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法学

「その他」と「その他の」の 1 字の違い、2 行で終わる判決の主文、2 坪の土地をめぐる昔の裁判。法学では、高校の国語で練習する、言葉を正確に読む力・要約する力・筋道を立てて書く力が、毎日の授業の道具になります。

大学のゼミ室で、分厚い法律書の条文に色ペンで印を付ける学生、短い判決文を読み比べる学生、山あいの温泉町の古い写真を見ながら話し合う学生たち

ひとことで言うと

約束のメッセージを、あとで見返すとき

「土曜か日曜に集合」と「土曜と日曜に集合」では、1 字の違いで予定が変わります。話がかみ合わないときは、送った文面を見返して確かめます。法学も、条文や判決に書かれた言葉を一語ずつ確かめ、何が決まっているのかを読み取ります。

01

論理的に読む → 条文: 「その他」と「その他の」で意味が変わる

法律の文章には、日常とは少し違う言葉の使い分けがあります。その 1 つが「その他」と「その他の」です。「A その他の B」と書くと、A は B の例の 1 つで、B の中に含まれます。「A その他 B」と書くと、A と B は並べて挙げられたものになります。

例えば著作権法 10 条は、著作物の例として「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」を挙げています。「その他の」なので、小説も脚本も「言語の著作物」の一部です。民法 33 条の「この法律その他の法律」も同じ形で、民法そのものも「法律」の 1 つとして含まれます。

「の」の 1 字で、決まることが変わる場面もあります。労働政策研究・研修機構のコラムによると、「〇〇その他政令で定める…」なら、〇〇は政令で改めて定めなくても対象になります。「〇〇その他の政令で定める…」なら、〇〇も政令で定めないと対象になりません。

著作権法 36 条は、公表された作品を「入学試験その他人の学識技能に関する試験」の問題に使ってよいと定めています。国語の入試に、作者の許しを前もって得ずに小説や評論を載せられるのは、この条文があるからです。ここは「その他・人の」と区切ります。民法 109 条の「その他人が」は「その・他人が」で、同じ 4 字でも区切り方が違います。高校の論理国語で練習する、助詞や接続の言葉に注意して読む力が、ここで生きます。

「の」の 1 字にも、条文の意味を決める役目があります。

図解「その他の」と「その他」

A その他の B

  • A は B の例の 1 つ
  • 例: 小説、脚本…その他の言語の著作物
  • 小説も「言語の著作物」に入る

A その他 B

  • A と B を並べて挙げる
  • 例: 入学試験その他人の…試験
  • A を B の例としては扱わない

02

要約する → 判決文: 主文は 2 行、「なぜ」は理由に書かれる

2022 年 10 月 24 日、最高裁判所は、音楽教室のレッスンをめぐる判決を出しました。争われたのは、生徒がレッスンで課題曲をひくとき、教室を運営する会社が曲を使っている(利用の主体である)と言えるかどうかです。言えるなら、生徒の演奏についても、教室が著作権の使用料を払う必要が出てきます。

判決の全文は、わずか 2 ページです。最初の「主文」は、「本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。」の 2 行だけ。これだけでは、何が決まったのか分かりません。判断の中身は、そのあとの「理由」に書かれています。5 人の裁判官の全員一致の判決でした。

理由は、まず事実のあらましと争いの中身を示し、上告した側の言い分をまとめます。そのうえで、生徒の演奏は技術を身につけるためのもので、生徒の行為だけで成り立つこと、先生の指導はそれを助けるものにすぎないことなどを挙げます。そして、教室が利用の主体だとは言えない、と結論づけています。

裁判所のウェブサイトのこの判決のページには、「判示事項」と「裁判要旨」も載っています。判決の要点を短くまとめたものです。高校の論理国語では、引用や要約をしながら論じる学習をします。判決を読んでゼミで報告するときに、その力がそのまま使えます。

主文で結論を、理由で筋道をつかむと、判決は短く要約できます。

図解判決の「理由」の組み立て(音楽教室の判決)

  1. 1事実のあらまし教室・生徒・課題曲の関係
  2. 2争いの中身教室が曲の利用の主体か
  3. 3上告した側の言い分先生の強い管理の下で演奏している
  4. 4裁判所の判断演奏の目的や、誰の行為かを考える
  5. 5結論教室は利用の主体とは言えない
木目の縦型ピアノの、白と黒の鍵盤を斜めから写した写真
音楽教室のレッスンで生徒がひく曲をめぐって、最高裁判所は 2022 年に判決を出しました。判決の全文は、裁判所のウェブサイトで読めます。写真: Puikstekend(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

03

記述する → 答案: 2 坪の土地の裁判から、大事な事実を拾う

1935 年、大審院(明治憲法のもとで最も上にあった裁判所)は、富山県の宇奈月温泉をめぐる裁判で判決を出しました。温泉に湯を引く木の管が、他人の土地のごく一部、2 坪(畳 4 枚分ほど)を、許しを得ずに通っていました。

土地の持ち主は、温泉の側にこの土地を高く売りつけようとして断られると、所有権をもとに管を取り除くよう求めました。大審院はこの請求を、権利の濫用(らんよう)にあたるとして認めませんでした。日本で権利の濫用の考え方が判例で確立したのは、この判決だとされています。

当時の民法には、権利の濫用を禁じる条文はありませんでした。判例の積み重ねをふまえ、1947 年の民法の改正で、権利の濫用を許さないという条文が加わりました。今の民法 1 条 3 項の「権利の濫用は、これを許さない。」です。

大学の試験では、こうした出来事を短い問題文にした事例問題に答案を書きます。問題文には、結論に関わる事実と関わらない事実が混ざっています。2 坪という狭さ、高く売りつけようとしたこと、断られてから撤去を求めたこと。大事な事実を拾い、なぜ大事かを書く力は、高校の記述問題や要約で鍛える力と同じです。

結論に関わる事実を選び、理由を書く。答案の基本は国語の記述と同じです。

図解事例から大事な事実を拾う(例)

入力温泉の管が他人の土地 2 坪を通っていた。土地の持ち主は高値での買い取りを求め、断られると管の撤去を求めた
  1. 1問いを立てる: 撤去の請求は認められるか
  2. 2大事な事実に線を引く: 2 坪・高値・断られて撤去
  3. 3ルールに当てはめる: 権利の濫用は許されない
結果1935 年の大審院: 請求は認められない
山に囲まれた谷あいに、旅館や家の屋根が集まる温泉町を見下ろした白黒写真
1938 年の本に載った宇奈月温泉(富山県)。この温泉に湯を引く管をめぐって、1935 年に大審院が判決を出しました。写真: 高岡新聞社(Public domain・Wikimedia Commons)

04

法学に進むなら: 高校でつけておきたい国語の力

法学部では、多くの大学で 1・2 年生のうちに憲法・民法・刑法の基本を学び、3 年生ごろから判例を読んで報告するゼミに入ります。試験では、事例の問題に答案を書くことが多くなります(進み方は大学によって異なります)。

高校のうちにつけておきたい力は 3 つです。1 つ目は、長い文を、接続の言葉や助詞に印を付けて区切って読む力です。2 つ目は、評論や資料を読んで、要点を 2〜3 文に要約する力です。3 つ目は、問いに対して結論を先に書き、理由をつなげる記述の力です。

法学を学んだ人は、弁護士や裁判官などの法律家、国や市役所の公務員、会社の法務部などで働いています。どの仕事でも、毎日の中心は、条文や契約書を読み、筋道の通った文書を書くことです。

法学の面白さは、同じ条文でも、事実の違いで結論が変わるところです。2 坪の土地の裁判のように、ルールをそのまま当てはめると不公平になる場面で、どう考えるかが問われます。憲法・民法・刑法など、大学の法学の分野は、このサイトの大学の学問「法学」のページで紹介しています。

区切って読む・要約する・結論から書く。3 つの力が法学の土台です。

クイズ国語と法学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1著作権法 36 条の「入学試験その他人の学識技能に関する試験」。正しい区切り方は?

  2. Q22022 年の音楽教室の判決。最初の「主文」に書かれていたのは?

  3. Q31935 年の宇奈月温泉の裁判。湯を引く管が通っていた他人の土地の広さは?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 2 ページの判決を全文で読む

    裁判所のウェブサイトで、2022 年 10 月 24 日の音楽教室の判決を開きましょう。全文は 2 ページです。主文と理由を読み、理由の 4 で挙げられた事情を、自分の言葉で 3 つにまとめてみてください。

    裁判所 裁判例(令和 4 年 10 月 24 日 最高裁判所判決)
  • 自分の要約と「裁判要旨」を比べる

    上の判決のページには、判決の要点をまとめた「判示事項」と「裁判要旨」が載っています。先に自分で要約を書いてから見比べ、何を残し、何を省いているかを確かめましょう。

  • 条文で「その他の」を探す

    e-Gov 法令検索で著作権法を開き、10 条と 36 条を読みましょう。「その他の」と「その他」がどこに使われているかに印を付けると、法律の文章の決まりが見えてきます。

    e-Gov 法令検索「著作権法」

「法学」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 51 件から探せます。

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よくある質問

判決文は、高校生でも読めますか?

読めます。最高裁判所の判決の多くは、裁判所のウェブサイトで無料で公開されています。音楽教室の判決のように短いものから始め、主文で結論を、理由で筋道をつかむと読みやすくなります。

国語の入試問題に小説を使うのは、著作権の問題にならないのですか?

著作権法 36 条が、公表された作品を、入学試験などの問題として必要な限度で使うことを認めています。ただし、営利を目的として問題に使う人は、通常の使用料にあたる額を著作権者に払わなければならないと定められています。

大審院とは、どんな裁判所ですか?

1875 年に置かれ、1947 年まで続いた、明治憲法のもとで最も上の裁判所です。民事と刑事の裁判の最後の判断をしていました。宇奈月温泉の判決のように、大審院の判決は今も大学の授業で読まれています。