図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3
金融・保険
ローンの返済額や保険料を計算し、金利や株価の動きを分析する仕事です。数学 B の等比数列、数学 II の指数と対数、数学 I の標準偏差が、お金の「これから」を読む道具になります。

ひとことで言うと
雪玉は、転がすほど速く大きくなる
雪玉を転がすと、大きくなるほど一度につく雪も増えていきます。利息にも利息がつく預金や、返さずにいる借金も同じです。どれだけ速く大きくなるかを、数列と指数で計算するのが、金融の仕事の土台です。

01
どんな仕事?: お金の「これから」を数で読む
銀行では、家や車を買う人にお金を貸し、毎月の返済額を計算します。保険会社では、病気や事故が起こる確率から保険料を決めます。資産を運用する会社では、株や債券の値動きを分析して、預かったお金をどう運用するかを考えます。
どの仕事も、将来のお金の動きを数で見通すことが中心です。返済額は数列、利息の増え方は指数、値動きのぶれは標準偏差、保険料は確率と期待値で計算します。高校の数学の単元が、そのまま仕事の道具箱に並んでいます。
お金の計算は、働く前から身近です。2022 年 4 月に成年年齢が 18 歳に引き下げられ、国は若い人への金融の教育を強めています。一方、2022 年の調査では、学校や職場で金融の教育を受けたと答えた人は 7.1% にとどまりました。
金融の計算の多くは、高校の数学の組み合わせでできています。
図解金融の仕事と高校の数学
- 数列ローンの返済額・積み立て(数学 B)
- 指数と対数利息や物価の増え方(数学 II)
- データの分析値動きのぶれを測る(数学 I)
- 確率と期待値保険料のもとを計算する(数学 A)
- 微分利益や費用の変わり方を見る(数学 II)

02
数列が生きる場面: ローンの返済額は等比数列の和で決まる
お金を借りると、残っている借金に利息がつきます。毎年同じ額を返していく方法では、1 回の返済額をいくらにすればよいのでしょうか。ここで数学 B の等比数列の和が活躍します。
100 万円を年 10% の利息で借り、3 年で毎年同じ額 x 万円を返すとします。返さなければ、借金は 3 年後に 100 × 1.1³ = 133.1 万円にふくらみます。一方、1 年目に返した x 万円は、その後 2 年分の利息を減らすので、3 年後の価値では x × 1.1² 万円にあたります。
3 回の返済を 3 年後の価値でそろえると、x × 1.1² + x × 1.1 + x です。これは公比 1.1 の等比数列の和で、3.31x になります。これが 133.1 万円と等しいので、x は約 40.2 万円です。住宅ローンでも、同じ考え方の式を毎月の返済に当てはめて計算します。
なお、利息の上限は利息制限法で決まっています。借りる額が 10 万円未満なら年 20%、10 万円以上 100 万円未満なら年 18%、100 万円以上なら年 15% です。上限をこえる分の利息の約束は無効になります。
等比数列の和の公式 1 つで、どんなローンの返済額も計算できます。
図解100 万円を年 10% で借りて 3 年で返す(例)
- 1借金は 3 年後に 100 × 1.1³ = 133.1 万円
- 2返済を 3 年後の価値にそろえると x × 1.1²、x × 1.1、x
- 3等比数列の和は x(1.21 + 1.1 + 1) = 3.31x
- 43.31x = 133.1 を解く


03
指数・対数と標準偏差が生きる場面: 物価の 2%、値動きのぶれ
日本銀行は 2013 年 1 月から、消費者物価が前の年より 2% 上がることを「物価安定の目標」にしています。物価が毎年 2% ずつ上がると、n 年後の値段は 1.02 の n 乗倍です。では、何年で 2 倍になるでしょうか。
1.02ⁿ = 2 の両辺の常用対数をとると、n = log 2 ÷ log 1.02 です。log 2 は約 0.301、log 1.02 は約 0.0086 なので、n は約 35 です。毎年 2% の上昇でも、35 年で値段は 2 倍になります。数学 II の対数を使えば、こうした「何年後」を 1 行で計算できます。
株や債券の値動きでは、ぶれの大きさにも注目します。金融庁の資料は、金融商品のリスクを、損失が出る可能性ではなく「運用成果の振れ幅」と説明しています。この振れ幅を表すのによく使われるのが、数学 I で学ぶ標準偏差です。
ぶれには、意外な性質があります。1 年目に 50% 上がり、2 年目に 50% 下がったとします。変化の率の平均は 0% なのに、値段は 1.5 × 0.5 = 0.75 倍に減ってしまいます。変化はかけ算で積み重なるからです。資産をいくつかに分けて持つ分散投資は、こうしたぶれの影響をおさえる方法の 1 つです。
対数で「何年後」を、標準偏差で「どれだけぶれるか」を読み取ります。

04
資産運用会社のアナリストの 1 日(例)
ここでは、預かったお金を株や債券で運用する会社で、企業を調べるアナリストの 1 日の例を紹介します。
朝は、夜の間に動いた海外の株価や金利、為替を確かめます。日中は、企業の決算の資料から売上の伸び率を計算し、経営者への取材で数字が動いた理由を聞きます。何年後にどれだけ成長しそうかは、指数の計算で見積もります。
夕方は、運用を受け持つファンドマネジャーに向けたレポートを書きます。どれだけもうかりそうかと同時に、値動きのぶれがどれくらいあるかを、標準偏差を使って示します。
成長の見通しと、ぶれの大きさの両方を数で示すのが腕の見せどころです。
図解資産運用会社のアナリストの 1 日(例)
- 8:00市場の確認海外の株価・金利・為替を見る
- 9:00朝の会議注目する企業と予定を共有する
- 10:00決算の分析売上の伸び率を計算する
- 12:00昼休み
- 13:30企業の取材数字が動いた理由を経営者に聞く
- 15:30ぶれの計算株価の標準偏差でリスクを見る
- 17:00レポートファンドマネジャーに考えを伝える

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、数学 B の数列、数学 II の指数と対数、数学 I のデータの分析を大切にしてください。家庭科でも、預貯金や保険、株式などの特徴と、資産形成の考え方を学びます。数学と家庭科の学びを、身近なお金の計算で結びつけると、金融の仕事の姿が見えてきます。
金融の会社には、経済学部や商学部、経営学部から入る人が多くいます。理学部の数学科や工学部、情報系の学部から入り、数学の力を生かして保険の計算や運用のしくみづくりを受け持つ人もいます。保険や年金の数理の専門家であるアクチュアリーを目指すなら、確率と統計を深く学べる学科が向いています。
数字を扱うのが好きな人、何十年も先を想像できる人に向いています。経験を積むと、運用を任されるファンドマネジャーや、会社全体のリスクを管理する責任者になる人もいます。暮らしのお金の相談にのる専門家として、独立する道もあります。
高校の数列と対数が、何十年先のお金を読む力の出発点です。
図解金融の数理の仕事への道(例)
- 1高校で学ぶ数列・指数と対数・データの分析
- 2大学で深める確率・統計・経済学・金融論
- 3金融の会社へ銀行・保険・証券・運用会社など
- 4専門を磨くアナリスト・アクチュアリーなど
高校生のうちに試せること
金融庁の高校生向けの動画を見る
金融庁の「高校生のための金融リテラシー講座」は、「使う」「借りる」など 6 本の動画です。「借りる」(7 分 48 秒)を見たあと、このページの等比数列の式で、返済額を自分で計算し直してみましょう。
高校生向け授業動画(金融庁)表計算で返済表をつくる
表計算ソフトに、1 年ごとの借金の残り・利息・返済額を並べた表をつくりましょう。100 万円を年 10% で借りて毎年 40.2 万円返すと、3 年でほぼ 0 円になることを確かめられます。金利を変えると返済額がどう変わるかも試してください。
物価が 2 倍になる年数を計算する
関数電卓やスマートフォンの電卓の log を使い、物価の上昇が年 1%・2%・3% のとき、何年で 2 倍になるかを計算しましょう。約 70 年、約 35 年、約 23 年となり、率のわずかな違いが大きな差になると分かります。
「金融・保険」に関連するコミュニティ
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よくある質問
金融の仕事は、文系と理系のどちらが向いていますか?
どちらからも目指せます。銀行や証券の会社には文系の学部から入る人が多く、保険の計算や運用のしくみづくりには理系の学部から入る人もいます。どちらでも、数列や対数、統計の考え方を使う場面があります。
ローンの計算は、実際にはコンピュータがするのではありませんか?
計算そのものはコンピュータが行います。ただ、金利や期間を変えると返済額がどう動くかを説明するには、等比数列の和のしくみの理解が欠かせません。計算の前提がおかしくないかを確かめるときも同じです。
高校生がお金について学べる場所はありますか?
高校の家庭科では、預貯金や保険、株式などの特徴と、資産形成の考え方を学びます。金融庁のサイトでは、高校生向けの授業の動画や、授業で使う教材を公開しています。
