図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3
海外ビジネス・旅行
海外の取引先や旅行者と向き合い、その国の歴史や習慣を知ったうえで仕事を進めます。祝日の由来、食事の決まり、名所の背景など、高校の世界史で学ぶ「宗教や習慣の違いを理解する」力が、商談の日程づくりから旅の案内まで生きています。

ひとことで言うと
友だちの家に、初めて泊まりに行く
友だちの家に初めて泊まるとき、食事の決まりや寝る時間を先に聞いておくと、気持ちよく過ごせます。海外の人と働くときも同じで、相手の国の祝日や食事の決まりを知っておくと、仕事がなめらかに進みます。その決まりの多くには、長い歴史があります。

01
どんな仕事?: 取引先と旅行者の「当たり前」を知る
海外と関わるビジネスや旅行の仕事には、いろいろな形があります。海外の会社に商品を売り込んだり、部品を仕入れたりする海外営業。日本からの旅行者に付き添って海外を回る添乗員。日本を訪れる外国の旅行者を、外国語で案内する全国通訳案内士などです。
どの仕事でも、相手には相手の「当たり前」があります。休みの日、食べない物、大切にしている記念日。その多くは、宗教や歴史の中で形づくられてきました。相手の当たり前の由来を知っていると、失礼を避けられるだけでなく、会話のきっかけにもなります。
観光庁が通訳ガイド向けにまとめたテキストも、海外の一般的な歴史・地理・文化を知っておくと、日本を紹介するときの比較の材料になると書いています。高校の世界史は、その材料をそろえる場です。
相手の「当たり前」の由来を知ると、仕事も会話も進みます。
図解海外と関わる 3 つの仕事と世界史
海外営業
- 取引先の国の祝日を知る
- 会食で食事の決まりに配慮する
- 相手の国の歴史を話題にする
添乗員
- 行き先の名所の背景を話す
- 宗教施設での決まりを伝える
- 日本の歴史と並べて説明する
全国通訳案内士
- 日本の歴史を外国語で語る
- 相手の国の例を使って説明する
- 食事の決まりを店と確かめる

02
祝日の由来: 7 月のパリと、2 月の中国
取引先の国の祝日は、商談や出荷の日程に直接かかわります。そして祝日の多くには、その国の歴史が刻まれています。たとえばフランスの国の祝日は 7 月 14 日です。フランス政府によると、1880 年に法律で決まりました。1789 年 7 月 14 日のバスティーユ襲撃と、翌年の同じ日の連盟祭にちなんでいます。
中国の春節(旧正月)は、月の満ち欠けをもとにした暦(農暦)で決まるため、毎年日付が変わります。2026 年の休みは、2 月 15 日から 23 日までの 9 日間でした。中国政府の通知には、「農暦の 12 月 28 日から 1 月 7 日まで」と農暦の日付も書かれています。そのかわり、前後の土曜日の 2 月 14 日と 28 日は出勤日になりました。
海外営業の担当者は、こうした長い休みの前に注文や出荷を済ませるよう、取引先と早めに相談します。祝日の由来を知っていると、相手の文化に合わせたあいさつもできます。
祝日の由来を知ると、日程の相談もあいさつも変わります。


03
食事の決まり: 会食の店選びは「出汁」まで確かめる
海外の取引先や旅行者を食事に招くとき、宗教による食事の決まりへの配慮は欠かせません。観光庁のガイドによると、イスラームの教えでは、豚と豚に由来する物、酒を口にしないことになっています。多くのムスリムは、料理に使うみりんも避けます。醤油に含まれるわずかなアルコールを避ける人もいます。
観光庁の通訳ガイド向けのテキストは、ヒンドゥー教やジャイナ教には魚を食べない人がいるため、カツオなどの出汁が使えない場合があると説明しています。その場合は、昆布など植物の出汁で対応します。豚の脂のラードやゼラチンのように、目に見えにくい材料にも注意が必要です。
ただし、教えの解釈や守り方は、宗派や国・地域、そして一人ひとりで異なります。ガイドは、店が対応できる内容をはっきり示すことが大切だとしています。世界史で学ぶ宗教の知識は、決めつけるためではなく、相手に聞くための準備として使います。
宗教の知識は、決めつけずに相手に聞くための準備です。
図解海外の取引先を会食に招く(例)
- 1食べない物があるかを、本人に前もって聞く
- 2店に、豚・酒・出汁の材料を確かめてもらう
- 3礼拝の時間や場所が必要か、相談しておく
- 4当日は、料理の材料を説明しながらすすめる


04
パリのツアーに同行する添乗員の 1 日(例)
ここでは、旅行会社が企画したフランスのツアーに同行する添乗員の、パリでの 1 日の例を紹介します。添乗員は、旅程どおりに旅が進むよう、移動や食事、見学の段取りを整えます。
見学では、現地のガイドの説明に、日本の旅行者に分かりやすい一言を添えることがあります。たとえばバスティーユ広場では、「フランス革命が始まった 1789 年は、日本では江戸時代の後半です」と、日本の歴史と並べて話します。同じ時代を横に並べると、遠い国の出来事が身近になります。
観光庁のテキストには、神社のお神酒を外国の旅行者に説明するとき、キリスト教のミサで赤ワインが用いられることを例に出す工夫が紹介されています。添乗員も通訳案内士も、相手が知っている歴史や文化を手がかりに説明する点は同じです。
相手の知っている歴史を手がかりにすると、説明が伝わります。
図解パリのツアーに同行する添乗員の 1 日(例)
- 7:30朝食の会場体調や食事の決まりを確かめる
- 9:00美術館の見学現地のガイドと説明の順を合わせる
- 12:00昼食肉を食べない人の料理を店と確認
- 14:00街を歩くバスティーユ広場で歴史を一言
- 17:00ホテルへ明日の集合時間と持ち物を伝える
- 21:00日報を書く今日の様子と明日の予定を会社へ

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、世界史で学んだ国の祝日を 1 つ選び、その由来を調べてみてください。家族旅行や修学旅行の行き先で、名所の由来を「そのころ日本では」と並べて説明してみるのも、よい練習です。
大学の学部は問われません。経済学部や商学部で貿易を学ぶ人、観光学部で旅のしくみを学ぶ人、外国語学部や史学科で言葉と歴史を深める人がいます。企画旅行に同行する添乗員の主任になるには、登録を受けた機関の研修を修了し、一定の実務の経験を積むことが法律で決められています。全国通訳案内士は国家試験に合格してなる資格で、なったあとも 5 年ごとの研修が義務づけられています。
違いを面白がれて、段取りを考えるのが好きな人に向いています。経験を積むと、海外営業では現地の拠点を任される人も、旅行の仕事では新しいツアーを企画する人もいます。歴史の知識を生かして、テーマのある旅をつくる道もあります。
祝日や名所の由来を調べることが、この仕事の練習になります。
図解高校から海外ビジネス・旅行の仕事へ(例)
- 1高校で学ぶ祝日や名所の由来を調べる
- 2大学で学ぶ経済・観光・外国語・史学
- 3仕事に入るメーカー・商社・旅行会社など
- 4資格をとる添乗の研修・全国通訳案内士
- 5企画する現地の拠点やテーマのある旅づくり
高校生のうちに試せること
好きな国の祝日を調べる
気になる国を 1 つ選び、1 年の祝日を調べて、それぞれの由来を 1 行ずつ書いてみましょう。宗教の行事、独立や革命の記念日など、世界史で学ぶ出来事がたくさん見つかります。日付が毎年変わる祝日があれば、どの暦で決めているのかも確かめましょう。
観光庁のおもてなしガイドを読む
観光庁の「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」には、天ぷらや餃子を、より多くの人が食べられる形にする材料の例が載っています。家の料理を 1 つ選び、同じように材料を置きかえる案を考えてみましょう。
多様な宗教的、文化的習慣を有する旅行者の受入環境の充実(観光庁)「そのころ日本では」年表をつくる
世界史の教科書から出来事を 5 つ選び、同じ年に日本で何があったかを並べた年表をつくりましょう。旅行先の名所の説明に使えるよう、1 つを 1 文でまとめるのがこつです。
「海外ビジネス・旅行」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 70 件から探せます。
よくある質問
海外営業に、世界史の知識は本当に必要ですか?
取引の条件や商品の知識が仕事の中心ですが、相手の国の祝日や習慣を知らないと、日程の相談や会食でつまずくことがあります。相手の国の歴史を少し知っているだけで雑談が弾み、信頼につながる場面もあります。
添乗員と全国通訳案内士は、何が違うのですか?
添乗員は、主に旅行会社が企画した旅に同行し、旅程どおりに旅が進むよう段取りを整えます。全国通訳案内士は、外国の旅行者に外国語で日本を案内する国家資格です。どちらも、相手に伝わるように歴史や文化を説明する力が求められます。
宗教の話題は、仕事の場では避けたほうがいいですか?
相手の信仰を評価したり、決めつけたりするのは避けます。一方で、食事や礼拝、祝日など、相手が過ごしやすくなるための確認は大切です。分からないことは、相手に聞くのがいちばん確かです。