図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
教える・展示する
中学・高校で世界史を教えたり、博物館や美術館で世界の文化財を紹介したりする仕事です。高校の世界史で練習する「背景と因果を説明する」「資料を批判的に読む」力を、今度は自分が生徒や来館者に手渡します。

ひとことで言うと
1 枚の旅行の写真から、話を広げる
旅行の写真を 1 枚見せて「ここはどこでしょう」と聞くと、話が自然に広がります。世界史の先生や学芸員も、1 枚の絵や 1 つの部屋から問いを立て、生徒や来館者と一緒に歴史をたどります。答えを教えるより、問いを手渡す仕事です。

01
どんな仕事?: 教室と展示室で、世界の「なぜ」を手渡す
世界史を生かして教える仕事の場は、大きく 2 つあります。1 つは中学校や高校の教室で、先生が授業をつくり、生徒と一緒に考えます。もう 1 つは博物館や美術館で、学芸員が資料を集めて調べ、展示や講座で伝えます。
高校では、2022 年 4 月以降に入学した生徒から、全員が「歴史総合」を学んでいます。近代から現代を、日本と世界を合わせて学ぶ科目です。そのあと選んで学ぶ「世界史探究」では、古代から現代までの世界の諸地域を扱います。世界史の先生は、日本と世界の歴史を行き来しながら授業をつくります。
学芸員は、展示する作品や資料が、いつ、どこで、だれの手を経てきたのかを調べます。教える仕事も展示する仕事も、資料から問いを立て、背景を説明する点は同じです。
教室でも展示室でも、資料から問いを立てて背景を伝えます。
図解教える仕事と展示する仕事
中学・高校の先生
- 歴史総合と世界史探究の授業
- 資料から問いを立てる授業づくり
- 探究のテーマ選びの相談
博物館・美術館の学芸員
- 作品や資料の調査と保管
- 展覧会の企画と解説
- 子ども向けの講座や見学の案内

02
授業をつくる: 同じ部屋で起きた 2 つの出来事
世界史の先生は、教科書の流れを、生徒が「なぜ?」と思える問いに変えて授業をつくります。たとえば、フランスのベルサイユ宮殿にある「鏡の間」の写真を見せます。豪華な広間ですが、ここでは歴史の大きな場面が 2 度ありました。
1871 年、この部屋でドイツ皇帝ウィルヘルム 1 世の即位式が行われました。そして第一次世界大戦のあとの 1919 年、ドイツと連合国の講和条約であるベルサイユ条約が、同じ部屋で調印されました。
「ドイツの皇帝の即位式が、なぜフランスの宮殿で行われたのか」「なぜ条約の調印に、同じ部屋が使われたのか」。生徒は、教科書のドイツの統一や第一次世界大戦の単元を読み直して、答えを探します。2 つの出来事を線で結ぶと、48 年の間の因果が見えてきます。
同じ部屋の 2 つの出来事を結ぶと、因果を考える授業になります。
図解鏡の間から問いを立てる授業(例)
- 1写真を見せて、気づいたことを出し合う
- 21871 年と 1919 年の出来事を板書する
- 3「なぜこの部屋で?」を班で考える
- 4教科書と資料集で、根拠を探して発表する


03
展示する: 1 枚の絵がたどった道「来歴」を調べる
東京・上野の国立西洋美術館は、1959 年に、フランス政府から日本へ寄贈返還された「松方コレクション」を保存・公開するためにつくられました。集めたのは、神戸の造船会社の初代社長だった松方幸次郎です。第一次世界大戦中のロンドン滞在をきっかけに、1916 年から約 10 年の間、ヨーロッパで絵画や彫刻を買い集めました。
コレクションは、その後の世界の出来事に大きく揺さぶられます。1927 年の経済恐慌で会社が経営危機に陥り、日本にあった作品は売られて散らばりました。ロンドンの倉庫の作品は、1939 年の火災で失われました。パリに残った作品は第二次世界大戦の末期にフランス政府の管理下に置かれ、戦後、375 点が日本へ寄贈返還されました。
2016 年には、コレクションの 1 枚だったモネの《睡蓮、柳の反映》が見つかりました。1 年にわたる修復を経て、2019 年の展覧会で初めて公開されています。作品がだれの手を経て、どこにあったのかという来歴を調べるのは、学芸員の大切な仕事です。来歴をたどることは、そのまま世界史をたどることでもあります。
1 枚の絵の来歴をたどると、20 世紀の世界史が見えてきます。


04
美術館の学芸員の 1 日(例)
ここでは、西洋の美術を集めた美術館で、絵画を受け持つ学芸員の 1 日の例を紹介します。仕事の中身は、館の大きさや受け持つ分野によって大きく異なります。
午前は、展示室の作品の状態を確かめたり、展覧会で作品を貸し借りする相談を、海外の美術館とメールで進めたりします。午後は、作品の来歴を調べるために、古い展覧会の図録や売り立ての記録を読み比べます。
週末には、中学生や高校生向けのギャラリートークを開くこともあります。学校の先生と相談して、授業で学んだ時代と作品を結びつける見学の案内をつくる学芸員もいます。
調べる・守る・伝えるが、1 日の中でつながっています。
図解美術館の学芸員の 1 日(例)
- 9:00展示室を回る作品の状態と温度・湿度を確かめる
- 10:00海外とメール展覧会の作品の貸し借りを相談
- 12:00昼休み
- 13:00来歴を調べる古い図録や売り立ての記録を読む
- 15:00解説を書く作品の横に置く説明の文を考える
- 16:30見学の準備高校生向けのワークシートを作る

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、博物館や美術館で、作品の横の説明文を読み、「いつ、どこから来た物か」をメモしてみてください。世界史の授業で気になった出来事を、友だちに説明してみるのも、教える仕事の練習になります。
大学では、史学科の西洋史・東洋史や美術史、教育学部の社会科の専攻などで学びます。高校で世界史を教えるには、教職課程で地理歴史の教員免許を取り、公立なら採用試験を受けます。学芸員の資格は、学士の学位を持ち、大学で博物館に関する科目の単位を修めると得られます。
2 つの仕事は行き来もできます。文化庁によると、教員の普通免許状を持ち、2 年以上先生として働いた人は、学芸員の資格認定の試験を受けられます。経験を積むと、先生は学校全体の授業づくりを引っぱる立場に、学芸員は展覧会全体を企画する立場になる道があります。
展示の説明文を読み、来歴をメモすることが最初の一歩です。
図解高校から教える・展示する仕事へ(例)
- 1高校で学ぶ展示の説明文で来歴を読む
- 2大学で学ぶ西洋史・東洋史・美術史
- 3資格をとる地理歴史の免許・学芸員の資格
- 4現場で鍛える授業づくりや展示の調査
- 5問いを広げる授業や展覧会を企画する
高校生のうちに試せること
松方コレクションの道のりを読む
国立西洋美術館のサイトでは、松方コレクションがどのように集められ、散らばり、上野に来たのかを読めます。出てくる年を書き出し、同じころに世界で何が起きていたかを教科書で確かめてみましょう。
松方コレクション(国立西洋美術館)家にある物の「来歴」を書く
祖父母の時計や旅行のおみやげなど、家にある古い物を 1 つ選びましょう。いつ、どこで作られ、だれの手を経て今ここにあるのかを家族に聞き、100 字の展示の説明文を書いてみましょう。学芸員が来歴を調べる練習になります。
学芸員の資格を取れる大学を調べる
文化庁のページでは、学芸員の資格の取り方と、必要な科目を学べる大学の一覧を紹介しています。志望する大学で、教員免許と学芸員の資格の両方を目指せるかも確かめてみましょう。
学芸員になるには(文化庁)
「教える・展示する」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 77 件から探せます。
西洋史研究室
熊本大学(熊本県)
文学部 超域歴史学コース・西洋史学
ヨーロッパとアメリカの歴史を、表も裏も含めて一つの地域の歴史として研究する。
西洋史学分野
広島大学(広島県)
人間社会科学研究科 人文学プログラム・西洋史学・藤原 翔太 教授
近代フランス史や古代地中海世界、中世スペイン史などを研究している。
東洋史学分野
広島大学(広島県)
人間社会科学研究科 人文学プログラム・東洋史学・上田 新也 准教授
ベトナムの社会史やモンゴル帝国など、東アジア・東南アジアの歴史を研究している。
西洋美術史 第2研究室
東京芸術大学(東京都)
東洋史研究室
別府大学(大分県)
日本・東洋美術史 第4研究室
東京芸術大学(東京都)
よくある質問
世界史の先生は、日本史も教えるのですか?
高校の「歴史総合」は、日本と世界の近現代を合わせて学ぶ科目なので、世界史が専門の先生も日本の歴史を扱います。地理歴史の教職課程では日本史と外国史の両方を学ぶので、大学で幅広く学び直せます。
美術館の学芸員になるには、絵が描けないといけませんか?
描く力は必須ではありません。学芸員の仕事の中心は、作品や資料を調べ、守り、伝えることです。作品の来歴を調べるには、外国語の資料を読む力や、歴史の流れをつかむ力が役立ちます。
学芸員の募集は少ないと聞きました。どう準備すればいいですか?
募集の数は、館や年によって異なります。大学で専門の分野を深め、大学院で研究を続けてから応募する人もいます。博物館の実習やボランティアで現場を知っておくと、自分に合う館を選ぶ手がかりになります。

