図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 3
建築学
地震で家具が倒れる条件、超高層ビルがゆっくり揺れるわけ、お堂の天井で竜が「鳴く」しくみ、窓から逃げる熱。建築学の構造と環境の授業では、高校の物理で学ぶ力のモーメント、単振動、波、熱を使って、安全で心地よい建物を設計します。

ひとことで言うと
ギターの胴も建物も、形が響きと揺れを決める
ギターの胴は、形と大きさで音の響き方が変わります。建物も同じで、高さや重さで地震のときの揺れ方が、天井や壁の形で声の響き方が変わります。建築学では、物理の法則を使って、その形を建てる前に選びます。

01
力のモーメント → 耐震: 背の高い家具ほど倒れやすいわけ
東京消防庁による近年の地震の被害調査では、けがをした人の 3〜5 割が、家具の転倒・落下・移動でけがをしていました。家具が倒れるかどうかは、物理で学ぶ力のモーメントで考えられます。
床が横に加速度 a で揺れると、家具の重心には、横向きに ma の力(慣性力)が働くと考えられます。この力は家具を前の角のまわりに回そうとし、重力 mg はそれを戻そうとします。重心が真ん中にあるとき、高さ h・奥行き b の家具は、a が g × b/h を超えると倒れ始めます。
高さ 180 cm・奥行き 30 cm の本棚なら、9.8 × 30/180 ≒ 1.6 m/s² です。重力の加速度の 6 分の 1 にあたります。高さ 90 cm の棚なら、その 2 倍の約 3.3 m/s² まで耐えます。同じ揺れでも、背が高く奥行きの浅い家具から倒れるのです。壁に固定すると、回ろうとする動きを止められます。
建物でも考え方は同じです。地震で建物に働く横向きの力は、高い位置にかかるほど、柱や壁の根元を回そうとする大きなモーメントになります。大学の構造力学では、こうした力の流れを計算し、どの部材にどれだけの強さが要るかを決めます。
倒れるかどうかは、揺れの強さと、家具の高さと奥行きの比で決まります。
図解本棚が倒れ始める揺れ(重心は真ん中)
- 1倒す働き: ma × 90 cm(重心の高さ)
- 2戻す働き: mg × 15 cm(角から重心までの横の距離)
- 3ma × 90 > mg × 15 より、a > g × 15/90 = g/6

02
単振動 → 構造の揺れ: 高いビルほど、ゆっくり揺れる
物理では、ばねにつけたおもりの単振動の周期が T = 2π√(m/k) になることを学びます。重いほど、ばねが柔らかいほど、ゆっくり揺れます。建物にも、1 往復にかかる時間がそれぞれ決まっています。これを固有周期と呼びます。
建築基準法にもとづく告示では、設計に使う建物の固有周期を T = h(0.02 + 0.01α) 秒で見積もります。h は建物の高さ(m)、α は柱と梁の大部分が鉄骨造や木造の階の、高さの割合です。高さ 15 m の鉄筋コンクリートの校舎なら約 0.3 秒、高さ 200 m の鉄骨の超高層ビルなら約 6 秒です。
地面の揺れの周期が固有周期に近いと、共振して大きく揺れます。2011 年の東北地方太平洋沖地震では、大阪市内の地上の震度は 3 でした。それでも大阪府咲洲庁舎では上の階が大きく揺れ、内装材や防火戸など 360 か所が壊れました。エレベーターも 32 基すべてが止まりました。原因は、周期の長いゆっくりした揺れ、長周期地震動です。
震度は短い周期の揺れの大きさを表すので、長周期地震動は震度では十分に表せません。そこで気象庁は、高層ビルでの揺れを 4 段階に分けた長周期地震動階級を導入しました。大学では、建物を何段ものおもりとばねに置きかえて、地震のときの揺れを計算する方法を学びます。
高い建物ほど固有周期が長く、ゆっくりした地震の揺れと共振しやすくなります。
図解建物の高さと固有周期(告示の式で見積もり)
低い建物
- 高さ 15 m の鉄筋コンクリート造
- 固有周期 約 0.3 秒
超高層ビル
- 高さ 200 m の鉄骨造
- 固有周期 約 6 秒
- 長周期地震動と共振しやすい


03
音の反射 → 建築音響: 日光の「鳴き竜」は 1 秒に約 30 回の往復
栃木県日光の本地堂(薬師堂)の天井には、大きな竜が描かれています。竜の頭の真下で手を打つと、天井から「ブルブル」という音が返ってきます。竜が鳴くように聞こえることから、「鳴き竜」と呼ばれてきました。
しくみは、高校の物理で学ぶ音の反射です。音は、硬い天井と床の間を何度も往復します。焼失前の本地堂では、床から天井までが最も高い所で約 5.7 m(18 尺 9 寸)ありました。往復 11.4 m を音速 340 m/s で割ると約 0.034 秒で、反射音は 1 秒に約 30 回届きます。1953 年の NHK の録音を調べた研究でも、約 29 回でした。
本地堂は 1961 年 3 月に火事で焼失しました。東京大学生産技術研究所の研究者たちは、復元のために天井と床を 4 分の 1 の模型にして調べています。天井をわずかに上へ曲げる(むくり)と、音が外へ逃げにくくなり、平らなときより長く鳴くことを確かめました。報告は、元どおりに復元できる見通しが得られたとしています。
向かい合う硬く平らな面の間で音が往復し続ける現象は、フラッターエコーと呼ばれます。お堂では名物になりますが、教室やホールでは、話し声や音楽を聞き取りにくくします。建築音響の授業では、壁の角度や吸音材の置き方で、響きを設計する方法を学びます。
音が往復する時間を計算すると、部屋の響き方を前もって予想できます。
図解鳴き竜の反射音は 1 秒に何回?
- 11 往復の道のり: 5.7 × 2 = 11.4 m
- 21 往復の時間: 11.4 ÷ 340 ≒ 0.034 秒
- 31 秒あたり: 1 ÷ 0.034 ≒ 30 回

04
熱と光 → 建築環境工学: 窓を変えると、逃げる熱は 5 分の 1
冬に窓ぎわが寒く感じるのは、窓が壁より熱を通しやすいからです。熱の伝わり方には伝導・対流・放射の 3 つがあり、窓ではそのすべてが起きています。窓の熱の通しやすさは、熱貫流率で表します。1 m²・温度差 1 ℃ あたり、1 秒に何 J の熱が通るかを示す値で、単位は W/(m²·K) です。
板硝子協会の資料(2021 年)では、アルミの枠に 1 枚ガラスの窓の熱貫流率は 6.51 です。樹脂の枠に、ガスを入れた三層ガラスの窓は 1.30 です。室内 20 ℃・外 0 ℃ なら、1 m² あたり約 130 W と約 26 W で、逃げる熱は約 5 分の 1 になります。
ガラスを 2 枚にすると、間に閉じこめた気体が熱を伝えにくくします。ただ、すき間を広げすぎると、中の気体が対流を始めて熱を運ぶので、効果には限りがあります。同じ資料では、乾いた空気なら約 17 mm、アルゴンガスなら約 15 mm で、断熱の性能が最も高くなるとしています。
ガラスの表面に、特殊な金属のごく薄い膜をつけた Low-E ガラスもあります。目に見える光は通し、熱を運ぶ赤外線を反射します。物理で学ぶ電磁波の性質を、窓ガラスの上で使い分けているのです。建築環境工学では、こうした窓や壁の性能から、部屋の暖かさや冷暖房に要るエネルギーを計算します。
ガラスの枚数、すき間の気体、金属の膜で、窓から逃げる熱は 5 分の 1 にできます。
図解窓 1 m² から逃げる熱(室内 20 ℃・外 0 ℃)
アルミ枠・1 枚ガラス
- 熱貫流率 6.51
- 約 130 W
アルミ枠・2 枚ガラス
- 熱貫流率 4.65
- 約 93 W
樹脂枠・三層ガラス
- ガス入り・Low-E 膜 2 枚
- 熱貫流率 1.30・約 26 W

05
建築学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試
建築学の構造と環境の授業は、このページの例のように、高校の物理の力・振動・波・熱の単元の続きです。構造の計算では微分・積分も使います。工学部などの建築学科を目指すなら、物理と数学 III を選んでおくと、授業に入りやすくなります。
入試の科目は大学によって違います。物理を必ず課す建築学科がある一方で、美術系の大学のように、描く試験を課す建築学科もあります。同じ大学でも入試の方式で科目が変わるので、志望校の募集要項で確かめてください。描く試験の例は、このサイトの建築学の「美術・地理歴史」のページで紹介しています。
建築学の面白さは、地震の揺れ、声の響き、冬の寒さといった目に見えないものを計算し、建物の形と材料で答えを出せることです。大学の建築学の分野は、このサイトの大学の学問「建築学」のページで紹介しています。
物理と数学 III を学んでおくと、構造と環境の授業にすぐ入れます。
高校生のうちに試せること
箱を傾けて、倒れる角度を測る
ティッシュの箱など背の高い箱を板の上に立て、板の片側を少しずつ持ち上げましょう。すべらずに倒れるなら、倒れ始める角度の tan は「奥行き ÷ 高さ」にほぼ等しくなります。箱の底に重りを入れて重心を下げると、倒れにくくなることも確かめてください。
長周期地震動の情報を調べる
気象庁の「長周期地震動について」のページでは、長周期地震動階級の解説や、過去の地震の例を見られます。同じ地震で、震度は小さいのに長周期地震動階級が大きかった地域を探してみましょう。
気象庁「長周期地震動について」窓に映るライトの数で、ガラスの枚数を数える
夜に部屋の明かりを消し、スマートフォンのライトを窓ガラスに斜めに向けて、映る光の像を数えましょう。ガラス 1 枚には表と裏の 2 つの面があるので、1 枚ガラスなら像は 2 つ、2 枚ガラスなら 4 つ見えます。
「建築学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 87 件から探せます。

建築構造学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 建築学プログラム・建築学・田川 浩 教授
鋼構造建築物、耐震設計、制振システムなどを研究している。
高田研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム・建築環境工学・高田 眞人 助教
建物の温熱環境と環境に配慮した設計を研究する。
建築環境計画学分野
京都大学(京都府)
工学研究科建築学専攻・建築環境計画学

大気・熱環境工学分野
京都大学(京都府)
工学研究科都市環境工学専攻・大気・熱環境工学
アジア建築都市環境研究室(BUESA)
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・建築環境工学・久保田 徹 教授
建築省エネルギー技術、都市省エネルギー技術、サスティナブル建築などを研究している。

木質構造設計学
岡山大学(岡山県)
工学部 環境・社会基盤系 都市環境創成コース・建築構造・槌本 敬大 教授
CLTなどの木質材料を使った耐震建築や、木とコンクリート・鋼のハイブリッド構造を研究する。
よくある質問
建築学科は、理系と文系のどちらですか?
多くの大学では工学部などの理系の学部にあり、入試で物理や数学を課します。一方で、美術系の大学や、住まいや生活を学ぶ学部に、建築を学べる学科を置く大学もあります。入試の科目はさまざまなので、志望校の募集要項で確かめてください。
長周期地震動は、低い建物でも気をつけるべきですか?
気象庁によると、長周期地震動は低い建物では大きな揺れになりにくく、高層ビルなどで揺れが大きく、長く続きます。震源から遠く、地上の震度が小さい地域でも、高い階では大きく揺れることがあります。
鳴き竜のような響きは、ほかの場所でも起きますか?
向かい合う硬く平らな壁の間や、天井と床の間では、同じように音が往復して響くことがあります。ホールや教室では、壁を少し傾けたり、凹凸や吸音材をつけたりして防ぎます。



