図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3
記録を残す・調べる
役所や寺社、会社に残る記録を整理して守り、必要な人が調べられるようにする仕事です。高校の日本史で身につける「時代の背景をつかむ」「資料を読む」力が、残す記録を選ぶときや、古い文書を読み解くときに生きます。

ひとことで言うと
部活の記録ノートを、後輩に引き継ぐ
部活の記録ノートには、練習メニューや試合の結果が書きためられています。全部をそのまま渡すと後輩が困るので、残すページを選び、目次をつけて引き継ぎます。アーキビストの仕事は、これを国や町の記録で、何十年、何百年先の人に向けて行うものです。

01
どんな仕事?: 役目を終えた記録を、次の時代へ渡す
公文書館などで記録を守る専門職を、アーキビストと呼びます。国立公文書館によると、アーキビストは、組織で日々つくられる膨大な記録の中から、世代を超えて価値のある記録を選びます。そして、将来も使えるように守る役割を担います。
記録は、役目を終えると捨てられてしまうことがあります。京都の東寺に伝わる「東寺百合文書」は、8 世紀から 18 世紀までの約 2 万 5,000 通の文書です。中世には寺の僧が日々の事務や会議に使っていましたが、江戸時代に土地の制度が変わると、実際の役には立たなくなりました。
その文書を調べた加賀藩の 5 代藩主・前田綱紀は、1685 年、保存のための桐箱を 100 個、東寺に贈りました。「百合」は、この 100 の箱のことです。文書は 1997 年に国宝、2015 年にユネスコの「世界の記憶」になりました。使い終わった記録が、数百年後に歴史の資料になるのです。
国の役所の文書にも決まりがあります。公文書管理法は、公文書を「国民共有の知的資源」と位置づけています。保存期間が終わった文書は、国立公文書館などに移すか、捨てるかを決めます。移された文書は永久に保存され、目録がつくられて公表されます。
役目を終えた記録を選んで守ると、未来の歴史の資料になります。
図解国の公文書が、歴史の資料になるまで
- 1つくる・使う役所で仕事の記録として使われる
- 2保存期間が終わる文書ごとに決めた期間が過ぎる
- 3残すかを決める歴史の資料として価値があるか
- 4公文書館へ移す国立公文書館などで永久に保存
- 5目録で公開請求があれば原則として利用できる


02
時代の背景をつかむ: 合併前の村の文書を読み解く
市役所や町役場の書庫には、今はない村の名前が書かれた文書が残っていることがあります。それがいつ、どんな村でつくられたのかを知る手がかりになるのが、市町村の合併の歴史です。
総務省の資料によると、1888 年に 7 万 1,314 あった町村は、翌年には 1 万 5,859 になりました(明治の大合併)。戦後の 1953 年から 1961 年にかけては、9,868 あった市町村が 3,472 になりました。ほぼ 3 分の 1 です(昭和の大合併)。
昭和の大合併では、町村の人口はおおむね 8,000 人以上が目安とされました。新制中学校 1 校を効率よく置いて運営するのに、必要と考えられた人口です。戦後の学校制度の改革が、町の形まで変えたのです。
こうした背景を知っていると、合併の前と後で、どの文書がどの村のものかを見分けやすくなります。高校の日本史で学ぶ戦後の改革が、書庫の簿冊を読み解く物差しになります。
合併の歴史を知っていると、古い簿冊がいつ、どこの物かが見えてきます。
図解合併前の村の文書を整理する(例)
- 1表紙の年と村の名前を記録する
- 2合併の年表と照らし、いつの村かを確かめる
- 3中身を読み、個人の情報が書かれていないか確かめる
- 4目録にのせ、傷まない箱に移して保存する

03
資料を読む: 年号が「古すぎる」2 枚のお札
2012 年 5 月 21 日、松江市の史料編纂室の職員 3 人が、市内の松江神社で古い木札を調べました。市の歴史をまとめる「市史」をつくるため、寺社の資料の目録をつくり、写真を撮る、いつもの調査でした。その中に、慶長 16(1611)年の年号が書かれた札がありました。
帰りの車の中で、職員は疑問を持ちました。松江神社ができたのは 1899 年で、神社にまつられた松江東照宮も 1628 年の創建です。札の年号は、神社より古すぎるのです。この札は、松江城のどこかから運ばれてきたのではないか。
事務室に戻り、1966 年に出た論文を探し出しました。1937 年に松江城天守を調べた建築学者が、天守の完成にかかわる祈祷札の写真をのせていたのです。撮った写真と照らし合わせると、一致しました。所在が分からなくなっていた 2 枚の祈祷札の再発見でした。
2015 年 7 月 8 日、松江城天守は国宝に指定され、2 枚の祈祷札も一緒に指定されました。担当者は、発見は誰かの手柄ではなく、市史をつくる地道な調査の積み重ねの結果だと書いています。
小さな違和感を資料で確かめると、大きな発見につながります。


04
県の公文書館で働くアーキビストの 1 日(例)
ここでは、県の公文書館でアーキビストとして働く職員の 1 日の例を紹介します。県庁でつくられた文書のうち、歴史の資料として残すものを受け入れ、利用する人を手伝います。
閲覧室では、家の歴史を調べたい人や、卒業論文を書く大学生などから相談を受けます。どの資料に答えがありそうかを一緒に考えるのも、アーキビストの仕事です。
書庫の資料は、温度や湿度を保ち、虫やカビから守ります。働き方は、施設や時期によって異なります。
選ぶ・守る・案内するが、1 日の中で行き来します。
図解県の公文書館で働くアーキビストの 1 日(例)
- 9:00書庫の点検温度と湿度、虫やカビの有無を見る
- 10:00文書の選別県庁から届いた文書の中身を確かめる
- 12:00昼休み
- 13:00閲覧室の相談家の歴史を調べたい人に資料を案内
- 14:30目録づくり合併前の村の簿冊を 1 冊ずつ記録
- 16:00展示の準備戦後の町の写真で小さな展示をつくる

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、日本史の教科書にのっている史料が、今どこに保存されているかを調べてみてください。家族の古い写真に、撮った年と場所を書き込んで整理するのも、記録を残す第一歩です。
大学では、史学科などで日本史や古文書の読み方を学ぶのが近道です。国立公文書館は、2020 年度からアーキビストを認証する制度を始め、2025 年度までに 379 人を認証しました。認証には、大学院の科目や研修で学ぶ専門の知識、3 年以上の実務経験、調査研究の実績などが求められます。
2024 年度からは、必要な知識を身につけた人を「准認証アーキビスト」として認める制度もできました。2026 年 7 月までに 337 人が認定されています。司書として図書館で地域の資料を集めたり、市町村の職員として市史づくりや文書の管理を受け持ったりする道もあります。
こつこつ整理するのが好きな人、小さな違和感を見のがさない人に向いています。経験を積むと、公文書館の運営や、大学・会社のアーカイブズづくりを任される立場になる道があります。
日本史の学びに、記録を守る専門の知識と経験を重ねていきます。
図解認証アーキビストへの道(例)
- 1高校で学ぶ史料の出どころを調べてみる
- 2大学で学ぶ日本史・古文書の読み方
- 3大学院・研修アーカイブズの専門の知識
- 4実務を積む公文書館などで 3 年以上
- 5認証を受ける国立公文書館の認証アーキビスト
高校生のうちに試せること
東寺百合文書を、西暦から探す
東寺百合文書WEBでは、約 1,000 年分の文書を西暦から探せます。教科書で気になった年、たとえば応仁の乱が始まった 1467 年を選び、その年に書かれた文書の名前を眺めてみましょう。
百合文書をさがす: 西暦から(東寺百合文書WEB)家族の写真に、年と場所を書いて残す
家にある古い写真やアルバムを家族と見ながら、撮った年・場所・写っている人を付箋に書いて残しましょう。何十年か後に、この 1 枚が家や町の歴史を調べる大切な資料になるかもしれません。
部活の記録を、引き継げる形に整える
部活の練習記録や大会の結果を集め、残すものを選んで、年ごとに目次をつけてまとめましょう。何を残し、何を省いたかを書き添えると、アーキビストが記録を選ぶときの考え方を体験できます。
「記録を残す・調べる」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 37 件から探せます。
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よくある質問
アーキビストと司書は、どう違いますか?
司書は主に、出版された本や雑誌を集めて貸し出し、調べものを手伝います。アーキビストは、役所や会社などで日々つくられた記録の中から残すものを選び、原本として守って利用できるようにします。
くずし字が読めないと、アーキビストになれませんか?
なれます。公文書館が扱う記録には、明治以降の文書や写真、電子の記録も多くあります。古い文書を扱う場合も、大学の授業や研修で少しずつ読めるようになります。
公文書館の資料は、高校生でも見られますか?
国の公文書館では、目録に従って利用の請求があれば、原則として資料を利用させる決まりです(公文書管理法)。手続きは館ごとに異なるので、近くの公文書館のサイトで確かめてください。