした場合だけ認められます。愛知県の潮位の表によると、名古屋港でこれまでに記録された最も高い潮位は、伊勢湾台風の日の N・P+5.31 m です。地形と過去の災害の記録が、そのまま建物の決まりの数字になっているのです。
地形の高さと過去の災害の記録が、建物の決まりの数字になります。
図解臨海部防災区域のおもな決まり(名古屋市)
第 1 種区域
- 1 階の床は N・P+4 m 以上
- 木造は禁止
第 2 種区域
- 1 階の床は N・P+1 m 以上
- 2 階建て以上で、2 階にも居室
岸から 50 m 以内
- 住まいや病院は原則禁止
- 木造以外で床 5.5 m 以上なら可


02
地形と地震 → 地震防災: 被害が大きかった「震災の帯」は、断層の真上ではなかった
1995 年 1 月 17 日の午前 5 時 46 分、明石海峡付近を震源とするマグニチュード 7.2 の兵庫県南部地震が起きました。神戸の市街地では、東西に細長い狭い範囲に震度 7 の地域が現れました。のちに「震災の帯」と呼ばれる帯です。
不思議なのは、その場所です。研究者の報告によると、震災の帯は断層の真上ではなく、断層から南に約 1 km 離れた盆地の側に生じていました。神戸の市街地は、六甲山地と大阪湾にはさまれた細長い平地にあります。その地下では、六甲の断層によって、固い岩盤に大きな段差ができています。
有力な説明が「エッジ効果」です。岩盤の段差の端(盆地の端)で生まれた地震の波が横に進み、真下から上がってきた波と重なって、揺れが大きくなったという考え方です。断層の壊れ方の向きが揺れを強めた、とみる研究もあります。揺れの強さは、震源からの距離だけでは決まらないのです。
この地震のあと、国は全国の主な平野で地下の構造の調査を進めました。文部科学省の交付金による調査は、1998 年度から 2004 年度まで行われています。建築学の地震防災では、こうした調査をもとに場所ごとの揺れを予測し、建物の強さやまちの防災の計画に生かします。
地下の地形まで知ることが、揺れに強いまちづくりの第一歩です。
図解エッジ効果で揺れが強まるしくみ
- 1真下から地震の波が上がってくる
- 2段差の端で生まれた波が横に進む
- 32 つの波が重なる場所ができる

03
生活圏の調査 → まちづくり: 住民の頭の中の地図から「分かりやすいまち」を探した
地理総合では、学校のまわりを歩き、地図や聞き取りで生活圏を調べます。この見方を都市の計画に生かした研究があります。マサチューセッツ工科大学(MIT)で教えた都市計画家ケヴィン・リンチが、1960 年に出した『都市のイメージ』です。
リンチは、ボストン、ジャージー・シティ、ロサンゼルスの 3 つの都市で、住民へのアンケートなどを行いました。人々が思い浮かべる町の姿を調べたのです。そして、人は町を 5 つの要素で覚えていると考えました。道(パス)、境目(エッジ)、地域(ディストリクト)、道が集まる結節点(ノード)、目印(ランドマーク)です。
住民の頭の中の地図には、はっきり描かれる場所と、空白になる場所があります。目立つ建物は覚えやすく、愛着の対象にもなります。反対に、何があるのか分からない場所が、意外と家の近くにあったりもします。計画する側ではなく、住む人の目から都市をとらえた点で、リンチの研究はそれまでの都市計画の理論と大きく違うものでした。地理総合で練習する聞き取りや地図づくりと、よく似た調べ方です。
日本の都市計画でも、住む人の声を聞くことは決まりになっています。都市計画法は、市町村が都市計画マスタープランを定めるとき、公聴会など住民の意見を反映させる措置をとるよう求めています。大学でも、実際のまちを調べて計画をつくる演習があります。筑波大学社会工学類の「都市計画マスタープラン実習」では、学生が班に分かれ、茨城県土浦市のまちづくりの計画をつくります。2020 年 2 月の発表会では、土浦市長が講評しました。
住む人の目で町を調べることが、分かりやすく愛されるまちづくりにつながります。
図解リンチの 5 つの要素
- パス(道)通りや線路など、人が動く道筋
- エッジ(境目)海岸や線路など、地域の境目
- ディストリクト共通の特徴をもつ、まとまった地域
- ノード(結節点)駅前や交差点など、道が集まる所
- ランドマーク塔や山など、遠くから見える目印

04
建築学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目
都市計画や防災計画は、建築学科のほか、都市工学科や社会工学の学類などで学べます。多くの大学では、建物の設計の演習に加えて、都市計画や防災の講義と、まちを調べて計画をつくる演習があります。地域の人と一緒に避難の道を歩いて確かめたり、まちの模型を囲んで話し合ったりする研究室もあります。科目の名前や学年は大学によって異なります。
工学部や理工学部の建築学科の多くは、数学と理科などで入試を行います。数学は数学 III・C まで、理科は物理を選んでおくと、地震の揺れや建物の強さを学ぶ授業に入りやすくなります。
国公立大学の建築学科には、共通テストで地理歴史・公民の科目を課すところがあります。地理を選べば、地形や災害、都市の学習が、そのまま大学の都市計画の授業につながります。「公共」で学ぶ地方自治や住民の参加、日本史探究で学ぶ災害と復興の歴史も、まちづくりを考える力になります。入試の科目は大学によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。
勉強のコツは、地形図やハザードマップを見たら、標高と土地の成り立ちを必ず確かめることです。干拓地か、台地か、盆地の端か。その違いが建物の決まりや揺れの強さにつながると考えると、地理の学習が設計の視点に変わります。
数学・物理に、地理と公共を組み合わせると力になります。
高校生のうちに試せること
名古屋市の臨海部防災区域の決まりを読む
名古屋市のページでは、区域ごとの 1 階の床の高さや、N・P の高さを示した電柱の位置図を見られます。自分の町に、土地の高さに合わせた建物の決まりがあるか、市役所のサイトで探しましょう。
名古屋市「臨海部防災区域について」友だちと同じ駅前の地図を描き比べる
地図を見ずに、同じ駅前の地図を 3 人で描きましょう。全員が描いた道や目印と、だれも描かなかった空白の場所に色を塗り、リンチの 5 つの要素に分けてみます。
地下の構造を調べた平野を探す
地震調査研究推進本部のページには、1998〜2004 年度に地下の構造を調べた地域の報告書の一覧があります。自分の住む平野が入っているか確かめましょう。
地震調査研究推進本部「交付金による地下構造調査」大学の都市計画の実習の発表会を見る
筑波大学の「都市計画マスタープラン実習」の発表会の案内には、学生の班ごとの土浦市のまちづくり案の題が並んでいます。自分の町なら、どんな題の計画をつくるか考えましょう。
筑波大学「都市計画マスタープラン実習」2019 年度成果発表会の案内
「建築学(都市計画・防災計画)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 91 件から探せます。

建築・都市計画論領域
大阪大学(大阪府)
工学研究科地球総合工学専攻・建築・都市計画論・木多 道宏 教授

都市計画学研究室
九州大学(福岡県)
都市・建築学・ZHAO SHICHEN 教授

環境地盤工学研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科・地盤工学・椋木 俊文 教授
火山灰土の動的特性や凍結地盤の油汚染、X線CTによる土の間隙構造を調べる。
地圏・地盤工学研究室
東北大学(宮城県)
工学研究科土木工学専攻ほか(土木系)・地圏・地盤工学
環境フィールド工学専攻 地盤物性学研究室
北海道大学(北海道)
社会基盤学

地質・地盤災害研究室
新潟大学(新潟県)
災害・復興科学研究所・地質学・地盤災害・卜部 厚志
地層に残る地震・津波・液状化の痕跡から過去の災害履歴を復元し、被害軽減に役立てる。
よくある質問
都市計画は、建築学科と都市工学科のどちらで学べますか?
どちらでも学べます。建築学科では建物の設計を中心に都市計画も学ぶことが多く、都市工学科や社会工学の学類では、まち全体の計画や交通、防災をより広く学びます。大学によって分け方が違うので、研究室の一覧で確かめてください。
防災計画の研究には、どんな分野の人が関わっていますか?
建築学の構造や地震工学、都市計画の研究者に加えて、地理学や土木工学、社会学の研究者も一緒に取り組みます。伊勢湾台風の分析のように、自然の力、土地の弱さ、人の備えを合わせて考えるため、いくつもの分野の協力が欠かせません。


