図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
公民
高校の「公共」では、ルールのつくり方、契約と消費者の権利、国民が司法に加わるしくみを学びます。どれも、大学の民法や刑事訴訟法、法哲学などにそのままつながるテーマです。

ひとことで言うと
地図を見てから街を歩く
「公共」は、法の世界の地図のような科目です。ルール、契約、裁判といった主な場所と、そのつながりが分かります。大学の法学部では、その一つ一つの場所を、条文と判例を手がかりに歩いて確かめます。

01
「公共」で学ぶ法のテーマ
2022 年度に高校へ入学した学年から、「公共」が全員の学ぶ科目になりました。原則として 1・2 年のうちに学びます。学習指導要領は、その内容に「法や規範の意義及び役割」「多様な契約及び消費者の権利と責任」「司法参加の意義」を挙げています。
背景には、18 歳を大人として扱う流れがあります。選挙権の年齢は 2016 年 6 月に、民法の成年年齢は 2022 年 4 月に、18 歳へ引き下げられました。学習指導要領解説は、高校生にとって政治や社会が一層身近なものになったと書いています。
解説には、「私法に関する基本的な考え方」や裁判員制度も扱うと書かれています。模擬裁判で司法の手続きを体験する学習も、例として挙がっています。どれも、法学部の 1・2 年で学ぶ民法や刑法、憲法につながるテーマです。
「公共」の法の学習は、大学の法学の目次のようなものです。
図解「公共」の法の学習と大学の科目
- 法や規範大学では法学入門・法哲学
- 契約大学では民法(契約)
- 消費者の権利大学では消費者法
- 司法参加大学では刑事訴訟法

02
ルールづくり: よいルールの条件を考える
「公共」の学習指導要領解説は、法は刑罰で行為を取り締まるだけでなく、人々の活動を後押しし、争いを解決する働きももつと説明しています。そのうえで、法が公正なルールとして備えるべき特質として、一般性や明確性を挙げています。
一般性とは、特定の人だけでなく、同じ立場の誰にでも同じように当てはまることです。明確性とは、誰が読んでも同じ意味に受け取れることです。例えば「グラウンドは強い部が優先」という決まりは、何をもって強いとするのかが分からず、明確とはいえません。
解説は、身近な争いを設定して、ルールづくりを体験する学習を例に挙げています。どんな意見や利害の対立があるのか、どうすれば公平に調整できるのかを考えます。法と道徳の違いや、法の役割の限界も扱います。例えば、電車で席をゆずるのは大切なことですが、ゆずらなかったからといって法律で罰せられることはありません。
大学では、法とは何か、法と道徳はどう違うのかを、法哲学などの授業で深めます。日本学術会議の参照基準は、法は国家権力によって執行され、裏付けられるしくみである点で、一般の道徳とは区別されると説明しています。
よいルールの条件を考えることは、法学の出発点の一つです。
図解ルールづくりの練習(例)
- 1争いを知る3 つの部がグラウンドを使いたい
- 2利害を整理大会の時期や部員の数を書き出す
- 3ルール案曜日で交代し、大会前の部を優先
- 4点検する誰にでも同じに当てはまり、意味が一つか

03
契約と消費者: クーリング・オフとネット通販
「公共」では、契約は当事者の自由な意思が合って成立する、法的な拘束力のある約束だと学びます。ただし、店と客の間には、商品の知識や交渉の力に差があります。解説も、消費者が十分に考えて契約できない場合があり、そのために消費者を守る法律の規制があると説明しています。
その代表が、特定商取引法などが定めるクーリング・オフです。一定の期間なら、理由を問わず契約をやめられます。国民生活センターによると、訪問販売や電話勧誘販売は 8 日間、マルチ商法(連鎖販売取引)は 20 日間です。2022 年 6 月からは、はがきなどの書面のほか、メールなどでも通知できます。
意外なのは、ネット通販です。通信販売には、クーリング・オフの制度がありません。返品できるかどうかは、店が決めた返品の条件(特約)に従います。特約がなければ、商品を受け取った日を含めて 8 日以内なら返品できますが、送料は買った人の負担です。
困ったときは、消費者ホットライン「188」に電話すると、近くの消費生活センターなどを案内してもらえます。大学の民法や消費者法では、「約束は守る」という原則と、弱い立場の人を守る例外を、どう両立させるかを考えます。
同じ「買う」でも、買い方によって守られ方が違います。
図解訪問販売で契約してしまったら
- 1書面を受け取った日から 8 日以内か確かめる
- 2はがきかメールで、販売会社に通知する
- 3代金を返してもらい、商品は引き取ってもらう


04
司法参加: くじで選ばれる 11 人の検察審査会
「公共」では、国民が司法に参加する意義を学びます。解説は裁判員制度を扱うとしたうえで、「なぜ検察審査会制度があるのか」という問いも例に挙げています。裁判員制度ほど知られていませんが、検察審査会も国民が司法に加わるしくみです。
検察官は、事件を裁判にかけないと決めること(不起訴処分)があります。その判断がよかったかを、選挙権のある人の中からくじで選ばれた 11 人の検察審査員が審査します。1948 年 7 月に始まり、全国の地方裁判所と主な支部に 165 か所あります。任期は 6 か月です。
審査の結果は、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」の 3 つに分かれます。起訴相当とするには、11 人のうち 8 人以上の賛成が必要です。それでも検察官が起訴しないときはもう一度審査し、起訴議決をすると、事件は裁判にかけられます。
2009 年に始まった裁判員制度では、2023 年から 18 歳と 19 歳の人も裁判員に選ばれることがあります(法務省)。大学の刑事訴訟法では、誰がどんな手続きで起訴を決めるのか、国民はどこで加わるのかを、くわしく学びます。
検察審査会は、くじで選ばれた市民が起訴の判断を見直すしくみです。
図解検察審査会の審査の流れ
- 1申立て被害を受けた人などが審査を求める
- 2審査11 人が事件の記録を調べて話し合う
- 3議決起訴相当・不起訴不当・不起訴相当
- 4再検討起訴相当などなら、検察官が考え直す
- 5再審査起訴相当でも起訴されなければ、もう一度
- 6起訴議決起訴すべきと決めれば、裁判にかけられる


05
大学では: 自分で判断できる市民になる
高校の公民では、制度の名前としくみを学ぶ場面が多くあります。大学の法学部では、そのしくみがなぜあるのか、どこまで当てはまるのかを、条文と判例で考えます。
日本学術会議の参照基準は、民法を学ぶと、契約という「自分たちでのルール作り」を含む、権利と義務の基本的なルールが分かると書いています。そして、自分で判断し、自分の行動に責任をもてる市民としての素養が身につくとしています。
「公共」の授業で、資料を読んで自分の意見を発表した経験も、大学で生きます。法学部の多くのゼミでは、判例や新聞の記事をもとに、立場の違う意見を比べながら議論します。相手の言い分を理解したうえで反論する力は、参照基準が挙げる「弁論能力」そのものです。
「政治・経済」を選ばなかった人や、公民を入試で使わない人も心配はいりません。「公共」は全員が学ぶ科目で、法学部の 1 年生は多くの場合、法学入門や憲法、民法総則から学び始めます。ニュースで裁判や消費者トラブルの記事を見たら、教科書のどの項目の話かを確かめるのがおすすめです。
公民で学んだしくみは、大学で「なぜ」を考える出発点になります。
高校生のうちに試せること
裁判を傍聴する
公開の法廷で行われる裁判は、予約や身分証がなくても、誰でも傍聴できます。地方裁判所の入口の開廷表で、その日の予定を確かめましょう。写真の撮影や録音はできませんが、メモは自由です。
裁判傍聴 Q&A(大阪地方裁判所)「子ども・若者サポート情報」を読む
国民生活センターは、若者に起きている消費者トラブルを、イラスト入りのリーフレットで紹介しています。1 つ選んで、どの法律やしくみで身を守れるかを調べましょう。
国民生活センター 見守り情報クラスや部活でルールを作ってみる
掃除当番や練習場所の使い方など、もめごとになりやすい決まりを 1 つ選び、ルール案を作りましょう。誰にでも同じに当てはまるか、誰が読んでも意味が一つに決まるかを、友だちと点検してみてください。
「公民」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 27 件から探せます。
よくある質問
「政治・経済」を選んでいなくても、法学部に進めますか?
進めます。入試の科目は大学によって異なり、公民を使わずに受けられる入試も多くあります。「公共」は全員が学ぶ科目なので、その内容を見直しておくと、入学後の民法や憲法の授業に入りやすくなります。
「公共」と大学の法学は、何が違いますか?
「公共」では、法やルールがどんな役割をもつかを、身近な問題を通して考えます。大学の法学では、条文や判例を使って、その考え方を具体的な事件に当てはめ、筋道を立てて結論を出す練習をします。
公民で覚えたことは、大学でも使いますか?
使います。契約や裁判員制度などのことばは、大学の授業でもそのまま出てきます。大学では、そのしくみの理由や、当てはまらない場面まで考えるので、高校で覚えた知識が考える材料になります。

