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図 4 この科目が生きる大学の学問この科目が生きる大学の学問 1

物理学

地球を飛び出すのに必要な秒速 11.2 km、坂を転がる球と輪の競争、屋久杉の年輪に残る 1,200 年以上前の宇宙の出来事。物理学科では、高校の物理で使ってきた公式を微分積分で導き直し、その先まで計算します。

発射場から白いロケットが昇っていくのを見上げる学生、板の坂の上からビー玉と乾電池と紙の筒を同時に転がす学生、大きな木の輪切りの年輪を指でたどる学生たち

ひとことで言うと

レシピどおりから、味の理由へ

レシピどおりに作れば、いつもの味になります。なぜその分量と順番なのかが分かると、材料が変わっても自分で作り方を組み立てられます。大学の物理学は、高校の公式というレシピの理由を、微分積分で確かめていく学問です。

01

万有引力 → 力学: 地球を飛び出す速さを積分で求める

物理の「万有引力」では、地球の重力が、中心からの距離の 2 乗に反比例して弱まることを学びます。万有引力による位置エネルギーは、U = −GMm/r と表します。G は万有引力定数、M は地球の質量、r は地球の中心からの距離です。

大学 1 年の力学では、物を地表から無限に遠くまで運ぶ仕事を、力 GMm/r² を r で積分して求めます。グラフで言えば、どこまでも続く曲線の下の面積です。それでも答えは GMm/R(R は地球の半径)という有限の値になり、ここから位置エネルギーの式が出てきます。

では、どれだけの速さで打ち出せば、地球に戻ってこないでしょうか。運動エネルギー ½mv² が GMm/R 以上になればよいので、v = √(2GM/R) です。GM = gR² を使い、g = 9.8 m/s²、R = 6,370 km を入れると、秒速約 11.2 km です。空気の抵抗は考えない計算です。

NASA の探査機ニュー・ホライズンズは、2006 年 1 月 19 日に打ち上げられました。地球を離れたときの速さは、時速約 5 万 8,500 km(秒速約 16 km)です。NASA は 2021 年の記事で、地球から打ち上げた人工物の中でいちばん速いとしています。打ち上げの計画でも、必要な速さをこの考え方から見積もります。

どこまでも続く面積でも、積分すると有限の値になることがあります。

図解地球を飛び出す速さを求める

入力地表(r = R)から無限に遠くまで、重力 GMm/r² に逆らって運ぶ
  1. 1必要な仕事: GMm/r² を R から ∞ まで積分して GMm/R
  2. 2½mv² = GMm/R より、v = √(2GM/R)
  3. 3GM = gR² なので、v = √(2gR)
  4. 4√(2 × 9.8 × 6.37 × 10⁶) ≒ 1.12 × 10⁴ m/s
結果秒速約 11.2 km。これより速ければ、地球に戻ってこない
発射台の鉄塔の間から、白い機体のロケットが炎と煙を噴き出して青空へ昇っていく
ニュー・ホライズンズを載せたアトラス V ロケットの打ち上げ(2006 年 1 月 19 日、アメリカ・フロリダ州)。探査機はこのあと冥王星へ向かいました。写真: Kim Shiflett(Public domain・Wikimedia Commons)

02

剛体 → 力学: 坂を転がる球・円柱・輪、速いのはどれ?

高校の物理では、摩擦のない斜面を高さ h だけすべり下りた物の速さを、エネルギー保存から √(2gh) と求めます。では、同じ坂を転がって下りるとどうなるでしょうか。転がる物は進みながら回ってもいるので、エネルギーの一部が回転に使われます。

大きさのある物体(剛体)は、高校ではつり合いを中心に学びます。大学 1 年の力学では、回転の運動エネルギーを ½Iω² と表します(ω は回る速さ)。I は慣性モーメントと呼ばれ、物体を細かく分けて「質量 × 軸からの距離の 2 乗」を足し合わせた量です。この足し合わせが積分です。

中身の詰まった円柱で積分すると、I = ½MR² です(R は半径)。球なら ⅖MR²、薄い輪なら MR² になります。これをエネルギー保存の式に入れて、下りきったときの速さを、すべる物と比べます。球は約 0.85 倍、円柱は約 0.82 倍、輪は約 0.71 倍です。

式には、質量 M も半径 R も残りません。重さや大きさに関係なく、形だけで順位が決まるのです。大学では同じ考え方で、こまやフィギュアスケートのスピン、人工衛星の向きの制御まで扱います。

回りやすさは積分で求まり、転がる速さは形だけで決まります。

図解高さ 0.5 m の坂を下りた速さ(すべる物は 3.13 m/s)

球(ビー玉)

  • I = ⅖MR²
  • 約 2.65 m/s(すべる物の 0.85 倍)

円柱(単三電池)

  • I = ½MR²
  • 約 2.56 m/s(0.82 倍)

薄い輪(テープの芯)

  • I = MR²
  • 約 2.21 m/s(0.71 倍)

03

原子核 → 原子核物理学: 半減期の式は 1 本の微分方程式から

物理の「原子核」では、放射性の原子核の数が、決まった時間ごとに半分になることを学びます。この時間が半減期 T で、残りの数を N = N₀(1/2)^(t/T) と表します。例えば炭素 14 の半減期は 5,730 年です。

大学では、この式を「減る速さは、今ある数に比例する」という 1 文から導きます。式で書くと dN/dt = −λN です。数学 III の微分と積分で解くと、N = N₀e^(−λt) になります。半減期は T = log 2 ÷ λ ≒ 0.693 ÷ λ です(log は自然対数)。

この性質で年代を測る方法を、1949 年にアメリカのリビーが開発しました。生き物が死ぬと、体の中の炭素 14 は補われずに減っていきます。残りの割合を測れば、死んでからの年数が分かります。リビーは 1960 年にノーベル化学賞を受けました。

木の年輪には、その年の炭素 14 の量が記録されています。名古屋大学の三宅芙沙さんたちは、屋久杉の年輪を 1 年ずつ削り分けて測りました。そして西暦 774 年から 775 年に、炭素 14 が約 1.2% 急に増えたことを見つけます。2012 年に科学誌ネイチャーで発表され、宇宙線が大量に降り注いだ跡として注目されました。

「減る速さは今ある数に比例する」という 1 文から、半減期の式が出てきます。

図解炭素 14 の残りから年数を求める

入力木片の炭素 14 の割合が、生きている木の 8 分の 1 に減っていた
  1. 11/8 = (1/2)³ なので、半減期の 3 回分
  2. 25,730 年 × 3 = 1 万 7,190 年
  3. 3e^(−λt) = 1/8 を解いても、t = 3 × 0.693 ÷ λ で同じ答え
結果約 1 万 7,000 年前の木と分かる(実際の測定では、年輪のデータで補正する)

04

物理学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試

物理学科では、高校の物理基礎・物理のすべてが土台になります。このページの 3 つの例のように、大学の物理は微分と積分で書かれるので、数学 III の微分・積分は入学後すぐに使います。数学 C のベクトルも、力や電場を表す言葉になります。

入試の科目や学科の分かれ方は、大学によって違います。例えば京都大学の理学部は理学科の 1 学科だけで、入学のときには専門の分野を決めません。2027 年度(令和 9 年度)の個別試験では、理科は物理・化学・生物・地学から 2 科目を選びます。数学は数学 III まで出題されます。志望校の募集要項で確かめてください。

物理学の面白さは、紙と鉛筆の計算と精密な測定で、ロケットに要る速さや、1,200 年以上前の宇宙の出来事まで分かることです。力学・電磁気学・量子力学など、大学の物理学の分野は、このサイトの大学の学問「物理学」のページで紹介しています。

物理と数学 III を学んでおくと、大学 1 年の力学にすぐ入れます。

クイズ高校から大学の物理へクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1同じ坂で、ビー玉・単三電池・ガムテープの芯を同時に転がす。いちばん遅いのは?

  2. Q2地表から打ち出して、地球に戻ってこないために必要な速さは、秒速およそ何 km?

  3. Q3炭素 14 が、生きている木の 4 分の 1 に減っていた木片。木が死んでから約何年?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • ビー玉・電池・テープの芯で坂下り競争

    板や厚紙で長さ 1 m ほどの坂を作り、ビー玉、単三電池、ガムテープの芯を同じ高さから同時に転がしましょう。テープの芯がはっきり遅れます。ビー玉と電池の差は小さいので、スマートフォンのスロー撮影で何回か比べてください。

  • サイコロ 60 個で半減期を確かめる

    サイコロ 60 個をまとめて振り、1 の目が出たものを取り除く操作をくり返しましょう。残りの個数をグラフにすると、約 3.8 回ごとに半分に減っていきます。1 回で減る割合が 6 分の 1 と決まっているので、原子核の崩壊と同じ形の曲線になります。

  • シミュレーションで地球を飛び出す

    PhET の「重力と軌道」では、一時停止して天体の速さの矢印の先をドラッグすると、速さと向きを変えられます。速さを少しずつ大きくして、円に近い軌道が細長くなり、やがて戻ってこなくなる様子を確かめましょう。

    PhET「重力と軌道」

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よくある質問

高校で物理を選ばないと、物理学科には入れませんか?

入試の科目は大学によって異なります。京都大学の理学部のように、理科を物理・化学・生物・地学から 2 科目選ぶ入試もあります。ただ、入学後の授業は高校の物理を土台に進むので、入試で使わない場合も、物理の教科書を読んでおくと安心です。

微分積分がまだ苦手です。大丈夫でしょうか?

多くの大学では、1 年の数学の授業で、微分積分を基本から学び直します。大学の力学の式の多くは、変化の速さ(微分)と、細かく分けて足し合わせること(積分)の 2 つの考え方で書かれています。数学 III の例題を、物理の場面に当てはめて解いてみると身につきます。

半減期の式は、物理のほかでも使いますか?

減る速さが今ある量に比例する現象は、同じ形の式で表せます。薬が体から抜けていく様子(血液中の濃さの半減期)など、医療や薬学でも同じ考え方を使います。