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機械工学

鉄の棒が伸びる長さ、本棚の棚板のたわみ、エンジンが燃料の熱から取り出せる仕事の割合。機械工学の授業では、高校の物理で学ぶばねの法則、力のモーメント、熱と気体の法則を、部品やエンジンを設計する計算に育てます。

実験室で金属の棒を引っ張る縦長の試験機を見守る学生、長さの違う板に同じおもりを下げてたわみを比べる学生、大きなはずみ車の付いた古いエンジンを見上げる学生たち

ひとことで言うと

どんな部品も、少しだけ伸び縮みするばね

鉄の橋や機械の軸は、硬くて少しも動かないように見えます。実際には、力がかかるたびに、ばねのようにわずかに伸び縮みしています。どれだけ伸びるかを前もって計算し、困らない範囲に収めるのが、機械を設計する人の仕事です。

01

ばね → 材料力学: 鉄の棒も、ばねのように伸びる

物理基礎では、ばねの伸び x が力 F に比例する F = kx(フックの法則)を学びます。イギリスのロバート・フックは 1660 年、時計のばねを工夫する中でこの性質に気づきました。そして 1678 年の講義で、一般の法則として発表しています。

実は鉄の棒も、同じ法則に従うばねです。機械工学では、ばね定数 k を、材料の硬さを表すヤング率 E と、棒の形に分けて考えます。断面積を A、長さを L とすると、k = EA/L です。材料を変えれば E が、形を変えれば A と L が変わります。

日本アルミニウム協会の資料では、ヤング率は鋼材が 205,000 N/mm²、アルミニウム合金が 70,000 N/mm² です。アルミニウム合金は、鋼の約 3 分の 1 です。断面 1 cm²・長さ 1 m の鋼の棒に 1 トン(約 9,800 N)の重さをつるすと、伸びは約 0.48 mm です。同じ形のアルミニウム合金なら、約 1.4 mm 伸びます。

大学の材料力学では、力を断面積で割った応力と、伸びの割合(ひずみ)の比として、ヤング率を学びます。力を外すと元に戻る範囲を超えると、金属は伸びたまま戻らなくなり、やがて切れます。どこまでの力なら安全かを決めることが、設計の第一歩です。

ばね定数は、材料のヤング率と、部品の太さ・長さで決まります。

図解鋼とアルミの棒に 1 トンをつるす

入力断面積 1 cm²(0.0001 m²)・長さ 1 m の棒に、約 9,800 N の重さをかける
  1. 1鋼の k = 205 × 10⁹ × 0.0001 ÷ 1 = 2.05 × 10⁷ N/m
  2. 2伸び = 9,800 ÷ (2.05 × 10⁷) ≒ 0.00048 m
  3. 3アルミ合金は E が約 3 分の 1 なので、伸びは約 3 倍
結果鋼は約 0.48 mm、アルミニウム合金は約 1.4 mm 伸びる
縦長の枠の中央に、上下 2 つのつかみ具が向かい合って並んだ試験機。横に測定用のパソコンが置かれている
鋼の針金の引っ張り強さを調べる試験機(最大 50 kN、約 5 トン分の力)。試験片を上下のつかみ具で挟んでゆっくり引っ張り、力と伸びを記録します。写真: Smial(CC BY-SA 2.0 de・Wikimedia Commons)

02

力のモーメント → はりのたわみ: 長さ 2 倍で、たわみは 8 倍

物理では、物を回そうとする働きを力のモーメント(力 × 回転の中心からの距離)で表し、剛体のつり合いを考えます。大学の材料力学では、棒の途中を頭の中で切り、切り口に働くモーメントを求めます。これを曲げモーメントと呼びます。

棒のたわみは、曲げモーメントを「ヤング率 × 断面の形で決まる値」で割り、位置について 2 回積分して求めます。数学 III の積分が、そのまま設計の計算になります。こうして出てくる式では、たわみは長さの 3 乗に比例します。

本棚の棚板で考えます。真ん中に同じ重さの物を置くとき、棚板の長さを 2 倍にすると、たわみは 2³ = 8 倍です。本をすき間なく並べると、本の重さも 2 倍になるので 16 倍になります。長い棚板の真ん中が下がって見えるのは、このためです。

機械では、たわみが精度に直結します。工作機械やロボットの腕がわずかにたわむだけで、削った部品の寸法や手先の位置がずれます。材料を選び、断面の形を工夫し、支える間隔を決めるのが設計者の仕事です。断面の形の効き方は、このサイトの機械工学の「材料の強さ」のページで紹介しています。

たわみの式は、曲げモーメントを 2 回積分すると出てきます。

図解棚板の長さとたわみ(同じ材料・同じ断面)

長さ L

  • 真ん中に重さ P をのせる
  • このたわみを 1 とする

長さ 2L・同じ P

  • たわみは長さの 3 乗に比例
  • たわみは 8 倍

長さ 2L・本で満載

  • 本の重さも 2 倍になる
  • たわみは 16 倍

03

熱と気体 → 熱力学: エンジンの熱効率は、圧縮比で決まる

物理では、熱機関の熱効率を「外にした仕事 ÷ 受け取った熱」で表すことを学びます。気体を急に押し縮めると温度が上がる断熱変化も、気体の単元で扱います。この 2 つが、エンジンを考える入口です。

ガソリンエンジンは、燃料と空気の混ざった気体を押し縮め、燃やして膨らむ力でピストンを押し返します。吸い込む・押し縮める・燃やして膨らむ・吐き出すの 4 つの行程をくり返します。このしくみのエンジンを、1876 年にドイツのニコラウス・オットーが初めて動かしました。

押し縮める前と後の体積の比を、圧縮比と呼びます。大学の熱力学では、断熱変化で pV^γ = 一定(空気では γ ≒ 1.4)となることを、積分を使って導きます。これを使うと、理想的なガソリンエンジンの熱効率は 1 − 1/ε^0.4(ε は圧縮比)です。圧縮比 8 なら約 57%、14 なら約 65% で、押し縮めるほど効率が上がります。

トヨタ自動車は 2016 年 12 月、圧縮比 14 のハイブリッド車用エンジンで、熱効率 41% を達成したと発表しました。理想の 65% に届かないのは、シリンダーの壁から逃げる熱や摩擦、排気が持ち去る熱があるからです。圧縮比を上げすぎると、火花を飛ばす前に燃料が勝手に燃え出すノッキングも起きます。

圧縮比を上げるほど、熱効率の上限は高くなります。

図解圧縮比と熱効率(ガソリンエンジン)

理想・圧縮比 8

  • 1 − 1/8^0.4
  • 熱効率 約 57%

理想・圧縮比 14

  • 1 − 1/14^0.4
  • 熱効率 約 65%

実物・圧縮比 14

  • トヨタの発表(2016 年)
  • 熱効率 最大 41%
大きなはずみ車が付いた、黒っぽい鉄製の横長のエンジンが、展示台の上に置かれている
オットーの設計をもとに、イギリスのクロスリー兄弟社が作った 4 行程のガスエンジン(1876〜1910 年に製造された型)。スウェーデン国立科学技術博物館の展示です。写真: Daderot(CC0・Wikimedia Commons)

04

機械工学に進むなら: 高校で選んでおきたい科目と入試

機械工学の 4 つの力学(材料力学・機械力学・流体力学・熱力学)は、どれも高校の物理の続きです。このページの例のように、たわみや断熱変化の式は微分・積分で導くので、数学 III は入学後すぐに使います。材料の性質を考える場面では、化学も役立ちます。

入試の科目は大学によって違います。例えば京都大学工学部の物理工学科は、機械システムや新しい材料、エネルギーのしくみを学ぶ学科です。2027 年度(令和 9 年度)の入試では、共通テストで『物理』を必ず選びます。個別試験では、物理と化学の両方と、数学 III までの数学が課されます。科目の組み合わせは大学や入試の方式で異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

機械工学の面白さは、0.5 mm の伸びや数 % の効率の差を計算で見つけ、ものづくりで確かめられることです。大学の機械工学の分野は、このサイトの大学の学問「機械工学」のページで紹介しています。

物理・数学 III・化学の 3 つが、4 つの力学の入口になります。

クイズばね・たわみ・エンジンのクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1鋼のヤング率は、アルミニウム合金のおよそ何倍?

  2. Q2棚板の真ん中に同じ物を置く。棚板の長さを 2 倍にすると、たわみは何倍?

  3. Q3理想的なガソリンエンジンで、圧縮比を 8 から 14 に上げると、熱効率は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 輪ゴムで「伸びと重さ」のグラフを描く

    輪ゴムにレジ袋をつるし、同じ量の水を入れたペットボトルを 1 本ずつ入れて、輪ゴムの長さを定規で測りましょう。重さと伸びのグラフを描き、まっすぐな線になる範囲と、曲がり始めるところを探してください。

  • PhET でばねをつなぎ替える

    PhET の「フックの法則」では、ばねを引く力とばね定数を変えて、伸びを確かめられます。ばね 2 本を並列や直列につないで、伸びを比べましょう。並列は k = EA/L の A を 2 倍に、直列は L を 2 倍にした場合にあたります。

    PhET「フックの法則」
  • 家の本棚のたわみを測る

    本を並べた棚板の両端の上に糸をぴんと張り、真ん中で糸と棚板のすき間を定規で測りましょう。長さの違う棚板どうしや、本を減らしたときと比べると、長さと重さでたわみが変わる様子を確かめられます。

  • 表計算で圧縮比と熱効率の表を作る

    表計算ソフトの A 列に圧縮比を 4 から 20 まで入れ、B1 に「=1-1/A1^0.4」と入れて下へコピーしましょう。折れ線グラフにすると、圧縮比を上げるほど効率は上がるものの、上がり方がしだいに小さくなることが分かります。

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よくある質問

機械工学科では、いつから 4 つの力学を学びますか?

多くの大学では、1 年で物理学や数学を学び、2 年ごろから材料力学・機械力学・流体力学・熱力学を本格的に学びます。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。

ヤング率は、どの材料でも決まった値ですか?

材料の種類でおおよそ決まりますが、合金の成分や温度などで変わります。設計では、規格や資料に載っている値を使い、大事な部品は試験で確かめます。

入試で数学 III を使わなくても、機械工学科でやっていけますか?

入試の数学の範囲は大学によって異なります。入学後は、微分方程式や積分を使う授業が多くあります。入試で使わない場合も、数学 III の微分・積分を教科書で学んでおくと、1 年の授業に入りやすくなります。