図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 2
情報学
画面の縦横比の 16 : 9、言葉の足し算、星空の写真の重ね撮り。情報学の授業では、高校の数学 A・B・C で学ぶ互除法・ベクトル・統計が、アルゴリズムや機械学習、画像処理の道具になります。

ひとことで言うと
曲を正確に伝える楽譜
楽譜があれば、会ったことのない人にも同じ曲を弾いてもらえます。コンピュータに仕事を頼むときも、手順やデータを正確に書き表す決まりが必要です。数学は、その楽譜の役目を果たします。

01
互除法 → アルゴリズム: 1920 × 1080 が 16 : 9 になるまで
数学 A の「数学と人間の活動」では、ユークリッドの互除法を学びます。2 つの数の最大公約数を、割り算をくり返して求める方法です。この内容を授業で扱うかは、学校によって異なります。学習指導要領の解説には、互除法がアルゴリズムであることを理解できるようにする扱い方も示されています。
フルハイビジョンの画面の大きさ、1920 × 1080 で試します。1920 を 1080 で割ると、余りは 840 です。次に 1080 を 840 で割ると余りは 240、840 を 240 で割ると余りは 120 です。240 は 120 で割り切れるので、最大公約数は 120。縦横の比は 16 : 9 です。
割る数と余りは、1080、840、240、120 と、くり返すたびに小さくなります。だから手順は必ずどこかで終わります。19 世紀フランスの数学者ラメは、割り算の回数が、小さいほうの数の桁数の 5 倍を超えないことを示しました。1080 は 4 桁なので、多くても 20 回で終わります。
手順が必ず終わるか、何回で終わるかを確かめるのは、大学のアルゴリズムの授業の大事なテーマです。くり返すたびに数が並んでいく様子は、数学 B の数列の考え方で表せます。約 2,300 年前のユークリッドの『原論』に書かれた手順が、今のプログラムでも数行で書けます。
手順が必ず終わるかを確かめるところから、アルゴリズムの学びが始まります。
図解1920 × 1080 の比を互除法で求める
- 11920 = 1080 × 1 + 840
- 21080 = 840 × 1 + 240
- 3840 = 240 × 3 + 120
- 4240 = 120 × 2(割り切れた)


02
ベクトル → 機械学習: 言葉の足し算と引き算
数学 C では、ベクトルを成分で表し、和や差、実数倍を計算します。機械学習では、この計算を言葉にも使います。1 つの言葉を、たくさんの数を並べたベクトルで表すのです。
2013 年、マイクロソフトの研究所のミコロフらは、大量の文章から言葉のベクトルを学習させました。King(王)のベクトルから Man(男)を引き、Woman(女)を足してみます。すると結果は、Queen(女王)のベクトルにとても近くなりました。男女の関係が、ベクトルの向きとして表れていたのです。
論文では、80〜1,600 個の数を並べたベクトルが使われました。下の図は、説明のために 2 つの数だけで表した例です。実際の研究でも、計算そのものは数学 C で学ぶ足し算と引き算です。
多くの大学では、線形代数学でベクトルと行列を学んだあと、機械学習や自然言語処理の授業に進みます。翻訳や検索のしくみの中で、言葉がどのように数として扱われるかを学びます。
ベクトルの和と差で、言葉の意味の関係を計算できます。
図解言葉をベクトルで計算する(2 次元の例)
- 1王 − 男 = (4, 0)
- 2(4, 0) + 女 = (5, 1)
- 3(5, 1) にいちばん近い言葉を探す

03
統計 → 画像処理: 写真を重ねると、ざらつきが減る
暗い場所で撮った写真には、ざらざらした粒(ノイズ)が出ます。1 枚ごとに、画素の明るさが本当の値から少しずつ、でたらめにずれるためです。同じ場面を何枚も撮って平均すると、ずれが打ち消し合って小さくなります。
どれだけ小さくなるかは、数学 B の「統計的な推測」で学ぶ性質から分かります。1 枚ごとのずれが互いに無関係なら、n 枚の平均のばらつき(標準偏差)は元の 1/√n になります。4 枚なら 1/2、16 枚なら 1/4、100 枚なら 1/10 です。枚数を 4 倍にするたびに、ざらつきは半分になります。
この方法は、天体写真では昔から使われてきました。下の写真は、10 分ずつ撮った 16 枚を重ねて仕上げたものです。スマートフォンにも同じ考え方が使われています。Google が 2018 年に紹介した夜景撮影の機能は、手持ちで最大 15 枚を撮って合成していました。
大学の画像処理の授業では、写真を画素の数の表として扱い、ノイズの除去や輪郭の検出などを計算で行います。どの計算がどれだけ効くかを見積もるときに、統計の考え方が役立ちます。
平均する枚数を増やすほど、ノイズは 1/√n に小さくなります。
図解重ねる枚数と、ざらつきの大きさ
1 枚
- ざらつき 1(基準)
- 暗い所では粒が目立つ
4 枚の平均
- ざらつき 1/2
- 1/√4 = 1/2
16 枚の平均
- ざらつき 1/4
- 1/√16 = 1/4


04
情報学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目
情報学の入試は、大学や学部によって大きく違います。工学部や理学部に置かれた学科では、個別試験に数学 III を含める大学が多くあります。一方で、文系の科目でも受けられる型を用意する大学もあります。
例えば山口大学の情報学部(2026 年度入試)では、前期日程に 2 つの型がありました。1 つは、個別試験が数学(数学 III を含む)だけの理系の型です。もう 1 つは、個別試験が文系の数学と英語の型です。大学の資料には、入学後に数学 III の学習もあり、そのための支えを整えると書かれています。
どの型で入っても、大学では数学 III や数学 C の内容を使います。共通テストには「情報 I」もあります。数学 A の互除法、数学 B の統計的な推測、数学 C のベクトルは、このページで見たように情報学の入口です。学校で扱わない内容は、教科書で先に読んでおくと役立ちます。
情報学の面白さは、考えた手順がすぐに動き、結果を自分の目で確かめられることです。アルゴリズムや AI、ネットワークなど、大学の情報学の分野は、このサイトの大学の学問「情報学」のページで紹介しています。
どの型で入学しても、数学 III・C の内容は大学で使います。
高校生のうちに試せること
表計算で互除法を動かす
表計算ソフトの A1 に 1920、B1 に 1080 を入れましょう。A2 に「=B1」、B2 に「=MOD(A1,B1)」と入れて、5 行目までコピーします。B 列が 0 になった行の A 列の数が、最大公約数の 120 です。好きな 2 つの数に変えて、何回で終わるか数えてみましょう。
言葉のベクトルを 3D で見る
Embedding Projector では、約 1 万語を 200 個の数のベクトルで表したデータを、3 次元に縮めて表示できます。単語を検索すると、ベクトルが近い言葉が一覧で出ます。英単語を入れて、意味の近い言葉が集まる様子を確かめましょう。
Embedding Projectorスマートフォンで重ね撮りを比べる
暗い部屋で、夜景や夜間の撮影機能をオンとオフにして、同じ物を撮り比べましょう。機能の名前や有無は機種によって違います。写真を拡大して、ざらつきの違いを確かめてください。
「情報学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 115 件から探せます。

パターン認識
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 情報科学プログラム・情報科学・相澤 宏旭 准教授
パターン認識、機械学習、ニューラルネットなどを研究している。
中井研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科システム情報学専攻・非侵襲脳機能計測・MRI・機械学習・中井 智也 准教授
機械学習・言語理解研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・若林 啓

コンピュータアルゴリズム分野
京都大学(京都府)
情報学研究科情報学専攻・コンピュータ工学・湊 真一 教授
中田研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 数物・電子情報系学科 電子情報システム教育プログラム・進化計算・機械学習・中田 雅也 准教授
進化計算による最適化と解の知識化を研究する。
コンピュータビジョン・グラフィクス・VR 研究室
九州大学(福岡県)
情報知能工学・川崎 洋 教授
よくある質問
文系でも情報学部に入れますか?
入れる大学があります。山口大学の情報学部(2026 年度入試)のように、文系の数学と英語で受けられる型を用意する大学もあります。ただし入学後は数学 III の内容も学ぶので、早めに準備しておくと安心です。入試の科目は大学によって異なるので、募集要項で確かめてください。
数学 A の互除法や二進法を、授業で習っていません
数学 A は、図形の性質、場合の数と確率、数学と人間の活動の 3 つから、学校が選んで教える科目です。互除法や二進法は数学と人間の活動に入っているので、教科書の例題で自分で学べます。情報 I で学ぶ二進法とあわせると、コンピュータとのつながりが見えてきます。
機械学習には、どの数学がいちばん大切ですか?
ベクトルと行列(線形代数学)、微分、確率・統計の 3 つが柱です。高校では、数学 C のベクトル、数学 II・III の微分、数学 B の統計的な推測が、それぞれの入口になります。
