図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 1
数学
高校の数学 I〜III・A〜C は、大学の数学科でそのまま出発点になります。sin を足し算とかけ算で計算する方法、登山の往復に隠れた定理、4 次元の立方体。高校の単元の先には、こんな世界が広がっています。

ひとことで言うと
手品を見る側から、種を明かす側へ
手品は、見ているだけでも楽しめます。けれども種が分かると、自分で新しい手品を考えられるようになります。高校で使ってきた公式の種明かしを自分の手で行い、その先へ進むのが大学の数学です。

01
微分 → 微分積分学: sin を足し算とかけ算で計算する
数学 III では、sin x を微分すると cos x になることを学びます。θ が 0 に近いとき、sin θ と θ がほぼ等しいことも扱います。大学 1 年の微分積分学では、この「ほぼ等しい」を、いくらでも正確にしていきます。
そのための道具がテイラー展開です。sin x は、x − x³/6 + x⁵/120 − … という、足し算とかけ算だけの式で表せます。式の係数は、微分をくり返すと決まります。項を増やすほど、元の sin x に近づきます。
試しに sin 30° を計算します。30° を弧度法で表すと π/6 で、およそ 0.5236 です。最初の項だけなら 0.5236、2 項目まで使うと 0.4997、3 項目までで 0.5000 になります。三角比で覚えた sin 30° = 1/2 に、計算だけでたどり着けます。
この式は、1400 年ごろにインド南部のケーララで、マーダヴァが見つけていたと考えられています。ヨーロッパでは、1676 年ごろにニュートンが見つけ直しました。今はイギリスの数学者テイラーの名前をとって、テイラー展開と呼ばれています。
微分をくり返すと、sin のような関数も足し算とかけ算の式で表せます。
図解sin 30° を足し算とかけ算で求める
- 11 項目だけ: 0.5236
- 22 項目まで: 0.5236 − 0.0239 = 0.4997
- 33 項目まで: 0.4997 + 0.0003 = 0.5000


02
極限と連続 → 集合と位相: 登山の往復に隠れた定理
ある人が朝 6 時にふもとを出て、夕方 6 時に山頂に着きました。翌日は朝 6 時に山頂を出て、同じ道を通って夕方 6 時にふもとへ戻りました。歩く速さや休み方は自由です。2 日とも同じ時刻に同じ場所にいた瞬間は、必ずあるでしょうか。
答えは「必ずある」です。2 日分を 1 日に重ねて、登る人と下る人が同じ日に歩くと考えます。ふもとから登る人と山頂から下る人は、1 本の道の上で必ずすれ違います。すれ違った時刻と場所が答えです。
この理屈を支えるのが中間値の定理です。つながった(連続な)グラフは、途中の値を飛ばさずに必ず通る、という定理です。数学 III では関数の連続性を学び、グラフを見て直観的に理解します。1817 年、プラハのボルツァーノは、この定理を図に頼らない形で証明しました。
大学では、なぜ途中を飛ばさないのかを、実数の性質から確かめます。x² − 2 の値は、x = 1 で −1、x = 2 で 2 です。それでも分数(有理数)だけの数直線には、値が 0 になる点がありません。√2 は分数で表せないからです。数直線にすき間がないことが、定理の土台です。多くの大学では 2 年ごろの集合と位相で、「つながっている」をさらに一般の形で定義し直します。
「途中を飛ばさない」ことは、実数の性質から証明できます。
図解すれ違いで考える
- 12 日分を重ねる同じ日に 2 人が歩くと考える
- 2登る人と下る人ふもとと山頂から朝 6 時に出発
- 3必ずすれ違う1 本の道で、途中を飛ばせない
- 4答えが決まるすれ違った時刻と場所


03
空間ベクトル → 線形代数学: 4 次元の立方体を数える
数学 C では、空間のベクトルを (x, y, z) のように 3 つの数の組で表します。大きさは √(x² + y² + z²) で求めます。大学 1 年の線形代数学では、数の組を 4 個、5 個、100 個と増やしていきます。数が n 個なら、n 次元の空間です。
目に見えない 4 次元の立方体も、数えることはできます。正方形をずらして頂点を結ぶと立方体になり、頂点は 4 個から 8 個に増えます。同じように立方体を 4 つ目の向きへずらし、8 組の頂点を結びます。頂点は 16 個、辺はもとの 12 本 × 2 と、結んだ 8 本で 32 本です。
対角線の長さも計算できます。1 辺が 1 のとき、正方形の対角線は √2、立方体は √3 です。4 次元の立方体では √(1 + 1 + 1 + 1) で、ちょうど 2 になります。数学 C の大きさの式を、4 つの数に広げただけです。
たくさんの数を並べたデータも、高い次元のベクトルとして扱えます。5 教科のテストの点数は、5 次元のベクトルです。線形代数学では、次元がいくつでも同じように扱えるよう、ベクトルと行列の理論を組み立てます。
数の組を増やすだけで、目に見えない次元の図形も計算できます。
図解1 辺が 1 の立方体を、次元ごとに比べる
正方形(2 次元)
- 頂点 4 個・辺 4 本
- 対角線は √2 ≒ 1.41
立方体(3 次元)
- 頂点 8 個・辺 12 本
- 対角線は √3 ≒ 1.73
4 次元の立方体
- 頂点 16 個・辺 32 本
- 対角線は √4 = 2


04
数学科を目指すなら: 高校で選んでおきたい科目
数学科では、高校の数学 I・II・III・A・B・C のすべてが土台になります。共通テストの数学は『数学 I、数学 A』と『数学 II、数学 B、数学 C』で、数学 III は出題されません。数学 III が問われるのは、大学ごとの個別試験や私立大学の試験です。
例えば東京大学の理科各類の個別試験(2026 年度)では、数学 I・II・III・A が全範囲から出題されます。数学 B は数列と統計的な推測、数学 C はベクトルと平面上の曲線と複素数平面が範囲です。募集要項には、入学後の数学の講義は数学 I〜C を学んでいることを前提にする、と書かれています。範囲は大学や入試の方式によって異なります。
数学 A・B・C は、3 つの内容から学校が選んで教える科目です。数学 C の複素数平面や、数学 A の整数の性質を授業で学ばないこともあります。その場合は教科書を自分で読み進めておくと、入試にも入学後の授業にも役立ちます。
大学の数学の面白さは、「なぜそうなるか」を自分の手で確かめ、まだ見たことのない世界まで進めることです。代数学・幾何学・解析学など、大学の数学の分野は、このサイトの大学の学問「数学」のページで詳しく紹介しています。
数学 III と数学 C まで学んでおくと、大学 1 年の授業に入りやすくなります。
高校生のうちに試せること
電卓で sin 30° に近づく
スマートフォンの関数電卓で、0.5236 − 0.5236³ ÷ 6 を計算しましょう。答えは約 0.4997 です。さらに 0.5236⁵ ÷ 120 を足すと約 0.5000 になり、3 つの項だけで sin 30° = 1/2 にほぼ届きます。
登山の往復をグラフで確かめる
方眼紙の横軸を時刻、縦軸をふもとからの距離にして、1 日目の登りと 2 日目の下りのグラフを好きな形で描きましょう。どう描いても、2 本の線はどこかで交わります。交わった点が、同じ時刻に同じ場所にいる瞬間です。
4 次元の立方体を描いて数える
紙に立方体を 2 つ、少しずらして描き、対応する 8 組の頂点を線で結びましょう。4 次元の立方体を映した形になります。頂点が 16 個、辺が 32 本あることを数えて確かめられます。
志望校の数学の出題範囲を調べる
志望する大学の募集要項を開き、個別試験の数学に数学 III や数学 C のどの内容が入るかを確かめましょう。共通テストの出題範囲は、大学入試センターのサイトで公開されています。
大学入試センター 令和 9 年度試験
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 48 件から探せます。

計算幾何学とグラフィックス研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・金森 由博
松尾研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・微分方程式の数値解法・数値解析全般・シミュレーション・松尾 宇泰 教授
小島研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・代数幾何学・可換環論・小島 秀雄 教授
多項式で定まる図形を扱い、開代数多様体や多項式環の構造を研究する。

計算幾何学とグラフィックス研究室
筑波大学(茨城県)
メディア工学・知能情報工学

應和研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・偏微分方程式論・應和 宏樹 准教授
波動現象のモデルとなる保存則方程式について、解の存在や性質を調べる。

位相的データ解析学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・位相的データ解析・大林 一平 教授
パーシステントホモロジーを中心に、トポロジーを使ったデータ解析の理論と応用を研究する。
よくある質問
テイラー展開は高校で習いますか?
本格的に学ぶのは、大学 1 年の微分積分学です。学習指導要領の解説では、数学 III で接線と関連付けて一次の近似式を扱うことも考えられるとしています。θ が 0 に近いときの sin θ ≒ θ が、その入口です。
数学 C の「平面上の曲線と複素数平面」を、学校で習わないかもしれません
数学 C は、内容の一部を学校が選んで教える科目です。共通テストでは、ベクトルと平面上の曲線と複素数平面が、数学 B の 2 項目と合わせた 4 項目から 3 項目を選ぶ形で出題されます。数学科を目指すなら、授業で扱わなくても教科書で学んでおくと、入試にも大学の授業にも役立ちます。
4 次元のように目に見えないものを、どうやって考えるのですか?
数の組の個数を増やして、式で考えます。まず 2 次元と 3 次元で図をかいて確かめ、同じ式が 4 次元でも成り立つかを調べます。図に頼らずに式で確かめられるのが、大学の数学の強みです。


